時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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19、かっぺ星人

 

 

 

「おい! 帰るな!帰るなッつッてんだろ!死ぬぞ!」

 

全員の転送が完了して、私たちは新規メンバーを集合させることができずにいた。最初に話しかけてきた2人組ー坂田と桜井というらしいーと風大佐衛門、鈴木という頭のてっぺんが薄くなっている中年の会社員、レイカだけが集まっている。それ以外は私たちの話すら聞かず、別自分の家に帰ろうとし始めたのだ。加藤は彼らを引き留めようとしていたが、振り払われていた。

 

和泉とパンダの姿はなく、もうどこかで戦っているのかもしれない。

 

私がそう思いながら敵がいないか辺りを見回していると、後ろから声をかけられた。振り向くと、声をかけてきたのはレイカだった。

 

「ねえ。状況があなたたちの言うとおりに進んでいくから知ってるかなって思ったんだけど……もし今家に帰ったらどうなるの?」

 

「頭が爆発します。というか家に帰るというより、特定のエリアから出た場合に起こるので、気をつけてください」

 

私がそう答えたとき、忠告を無視したメンバーが歩いていった方で悲鳴があがった。どうも今説明したことが起きているようだった。

 

「ちょっと、なにこれ!」

 

「頭がぶっ飛んだぞ!」

 

「この音、まじで何なんだ!?」

 

彼らは叫びながら、こちらへ戻ってきた。加藤は死体から目を背けつつ、言った。

 

「……これで分かってくれたと思う。これはテレビでも何でもない。マジで死ぬんだ。皆で生き残るために協力してほしい」

 

流石に頭が吹き飛ぶのを目の前で見たので、加藤への反論はなかった。すると玄野が持ってきたレーダーを操作して、

 

「とりあえず今回の星人はあの建物の中にいるみたいだぜ。どうする加藤?」

 

「そうだな。スーツを着てない奴は外で待たせておいて、スーツ組は建物に行くのと、万が一外に敵が出てきたときのために2組に分けよう」

 

その後加藤は少し考えて、玄野と加藤、風を突入組、私とレイカ、鈴木を護衛組に分けた。

 

「確実にここの人たちを守ってほしいからな。頼む」

 

「しかし半々にしなくても突入組の方を増やすべきではないでしょうか。外は敵が来るかどうか分かりませんし」

 

「うーん、確かにな。だけど、鈴木さんとレイカさんはまだ戦いに慣れてないし、1人は熟練メンバーがいねーともしもの時に困るだろ」

 

「……了解です」

 

あまり彼らに点を得るチャンスは与えたくなかったが、余計にごねて時間を潰す方がもったいない。仕方なく、残っている人間のお守りをすることになった。

 

「あの……十六夜さん、っすよね。訊きたいことがあるんすけど」

 

加藤たちが建物の中に入っていった後、私がレーダーを見て敵がいないか確認していると、桜井が話しかけてきた。

 

「何でしょうか」

 

「加藤さんたちがあの中に行きましたけど……俺らも行かなくていいんですか?」

 

「はい。スーツを着てないあなたたちは、行ったら間違いなく死にますし。加藤さんがここに来る前に敵と戦うって言ってたじゃないですか」

 

「でも……俺たちも、役に立てるかもしれないんすよ」

 

「どんな風にですか?」

 

桜井が答えようとしたとき、坂田が桜井の肩をぽんと叩いた。

 

「桜井。アレは、皆が危なくなるギリギリまで黙ってろ。おおっぴらに使っても得はないし、妙な目で見られるだろ」

 

「あ、そうっすね。でもひょっとしたらもっと使い所があるかもしれませんし、言っとくだけ言っときません?」

 

「……確かにそうだな」

 

坂田はそう言ってから、

 

「……あんたは多分信じてくれねーだろうけど、俺ら、超能力者なんだ。信じられねーんなら信じてくれなくてもいい。念力とか透視とかができる」

 

念力。それを聞いて、私は彼らを新宿で見かけたことを思い出した。和泉と渡り合おうとして殺された2人。それが坂田と桜井だったのだ。

 

「……いえ、信じます。あなたたちが新宿で乱射魔と戦うのを見てたので」

 

そう言うと、桜井は驚いた顔をして、

 

「十六夜さんもあそこにいたんですか?」

 

「はい。遠くから見てたので今まであなたたちがあそこで死んだ2人だということに気づきませんでしたが……」

 

と、その時、鋭い叫び声が聞こえてきた。

 

「きょ、恐竜だ!」

 

叫びながらこちらへ走ってきた男が突然倒れたかと思うと、そのまま動かなくなる。その背中には鋭利な傷が深々と走っていた。

 

そして低いうなり声をあげながら闇の中から現れた怪物は、一言で言ってしまえば2足歩行のトカゲだった。普通のトカゲと違うのは、口に無数の鋭い歯がびっしりと生えていること、そして人間と同じくらいの大きさがあることか。

 

「皆さん下がってください」

 

私はXガンを向けながらそのトカゲー恐竜というらしいーに近づき、狙いを定める。そして撃とうと思った瞬間、また新しく遠くから走ってくるいくつもの影を見つけ、ぎくりとした。

 

「1、2……5…7…」

 

その数はみるみるうちに増え、半ば私たちを包囲し始めていた。この量を銃だけで片付けるのは難しい。ワンパターンだが、刀で殲滅しなければ埒が明かないだろう。しかもこの数から彼らを守りきることはできない。協力がいる。スーツを着た2人と、後はー

 

「坂田さん、桜井さん、能力で後ろの敵を倒してください。あと、鈴木さんとレイカさんは素手でもあれに勝てるはずです。スーツを着てない人を守ってください」

 

私が恐竜と向かい合いながら指示を飛ばすと、鈴木とレイカの声にはやや狼狽の気配があったが、分かった、と返事がきた。

 

その瞬間、一番近くにいた恐竜の集団が、私に向かって殺到してきた。落ち着いて先頭の敵に狙いをつけ、引き金を絞る。

 

恐竜の胸が爆裂し、つんのめって倒れる。そして撃ってすぐに別の個体を照準するーが、相手の動きは異様に素早く、仲間の屍を飛び越え、あっという間に私に肉薄してきた。

 

落ち着いて銃を収め、刀を構える。刀身を伸ばす時間がないため複数を1度に斬り捨てるような真似はできないが、切れ味は変わらない。タイムラグのある銃より近接戦では使えるはずだ。

 

恐竜は琥珀色の目に残虐そうな光を灯しながら、襲いかかってくる。

 

能力を使う必要もなかった。真一文字に斬り払うと、黒い刃は恐竜の体をやすやすと分断し、その息の根を止めた。が、敵の数は多く、断末魔をあげながら倒れる個体の後ろからもう次の恐竜が飛びかかってきていた。

 

やむなく時間を止め、それを両断する。しかし時間が動き始めたとき、私は背中に強い衝撃を感じた。

 

「うっ」

 

迂回して背後から襲いかかってきたらしいその個体は、バランスを崩して仰向けに倒れた私を地面にくみ伏せた。

 

しゅるしゅるという不気味な息づかいが恐竜の喉から漏れてくる。歯の間から唾液が垂れ、嗜虐めいたそれの本能が、見え隠れしていた。

 

スーツを着ていなければ絶体絶命の状況だが、この程度であればピンチというほどでもない。慌てずXガンを取り出すと、恐竜の腹部に押し当て、引き金を引く。

 

死を約束された恐竜はそれに気づかず私の腹を貪ろうとしていたらしいが、次の瞬間、その欲望もろとも消し飛んだ。

 

「流石にこの数相手は……きついわね」

 

数が多いときは刀で周囲の敵を殲滅するのが効果的だが、今回は刀を十分伸ばす暇を全く与えてくれない。故に1体ずつ相手をしなければならなくなっている。

 

私が立ち上がって状況を確認すると、新規メンバーはよく戦っているものの、やはり敵の数に押され、何人か死者を出していた。

 

「う、うわああっ!」

 

私と同じように背後から突き飛ばされた桜井の悲鳴が響く。私はその個体を銃で撃ち、桜井を助けると、敵を斬り殺しながら、メンバーの集まる場所へ走った。

 

「やべえ! 敵が多すぎる!」

 

「どうするの!十六夜さん!」

 

坂田はだらだらと汗を流しながら、レイカは懸命に恐竜を防ぎながら叫ぶ。

 

「5秒だけ、持ちこたえてください」

 

チビ星人の時と同じだ。私はかちりとボタンを押して、刀身を長くしていく。その間に3人家族の父親が、色黒の女が殺されるのを見ながら、目的の長さに達するまで、私はじっとそこに立っていた。

 

「伏せてください!」

 

新規メンバーは私の刀を見て察したらしく、素早く身をかがめる。その直後、彼らの頭上で死の旋風が巻き起こった。

 

その時恐竜たちは一ヶ所に集まるメンバーを逃がさないためにこちらを包囲していたため、全ての個体が刃の通過域に存在していたーつまり、その範囲内にいた恐竜たちは、黒く輝く刃の餌食となり、一瞬で全滅したのである。

 

鮮血を振り撒きながら、肉片と化した恐竜がどさどさと倒れた。私がメンバーの安否を確認するため振り返ると、指示通りに伏せていたメンバーが、おそるおそる立ち上がった。

 

「た、助かった……ありがとう」

 

鈴木が荒い息をつきながら、私の手をしっかりと握り、涙を流し始める。桜井も「スゲーっすよ! これなら生き残れる!」といって笑う。

 

「……何人生き残ってますか?」

 

そう訊くと、鈴木は途端に暗い顔になって、人数を数え始める。

 

「私と、レイカさんと、桜井くんと坂田くん…あと君は?」

 

鈴木が訊くと、帽子をかぶった少し男前の青年は、「稲葉だ」と答えた。

 

「5人ですか……」

 

ずいぶん減ってしまった。数が多かったとはいえ、人数を残せなかったのは痛手だ。私が暗い顔をすると、坂田が肩を叩き、

 

「気持ちは分かるが…あんたは俺たちを生き残らせてくれた。ありがとう」

 

「そ、そうだよ。私たちを生き残らせるために頑張ってたよね」

 

鈴木と坂田は、どうやら慰めてくれているようだった。皆が私の周りに集まり、称賛を送ってくる。

 

「……よしてください。私の役目ですし……」

 

彼らを生き残らせることは私にとって必要なことだから守ったまでのことだったのだが、こうストレートに感謝されると、気後れするものの何故か悪い気分ではなかった。

 

「キューッ! キューッ!」

 

その時、甲高い声が響き渡った。声のした方を見ると、麦わら帽子にシャツと半ズボンをはいたずんぐりとしたシルエットーかっぺ星人が、こちらを指差して叫んでいた。

 

「そういえばさっきの恐竜、あいつが叫んだら来てたような……」

 

レイカがひとりごちると、それをすぐに肯定するように、先ほどと同じ大トカゲが建物の影から飛び出してくる。

 

「……俺はどうすりゃいい!?」

 

焦った稲葉が訊いてくる。彼はスーツも武器もないので、心細いのだろう。さっきの襲撃は運の良さで生き残ったらしいが、多分次はない。

 

「私のを貸します。その代わり、ちゃんと戦ってくださいね」

 

「わ、分かった…」

 

稲葉に銃を渡すと、刀を正眼に構え、向かってくる恐竜たちをきっと見据えた。

 

 




恐竜についての知識が無いので、咲夜視点だと相手の書き分けが難しいですね……まあもともと私の恐竜知識はティラノサウルス止まりなので他の人視点でも大して変わらないかもしれませんが。
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