時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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25、バトル・ロワイアル

 

 

 

「タエちゃん……俺の後ろにいてくれ」

 

 俺はそう言うと、タエちゃんを後ろへ下がらせた。タエちゃんは立ちふさがる咲夜を見て何かを言いたげにしていたが、黙って後ろにいた。対する咲夜は動かず、ただ刀を構え、真っすぐ俺に刀を向けている。

 

「玄野さん、私に小島さんを引き渡してください」

 

「引き渡して、お前はどうするつもりなんだ?」

 

「……分かったことでしょう」

 

 咲夜も敵に回ったらしい。その返答を聞いて、俺も持っていた刀を構えた。

 

「玄野さん。抵抗するなら、殺しはしませんが、腕の1本や2本は覚悟してもらいますよ」

 

「……俺は何本でも腕やってもいいけど、タエちゃんに手を出したら絶対許さないぜ」

 

「そうですか」

 

 言うが早いか、咲夜は刀を上段に構え、突っ込んできた。俺はかろうじて攻撃を受け止める。しかし咲夜は初太刀が受けられたのを気にする風でもなく、次々と打ち込んできた。

 

「くっそ……!」

 

 銃は俺の方が圧倒的に得意だが、刀に関しては咲夜のほうが経験値が高い。そのため、手数で圧倒する咲夜に、俺は何とか防御しながら、反撃できずにいた。

 

 襲い掛かってきた真上からの一撃を受ける。するとその時お互いに力が拮抗し、鍔迫り合いになった。ぎりぎりと刃を削り合い、嫌な音を立てる。俺と咲夜は交差した刀ごしに相手の顔を見つめた。咲夜の眼は、星人を狩るときと変わらず、鏡のような色だった。

 

「……咲夜は味方してくれると思ってたんだけどな……」

 

 俺が皮肉交じりに呟くと、咲夜はちらりと和泉達のいる方を見て、答えた。

 

「……玄野さん。今から私の言うことを聞いておいてください」

 

 

 

 

 

 

「……おい、玄野を十六夜が引き付けてる今がチャンスだ。俺たちで仕留めに行くぞ」

 

 和泉がそう言ったから、俺と他の5人の新規メンバーはそれについていこうと動き始めた。正直俺は人を殺す勇気というものはないが、一切躊躇わずに行動している和泉についていけば生き残れるのではないかと思った。だから、たとえこれが人殺しだったとしても、それは俺が生き残るために必要なことなのだと無理に納得することができたのである。だが、

 

ー俺は、計ちゃんの方につく。

 

 加藤の声が、まだ耳にこびりついていた。

 

(いや、あいつもやっぱり点数が欲しいに決まってる。だからまだ玄野を助けずにどっかに隠れてるんだ)

 

 そう考えながら俺は先に進もうとしたが、前に和泉が突っ立っていたので、立ち止まらざるを得なかった。

 

「おい、なにやって……」

 

「和泉さん。稲葉さん。これ、間違ってないか?」

 

 桜井、鈴木、レイカが立っていた。

 

「邪魔だ。どいてくれ」

 

「今回だけは、あの子、見逃すことはできないの?」

 

 レイカが言うと、和泉は不機嫌そうに答える。

 

「ああ。無理だね。点数が減るってことは、間接的にこれから誰かを殺すことになるかもしれないんだぜ。それを防ぐ……つまりこれからメンバーから死人を出さないためにも、ターゲットは狩る」

 

「でも、相手は人間なんだよ? 平気なの?」

 

「ああ、平気だね。人間だろうが星人だろうが。むしろ、お前らの方が偽善者なんじゃねーか?」

 

 そう言うと、風が黙って鈴木の方に、坂田は「俺はこっちかなー」と言って桜井の方へ行った。

 

「……点諦めるだけで、人一人救えるんスよ……」

 

「やめなって……俺ら相手に勝てるつもりなのか、あんたら……」

 

「楽勝だ。なめてるな、お前」

 

 和泉も声を低くし、一触即発といった雰囲気になる。そして次の瞬間、桜井たちの向こうで轟音が鳴った。玄野と十六夜が戦っている方だー俺たちがそちらを見ると、十六夜と玄野はお互いに少し離れた位置に立っていた。2人の周りはアスファルトがはげ、壁には無数の亀裂が入っている。しかしそんな凄まじい戦いの跡があるのに、両方消耗しているようには見えなかった。

 

 そして2人が刀を構えなおした瞬間、ばしゅっ、という音とともに、見慣れた3つのネットロケットが飛来した。それは咲夜に命中し、腕や体に巻き付いて、地面に固定してしまう。

 

「……計ちゃん! 小島さんを連れて逃げろ!」

 

 近くの家の屋根に、スパークを散らせながら加藤が姿を現した。どうやらあそこから十六夜を狙撃したらしい。玄野は刀を引っ込めターゲットを抱えると、逃げ去ってしまった。

 

「……逃がしましたか」

 

 十六夜は刀でワイヤーを切ると、俺たちのいる方へと歩いてきた。加藤も屋根から飛び降り、やって来る。

 

「……なぜ玄野を追わなかった?」

 

「加藤さんが足止めをしてくるのは間違いないので」

 

 言われた加藤は複雑そうな顔をして、十六夜を見ていた。多分彼女はどちらかというとあちら側ー桜井たちと一緒に戦うと思っていたのだろう。それが蓋を開けてみれば俺たちの側にいるのだから、裏切られたような気分になっているのだ。

 

「……とりあえず、さっきから屋根の上で聞いてたけど、そっちはもう計ちゃんたちを殺すつもりなんだな?」

 

 そう言う加藤に和泉は黙って頷くと、刀を振りかぶる。すると俺の後ろにいた男が威勢よく叫んだ。

 

「やっちまおうぜ!」

 

「え、ど、どうするの!? 戦うの?」

 

 戸惑うメンバーに、和泉たちは襲いかかった。相手は俺たちよりも訓練しているはずだが、不意を衝かれ、慌てふためいていた。そばにいた男が飛び出し、鈴木を狙う。

 

「俺はこのジジイをやるっ! 回りこめ!」

 

「鈴木さん、気をつけて!」

 

「分かったッ!」

 

 俺が戦い始めるメンバーたちを見て突っ立っていると、とん、と肩に手を置かれた。

 

「……なんだ?」

 

「お前は殴り合わんとか?」

 

 俺の後ろにいたのは、風だった。

 

 

 

 

 

 

 横にいる加藤は、和泉と激しく戦っていた。しかし和泉も訓練には来ていなかったが相当の強さだったらしく、戦いの主導権は常に和泉に握られているようだった。他も似たような感じで、風が稲葉と殴り合っているところ以外は皆が苦戦しているようだ。

 

「師匠……」

 

「ああ。来るぞ……」

 

 そして俺たちの相手は、咲夜だった。咲夜は周りを見回しながら、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

 

「……十六夜さん。なんで、あっち側についたんだ?」

 

 俺が訊くと、咲夜はこちらを見て、

 

「私は常にチームのためを思っているので。だから、戦うとしてもあなた方は絶対に殺したりしませんよ」

 

「……もう勝てるみたいな口調だな」

 

 だが実際、俺は咲夜がいつ能力を行使してくるのか、ひやひやしながら彼女との距離を測っていた。殺したりはしないと言っているが、それでも無力化の手段はいくらでもある。足を駄目にしたり、Yガンで相手を縛ったりすればいいのである。

 

「師匠。どうしますか?」

 

「ステルスで行くぞ」

 

 咲夜相手に真正面から戦っても、勝ち目は薄い。俺たちの念力ならば彼女を即死させることもできるが、咲夜はこちらを殺す気は無いようだし、そもそもこの戦いが終われば仲間どうしなのである。脳血管破壊は使えない。ゆえにステルスで隠れながら彼女のスーツを破壊してしまえばいい。

 

 俺と桜井がスパークを散らしながら姿を消すと、咲夜も対抗するようにステルスモードを起動させていた。するとステルスで隠れたはずの咲夜の姿が見え、あちらもはっきりとこちらを見ているようだった。

 

「……え、見える?」

 

「ステルスモードを起動した者どうしなら、姿は見えるんです」

 

 周りは俺たちを気にせずに戦っている。見えているのはお互いに俺たちだけらしい。

 

「……師匠、やばくないですか」

 

「ああ……」

 

 咲夜は能力の特性上、不意打ち、あるいは遠方からの狙撃に弱いはずである。しかしお互いに相手の目の前に立っているこの状況ではそれはできないし、唯一可能性のあった奇襲攻撃の芽も潰された。正直、打つ手なしである。

 

だが、次の咲夜の一言で、俺が何とか立てようとしていた作戦は全て吹っ飛んだ。

 

「さて、これで私たちの姿は見えません。というわけで、ちょっと来てくれますか」

 

 咲夜はそう言うと、刀の刃を柄に戻して腰に戻すと、手招きをした。

 

「は? どういうことだ?」

 

 咲夜は周りを見回して会話を聞いている者がいないか確かめながら、唖然としている俺たちに、小声で答える。

 

「……あなたたちには、玄野さんの味方をしてほしいんです」

 

「ちょっと待ってください。和泉側だったんじゃ……」

 

「敵を騙すにはまず味方からと言いますよね。だからさっきも途中から玄野さんと一芝居打ったわけです」

 

 そういえば、あれほど激しい戦いのあとがあったのにも関わらず、2人とも消耗していなかった。ではあそこでの玄野との斬りあいは、八百長だったということか。

 

「え、じゃあ十六夜さんは……」

 

「このまま戦っていても埒が明かないでしょうし、今から和泉さんは自分のチームを2つに分けると思います。和泉さん自身は玄野さんの方へ向かうでしょうから、残った方を……」

 

 咲夜はくす、と人の悪そうな笑みを浮かべたが、すぐに無表情になり、「さあ、行ってください」と言った。

 

 

 

 

 

 

「おらあっ!」

 

 俺は刀で斬り払い、加藤を吹き飛ばした。壁に叩きつけられた加藤のスーツから、どろりとした液体が漏れ出てくるのが見える。加藤はもう戦えないだろう。

 

 もともとこれほど接近した状態では銃よりも刀の方が有利なのだが、それでも加藤は驚くべきタフさで立ち上がってくる。俺は加藤が落としたYガンを拾うと、そのまま俺のガンホルダーに回収する。スーツが無くてもこれがあれば奴はまだ戦おうとするだろうし、Yガンが対人戦において最も強力な武器に違いないからである。

 

「ま、待てっ!」

 

 追いすがろうとする加藤を振り払い、俺は疾駆した。

 

(くそっ、時間をロスした……!)

 

 早く追いかけなければ、玄野を倒して小島を始末することができなくなる。……追いかけるチームとここで足止めするチームに分けた方がいい。

 

「……何人か俺についてこい! 後の奴にここは任せる!」

 

 俺が叫ぶと、1人の男、そして風と絶望的な殴り合いをしていた稲葉が逃げ出し、こちらへやって来るのが見えた。

 

「……なんでわざわざ殴り合ってたんだ?」

 

「気づいたときにはもうそんだけ近づいてきてたんだよ!」

 

 ……稲葉でもいないよりはましだ。弾避けくらいにはなるだろう。

 

「十六夜は……来ないか」

 

 まああの新しいメンバーだけでは不安だし、そちらの方が安心してここを任せられるだろう。

 

「行くぞ!」

 

 小島はいくら隠れてもレーダーで位置を確認することができる。玄野もそれは重々承知だろうし、小島の周辺では玄野の奇襲を警戒しなくてはならない。……地図上では小島はタクシーにでも乗ったのか、高速で光点が移動していたが、やがてメンバーの行動可能範囲内で止まる。範囲外に行かれては打つ手がないので、僥倖だった。

 

 そして俺たちがようやく小島のいる場所へ到着したとき、20メートル先に2人の姿をみとめた。

 

「おとなしくしろ玄野! 3対1だ!」

 

 俺たちが銃を構えると、玄野はゆっくりと俺の方を向いた。

 

「計ちゃん……」

 

 小島は玄野の影に隠れ、不安そうに呟く。しかし玄野は追い詰められているのにも関わらず落ち着いた表情で、

 

「……いや、3対3だ」

 

 突然、俺の目の前の地面が盛り上がったかと思うと、コンクリートの破片を飛散させ、爆裂した。

 

「すいません師匠! 外しました」

 

「いや、いい。相手の出方を見るぞ」

 

 ばちばちと音がして、玄野の後ろから坂田と桜井の2人が姿を現す。こいつらもあの戦いを抜けてこちらへ来たらしい。

 

(……この2人は十六夜が相手をしていたはず。あいつは何やってる? まさか負けたのか?)

 

 俺がそう考えていると、玄野は刀を構えながら、言った。

 

「なあ。ここで終わりにしてくれねーか? もちろん、ここで皆が0点になっちまうことは分かる。だから、後で点を譲ってやるし、それで死んでも文句は言わねー。どうだ」

 

「断る」

 

 そんな約束は信じられたものではない。俺の答えを半ば予想していたのか、玄野は刀を握る力を強くし、俺の斬り込みに備えていた。

 

「……仕方ないな。それならお前を殺して小島も殺す。それだけだ」 

 

 俺が動くと同時に稲葉たちが、そして玄野が動くと同時に桜井たちが銃を構える。そして瞬きすら許さないほどの刹那を経て、俺と玄野の刀がぶつかり、火花を散らした。

 

 

 

 

 




そういえばXガンを見てると「サイコパス」に出てくるドミネーターを思い出しますね。Xガンに「新世界より」の攻撃抑制を加えたような、また一味違う格好良さのある武器でした。

ちなみにYガンのワイヤーがガンツソードで切れるのは天狗&犬神より、お互いステルス戦闘で姿が見えるのは原作の玄野対和泉の描写が根拠となっています。
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