時止めメイドと黒い玉 作:ばるばろさ
巨大で、擬態することができそうにない星人は、いつもはどうやって人目を逃れているのだろうか。
私は目の前にいる墨を塗ったように黒い、巨大な馬上の騎士ーゆびわ星人を見上げて、そう思った。
…まあ何にせよ、これを倒すのが今回の仕事というわけである。私に気づいたゆびわ星人は馬を駆って地響きを轟かせながら、こちらへ向かってくる。
「皆! 複数いるぞ! 気をつけろ!」
背後から加藤の声が聞こえてくる。これと同じものが複数いるとなると、今回は少し苦戦しそうである。目の前にいるゆびわ星人を倒したら、すぐに他のフォローに回らねばならないだろうーそう思ったちょうどその時、漆黒の騎士はすぐそばまで肉薄し、斧を振り上げていた。
衝撃が両腕の骨を震わせた。刀でしっかりと防御し、威力を殺す。力がつりあい、完全に動きが止まったところで、膠着状態となる。その瞬間、私は刀を振り抜き、斧を弾き飛ばした。
ゆびわ星人は仰け反り、上体を泳がせる。私はその隙を逃さず、Xガンを引き抜いて乱射した。いくら当てるのが苦手と言っても、これほど巨大な相手であれば当たらないはずがない。
ゆびわ星人は身体中のそこかしこを飛散させ、ようやく死に気づいたかのように、のろのろと倒れた。
「……1体目っと」
思いのほか呆気なかった。私はゆびわ星人が確かに死んだことを確認すると、助けが必要な他のメンバーを探すため、目を走らせた。
風は相変わらずの徒手空拳で、敵のサイズすら無視して戦っている。多分彼は大丈夫だろう。そして2人の念力使い、玄野、加藤も難なく撃破したようで、次の標的を探していた。和泉も苦労した様子もなくゆびわ星人の首をはねていた。
「おわあっ! く、来るなーっ!」
情けない悲鳴のした方に顔を向けると、稲葉が追ってくるゆびわ星人から逃げ回っているところだった。銃も取り落としたらしく、丸腰である。
「稲葉くんっ! 銃拾ってッ!」
鈴木は牽制のためか、ゆびわ星人に向けて何度も引き金を引く。そして次の瞬間、ゆびわ星人の頭部が炸裂し、ぽたぽたと文字通り血の雨を降らせた。
「……十六夜さんッ!強かないよこいつらっ!」
「そうですね。でも油断しないでくださいよ」
鈴木は頷くと、他のゆびわ星人を倒しに走っていく。
戦いの芻勢はすでに決まっていた。残り数体となったゆびわ星人は、次々と勝利して集まってくるメンバーに押され、1体ずつ倒れていく。
だが、最後のゆびわ星人を倒す直前、思いもかけない事態が発生した。
「計ちゃん! 星人の前に一般人がいるぞ!」
加藤が指差す先には1人の女の子が立っていた。そして私はその顔を見て、彼女が玄野の彼女ー小島多恵であることに気づいた。
手には大きな紙袋を抱え、鼻歌を歌いながら歩いている。やはり私たちの存在もゆびわ星人の存在も知らないようである。
玄野もそれに気づいたらしく、見る間に顔が青くなっていく。しかもゆびわ星人はその心配を裏切らず、斧を振り上げる。小島を斬るつもりだー
そう思った瞬間、隣の玄野と加藤はすでに飛び出していた。私もフォローのため、少し遅れて走り出す。
先頭の玄野は小島のいる所まで到達すると、とっさに伏せさせる。その直後、小島のいた空間を肉厚の刃が通過した。
ゆびわ星人がもう一度斧を振り上げたそのとき、加藤が引き金を引いた。ゆびわ星人が振り上げた右腕にワイヤーが絡み付き、そばにあったビルの壁に固定される。
私はゆびわ星人の動きの止まった一瞬を狙い、頭部に数発撃ち込む。
派手に内容物を振り撒きながら、ゆびわ星人の頭は吹き飛んだ。これで最後だろう、と思って加藤の方を振り返った。
「まだ油断しない方がいい。ボスが残ってるかもしんねー」
そう言って加藤は周りを警戒していたが、やがてレイカの転送が始まったのを見て、ふっと緊張を解いた。
「計ちゃん、終わったぞ」
加藤が呼ぶと、玄野は頷いてこちらへやって来た。だが、様子がどことなくおかしい。
「バレた……かもしれない」
「何が?」
「俺があの子を助けるときに、俺が誰かってことに気づいたみたいでさ。計ちゃんって言われたんだよ」
「……」
加藤と私は黙って玄野の顔を見た。小島がなぜ存在を認識できないはずの玄野を察知することができたのかは全くもって不明だが、とにかく存在を知られてしまったのだ。頭が破裂してもおかしくないー
しかし、その心配は杞憂だったようで、いつまで経っても変化はなかった。
「たぶん大丈夫だろ。ほら、ガンツについては何もわかっちゃいないはずだし」
「…ああ、きっとそうだ。情報をもらしたわけじゃないもんな」
玄野の言葉に加藤が賛同したが、本当にそれで大丈夫なのだろうか。あるいは西の言っていたことが嘘だったのか。私の心配をよそに玄野は楽観しているようで、加藤と話し続ける。
「まあいいや。それより死んだやつは?」
「0だ。新しく入ってきたやつ含めて、0だ」
「やったな。なあ咲夜、これって俺たちがここに来てから初めてじゃねーか?」
「……そうですね」
私の歯切れが悪いのに気づいたらしく、加藤がこちらを見た。
「どうしたんだ?」
「いえ。さっきの玄野さんの正体がばれたってのが引っ掛かって」
「心配しすぎだって」
「ならいいんですが……」
そう言ったとき、私の転送が始まった。
私が部屋に戻ってきたとき、メンバーは沸き立っていた。新しく入ってきた6人はわけが分からないというように呆けた顔をして立っていたが。
「っしゃ、死者0いけたぞ!」
「訓練したらちゃんと強くなれるってことかな」
私の後に玄野、加藤が戻ってきて、点数が表示されていく。ゆびわ星人はあの程度の強さで10点だったらしく、私は20点が追加されていた。
「なあ、これからどうなるんだ?」
新しく入ってきた男たちの1人が聞くと、加藤は「玄関が開いてるから、そこから帰れる」と答えた。
5人の男たちはさっさと去ってしまったが、新しいメンバーの中で唯一の女とレイカが話していた。
「私、輪姦されちゃって……」
「大丈夫。警察呼んであげるから」
どうやらあのメンバーの5人に犯されたらしい。とんだ厄介者が入って来たものだなと思っていると、玄関の方で玄野の困惑する声が聞こえてきた。
「あれ……開かねーぞ」
がちゃがちゃと取っ手を回そうとする音だけが聞こえてくる。一体何をしているのだろうか。
私が扉の方に歩き出そうとしたその時、
新しい朝が来た 希望の朝だ 喜びに胸を開け……
「またっすか?」
ガンツの傍にいた桜井が、怪訝そうにそちらを見る。加藤も、突然の事態に戸惑っているようだった。
「十六夜さん。今まで連続してあったことって……?」
「ないですよ。私たちも、今日が初めてです」
レイカに答えた瞬間、敵情報が表示される。そしてそれがある意味では玄野に課せられたペナルティでもあることは一目瞭然だった。
『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい
《小島多恵》
・特徴 小さい よわい
・好きなもの マンがお描く
・くちぐせ ケイちゃん』
これを見た瞬間、私は頭を回転させ、これから起こる事態を予想した。
……まず玄野はどう動くのだろうか。小島を助けるのか、それともターゲットとして殺すのか。しかし西のサイトからターゲットは必ず殺さねばならないわけではないという情報を彼はすでに持っているので、小島を守る動きに出る可能性が高いだろう。
加藤や鈴木は玄野に味方するだろうが、反対に和泉や今回新たに入って来たメンバーは小島を躊躇いなく狩るに違いない。風や稲葉などはどちらに与するのか予測しづらいので放っておくとしても、どのみちチームは2分される。
問題は、私がどちらの陣営に身を投じるかということである。
一切関わらずに中立の立場をとるというのは益が無いし、かといってどちらへ行ってもメリットデメリットが存在する。
まず和泉の陣営に行く場合はミッション失敗のペナルティを受けるような危ない橋を渡る必要がなく、無難である。そして玄野側に行くと、「全員の点数をゼロに戻すことができる」というメリットが存在する。私にとっては減点は損失ではないし、むしろ他のメンバーを残留させられるという点で好都合だった。ただしその場合だと後で15点を取らねば殺されるので、リスクは伴う。
「……おい、玄野。何考えてる?」
隣で和泉の声が聞こえてきて、私はそちらを見た。するといつの間にか玄関から戻って来ていた玄野がガンツに目を釘付けにされながら、じっと立ち尽くしていた。
ガンツへの憤り。恐怖。不安。緊張。玄野の表情が目まぐるしく入れ替わっている。他のメンバーも玄野の様子がおかしいことに気付いたらしく、視線が集まってくる。
「……俺を! 俺を一番最初に転送しろ!」
玄野の叫びが、部屋にこだました。加藤が何か言おうと近づいたが、玄野の姿は頭から消え始めた。
「……やっぱり、あいつは小島を守る気か」
和泉は苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。するとレイカが不思議そうに訊く。
「なんでですか? 人間に似てても、相手は星人なんでしょう?」
「人間ですよ」
答えると、皆の目は私に集まった。
「今回のターゲットは、玄野さんの恋人……彼女です」
相手が人間だと分かると、途端に和泉を除いたメンバー全員がたじろいだ。その中で唯一坂田だけが声を絞り出すようにして訊いてくる。
「でもなんで今回は相手が人間なんだ?」
「……さっきの戦闘で、この人が玄野さんの正体を知ってしまったからではないでしょうか。加藤さんも聞きましたよね」
「……ああ。だから計ちゃんは、その……小島さんが誰かに殺されないように、守りに行ったんだと思う」
加藤の言葉に、誰もが押し黙った。これから自分たちが戦う相手が誰かということを知ったのだから。
「まさか、人間だから殺せねーってことはないよな」
その沈黙を破ったのは、和泉だった。
「星人は殺せて人間は殺せない? そういうの、偽善ッて言うんじゃないのか?」
和泉がふっと薄笑いを浮かべたその時、転送が始まった。誰もが何も言い返さず見ているうちに完全にその姿は消失した。
「俺は……計ちゃんの方につく」
加藤が呟くが、誰も応えない。ミッション失敗時のペナルティは全員に伝えてあるので死にはしないことは分かっていても、点を失うのが怖いのだろう。加藤はこちらを見て、訊いてくる。
「咲夜はどっちにつくつもりだ?」
「…………」
私は、答えなかった。いや、答えられなかったというべきか。いつもは瞬時に判断を下すのだが、自分でも驚くほどの迷いが生じている。どちらをとれば利益が生じるかということだけでなく、単純に小島が死ぬことに少しの不快感を覚えるのだ。
(私もちょっと心が弱くなったかしら)
間のいいことに私の転送が始まり、回答する必要はなかった。
俺は転送されてくるメンバーを見やりながら、ターゲット―小島多恵の場所をレーダーで確認していた。玄野とすでに接触しているらしく、どこかへ移動している。
(玄野……)
玄野の行動は、自分の彼女を守りたいという自己中心的なものだ。俺が正義、奴は他のメンバーを命の危険にさらすクズに過ぎない。メンバーの多くが俺についてくるはずだ。
俺は他のメンバーを確認した。玄野の仲間になりそうなのは偽善者面の加藤、鈴木、あとは脳みその足りない桜井くらいか。坂田は現実を見ている方だし、十六夜は玄野と同じ古参とはいえ、合理的な物の考え方をしている。こちら側だろう。
「……ターゲットはこっちだ」
俺がそちらへ向かって走ると、他のメンバーもついてくる。加藤の姿が見当たらないが、玄野のように先回りしているのだろうか。
レーダーに表示されている家へたどり着くと、何をしようとしているのか改めて認識したのか、桜井が明らかに動揺した。
「……やっぱ俺ら、人を殺すってことっすよね……」
「黙ってろ。突入するぞ」
俺が刀を伸ばしている後ろで新規メンバーの半グレどもが待機しているが、他のメンバーは動かない。
「十六夜は来ないのか?」
「突入が面倒なので、ここで待ってますよ」
言葉は戦いを忌避しているように聞こえるが、眼はすでに何かを決めたように澄んでいる。俺が玄野たちを取り逃がしたところを横取りするつもりだろう。
「なら、先に行かせてもらう」
俺は玄関の扉に刃を突き刺すと、そのまま斬り捨てる。その向こうで、ちらりと玄野の足が2階へ続く階段へと消えていくのが見えた。
「2階だ!」
叫ぶと、俺は玄野を追って階段を駆け上がった。そして2人が入った部屋の扉を蹴破って中へ入ると、玄野が小島を抱えて窓から飛び降りようとする瞬間だった。小島は部屋に侵入してきた俺を見て、息を呑んでいた。
「タエちゃんはぜってー死なせない」
「玄野ッ!」
俺が斬りかかろうとすると、玄野は怯える小島を抱えたまま、窓から躍り出た。
「……チッ」
玄野を逃したことに苛立ちながらも、それほど焦りは感じなかった。まだ外には他のメンバーがいる。ここから逃げても袋叩きだ。俺が窓から玄野の落ちた方を見ると、やはり他のメンバーたちの視線を釘付けにしているところに、玄野はいた。しかし、銃を構えたのは、稲葉だけだった。
「玄野を殺せ! おい! 何やってんだ!」
玄野は何も言わず、逃げ始める。俺がいくら言っても、動こうとしないばかりか、
「……玄野くん、逃げて!」
「早く! 今のうちに!」
レイカと鈴木が叫んだ。玄野は頷き、走り続ける。このままでは玄野が離脱してしまうー俺がそう思った瞬間、玄野の足がぴたりと止まった。
「……咲夜?」
玄野の進行方向には、十六夜が立っていた。十六夜は月明かりに照らされた刃を向けながら言う。
「残念ながら、あなた方2人は通せません。……玄野さん。小島さんをそこに置いていってはくれないでしょうか?」
そういえばホイホイのことをすっかり忘れていました。動物メンバーって扱いに困ってしまう……。扱いに困ると言えばレイカが好きになる相手が決まってないこともですけど。
誰にくっつけてもお話は展開できるのでとりあえずレイカとくっつく相手をホイホイor鈴木orガンツor稲葉でアンケート取ってみようと思います。
…もちろん冗談ですが、こうしてみると稲葉でもまだマシに見えてきますね。