時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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36、妖の街、大阪

 

 

 

 

「こいつら何や? スーツ着てんねんけど……」

 

 目の前にいるのは私たちと同じく、スーツを着ている者たち。私たちは向かい合いながら、油断なく相手を見据えていた。

 

「何だ、こいつら……」

 

 加藤も相手を睨みつけながら、銃は下ろさない。まだ誰も口にしていないが、相手がチームメンバーの擬態をした星人かもしれないと考えているのだ。

 

 そこへ玄野がひょっこりと出てきた。

 

「お、やっぱ大阪にも俺らと同じようなやつがいるんだなー。加藤、こいつら知り合いか?」

 

 相手方の色黒の男は出てきた玄野を見て、眉をしかめる。

 

「……東京弁、やな」

 

「当たり前だ。ところであんたらと俺って会ったことある?」

 

「……ほんとこいつ何なんや。でもだいたいあんたらが何か分かったわ」

 

 そうか。玄野は記憶が無いので、この異常事態も異常だと思わないのだ。しかし今のでお互いに相手の正体が分かったようで、ある意味同士討ちを回避するという意味では最大の功労者かもしれない。

 

 加藤は銃を下ろすと、彼らの筆頭格らしい坊主頭の男2人に近づいた。

 

「……ひょっとして、あんたたちは大阪のチームか?」

 

「そういうそっちは東京のチームやな。まあなんでここにおるかは知らんが、獲物には手をだすなや」

 

 もちろん同じガンツチームとはいえ協力的とは限らない。彼らもまた点数を稼ごうとしているのだから。

 

 私は、彼らの装備に目をはしらせた。彼らのうち何人かは見たことのない巨大な銃を持っている。あの部屋を隅から隅まで探してもあのような武器は存在しなかった。考えられるのは、100点メニューの一つ、「強力な武器を与えられる」の報酬だろう。

 

(東京チームも全員が2番選んでくれればいいんですがね)

 

 そのとき、悲鳴が大通りから聞こえてきた。それに混じり、不気味な笑い声や魚の腐ったような異臭が漂ってくる。おそらく敵が出現したのだろう。

 

「来た来た来たッ! 行くで!」

 

 大阪のチームはそれを聞きつけ、各々好きな方角へ走り去っていった。連帯感はあまり見受けられず、完全に個人個人で戦うつもりらしい。

 

「で、どうします? 加藤さん」

 

「……様子を見よう。人がいたら、助ける」

 

「それが最善ですね」

 

 加藤の決断は好都合だ。うまくいけば誰かの欠員、得点もないままミッションは終わるだろう。それに難敵が出たとしても大阪チームを当て馬にできる。敵の手を見て対策を講じる時間ができるのである。

 

「俺はごめんだね」

 

 和泉はそう言うと、さっさと別方向へ歩いていく。のそのそとそれに従うようにホイホイもついていった。

 

「和泉はほッとこうぜ。あいつが死んでも俺は一向に構わない」

 

 坂田の提案に加藤はうなずかなかったが、引き留めるのは無駄だと思ったのか、そのまま指示を出す。

 

「とりあえず星人との戦いは最小限に抑えよう。何人かと計ちゃんは高い建物の上に行って戦局を把握してくれ。残りは風、タケシを探しつつ民間人を助ける」

 

「了解!」

 

 一際高い建物めがけて行動を始めたのは鈴木、東郷、玄野の3人である。私は近くにいた稲葉とともに妖怪の反応がある方へ向かった。

 

 辺りを警戒しながら、稲葉はつぶやいた。

 

「今回は星人とあんまり戦わなくてすむんだから楽勝だな。大阪のチームに会った時はびっくりしたが」

 

「どうでしょうね。……そういう時に限って、悪いことは起こるんです」

 

 思えば、大阪のチームと東京のチームが同じ戦場に送り込まれたというのも不可解である。本当に大阪のチームに任せるだけでよいなら、そもそも東京チームを呼ぶ必要はない。

 

 だから、今回は何かある。例えば、最大の強敵が待ち受けているというようなことが。

 

 

 

 

「うえええ……」

 

 見下ろすと、人間の死体が道のあちこちに落ちていた。大阪のメンバーはそれに構わず、得体のしれないバケモノたちを次々と始末している。

 

 俺と鈴木のおっちゃん、そして東郷はすでに近場のビルの屋上へたどり着いていた。

 

「敵は、なんというか、妖怪みたいだね」

 

「妖怪?」

 

「うん。ぬらりひょんって言ってる時点でなんとなくそうだと思ってたけど」

 

 確かに蠢く眼下の敵は、昔何かのテレビでやっていた妖怪特集に出ていた妖怪にそっくりだった。

 

「……ところで東郷くん、今どこまで狙える?」

 

「………」

 

 東郷はかなり遠くの街灯を指さした。何百メートルも離れている。

 

「誰か殺されそうな人がいればその人を私が伝えるから、ここから敵を撃って助けてあげて。私はこっち見てるから玄野くんは向こうを見てきてくれない?」

 

 東郷と俺はうなずいた。つまり、俺とおっちゃんがレーダー代わりに敵を見つければよいのだろう。完全にこの事態を呑みこめてはいないが、安全なところにいることは分かった。

 

「あっ、そこ! 妖怪に襲われてる家族がいる! 撃ってッ!」

 

 おっちゃんに呼ばれて、東郷がでかい銃をそちらに向け、引き金を引く。

 

 途端に3人家族のうち母親の首をちぎろうとしていた妖怪の頭が、粉みじんになった。

 

「よし、次いこう!」

 

 東郷は遠く離れた標的の頭を、寸分たがわず撃ち抜いていった。俺がそれを見て驚嘆していると、ぐにゃり、と視界の隅で何かが曲がったような気がした。

 

「……!」

 

 振り向くが、先ほど風景が曲がったように見えたマンションの上には、何もなかった。

 

「っかしーなあ。見間違いか?」

 

 目をこするが、何も見えない。やはり見間違いだったのだろう。マンションの上に巨大な物の影が見えたような気がしたのは。

 

 

 

 

 

 

「……やっ……べえっ!」

 

 俺はすんでのところで大猿の右拳をかわした。烏帽子をかぶり、背中に人間が埋まっているバケモノで、大きさのわりには素早い。

 

 衝撃で転んだ俺めがけて、巨大な左手が降ってくる。これは回避できない。

 

「桜井っ! 頼む!」

 

「分かりました!」

 

 その瞬間、ぴたり、と大猿の動きが止まった。桜井の念力だ。俺はその隙を逃さず、相手の頭に向けてトリガーを引いた。

 

 Yガンによって頭だけ空へ転送された大猿の身体から力が抜け、横倒しになった。怪物の死体を飛び越えて、坂田がやってくる。

 

「やったな。次やる機会があったら俺か桜井に譲ってくれ」

 

「分かった。家族は?」

 

「無事だ」

 

 見ると、子どもは大泣きしているものの、その祖父、祖母は無事だった。

 

「よし、次行こう」

 

「……ところで大阪の奴らの戦いを見たか? あいつら無茶苦茶だぜ」

 

「ああ、知ってる」

 

 街の人間の被害などお構いなしにひたすら敵を殺すことに熱中している。中にはヤクを使っている奴もいて、とてもではないがまともな連中だとは言えないだろう。

 

「……まあ、戦いはあいつらがやりたいらしいからな。俺たちはできるかぎり俺たち自身と街の人間の被害を減らそうぜ。ちょっとは点数とらないと解放されねーしな」

 

「だな。行こう」

 

 そう言って全員で走り出そうとしたとき、俺は背後から呼び止められた。

 

「あんたら強いなー。東京の人か?」

 

 振り向くと、そこにいたのは先ほどの大阪チームにいた女だった。

 

「うち、山崎杏っていうんや。あんたは?」

 

「……加藤勝だ」

 

 何の用だろうか。杏はしきりに俺を見ている。

 

「あんた何やっとったん? あ、そこの奴を倒したことやないよ。さっきから人を襲っとるヤツしか倒してへんけど」

 

「……俺たちは、人を助けてる」

 

「ははは、嘘やろ。本当はガンガン獲物を殺したいけどさっきジョージに釘さされたから人を助ける言うてバケモン殺しとんやろ?」

 

「ジョージ?」

 

「さっきのめっちゃ日焼けしとったの。ジョージ言われてる。本名は島木。3回クリアしてんで」

 

「3回……クリア?」

 

「そ。あんたは何回クリアや?」

 

「一度もない」

 

「うっそ、ホンマ? そんな強いのに? うちのチーム1回以上クリアしたヤツ8人はおるで。岡とかもう7回クリアや」

 

 頭はおかしいが、やはり大阪チームはかなりの強者ぞろいらしい。

 

「……じゃあだいたいの敵はそいつらに任せればいいか。俺は街の人たちを助けに行く」

 

 そう言うと、再び杏はぷっと噴き出した。

 

「だからもうええって。タテマエばっか並べて、あんたほんとギゼンシャやなー」

 

「………」

 

 俺は黙って走り出した。大阪チームは、その強さと引き換えに何か大事なものを失っている。そんな気がした。

 

「あっ、どこ行くねん。ちょっと待ってや」

 

(……しかし、何でついてくるんだ?)

 

 

 

 

 

 

 網切り、という妖怪だっただろうか。蛇のような体にハサミつきの腕が生え、鳥のようなくちばしをもつ怪物。それがまさに目の前にいた。

 

 俺の目の前では、ハッパをキメていた大阪チームのメンバーがなますにされ、盛大に地面に臓物をぶちまけている。スーツは効かないようだ。

 

「ホイホイ、下がってろ……」

 

 俺は刀を持って構えると、網切りもそれに気づいたようで、猛烈な勢いで襲いかかってくる。

 

 迫りくるハサミを紙一重のところでよけ、そのまま懐に突っ込むと、弱そうな左腕の根元に斬りこむ。ごと、と鈍い音とともに切断された左腕が落ちた。

 

 すると甲高い悲鳴をあげながら、網切りは怒り狂ったように右腕を振り回しはじめる。

 

「ちいっ!」

 

 俺は腕のない左側から通り抜けると、胴体を一閃する。ぴたりと網切りの動きが止んだかと思うと、そのまま分離して地面に落下し、動かなくなった。

 

 念のために頭をXガンで撃ってとどめを刺したとき、こちらにやってくる男たちがいることに今更ながら気づいた。

 

「おいおいおい、何横取りしてんねん。ここは俺らの狩場やぞ。なあノブヤン」

 

 半裸スーツの男がいうと、隣のノブヤンと言われた男はじろりと俺を見た。

 

「さっき言うたはずやけど。ここは俺らの縄張りやって」

 

「知るか。俺は俺でやらせてもらう」

 

「………まあええやろ。どうせその辺で殺されるのがオチや。後ろのババアにも気づいてへんのやろ」

 

 殺気。俺が後ろを向いて目に入ったのは、体のあちこちから蛇が生えた巨大な老婆だった。俺が迎え撃つよりも早く、無数の蛇が俺に向かって殺到してくる。

 

 やむなく跳躍して回避すると、その瞬間、老婆はひしゃげた肉塊へと変わっていた。

 

「⁉」

 

 俺が着地するときにはすでに、道路が丸くへこみ、その中は死んだ妖怪の血液で満たされていた。

 

ちらりと見ると、男たちは、見たことのない巨大な銃を構えていた。

 

なんだ、あの武器は。俺が驚いていると、男たちはそれに呆れたようだった。

 

「なんや100点武器も知らんのかいな。そんな奴が戦ったって無理やろ」

 

 男たちはもはや俺に興味を失ったらしく、そのまま歩き去ってしまった。

 

「……くそっ」

 

 やはり、あの銃を手に入れなければならない。Xガンや伸ばしていない刀では倒せる敵に限りがある。今回で百点をとるか、死んだ大阪メンバーからもらうしか手は無いだろう。

 

 俺は新たな得物と獲物を求め、歩き出した。

 

 

 

 

 私と稲葉は走りながら、レーダーに反応のある方角へと向かっていた。あたりは死臭と妖怪たちの腐臭に包まれ、道路もあちらこちらに死体が転がっている。

 

「……この辺りの妖怪たちは大阪の方々が一掃したのでしょう。ミートソースみたいですね」

 

「やめろ。パスタが食えなくなる」

 

 稲葉は顔をしかめながら答えた。

 

「そこの角を曲がった向こうに2体孤立してる妖怪がいる。そいつらを倒そう」

 

「分かりました」

 

 大阪チームは点数を優先しているため倒せる敵が多い方へ向かっている。私たちが敵の少ない方で戦えば大阪チームとの摩擦はあまりないだろう。

 

 もちろん、敵が孤立して行動している場合はその個体が強いという可能性もあるため、安全な戦い方だとは言えないが。孤立している敵を攻撃してみるとそれがボスだった、ということもありうる。

 

「いたぞ」

 

 そこにいたのは、2人組の男だった。異様なのは、彼らの顔面が小面と般若であること。面を被っているわけではなく、それが素顔なのである。そのうちの般若がこちらに気付き、すらりと刀を抜いた。

 

「ふむ……キデンらは、人間だな」

 

「………ふふふ、バカバカバカ……」

 

 刀使いか。私もそれに応じ、刀を構える。稲葉も銃を構え、引き金を引いた。が、小面と般若はとっさに飛びのくと、こちらへ駆けてくる。稲葉は連射しているが、まるでどこに当たるかを読んでいるかのように回避してのける。

 

「なんだあいつらっ! 銃撃かわしてるぞ!」

 

「下がってください!」

 

 おそらく彼らは銃口から攻撃される場所を読み、回避している。普通に撃っても当たるまい。私も負けじと斬りこみ、小面めがけて大上段に刀を振り下ろす。

 

 ぱっ、と小面の長髪が切れた。

 

 外したーそう思ったとき、ぴっ、と右腕のスーツに切れ込みが入り、たらりと血が流れた。

 

(相手の斬撃……スーツが効かないのね)

 

 しかもまずいことに、まだ般若がいる。後ろから風圧を感じ、私は時間を止めた。そのまま振り返ると、私の後頭部のわずか3センチのところで刀は静止していた。

 

(……危なかった)

 

 私は斬撃の軌道から抜け出して、反撃の一撃を叩きこもうとする。

 

「……おおっ⁉」

 

 般若は超人的なスピードで身を低くし、斬撃を避けた。続いて次の一撃を見舞おうと思ったが、視界のはしで動いている小面の動きを警戒し、私は後方へ下がった。

 

「……強いな。時間停止使ったらどうだ」

 

「もう使ってます。が、使いどころの見極めが大変ですね」

 

 相手が一人ずつであれば時間を止めた後斬り殺すなり撃ち殺すなりはできる。しかし相手は2人組。1人を殺すのに集中すれば、必ず背中を斬られる。私が彼らを倒すには、ひと呼吸のうちに2人を斬らなくてはならない。

 

「案はあります。……で、あの刀使いたちの点数はいただいても構いませんか?」

 

「俺は点数より自分の命の方が大切なんでな」

 

「……その通りですね」

 

 私はふっと苦笑しながら、般若と小面へ向かっていった。

 

 

 




GANTZの敵の中で、般若と小面はお気に入りのキャラです。指一本宣言のあたりとか、キモ格好いい達人て感じでしたね。
ちなみに本場の大阪弁は分からないので多少違っていても堪忍してください。
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