時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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21、冷血の戦い

 

 

 

「あの人たち……大丈夫っすかね……」

 

ごくりと唾を飲み込みながら、桜井くんはそう言った。加藤さんたちが向かっていく敵はさっき私たちが戦っていた恐竜よりも何倍も大きい首長竜。戦い慣れしている彼らがこれで死んでしまったら、私たちが勝つことはまず無理だろう。だから私も、固唾を呑んで見守っていた。

 

「なあ……レイカ。ここにいると危ない。避難した方が良くないか?」

 

稲葉くんが話しかけてくる。彼はどうやらここから逃げ出したいようだった。

 

「でも、どこに逃げても頭が破裂するんでしょ? 逃げられないなら何かできるかもしれないし、ここにいた方がいいと思うわ」

 

稲葉くんはそれを聞いて、急に他の人たちをきょろきょろと見回し始めた。自分だけで逃げるのが怖くて、一緒に逃げようという人を探しているのだろう。

 

……といっても、私は稲葉くんより怖がりではないわけではないのだ。考え方が少し違って、怖いからこそ、頼りになる人たちがいるここに留まっている。

 

(お願い、勝って………)

 

私が心の中で念じた時、あの巨大な恐竜の前に2つの影が現れた。

 

首長竜に真正面から戦いを挑もうとしているのは、玄野くんと十六夜さんだった。2人ともあの攻撃を防ぐためか、伸ばした刀を携え、恐竜に向かっていく。

 

「愚か者ども」

 

そんな声が響いたかと思うと、高速の一撃が2人のもとに振り下ろされた。

 

がっ!と音がして、刃の動きが止まる。玄野くんが攻撃を防ぐことに成功したのだ。

 

恐竜はすぐに頭を上げると、連続して2人に斬撃を叩き込んだ。しかし玄野くんと十六夜さんは信じられないような反応速度でそれをガードし、一歩ずつ進んでいく。

 

がっ、がっ、がっ、と攻撃を弾く音が聞こえるたびに刀身が火花を散らし、衝撃が走る。

 

それでも2人は臆した様子もなく首長竜との距離を狭めていく。そして横薙ぎの一撃を玄野くんが受け止めた瞬間、十六夜さんの刀が閃いた。

 

どちゃり。

 

かっと目を見開いた恐竜の頭が、地面に落下した。玄野くんに受け止められて一瞬動きが止まったときに、十六夜さんが切り落としたのだ。

 

「やった……のか?」

 

坂田さんが呟くが、その直後、首長竜の丸太のような尻尾が弧を描いて2人に襲いかかった。2人は頭を切り落として少し油断していたのか、防御の用意ができていない。

 

やられる、と思った瞬間、どこかから飛んできた3つのネットロケットが首長竜の尻尾に絡みつき、地面に固定した。私が顔を向けると、そこにはリーダーの加藤くんの姿があった。

 

 首を落とされ、尻尾も動かせなくなった恐竜は、暴れて加藤くんを踏みつぶそうとする。しかしその直前に割って入った風くんが、降ってきた巨大な足を真正面から受け止めた。

 

「ふ……うっ!」

 

 鋭く息を吐き出し、風くんは恐竜の足をしっかりと抱いたまま、腕に力をこめる。

 

 めきめきめき、と骨の折れる音がして、首長竜は傾く。もはや自重を支えられない状態だった。

 

「お……のれ……」

 

 首長竜はそう呟くと、ぐらりと揺れ、前方—玄野くんと十六夜さんの方へ倒れこみ始める。もう勝てないと踏んで、2人と刺し違えるつもりなのだ。

 

「逃げてっ! 2人とも!」

 

 叫ぶが、2人は微動だにしない。すでに逃げるのを諦めているのか、それとも逃げられない状況にあるのか。恐竜が2人に覆いかぶさった瞬間、私は目を覆った。

 

きん。

 

 妙に澄んだ音がして、静寂が訪れた。私がおそるおそる目を開くと、2人は変わらずそこにいた。先ほどと違うのは、彼らを押しつぶそうとしていた恐竜の体が、彼らに当たりそうだった長い首の部分だけが分断され、力なく横たわっていることだけだった。

 

「……やっぱこの刀めちゃくちゃ切れ味いいな」

 

「でしょう? だから私はいつもそれを使うことにしてるんです」

 

 玄野くんと十六夜さんは、そんな会話を交わしながら、首長竜の腹に回り込もうとする。だが、横たわる恐竜の身体は、天から一条の光が降ってきたかと思うと、だんだん上から無くなっていく。どこかに転送されているらしい。

 

「……悪い、計ちゃん、咲夜さん。今回こいつ斃せたの2人のおかげなのに……。うっかりいつもの癖で引き金引いちまった」

 

「いいんだよ。早い者勝ちだし……だけど咲夜。てめーはズルなしな」

 

「私の力なんですからズルではないですよね」

 

 風くんは黙って、残りの3人は話しながら私たちの方へ駆けてくる。坂田さんは、先頭の加藤くんに話しかけた。

 

「……今ので、最後か?」

 

「多分。これで転送が始まったら、戦いは終わったってことだから」

 

加藤くんがそう言うと、桜井くんの頭が消え始めた。

 

「……帰れるってことですよね」

 

私が聞くと、何故か加藤くんは顔を緊張させながら答える。

 

「そうだ。後でいろいろ教えたいことがあるから、採点が終わっても帰らないでくれよ」

 

その後和泉くん、風くん、坂田さんが転送され、続いて加藤くんの姿が消え始めた時ー銃声が響いた。

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

乾いた炸裂音とともに、傍にいた鈴木がのけぞった。そして、立て続けに火薬の弾ける音がして、ガンツメンバーから悲鳴があがる。

 

「……あそこにいる奴らが撃ってるぞ!」

 

玄野が指差した方を見ると、数人の黒服を着た男が歩いてきていた。手には和泉が持っていたのと同じような拳銃が握られており、こちらをしっかりと照準している。

 

「おい、気づかれたぜ」

 

「今回はスーツ着てる奴がずいぶんいるな……さっさと仕留めるぞ」

 

「じゃあ俺は真ん中辺りにいるサムライガールの血を飲むからな。横取りすんなよ」

 

黒服の男たちの言葉を聞いた全員が息を呑み、身構えた。稲葉は戦えないので後方で転送を待っている。それを見た黒服たちのリーダーらしい男は銃を向けながら、呟く。

 

「……全員、殺せ」

 

「やってみろっ!」

 

男たちの銃弾が届く前に、玄野が飛び出した。それを合図にして、私も相手を迎えうつべく、前に駆け出す。

 

「……うっ!」

 

しかし、先頭を走っていた玄野の動きが、突然止まった。そして、だんだん頭の方から姿が消えていく。

 

「くそっ、ガンツ、待て! 他の奴らを先に転送しろ!」

 

叫ぶが、玄野の転送は止まらない。相手は玄野は仕留められないと判断したのか、私に向けて銃撃を集中させてくる。

 

「ちっ……!」

 

発射されたいくつかの銃弾が命中した。しかしスーツの防御効果のおかげでダメージは無い。私は男たちを斬り伏せるべく、前方に向けて疾駆した。

 

「先頭だ!先頭の女を狙え!」

 

叫んだ男の口の中には、どこかで見たような巨大な八重歯が生えていた。これを見たのはこの世界に来てからではない。その前の生活でよく目にしていた。こんな歯を持つ人物は、誰だったかー

 

(……まさか)

 

思い出した。この歯の形は私の主であったお嬢様ー吸血鬼のものではないか。とするとこの相手はー

 

思考を巡らせようとした瞬間、また銃弾が命中した。すると私のスーツから、キュウウウンという音がして、スーツのあちこちからどろりと液体が漏れだす。

 

(スーツが……!)

 

やはり小型恐竜との戦いでダメージが相当蓄積していたらしい。ずしりと重たくなった刀が、スーツの耐久力が0になったことを示していた。

 

「よし、スーツが死んだぞ! 殺せ!」

 

掛け声とともに、一斉に銃口が向けられた。そして吸血鬼たちの人差し指が引き金を引くその直前ー私は時間を止めた。

 

時間を止めて逃げてもせいぜい数十メートルが関の山だ。そうなれば背後から撃たれて終わりである。そのため私は、後ろではなく前ー吸血鬼たちに近づき、喉に刀をあてがった。

 

「……!?」

 

突然刀を喉に突きつけられたリーダーらしき吸血鬼は、わずかに驚きの色を見せた。そしてそれを見た他の吸血鬼たちも、ぴたりと動きを止める。

 

「取り引き……しませんか?」

 

私がそう言うと、男は額に少し汗を浮かべつつ、しかし落ち着いた声で答える。

 

「刀を突きつけながら話すのがお前の取り引きか? それにまずどうやって信用しろと言うんだ」

 

「スカーレット家です」

 

「なに?」

 

「……スカーレット家の名にかけて、約束は守ります」

 

これは賭けだった。もしも彼がお嬢様と取り引きをしている吸血鬼であれば取り引きが成立するチャンスがあるが、もし知らなければ、最善を尽くしてもこの男と刺し違えるはめになるだろう。そのため、周りの吸血鬼たちがスカーレットの名に反応せずに武器を私に向けて構え直し始めた時、私は死を覚悟した。

 

しかし、男はそれを制止した。

 

「……待て、お前ら。そうか、スカーレット家の者か。ひさびさに会ったな」

 

「知ってるのか?」

 

銃を下ろした吸血鬼の1人が訊いてくる。どうやらこのリーダー格の男以外はお嬢様を知らないらしい。

 

「ああ。昔に海外から移住してきた一族だ。今はどこかでひっそりと暮らしてるらしい。たまに交流があるくらいだが……敵に回すと面倒な奴らだ」

 

リーダーの男はそう言うと、こちらをちらりと見て、答える。

 

「……普通の人間がスカーレット家について知ってるとは思えないし、まずはお前を信用するが……取り引きというのは?」

 

「後で詳しく説明しますが……あなたにもメリットがある話ですよ。私たちーガンツメンバーについての情報とか。ところでスカーレット家との連絡をとることはできますか?」

 

「連絡……できるが、それがどうした?」

 

お嬢様と連絡が取れる。私はこの世界に来て初めて掴んだ帰還の糸口の存在に興奮していたが、弱味と見られないよう、何でもないように装って続ける。

 

「いえ、一応の確認です。とりあえず私は今から転送されるので、次に落ち合う場所を教えてください」

 

「……分かった。メモを渡すから、その刀をそろそろ下ろしてくれ。書きづらい」

 

私が刀を下ろすと、男はポケットから真っ黒な手帳を取り出し、簡単な地図と番地を書き付けた。

 

「明日に、1人でここに来い。他の奴らと来てもいいが、その時は今日の続きを始めることになる」

 

「分かりました。ではまた会いましょう」

 

そう言うと、ちょうど私の転送が始まった。

 

 

 

 

俺は銃を構えて走る格好のまま、ガンツの部屋に転送された。すると先に戻っていた加藤が、慌てて訊いてくる。

 

「計ちゃん、向こうどうなってる!?」

 

「……わからねえ。いきなり銃を撃ってきた奴らがいたんだ」

 

あいつらはガンツの転送の途中で来たから、ターゲットの星人ではない。だが、俺たちの姿が見えていたのだから、一般人でもないはずだ。

 

ーなら、あいつらは何なのか。

 

俺が考えていると、長身の男が送られてきた。

 

「おい、稲葉。向こうどうなってる?」

 

坂田が訊くと、稲葉と呼ばれた男は荒い息をつきながら、

 

「戦いは中断してる。あの十六夜……さんと何か交渉してるみたいだ」

 

「交渉!?」

 

俺と加藤が驚くのを見ると、稲葉はおそるおそるといった感じで、聞き返してきた。

 

「俺は思うんだが……あの女って裏切り者じゃないのか? だってそうだろ? 普通、あんなに都合よく襲ってくるか?」

 

それは違うと言おうとして、俺は口をつぐんだ。俺は咲夜のことを知らなすぎる。彼女があいつらの仲間だということも、十分にありえる話だ。

 

「あの恐竜たちと戦わせて人が減ったところを襲わせるつもりだったんじゃないか?」

 

稲葉は咲夜のいないことをいいことに、推論をまくしたてる。すると転送されて癒えた腕を組んで立っていた和泉が呟く。

 

「それならお前たちを助ける必要はないだろう。最初ッから放っといて恐竜の餌にすればいいだけだ」

 

意外な所からの助け船だった。しかし稲葉はなおも食い下がる。

 

「だが……後から来た奴らは血を飲みたいとか言ってたぞ? だから何人か生き残らせたかったんじゃないか?」

 

そう言われると、確かに反論できない。それを聞いた坂田は、うーむと考え込んでいた。

 

「話を聞く限りじゃ、十六夜さんが裏切り者だって方に傾くが……俺たちの命の恩人なんだよな」

 

「俺たちの能力もすぐに信じてくれましたしね」

 

「…それは事件の起きた日に新宿で見たからだろ」

 

(新宿に行った?)

 

坂田と桜井の会話を聞いていると、俺の心にも疑念が頭をもたげてきた。

 

咲夜は和泉が事件を起こした日に新宿へ行っていたのだ。俺にそのことを言わずに隠していたのも、どこか引っかかる。

 

「……まさか、な」

 

俺の咲夜への信頼が揺らぎ始めたとき、ガンツがレーザーを照射し、問題の中心にいる彼女ー咲夜を描き出した。

 

 




21話でやっと帰還がらみの話ができました。……しかし全員一人称視点で書くのはきついですね。文章を工夫して誰目線か分かるようにしていますが、1話中で視点がよく切り替わるので大変です。(人はそれを自業自得と言いますが)咲夜以外は3人称にすればよかったな…。
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