時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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37、ぬらりひょん

 

 

 

 

 小面の刃が、私の眼のわずか数ミリ前を通過していった。

 

「ーッ!」

 

 危ういところで回避すると、その瞬間に般若の斬撃に刀をわりこませ、ガードする。続く小面の追撃を時間を止めてかわすと、カウンターを叩きこむ。

 

「……おっと、コワいコワい!」

 

 しかし攻撃が当たる寸前に時間停止が解け、小面は笑いながら身をかわした。

 

(せめてあと1秒長く時間を止められればよかったのだけれど)

 

 時間を止めているのに1秒というのはおかしいが、とにかく回避と攻撃を効果時間内にしようとすると、どうしても攻撃の瞬間に時間が動き出す。私は稲葉のもとにこの2人が行かないよう牽制しながら戦わなければならないし、そのうえ相手の方が剣術の腕に覚えがあるようだ。

 

「……だけど、それなら剣術で張り合わなければいい」

 

 相手の有利な土俵で戦うのは、戦闘狂、あるいは馬鹿のやることである。こちらは相手につきあう必要などないのだ。

 

 私はふたたび時を止めると、攻撃するーのではなく、ポケットのレーダーを取り出した。

 

「時は再び動き出す」

 

「何だ⁉ 姿が……」

 

 私の刀を受けようとした小面は、私の身体にスパークが走り、不可視化したのに驚いたようだった。

 

 身を沈め、大ぶりの横薙ぎをよけるとそのまま垂直に斬り上げる。

 

 ぱっ、と小面の顔が真っ二つに割れた。

 

「カアアアァッ!」

 

 背後で裂帛の気合とともに般若が跳躍する気配がした。おそらく見当をつけて斬りかかってくるのだろう。だが、来る方角はわかっている。私は一度だけ防御できれば問題ない。

 

 般若の一撃と、私の振り向きざまに放った刀が激突した。

 

 私は吹き飛ばされそうになりながらもなんとか耐えた。般若は続く一撃をみまわんと刀を引くが、その瞬間、ぴたりと動きを止め、凍りついた。

 

「チェックメイト」

 

 一閃。

 

 時間が動き始めた時、般若の首はその胴体から別れを告げ、地面に落下していた。

 

「ふう……」

 

 なかなか神経をけずる戦いだったが、後から考えてみれば最初から透明化を使って斬りこむか銃撃する、もしくは3、4人でかわしきれないほどに乱射するかで倒せていた相手である。この苦戦は考えなしに突っ込んだ私の自業自得だろう。

 

「……全部任せてすまなかったな」

 

「いえ。あれだけ近距離であれば稲葉さんの誤射を受けるかもしれませんし。仕方ないでしょう」

 

「それならいいんだが」

 

「で、次行くところはどこにしますか」

 

「そうだな、えーと……」

 

 稲葉がレーダーに目を落としたとき、大男と男の子が通りの向こうから歩いてくるのが見えた。

 

「あ、あれ風さんとタケシさんじゃないですか」

 

「ん? ……ああ、本当だ」

 

 向こうもこちらに気が付いたらしく、小走りでやってきた。タケシのスーツが壊れている事、風も少し疲れているようで、敵と戦っていたらしいということが分かった。

 

「無事でしたか。……あの、タケシさんのスーツは」

 

「ちょっとデカいやつがおったから。まあ俺が倒したけん心配せんでいい」

 

「そうですか。まあとにかく風さんたちとも合流できましたし、あとは適当に少数の敵を倒していきましょう」

 

「……ちょっと待て」

 

 制止したのは稲葉だった。

 

「そのガキはスーツが壊れてる。玄野たちと一緒のところに避難させる方がよくねーか?」

 

「しかし玄野さんたちの居場所が分かりませんし、手間がかかります。私たちと一緒に居た方がむしろ安全でしょう」

 

 レーダーの反応によると、大阪チームはほぼ辺りの妖怪を掃討し終わったようだ。だが、いつまでも残っている点が複数個ある。

 

「………ひょっとして、大阪のヤツら負けてんじゃねーだろうな」

 

 稲葉はやれやれとばかりにつぶやく。確かに可能性としてはある。あまり逃げ回るようなそぶりを見せず、消えない反応は、実力のある証拠である。

 

「とりあえず、戦うかどうかは見て決めるとして、まずはそこへ向かいましょう」

 

 

 

 

「どーやら俺たちの周りの敵は倒し終わったみてーだな」

 

「どうする? 残ってる敵のとこ行くか?」

 

「……まあ、大阪チームの実力を見とくのもアリじゃないっすか?」

 

「ねえ、えーと、カトウ、だっけ? 連絡先教えてくれや」

 

 俺と坂田、桜井が相談しながら走っていると、杏はそんなことを言いながらついてきていた。

 

「加藤……ひょっとしてあの女、お前に気があるんじゃねーの?」 

 

「まあ多少危ないときは助けたが……俺を偽善者ッて言ってる奴だぞ」

 

「素直じゃないってことじゃないすか」

 

 桜井は冗談めかしてそう言った。まあそういうことはきちんと話さなければ分からないし、今そんなことをする暇があれば、一点でも多く点を取って解放につなげたいー

 

 そのとき、世界が揺れたかのような衝撃がはしった。たまらず体勢を崩し、足がもつれる。

 

「ウワァッ! なんだこりゃ!」

 

 みると、ビルの影から巨大な影がのそりと現れた。胴体はまるで巨大な蜘蛛のようだが、頭はまぎれもない牛の頭である。

 

「……これを倒せって?」

 

 杏も含め、皆がぽかんと口を開けた。あんな図体のバケモノを相手にできるわけがない。

 

「……加藤くん、坂田さん!」

 

 それから逃げるように、レイカが走ってきた。顔には恐怖の表情が貼りついており、顔は死人のように青ざめている。

 

「確かにあれの近くにいたらヤバいよな。やっぱボスはぬらりひょんっていうのじゃなくてこっちが本命……」

 

「違うわ」

 

 坂田の台詞を遮って、レイカは首を振った。

 

「もっと恐ろしいのが……ボスを狙ってた大阪チームの一人がやられたの。色が黒い人だった……多分、ぬらりひょんっていう敵に」

 

「まああんだけ無茶してたやつらだし、弱かったんじゃないすか」

 

「なわけないやろ! 色黒ってジョージやろ。やられたってホンマか⁉ノブヤンと桑原は?」

 

 杏が驚いたように言うと、レイカはけげんな顔をして杏を見る。

 

「……大阪チームの人だ。それで、えーと、坊主頭と半裸の男がいると思うが、そいつらはどうなった?」

 

「さっきまで頑張ってたと思うけど………」

 

 そのとき、地響きのような音が、だんだん近づいてきた。さっきの牛鬼かと身構えたが、まだ遠くにいる。何だろうと思っていると、橋の向こうから駆けてくる二つの影と、それを追う異形の姿があった。

 

「ほんとしつこいで、こいつ!」

 

 どうやら追われている二人は、大阪チームの精鋭、桑原と室谷のようだった。そして地響きの正体は、手にもっている巨大な銃の攻撃らしい。後ろから迫る異形は銃撃を受けるたびに押し潰れるが、すぐに何事も無かったかのように再生している。

 

 しかし追手の悪魔のような姿の異形は歩いているため、二人はそれに捕まる前にこちらへやってきた。

 

「おい! あいつは何だ⁉」

 

 俺が訊くと、室谷はちっと舌打ちをして、「あれが今回のボスや」と言った。

 

「撃っても刀でも通用せえへん。組み付きも駄目や」

 

 お手上げとばかりに桑原が肩をすくめる。

 

「捕獲は試したか?」

 

 すると桑原は目を丸くした。

 

「いいや。てかあんたその銃持ってんのな。珍しいわ」

 

「……とりあえず試してみる」

 

「ほどほどにしとき。アイツ見えん攻撃撃ってくるからな。無理だと思ったら岡に任せときゃええんよ」

 

 桑原は戦うつもりはないらしく、室谷もスーツが壊れている。「見えない攻撃」がどのくらいの距離まで届くのかは分からないが、やってみる価値はある。

 

 まずは確実に当たるようロックオンする。

 

 俺は背後でメンバーが撤退していく気配を感じながら、まっすぐぬらりひょんに向けて上の引き金を引く。ゆっくり、ゆっくりと待つ。射程距離に入るまで。

 

 今だ。そう思った瞬間、俺の体が震えた。バッ、ババッ、と、衝撃波を受けているようだ。これが、見えない攻撃。俺は直感的に危険を察知し、飛びのきながら下の引き金を引いた。

 

 ぬらりひょんは避けもせず、ネットに縛られ固定された。

 

「や、やった……?」

 

 その時、俺のスーツからどろりと液体が流れ出した。やはり今の攻撃はすさまじい威力があったらしい。数秒間さらされただけなのに、スーツが壊れてしまうほど。

 

 とはいえ、捕まえてしまえば「上」へ送るだけである。俺は安堵して引き金を引こうとしたーが、その瞬間、ぬらりひょんを固定していたロープがずたずたになって地面に落ちた。

 

(そりゃそうか。スーツ壊すんだからな)

 

 俺は回れ右をして、撤退を始めた。他の手段も思いつくが、おおかた大阪チームが試しているだろう。咲夜か和泉、東郷ならあるいは撃破可能かもしれないが……。

 

 ふと、俺は千手観音との戦いを思い出した。ぬらりひょんの再生能力はどこか千手観音を思わせる。ひょっとすると、ぬらりひょんの再生能力にも何かルールがあるかもしれない。

 

 千手観音のときは道具を破壊した。ぬらりひょんも何か弱点があるのではないか。

 

 

 

 

 この大きい銃ー加藤はX、Yガンと命名していたから仮にZガンとでも言おうかーを、大阪チームのサングラスをかけた3人組の死体から回収できたのはラッキーだった。ちなみに、3つ全てを持ち帰るため、ホイホイの体に残る2人が持っていたZガンをロープで結び付けてある。

 

 だが、そのZガンをもってしても、この巨大な牛のバケモノを倒すのは難しそうだ。

 

 俺はビルの上を飛び移り、駆け回りながら、牛鬼めがけて乱射する。撃った地点にすさまじい重力がはたらくのか、まともに食らえば、一撃でぺしゃんこだ。もちろんとんでもないサイズの牛鬼を倒すには一撃とはいかず、何度も撃ち込まなければならないようだが。

 

 5度目の銃撃で牛鬼はいななくと、辺りを闇雲に攻撃してきた。コンクリートやガラスの破片が舞い、俺のすぐそばを肉厚の拳が通過する。

 

「くそっ……適当に撃っても駄目だ。狙うなら、頭か」

 

 もちろん、ここから狙っても距離が遠くて頭にはとても届かないだろう。しかしスーツのパワーで跳躍すれば、その間に頭を狙える射程に入る。

 

 俺は次のビルに飛び移った直後、牛鬼の方へ飛んだ。

 

 すさまじい風が顔に吹き付ける。そしてぐんぐんと迫ってくる牛の頭に向けてー思い切りトリガーを引いた。

 

 どんっ、という音とともに、牛鬼の頭だった部分は、ひしゃげた肉塊へと変化した。

 

ーよし。

 

 やはり大阪の奴らが強い理由は、このZガンのせいだろう。Zガンさえあれば俺の戦力は奴らに勝るとも劣らない。

 

 かすかな高揚感に包まれながら、俺は着地した。おそらくこの牛鬼がボス。あとは残党を狩っていけば問題はない。簡単だ。

 

 そう思ったとき、たたたっ、とこちらへ向かってくる足音がして、俺はZガンを構えた。

 

「ああ、和泉さんが倒したんですか」

 

 やって来たのは十六夜と稲葉だった。稲葉は俺のZガンを見て、妙な顔をした。

 

「それ大阪チームが持ってたヤツだろ。どうしてお前が持ってんだ?」

 

「死人に武器はいらないだろ。なかなか使える」

 

 咲夜はふむ、と言ってから、レーダーに目を落とした。

 

「残った敵はあと1体……それが今回のボスでしょう」

 

「俺は今倒したヤツがボスじゃないかと睨んでるが」

 

 実際、標準装備であの牛鬼を倒すのは至難の業で、飛び回るアイテムでもなければ頭を直接狙うことも骨が折れたはずだ。ボスと言って差し支えないのではないか。

 

 咲夜は牛鬼の死体に目をやりながら、首を捻っていた。

 

「どうでしょう……大きいからボス、というのもあると思いますが、必ずしもそうだとは限りません。以前そのタイプの敵を見たことがあります」

 

 十六夜は、珍しく不安そうな顔をしていた。そういえば他のメンバーの会話で、十六夜が「千手観音」という敵との戦いで重傷を負ったという話を聞いたことがある。それで似たような形の戦いでは警戒心が強くなっているのかもしれない。

 

「どちらにせよ、行くしかないだろ。どうせ他のメンバーも集まってるだろうし、戦うのが一番だ」

 

俺はやれる。確かにまだ油断するには早いが、この武器さえあれば問題はないだろう。俺は思わず、片頬に笑みを浮かべた。

 

 

 




大阪編は巻かないとつらい……犬神・天狗も書きたかったんですが、たいして本編と変わらない戦闘描写にしかならなそうなのでカットしました。

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