時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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22、ブラッディパーティー

 

 

 

「私が裏切り者?」

 

最後に戻ってきた咲夜に俺がその疑いがかかっていることを伝えると、咲夜は目を少しだけ見開いて聞き返してきた。

 

「それを言い出したのは玄野さんですか?」

 

俺は慌てて首を振り、稲葉を示す。咲夜が稲葉を見ると、

 

「そうだ。あの黒服たちを呼んだのはあんたじゃないかって思ったんだ。あれで俺たちを殺そうとしたんじゃないか? てか仲間なんだろ?」

 

稲葉は先ほどの勢いこそないが、単刀直入に言う。咲夜はそれを聞いて、少し考えながら、

 

「まあ仲間といえば仲間かもしれませんが……友人ではありませんし、今日が初対面です」

 

「……でも、やっぱり仲間ってことなんだな?」

 

咲夜のどこか矛盾したような物言いに、稲葉はすかさず噛みついた。しかし咲夜は落ち着いて切り返す。

 

「それなら私があなたたちを守る必要は無いでしょう。それに、私ならわざわざ仲間を呼ばなくてもですね」

 

そう言った瞬間にそこにいたはずの咲夜が消えたかと思うと、稲葉の背後に現れ、つっと人差し指を稲葉の喉に押し当てた。

 

「……スーツを着てない人を殺すのには、1秒も要りません」

 

稲葉の頬を汗が伝った。

 

「……でも、あいつらと対等に交渉してたじゃないか」

 

「……ひょっとしてそれで裏切り者とか言ってたんですか? だいたい、私も結構撃たれてましたよね。もし私があの人たちの仲間ならあそこで撃たれることはないと思うんですが」

 

そこでついに稲葉は沈黙した。確かにあいつの話には無理がありすぎる。加藤も議論が落ち着いたところで口を挟んだ。

 

「……咲夜さんは俺たちと一緒にずっと戦って来たんだ。今さら裏切るも何もねーだろうし、疑うだけ無駄だと思う」

 

すると鈴木のおっちゃんも納得したように頷いて、

 

「そ、そうだよね。とりあえず、ほら、誤解も解けたわけだし、これでおしまいでいいよね」

 

この中で1番の年長者の意見なので、誰も異を唱えなかった。俺も新宿の件をここで持ち出すとまた妙なことになりそうなので、あえて何も言わなかった。

 

ちーん。

 

その時、ガンツの方から、採点の始まりを告げるチャイムが鳴った。

 

『それぢわ ちいてんをはじぬる』

 

「加藤さん、なんすかこれ?」

 

「採点だ。敵を倒して100点集めれば、この戦いから抜けることもできる……だから敵をたくさん倒すのが解放の1番の近道だな」

 

『チェリー 5点

toTAL5点 あと95てんでおわり』

 

「……チェリー? 桜井とかけてんのかな」

 

「中学生なんすから当然でしょ」

 

『あほの,,, 8点

TOTAl8点 あと92てんでおわり』

 

「お、俺結構いい線行ってね?」

 

『イナバ 0点

カッコつけすぎ 勘違いしすぎ』

 

「……」

 

稲葉はそれを見て、仏頂面のまま何も言わなかった。ガンツの採点がいつもより遅かったのは、このネタで稲葉をいじるつもりだったからなのだろうか?

 

『和泉くん 6点

total6点 あと94てんでおわり』

 

和泉は舌打ちをすると、壁に寄りかかった。あれほど待ち望んでいた戦いで思うように戦果が上がらなかったからだろう。

 

『ハゲ 3点

total3てん あと97点でおわり』

 

「ははは、ハゲって、私ィ?」

 

鈴木のおっちゃんは怒るそぶりも見せずに笑った。ひょっとするとこのメンバーの中で1番いい人かもしれない。

 

『レイカ 3点

TotaL3点 あと97点でおわり』

 

やはり、スーツを着せておいたおかげで初参加のメンバーも点を取れているようだった。俺は体のラインのくっきりとしたレイカのスーツ姿を見て何とも言えない気持ちになり、慌てて目を反らした。

 

『いなかっぺ大将 6点

TOTaL6点 あと94点でおわり』

 

風はティラノサウルスとトリケラトプス1体ずつだけだったが、武器なしであの巨体と戦ったのだから、ある意味俺より強いかもしれない。

 

『咲夜ちゃん 19点

TotaL37点 あと63てんでおわり』

 

咲夜はやはり安定して点を取っているようだった。この調子でいけば、俺より先にまた100点を集めきってしまうのではないか。

 

『玄野くん 17点

total59点 あと41てんでおわり』

 

咲夜にティラノサウルスを取られてなければなー、と思わなくもなかったが、甘んじて結果を受け入れることにする。残るは加藤の点数だけだった。

 

『加藤ちゃ(笑) 43点

TOtal49点 あと51てんでおわり』

 

「すっげ! 流石リーダー!」

 

「いや……多分まぐれなんだが……」

 

加藤は、照れ臭そうに呟く。そういえば加藤はなんだかんだ言って点の取れそうな敵を次々と上に送っていた。ラスボスを送ったのもかなり点数に貢献しただろう。

 

採点が終わると、加藤は立ち上がった。

 

「……これで今回のミッションは終わりだ。家に帰れる」

 

「頭爆発しないよな?」

 

「ああ。普通に生活できる。だけど、この部屋のことは言ったらダメだ。その時も頭バーンらしい」

 

そう言うと、皆が凍りついた。咲夜は皆の不安を払拭するためか少し笑って、

 

「気をつければいいだけですよ。前にこの部屋にいた人が運営していたんですが、黒い球の部屋っていうサイトでガンツについて言及しても管理人の人は死んでませんでしたし」

 

「その人ってどうなったんすか?」

 

「戦いで死にました」

 

「………」

 

部屋を微妙な空気が支配した。咲夜も今のは失敗だと思ったようだが、これ以上は何も言わなかった。

 

「……ま、これからはそれを心に留めて生活してくれってことだ。それと戦いで生き残るために訓練をしようと思うんだが、参加する人は手を上げてほしい」

 

すると、和泉を除いた新メンバー全員が挙手した。まあ生き残るためなのだから、こういうときに参加したくないという人間は稀だろう。

 

「集合場所は俺の家でいいよ。人に話を聞かれる心配もないし」

 

「オッケー。じゃあ計ちゃん、後でもいいから皆に住所教えといてくれ」

 

そしてお互いに連絡を取れるよう携帯電話の番号を交換して、解散することになった。

 

 

 

 

 

 

ミッションの次の日、私は仕事を休んである町の繁華街に来ていた。辺りは平日の昼間だからかそれほど人はいないものの、様々な店が立ち並んでいた。

 

「ここかしら」

 

私は、あるホストクラブの前で足を止めた。あの吸血鬼たちのリーダーのくれたメモを見ると、確かにここで間違いないようである。

 

私がそっとドアを開けて入ろうとすると、後ろから突然声をかけられた。

 

「おい、今は閉店中だぜ」

 

振り向くと、後ろにいたのはスキンヘッドの男だった。並みならぬ眼光で、一目で常人ではないとわかる。しかし彼が吸血鬼だったとして、どうしてこの太陽の中にいられるのだろうか。

 

「ここに呼ばれて来たんですが……日中はここの人たちには会えないということですか?」

「呼ばれて……ああ、そういうことか。そういえば氷室がそんなこと言ってたな」

 

男は私が来ることを告げられていたのを思い出したらしい。ドアを開けると、「入れ」と言った。

 

指示通りに中に入って地下への階段を下りていくと、そこでは大勢の吸血鬼たちがばか騒ぎをしながら、拳闘を見物していた。

 

「なんだお前」

 

私の目の前でヤジを飛ばしていた吸血鬼の1人が、私に気づいた。

 

「おい、誰があの女を連れてきたんだ?」

 

「……俺だ」

 

そう言って吸血鬼たちの中から進み出てきたのは、昨日の男だった。

 

「とりあえず立ったまま話すのも何だし、カウンターにでも座りながら話そうぜ」

 

「そうですね。ちょうど喉が渇いていたところです」

 

私と男はカウンターの端の方で並んで座った。男は煙草の煙をくゆらせながら、「まず」と話を切り出した。

 

「名前を教えてくれ。いちいちあんたって呼ぶのも面倒なんでな」

 

「十六夜咲夜と申します。あなたは?」

 

「……氷室だ」

 

「分かりました、氷室さん。それで、取り引きについてですが、私はあなたたちの知りたいことを教えてあげるので、その代わりにスカーレット家との連絡を取らせてほしい、ということです」

 

教えると言っても私が直接話せばガンツに殺されるかもしれないので、間接的な形にはなるが、西のサイトのことを教えるしかない。しかし取引材料としては十分成立するはずである。氷室は少し考えながら、訊いてくる。

 

「メンバーの住所も教えられるのか?」

 

「……それは私は知りませんし、あなたに教えても何も意味はありません。まあその辺りは後で全部分かると思いますが、何故言えないのかは私の口からは話せません」

 

そう言うと、氷室は少しいぶかしむような目でこちらを見た。おそらく装備については知っていてもガンツのルールについては全く何も知らないのだろう。

 

「……黒い球の部屋というサイトを見れば多分あなた方の知らない情報があると思いますよ。メンバーの1人が書いてたんです」

 

これならおそらく言ってもセーフだろう。氷室は仲間の1人を呼んでそれを確認させると、それを信じたようだった。氷室はポケットから携帯電話を取り出し、私に渡した。

 

「約束の連絡手段だ。携帯ごとくれてやる」

 

……確か紅魔館にも黒電話はあったが、どうやってそれと繋がるのか、そして結界を越えて繋げることができるのか疑問点は尽きないが、とりあえずお嬢様に電話をかけてみることにした。

 

しばらく呼び出し音が続いていたが、やがてがちゃりと誰かが電話に出た音がした。

 

「……もしもし、咲夜です。お嬢様ですか?」

 

そう言うと、電話の向こうで息を呑む気配がした。そしておそるおそるといった調子で返答が来た。

 

「もしかして、本物の咲夜?」

 

「はい。お嬢様に殺されてから色々あって、今は外の世界にいる吸血鬼の人から電話をもらってかけています」

 

「氷室ね。……本当にごめんなさい。うっかり手が滑っちゃって。絆創膏はっときゃ治るでしょって思ったのも……」

 

「今何してましたか?」

 

「フランと鬼ごっこ」

 

……本当に反省しているのだろうか? 私はお嬢様を問い詰めたくなったが、何とかそれを抑え込み、話を続ける。

 

「……とりあえず、私はそちらに帰りたいんですが、こちらから結界を越えるのは無理みたいで。お嬢様の方から何とか私を連れ戻すことはできないでしょうか」

 

「できなくはないけど……準備のために今すぐというわけにはいかないわ」

 

「あとどれくらい待てばいいんですか?」

 

「結界を越える旨を紫に伝えたり移動自体に時間がかかるからあと3ヶ月くらいかしら」

 

あと3ヶ月。その間だけ生き残れば、私は自由になれるのだ。

 

「それさえ確認できればいいです。……後で電話をかけるので、一旦切らせてもらってもいいでしょうか」

 

「分かったわ。こっちもすぐに結界を越える準備に取りかかるから」

 

通話を切った後、私は帰還のめどが立ったことの興奮で上がった心拍数を深呼吸して抑えると、氷室の方を見る。しかし氷室は誰かが持ってきたらしいパソコンに目を落とし、例のサイトを開いていた。

 

「ありがとうございました。……ところでそれを読んで、メンバーを殺すことが無意味だということ、知っていただけたでしょうか」

 

そう言うと、氷室は少し顔をしかめ、

 

「確かにその通りだが、この理屈だと常にお前たちを殺し続ければ後続の奴らは弱いままってことだろう? 際限はないが、害虫駆除と同じだな」

 

「そうですか」

 

彼らが私たちを狙う理由は知らないが、おおかた以前にガンツのターゲットにされたというところだろう。だが、流石に私も日常生活で襲われてはひとたまりもない。入浴中、睡眠中はどうしても無防備になる。

 

「……他のメンバー全員は無理でしょうが、せめて私だけでも襲う対象にしないということはできないでしょうか? 私もあなた方には一切戦闘を仕掛けないので」

 

「不戦協定ってことか」

 

氷室はじっと考え込み始めた。他のメンバーだけでなく私も殺すことにこだわってお嬢様と敵対するか、条件を呑むかを天秤にかけているのだろう。だが、際限なく湧いてくるメンバーの1人を殺すのと友好関係にある勢力と敵対することは、とてもではないが割に合わないはずだ。

 

「……そうだな。お前とは戦わないよう仲間に伝えよう。だが、他のメンバーに対しては……」

 

「前と変わらず、襲撃する方針のままってことですね?」

 

「そうだ。納得できないならこの取り引きはなしだが」

 

「いえ、これで結構です」

 

もともと攻撃的だった彼らをここまで譲歩させたのだから、これ以上の要求をすれば取引自体が破談になる恐れがある。ここが引き際だろう。私がお礼を言って立ち上がろうとしたその時、黒服の男たちに連れられて数人の女がクラブに下りてきた。

 

女たちはきょろきょろと周りを見回し、拳闘を見てきゃあきゃあと高い声をあげている。女たちへ集まる目線は獲物を見る目で、女たちがこれから悲惨な運命を辿るであろう人間であることは一目瞭然だった。

 

氷室はそちらをちらりと見ると、私の方に顔を向けた。

 

「そういえばここにはうまい酒があるんだ。……あんたがすぐここを出るつもりじゃなかったら奢ろうと思ってたんだが」

 

美味しい酒、と聞いて少しだけ食指が動いた。玄野の家には酒など無かったし、安価なビールというものを飲んだら不味くてとても飲めたものではなかったのである。

 

おそらく飲むと答えれば、先ほど連れてこられた女たちが殺されるのを見ながら呑む羽目になるだろうが、久々に美味しい酒にありつけるかもしれない。その誘惑に勝てなかった。

 

「……ちょっとだけいただきます」

 

それを聞いた氷室がバーテンダーに何やら注文をすると、血のように赤いカクテルが運ばれてきた。その時、耳障りな叫びが聞こえてきた。

 

「きゃああーっ! 何? 何なの?」

 

見ると、連れてこられた女の1人がたらいの前で組伏せられていた。突然の窮地に戸惑い、悲鳴をあげていたが、その横にいた男が日本刀を振り下ろして首を飛ばすと、途端に静かになった。

 

「毎日こんなことしてるんですか?」

 

「まあな。スカーレット家ではやらないのか?」

 

「……ちゃんと気絶した状態で解体する分、人道的だと思いますよ」

 

人間を気絶させるのも調理するのも私の仕事のうちだった。そのおかげで人をうまく気絶させる技術を身に付けられたのだが、それが未熟なうちは血の鮮度を保つためにも麻酔薬は使えないので、生きたまま調理しなければならなかった。殺すことに人道的だとか冷酷だとかを持ち出すこと自体がお笑い草だが、痛みをできるだけ与えないようにするのが私の流儀なのである。

 

「はは、人道的ねェ……」

 

氷室は片頬にうっすらと笑いを浮かべていた。何故か小馬鹿にされたような気がして不愉快だったが、グラスの中のカクテルは透き通るような甘味で、確かに美味しかった。

 

「……あんた、感性はわりと俺たちに近いみたいだが、仲間になる気はないか?」

 

カクテルを飲み終わってクラブから帰ろうとした時、氷室はそう提案してきた。お嬢様にも同じ事を言われたことがあるが、私の答えはいつだって決まっている。例え感性が吸血鬼に近くても、私はずっと私でいたいのだ。私は地上へ戻る階段を上りながら、短く答えた。

 

「お断りです。またの機会に」

 

 

 




ラプトルサンは総数42匹(点数から逆算しました。間違ってたらすみません)計算です。

ところで黒電話って今でも使えるのが驚きですよね。どうやって携帯電話と繋げてるのか不思議すぎです。
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