時止めメイドと黒い玉 作:ばるばろさ
敵の数が多い。撃っても撃っても新手が押し寄せてくる。おまけに吐き出される溶解液は相当強いものらしく、油断はできない。俺とレイカは、互いにお互いの背中を守りながら、ぞろぞろとやってくるオニ星人と戦いを繰り広げていた。
レイカのXガンがうなり、彼女に飛び掛かったオニ星人の顔面を吹き飛ばした。俺もビビらずに相手の身体に狙いをつけ、引き金を引いていく。するとオニ星人の1グループが、肉片をまき散らしながらつんのめって、そのまま動かなくなった。
「稲葉くんッ!」
「わかってる!」
俺は側面から回り込んできたオニ星人を撃ち、再び正面へ向ける。次の攻撃を始めた瞬間、そのオニ星人はすでにミンチと化していた。俺は吠えながら、一種の高揚を感じていた。
(……いける! 俺でも……戦える!)
情けなく逃げ回っていたときも、和泉にぶちのめされた時も、俺はたいしたことはできなかった。だが、今はこうしてレイカとも肩を並べて戦っている。俺がやっていた訓練は、意味があったのだ―――
「………派手に、殺しましたね……」
俺とレイカが周囲のオニ星人を全滅させたとき、そんな声が聞こえた。俺とレイカがそちらを向くと、そこに立っていたのは咲夜だった。しかしその顔は埃にまみれており、スーツも壊れている。頭を怪我しているのか、一筋の血が額から流れていた。
「………大丈夫か!?」
俺とレイカが駆け寄ると、咲夜は、ええ、と言ってくずおれる。
「………どうやら、私は相手方の最強の相手に遭遇してしまったようです。玄野さんと加藤さんも、もう……」
咲夜はそう言って、目を伏せる。俺とレイカは、驚きのあまり声を出すこともできなかった。咲夜をこれほどにぼろぼろにして、玄野や加藤のような最古参メンバーまで倒してしまうほどの敵が、相手にいるということなのだから。
「相手は? どんなのだったの⁉」
レイカが訊くと、咲夜は声を振り絞るようにして答える。
「雷を落としてきます……光ったと思った瞬間………なすすべがありませんでした」
「雷………!」
防ぎようがない。これでは確かに無理だ。東京最強の彼らも、その威力の前に崩れ去ったということか。
俺が戦慄していると、驚いたことに咲夜は涙を流し始めた。
「あれには、勝てません………私たちはここで全滅です」
「……そう思うの?」
その時、レイカの眉が、ぴくりと動いた。咲夜は少し戸惑ったようだったが、頷いた。レイカはふーん、と言って、続ける。
「それで……
「……ええ。でも……無駄でした」
そう、とレイカは呟くと、咲夜に銃を向けた。
「稲葉くん………」
「ああ、こいつ………咲夜じゃない」
咲夜の主武器は刀。射撃はむしろ苦手と言っていたはずだ。それに、これまで修羅場をくぐってきたであろう古参メンバーが簡単に勝利をあきらめるということが不自然だった。
俺とレイカは、同時に引き金を引いた。
「ちっ」
咲夜が舌打ちをしたかと思うと、肩や額など、撃った箇所が膨れ上がった。が、すぐに元に戻ってしまう。Xガンが効いていない、と思ったが、俺は思い直し、叫んだ。
「撃ちまくれ!」
一瞬でも膨れたならそれは完全に効いていないというわけではない。咲夜に化けていることから察するに、こいつは身体を自由自在に変形させることができ、銃のダメージを和らげているのかもしれない。
ばん、と偽咲夜の頭が弾け、腕が吹き飛び、血が飛び散る。やがて地面に倒れ伏すと、そのまま動かなくなった。
「やった……の?」
レイカが呟いた瞬間、肉塊のようになったそれがうごめき、男の姿をとった。
「よく、見破ったなあ……」
男は気味の悪い笑みを浮かべると、ゆらりと俺に近づいた。慌てて銃を構えて撃ったが、それをかわした男は肉薄すると、俺のスーツの顎に当たるレンズのような部分に、指を突っ込んだ。
ぱき、とガラスの割れるような音がしたかと思うと、俺のスーツからどろりとした液体が流れ始めた。
「………稲葉くん!」
「吸血鬼から教えてもらったやつだ。確かお前ら、こうするとスーツが死ぬんだろ?」
間近に迫った男はそう言うと、にっ、と笑った。
掲げられた炎は勢いよく燃え盛り、周囲を赤々と照らしている。その下に立っている男の頭には2本の角。さしずめオニ星人のボス、あるいは取り巻きといったところか。
「ど、どうするんだ……?」
「あれが飛んできた瞬間、散らばって回避しましょう」
そう言った瞬間、炎鬼が振りかぶる。炎もその動きと連動して、こちらに向けて叩きつけられた。
「今です!」
私が右側面に跳躍した数秒後、炎は私のいた場所に着弾し、すさまじい衝撃とともに炎の柱が立ち上がった。
「ぎゃああ!」
断末魔のした方を見ると、新規メンバーの一人が火だるまになって炭になっていくところだった。
1名死亡。残った3人と私で、これを仕留めなくてはならない―――だが、続く思考は、相手が周囲にばら撒く無数の火の玉のせいで、中断せざるをえなかった。
どうやら先ほどのような大型の炎を作るのには時間がかかるが、中程度の炎であれば連続して放つことができるらしい。さいわい全員に向けて炎を放っているようで1人に向けられる炎球の量は少なく、回避するのは難しくない。私は攻撃を回避しつつ接近し、ついに銃の射程に収めると、男の頭に狙いを定めて、ゆっくりとトリガーを引いた。
甲高い音とともに、男の傍にあった街灯が吹き飛んだ。それに気づいた男はこちらを睨むと、一気にこちらに向けて炎を集中させてくる。
「くっ………!」
私は時間を止めて何とか後方まで退避した。……さきほどの攻撃は確実に当たったと思ったのだが、どうやら熱気で空気が歪み、銃撃の命中率が著しく下がっているらしい。……ともなれば、刀で斬りこむくらいしか方法はない。
そう思った時、再び悲鳴があがった。残った3人が、手を挙げたまま黒焦げになっていた。降参しようとして、殺されたのだろう。それを見ながら、相手の男は言った。
「邪魔は消えた……お前が黒玉の連中の中でも強いほうなんだってな」
男が振り向くと、そこには自信にあふれた静かな笑みが浮かんでいた。
「瞬間移動、といっても長い距離は移動できないんだろ? それに俺の炎で空気を歪ませておけばその銃も役立たず。さあどうする?」
「……瞬間移動、ですか。それを誰から聞きました?」
「ふ、誰だっていいだろう」
私はそれを聞いた瞬間、眉をひそめた。私の時間停止能力を瞬間移動と解釈したらしいが、その情報源はどこなのだろうか。他メンバー? いや、ありえない。あるとすれば……などと考えていたが、やはりこの敵は思索の時間を与えるつもりなど毛頭ないようだった。
「さあ、かかってこい」
男はそう言うと、私に向けて再びあの巨大な炎をたたきつけてきた。私は間一髪でそれを避けると、ステルスモードを起動する。ばちばちと体の表面でスパークが弾け、私の姿は消え去った。相手は目に頼って炎を放っている。透明化すれば命中率は下がるだろう。
「……なるほど、なるほど。まんざら馬鹿でもないようだな」
男は余裕の表情でかがみこむと、石畳を削り取った。
「確かに俺の炎は一点に当てるのは簡単だが、相手の姿が目に見えなければあてにくい。だがな」
男の手の中で、削りとられた岩が燃え上がった。その手の中は高温になっているらしく、岩の塊はあっという間に溶岩と化してしまう。
「ただの石でも、俺の武器になる」
(まさか!)
私は相手の意図にようやく気付き、飛び退ろうとした。しかし相手の投擲の方が早かった。
ふつふつと煮え、液体を超えてもはや気体となりつつある溶岩が目の前に迫っていた。
「俺らはもう、15点は取れたよな」
俺たちの立つ交差点には、オニ星人の残骸が散らばっていた。加藤にやられた奴は死体が残らないので、死体の数を数えれば俺の点数が分かる。少なくとも頭の数は15以上あったので、オニ星人が1体につき1点だったとしても、ノルマは達成されているだろう。
「ああ。他のメンバーもよく戦えてるみたいだ」
加藤が見せたレーダーには、光点の数が次々と消滅していく様子が表示されていた。以前の東京チームとは段違いの強さである。
「よし、俺たちも他の援護へ行こう。そしたら一気にケリがつく」
しかし加藤はレーダーを覗き込んだまま、首を振った。
「待ってくれ、計ちゃん。1体でこっちに来る奴がいる」
「1体……ね」
徒党を組まずに単独でやってくる。この行動の仕方は、今回のボスである可能性が高い。
「正面から来るぞ」
加藤が指さした方角の道路から、1人の男がやって来た。短く刈り上げた髪に、切れ長の目。ただ者ではない雰囲気を漂わせている。
俺と加藤が銃を構えると、男は何か気に食わなかったのか、ち、と舌打ちをした。
「俺とサシで殴り合える奴を期待していたんだが……まあ、そうそう好敵手を持てるとは思っちゃいない」
残念そうに呟いたあと、突然その男の肌色が無機質な岩の色へと変わった。肌だけではない。身体も巨大化して3メートルはあろうかという巨躯へと変貌を遂げ、ごつごつとした岩のような姿へと変わった。
加藤は、Yガンをかまえながら、敵を見定めていた。
「見たところ、パワータイプだな」
「ああ。俺たちならいける……」
岩の大男はゆっくりとこちらに近づいてくる。そして、その足が俺たちの攻撃の射程範囲に入った瞬間、俺と加藤はトリガーを引いた。
ぱん、ぱんと岩オニの装甲が弾けた。しかし決定的なダメージを与えたようには見えない。そしてそいつは加藤の撃ちだしたネット弾を打ち払うと、変わらずこちらに向かって歩いてくる。
「ウッ……ソだろ」
そして俺たちの目の前に立ちはだかった岩オニは拳を構えると、目にもとまらぬスピードで拳を繰り出した。まともに一撃を喰らった加藤は大きく後方に吹っ飛ばされると、自動車に背中から落ちた。
「さて……次は」
「てめえだ!」
岩オニが俺に目を向けた瞬間、俺は反射的に刀を抜き、斬りかかっていた。
俺と師匠が周囲にいたオニ星人の最後の1体を消し飛ばしたそのとき、後方で何かがぴかっと光ったような気がした。
「………今、何か後方で光りませんでした?」
「ああ。さっきあの不良どもの行った方だろ……桜井、お前も気づいたか」
「はい。ひょっとして向こうで何かあったんじゃ……」
「でも5人くらいはいただろ。あんまり強くないっつってもスーツは着てるんだぜ? あいつらが瞬殺されるなん……てこと……は………」
坂田師匠の言葉は光った方向を見ると、フェードアウトしてしまった。ポケットに手を突っ込んだサングラスをかけた男がそこに立っていた。
「こいつは……モノが違いそーだな」
俺と師匠が銃を向けると、その男は突然変形を始めた。角が生え、巨大な牙が2本、氷柱のように口から下がっている。筋骨隆々な上半身に、厳めしい顔。その姿はまるで―――
「鬼……」
さっきまで戦っていたのとは格がまるで違う、と直感的に悟った。「鬼」は2人を見て、無造作に開いた手を空にあげる。ぱちぱち、と火花が見えたかと思うと、視界が閃光で満たされた。
エネルギーの奔流が俺を貫き、脳を直接揺さぶられるような衝撃を感じた。
「うあああっ!」
俺と師匠は爆風に吹き飛ばされた。地面になんとか着地したものの、「鬼」は手を掲げたまま、こちらへ歩いてくる。
―――まずい!
「もう一発」
「鬼」がそう言ったかと思うと、再び天災のようなあの雷撃が迸った。
たまらず吹き飛ばされ、地面に叩き落とされる。師匠は俺とは離れた位置に墜落していた。
(やばい、こいつは……別格だ!)
俺がそう思って立ち上がろうとした時、俺の耳に絶望の音が聞こえた。きゅううん、というあの音。スーツの断末魔。そして、どろりとした液が滴って―――
「さて……まずはお前からだ」
頭上から声がした。おそるおそる顔を上げた俺が見たのは、「鬼」の顔だった。
「死ね」
恐怖のあまり身動きのできない俺の頭に、丸太のような腕が振り下ろされた。
全くどうでもいい話ですが、GANTZ作品内での時間ってとらえづらいですね。服装がずっと冬服ですし。玄野はスーツのごまかせない夏服にするときどう対処しようとしてたんだろうなー、と思います。