時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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23、短い安息日

 

 

 

久々の休日なので、私はソファに座って、どこそこの花が満開だとか、美味しい菓子屋だとかを放送する面白くもないニュースを眺めていた。

 

正直に言うと、私は無趣味な人間だ。以前は忙しすぎて趣味などする暇は無かった。そのため、こちらに来てから仕事のない時間はこちらの世界の知識を集めることで潰していたが、最近はおおよそ生活するだけなら申し分ない程度には知識が身に付いたので、することがない。

 

玄野は学校に行きたくないと言っているが、今度私が学校へ行ってみようか、などと考えていたりする。私はテレビを消すと、ソファの上でごろんと横になった。

 

するとその時、ドアの開く音がした。玄野が学校から帰ってきたのだろう。

 

「ただいま。皆は?」

 

「まだ来てません」

 

今日は和泉を除いた全員で集まって訓練をする日になっていた。しかし集合までまだあと50分もある。まだ皆は来ないだろう。

 

そう思いながら、私はテーブルの上にある銀色の携帯電話を眺めていた。これをもらって以来お嬢様からよく情報を得ているのだが、どうもこちらの世界には何らかの危機が迫っているらしい。

 

何でも月の都で地球へ向かってくる巨大な物体が観測されたそうで、しかもそれは自然でない動きで真っ直ぐこちらへ向かおうとしているのだという。

 

「多分誰かが中にいるんだろうけど、ろくな目的じゃないでしょうね」

 

とお嬢様は言っていた。おまけにその謎の物体がやって来るのはお嬢様が私を回収する前後になるということで、準備を急がせているらしい。

 

しかし地球規模で攻撃されるなら、結界に囲まれている幻想郷といえども関係ないはずはない。準備が間に合っても意味がないのではないかと聞くと、お嬢様は事も無げに答えた。

 

「私には理解できないんだけど……月の都の奴らが言うには、月から観測できる距離を一気にワープ航法で詰めて来られない科学文明じゃ、月も、そしてあなたが属してるチームにも勝てないだろうから大丈夫ってことらしいわ」

 

わーぷという言葉はよく分からなかったが、後で調べてみると物を一瞬で別の場所へ移す技術のことらしい。確かにガンツは私たちを自由な場所に転送していたが、それさえもできない者たちの文明など恐るるに足りないということなのだろう。つまりお嬢様は、仮にその来訪者たちと戦争になっても最終的に地球と月が勝利できるから、それに私が巻き込まれる前に回収しようという腹なのだ。

 

ちなみにお嬢様がガンツチームのことを知っているのは私が教えたからではなく、私をここに送り出した例の亡霊に聞いたのだという。というか幽々子も知っているのなら教えてくれればよかったのに。ガンツもそうだが、死人を扱う立場に長く居るものは他人への配慮に無頓着になるのかもしれない―――

 

そう思っていると、玄関のチャイムが鳴り響いた。

 

「おーい、来たぞ」

 

 私が玄関の戸を開けると、そこにはすでに全員が集合していた。加藤、坂田、桜井、風、レイカ、鈴木、稲葉の7人である。鈴木は私を見て、「なかなか来ないと思ってたら……もう来てたんだね」と驚いていた。そういえば玄野と一緒に暮らしていることは教えていなかった。

 

「玄野さん。皆来てますよ」

 

「悪りぃ、ちょっと待ってくれ! 銃を鞄に入れてる」

 

 私たちは玄野がやって来るのを待って、練習場である廃墟へ移動した。

 

 

 

 

 的の描いてあるコンクリートの壁が弾け飛んだ。私は飛んでくる破片を打ち払いながら、持ってきたマジックで新たな的を増やしていく。私はふと的を描く手を止めて振り返り、先ほどから的に当てる練習をしているレイカを見た。

 

「レイカさん、私なんかより銃のスジはあるんじゃないですか」

 

「そうなの? なら嬉しい、かも……」

 

 レイカはそう言って、少し笑う。実際、私が最初に銃に触った時よりも的に当たる確率は高かった。反面刀を使う方はてんで駄目らしく、主武器はXガンにするつもりらしい。

 

「それでも、まだまだ玄野くんとか十六夜さんには及ばない……」

 

「簡単に及ばれたら困りますし。それに私たちだけじゃなくて、他の新しいメンバーの方々もお強いですから、気を抜かない方がいいですよ」

 

 私は加藤からステルスの方法を教わっている稲葉と鈴木の方を示した。彼らもレイカと同様、何の能力も無い一般人だが、それぞれ最善を尽くして強くなろうとしているようだった。……もっとも、稲葉は時折レイカや私の方をちらちらと見てくるので、別の目的もあるのかもしれないが。

 

 ちょうど私と目が合い、稲葉は決まりが悪そうに目を逸らした。前回で私を裏切者扱いしたせいで少し関係がぎくしゃくしているが、そのうち時間が解決してくれるだろう。

 

「……ちょっといいですか、十六夜さん」

 

「何ですか、桜井さん」

 

 私を呼んだのは、桜井だった。この念力使いも常に能力を使い続けるのは大変なので武器を使うことにしたのだという。そんなわけで1人の例外(風)を除いて全員がある程度銃の扱いに慣れてきていた。

 

「稲葉さんの後ろを取ったときの瞬間移動ってどうやってやるんすか? それ用の武器もありませんし」

 

「……あ、それは私個人の能力なので、ちょっと他の人にはできないと思います」

 

「十六夜さんの能力?」

 

 桜井は不思議そうに訊いてきた。そういえば私の能力についても説明していなかった。まあどうせ加藤や玄野が言ってしまうだろうし、連携の時にそれぞれのできることを把握しておいた方がいい。私の方から説明しておいた方が早いだろう。

 

「まあ、桜井さんみたいに私もちょっとした能力があるんです。ほんの数秒ですが、時間を止められるっていう」

 

「……マジっすか?」

 

「信じられないなら信じなくてもいいんですよ?」

 

 私がくすっと笑うと、坂田が「なーるほど」と言ってやって来た。

 

「最近信じられねーことばっかり起こってるし、超能力者が俺たち以外にもう1人いたところで誤差みてーなもんだろ」

 

 坂田の論法は強引だったが、何となく説得力があったため、桜井も「確かに……!」と納得していた。

 

「師匠……弾丸止めるみたいに俺らも時間止められますかね」

 

「できねーよ! まず俺たちが干渉できるのは存在するモノだけだ。時間とか空間そのものには影響を及ぼすことは無理だ」

 

 坂田がそう言いながら、玄野と加藤を見て、訊いてくる。

 

「……ひょっとしてあの2人も何かの超能力もちか?」

 

「いえ。彼らは純粋に装備と工夫で戦っていますよ。私たちみたいに、ズルいことはしてません」

 

「ズルい、ね。あんたもこういう能力を持つってことは不公平なことだと思ってるのか?」

 

 超能力を持つことに対して、坂田はどこか思うところがあるらしい。2人とも後天的に能力を習得したらしく、能力のない時期があったことが関係しているのかもしれない。

 

「……私は全体的な結果さえよければ公平とか不公平とかは問題じゃないと思いますよ。そういう能力は誰がもつのか、じゃなくて持った人がどう使うかが重要でしょう」

 

「……ま、そうだよな。俺もできるだけうまく使えるよう頑張っとくことにする」

 

 坂田はそう言うと、「ありがとな」と答えて、向こうの方へ歩いていった。

 

 

 

 

 訓練を終え、私たちが家に戻ると、中から「おかえりなさい」と言う声が聞こえてきた。小島多恵の声である。どうやってこの部屋に入ったのか、と玄野に訊いてみると、合い鍵を預けたのだという。私はスーツと銃をどこに隠しておくか頭を悩ませながら、台所に入った。

 

「あ、十六夜さん。今日の夕食作ってあるよ」

 

 驚いたことに、小島はすでに台所で肉じゃがを作っていた。私が「玄野さんと一緒にテレビでも見てればいいのに……」と言って手伝おうとすると、「いいよ。たまには十六夜さんもお休みがいるでしょ。それに私、肉じゃが作るの得意なの」

 

 そうは言われても私は仕事以外にすることがない。とりあえず黙って使った調理器具を洗っていく。

 

「……あ、ありがとう。でも本当に大丈夫よ」

 

 小島はそう言うが、何か仕事をしていないと本当に落ち着かない。職業病というやつだろうか、と思いながら黙々と手伝いを続ける。すると小島は味見をしながら、話しかけてきた。

 

「私、一度手料理を計ちゃんに食べてもらいたかったの。でもいつも十六夜さんがいつの間にか用意してるでしょ? だから、驚かしてみたくて」

 

「……なるほど」

 

「だから、さっき十六夜さんに驚かして休みあげるってのは嘘ね。十六夜さんばっかり玄野くんにご飯を作ってあげてるのがちょっと悔しくて……」

 

 小島は私をちらりと見て、笑った。

 

「あなたは好きな人、いる?」

 

「………いませんし、いたとしても教えないと思いますね」

 

「まあいいや。でも十六夜さんに好きな人できたら、相手の人は幸せだと思う。ご飯作るのうまいし、美人だし」

 

「それはどうも」

 

 私がそう言うと、小島ははっとしたかと思うと、慌てた様子で付け加えた。

 

「でも、計ちゃんは取らないでね! お願いだから」

 

「こっちから願い下げですよ。安心してください」

 

 小島はほっとしながらもどこか納得いかないというような複雑な表情を浮かべると、出来上がったらしい肉じゃがをお椀によそい、ダイニングに持って行った。

 

「計ちゃん! 今日私が作ってみた!」

 

「え? 何!? タエちゃんの手料理⁉」

 

 向こうから、2人の楽し気な声が聞こえてくる。私は2人の間にある暖かさを、何となく微笑ましいような、近づきがたいようなもののように感じ取っていた。

 

「咲夜、タエちゃんの肉じゃがうまいぞ。食べてみろよ」

 

「……いえ、ちょっと急用ができました」

 

「どうしたんだ? 仕事?」

 

「まあそんなところです」

 

 たまには恋人水入らずというのもいいだろうし、私がいるのは場違いのような気がした。だから、私は連絡用の携帯電話と上着を着ると、玄野の家を出た。

 

(帰る所、か……)

 

 私は玄野の部屋の方を振り返って、そう思った。ここは仮宿にすぎない。紅魔館にこそ私の居場所があるのであり、本来ここには私のいるべき場所は無かったのだ。

 

 自分が望郷めいた心を抱くことがあるなどとは数カ月前まで予想していなかったが、玄野と小島のやりとりを見て、連続する戦いで凍り付いていた心がほんのちょっぴり融けたらしい。私は少しだけ弱気になった自分を励ますように、ぴしゃりと両の頬を叩いて、星空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 新しい朝が来た 希望の朝が……

 

「よーし、皆、死者を出さないように頑張ろーぜ!」

 

 リーダーの加藤の声が響く。それに皆が応える中、俺ー稲葉ーだけが黙っていた。あのおそろしい恐竜たちと戦わせられてしばらくした夜、俺はまたこのガンツの部屋に転送されたのである。周りには新たなメンバーも加えられていて、加藤はそいつらにも1から説明をしていた。

 

(……もう嫌だ。何度繰り返せば終わるんだよ……)

 

 一応訓練はしたが、あんな恐ろしいバケモノに立ち向かえる気が全くしない。横にいる鈴木のおっさんも頑張るなどと言っているが、どうせ俺と同様皆の足を引っ張るだけだろう。

 

(こちとら、お前らみたいに特別な能力とか才能とかねーんだよ!)

 

 風のようにべらぼうに強いわけではないし、坂田のように超能力があるわけでもない。俺は、無力な一般人にすぎない……。

 

「どうかしましたか、稲葉さん」

 

「……うわっ!」

 

 突然後ろから声がして、俺は振り返る。声で何となく予想はしていたが、そこにいたのは十六夜だった。

 

「ぼーっとしてたら死にますよ。でも訓練しましたし、ちゃんと戦えば大丈夫です」

 

「……ほんとにそうかな」

 

 俺はてっきり十六夜から恨まれていると思ったが、向こうはそうは思っていないらしい。他の皆と変わらず、俺に接してきた。ちらりと顔を見ると、俺や数人のメンバーに少なからず浮かんでいる不安の色は、十六夜の目には全くもって存在していなかった。

 

「……あんたは死ぬのが怖くないのか?」

 

「まあ怖いですが、それを今心配したところで戦いは有利にならないので」

 

「……そうか」

 

 見ると、加藤や玄野の目も不安は浮かんでおらず、どう生き残るかというエネルギーが満ちているようだった。

今まで生き残ってきた者たちのオーラ、平たく言ってしまうとカッコよさは、俺と比べものにならない。

 

(俺も、あいつらみたいになれるのか……?)

 

 俺が不安と羨望、死の恐怖の入り混じった状態で十六夜の方を見ていると、敵の情報が表示された。

 

『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい

 ゆびわ星人

・特徴 つよい、でかい

・好きなもの うま

・自分よりちいさいものを憎んでる

・口ぐせ 無言』

 

 

 

 




活動報告の方に書いておきましたが、本当にこちらも不定期になっています。毎週あると考えていた人には申し訳ありません。

坂田師匠、他のメンバーにも超能力教えればよかったのに……というのは禁句です。教えようと思う人に条件があるのだろうとは思いますが。
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