時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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 知らない人は多分いないと思いますが、一応説明

Xガン 敵を内部から破裂させる銃。レントゲン機能付き。

Yガン 敵を捕縛してどこかへ転送する銃。相手を傷つけず、やさしく緊縛。

スーツ 身体能力の向上、身体の耐久性の上昇などの効果のある便利グッズ。難点は体にぴったりするサイズなので着るためには一度全裸にならなくてはいけないこと。


3、酸鼻の死闘

 

 

 

「もういい、こいつ撃て!」

 

 先行組はねぎ星人と真正面から向かい合うやくざの指示で、例の銃を構える。が、その瞬間、ねぎ星人は俊敏な動きでやくざの頭をわしづかみにし、長く鋭そうな爪をむき出しにした。

 

 やくざの顔の、爪の当てられている部分から、血がつうっと流れ落ちる。

 

「ま、待てっ! 撃つな!」

 

 一瞬で言ったことを変えたやくざは「悪かった、悪かった!」とねぎ星人に謝る。しかしねぎ星人は訳の分からない言語で、やくざを怒鳴りつけた。加藤は目をねぎ星人に釘付けにされたまま、訊いてくる。

 

「ど、どうする……?」

 

「何もできません。私銃持ってませんし。あなた撃ちます?」

 

「……いや、いい。誤射するかもしれない」

 

 加藤はそう言うが、単にねぎ星人を撃ちたくないだけではないだろうか。優しさは美徳だが、戦闘中は致命的な弱点でしかない。まだ、性格だけで言えばあのやくざたちの方が加藤よりも戦いには向いているかもしれない。

 

 私と加藤がねぎ星人とそれを取り巻く先行組を見守っていると、そのうちのヤンキーが銃をねぎ星人に向け、引き金を引く。

 

「……しっ、死っね!」

 

 それを見たねぎ星人は掴んでいるやくざを振り回して銃口を向けたヤンキーとの間に割り込ませ、楯にした。

 

ぎょーん。

 

 辺りが静まり返った。ヤンキーはやくざを撃ってしまい、青ざめている。もしさっきのような運命をやくざが辿るとすれば……数秒後にはあのねぎ星人のようになってしまう—

 

「俺には効かねえ! 俺は生き残る!」

 

 やくざが叫ぶ。が、次の瞬間、やくざの胴体がはじけ飛び、辺りに臓物をまき散らす。残ったやくざの上半身はだらりと両手を下げ、止めを刺されるようにねぎ星人に頭部を握りつぶされ、完全に死んだ。

 

「うっ、うっ、うわあーっ!」

 

 ヤンキーともう1人のやくざ、山田が一斉に乱射し始める。

 

「危なっ!」

 

 私の顔の数センチ左にあった壁が粉々になる。3人とも理性が吹き飛び、ねぎ星人を殺そうとただひたすら引き金を引いているのだ。もちろんめたらやったらに撃って当たるはずもなく、ねぎ星人はそれを躱しながら、やくざの右手をもぎ取り、ヤンキーの腹を消し飛ばし、山田の両手をねじり切る。

 

 どちゃり、と最後に山田が倒れ、先行組は全滅した。血の海を見てねぎ星人は少し黙っていたが、やがてこちらに顔を向けた。

 

「加藤さん、銃!」

 

 だが、加藤はただそこに突っ立っているだけで銃を構えようともしない。殺されそうなのが分かっていないのか、と睨みつけるが、呆然としていてとても話が通じそうにない。

 

 そうこうしているうちに、ねぎ星人があの巨腕を振りかぶり、突進してきていた。

 

(仕方ない……あんまり乱用するのはどうかと思うけど)

 

 ぱちんと私が指を鳴らすと、ねぎ星人の動きが止まる。街灯の瞬きも、空の烏も、近くでぴくぴくと痙攣していた、もぎ取られた腕も何もかもが動きを止めた。

 

 私は加藤を突き飛ばし、ねぎ星人の突進ルートから退避させる。続いて私も避けておこう、と歩き始めようとした瞬間、ねぎ星人が再び猛烈な勢いで迫って来ていた。

 

—しまった! 時間停止に制限があったんだった!

 

 私は余裕をこいて加藤を助けるのではなく、自分だけで逃げていればよかったのだ。いつもはいくらでも時間を止めていられるのでのんびり行動しても問題は無いが、数秒はあまりにも短すぎる。

 

「さ、咲夜さんッ!」

 

 突き飛ばされて我に返ったらしい加藤が叫び声をあげる。その瞬間、ねぎ星人は私の胴体を捉え、軽々と吹き飛ばしていた。

 

「ぐっ!」

 

思ったよりも相当腕力があったらしく、私はそのまま石壁を越え、誰かの家の庭に墜落した。

 

 

 

 

 

 

「な、なんだアレ……」

 

 俺は隣にいるこの子を家に帰そうとして、あの帰ろうとしていた老人が道で倒れているのを見た。頭が破裂して、脳みそが飛び散っていて心底グロかった。変な音はなってるし、よくわからない死体はあるわで、俺とこの子は引き返してきたのだが—

 

 道が血の海になっている。

 

「う、嘘だろ……?」

 

 最初に行っていたやくざや山田、ヤンキーが転がっていて、ぴくりとも動かない。皆、死んだのか? どっきり?

 

 俺は早くなる動悸を抑えながら、その中にぽつんと一人だけ立っている巨大なバケモノを見つけた。

 

 まさか、皆あいつに殺されたのか? さっき一緒に行くと言っていた、加藤や、咲夜も……。もしかして、残ってるのって俺とこの子だけ?

 

……とにかく、ヤバい。こいつからはやばい感じがする! 今なら奴はこっちに気付いてないし、逃げられる……。

 

 俺と彼女はそろり、そろりと後ずさった。……が、向こうでそいつが体の向きを変え、こっちを見た。

 

「やばい、気づかれた!」

 

 怪物がこちらに向かって走ってくるのが見える。すさまじいスピードで、距離がどんどん詰まっていく。

 

「わああああっ!」

 

 俺は、何年振りかの全力疾走で追ってくる怪物から逃げる。何だ。何だアレ……! ひたすら逃げて、逃げて、逃げまくった後、俺は傍にあの子がいないのに気が付いた。

 

(あ、あれ? あの子は?)

 

 振り返るが、どこにも姿はない。走るのに無我夢中で、どこではぐれたか分からなかった。

 

「まさか……見捨てて……!」

 

 引き返そうとした時、あの怪物が向こうの角から曲がってくるのが見えた。

 

「げ!」

 

 追ってきてる! まずいまずいまずい!

 

 俺は必死こいて逃げながら、泣きたくなってきた。

 

(どーなってんだ、ここ……地獄? ……はは、死んでんだ俺。家にも帰れないんだ)

 

 ……まあいいか。俺が死んでも悲しむ奴なんてこの世にいねーしな。

 

 その時、俺の脳裏に加藤の顔が映った。

 

 でも、加藤なら泣いてくれるような気がするんだよなあ……。あいつ、死んじまったのかなあ……。

 

『俺、何とか計ちゃんに近づこーって頑張ってるんだよね』

 

 加藤の声が蘇る。なんだ。俺なんかお前より全然頼りない、ただのガキ……そんな奴に、お前がどーして……。

 

 そこで俺ははっとした。

 

……いや、あの頃の俺は、今とは違った。

 

 はっ、はっ、と荒い息をつきながら、俺は数十メートル向こうに、長い降り階段があるのを見つけた。

 

—そうだ、小学校の頃も、あんな階段を、上から下まで飛んでたっけ—

 

「ッ!」

 

 後ろを見ると、目と鼻の先まで怪物が来ていた。殺意を充満させた顔が、もう1メートルも無い場所にある。

 

「くそ! 階段っ、跳んでやる! あン時みたいに!」

 

 

 

 

「……玄野さん?」

 

 私は、玄野とねぎ星人が目の前を駆け抜けるのを見て、驚いていた。先ほど落ち込んだ庭の中から出て、加藤か玄野を探していた矢先だったからだ。

 

 何故か、あの先行組をばらばらにしたねぎ星人の攻撃は、少し鈍い痛みを覚える程度ですんでいた。まさか、このスーツのおかげなのだろうか。よくわからないが、ひょっとするとねぎ星人は意外ときちんと戦えば簡単に勝てる相手なのかもしれない。加藤も、まだ死体として転がっているのは見ていないし、何とか逃げ延びることができたのだろう。

 

 がちゃり、と私はあの死体の山から回収してきた銃を両手で持つ。これも、当たればあのねぎ星人を殺せるのではないか。

 

 私は脇道から飛び出して、玄野とねぎ星人を追う。幸いねぎ星人は玄野を追いかけるのに夢中で、背後から追いかけている私に気付いていない。

 

—チャンスだ。

 

 そう思って私が銃を構えた瞬間、向こうから玄野の叫びが聞こえてきた。

 

「階段っ、跳んでやるうう!」

 

 どうやら下へ降りる階段を飛び降りるつもりらしい。しかし、跳躍の寸前は動きが一瞬だけ止まる。その瞬間を狙われて殺されるのではないか—

 

 見れば、ねぎ星人はもう玄野に追いつき、鋭利な刀のような爪を振りかざし、今まさに玄野に叩きつけようとしている瞬間だった。

 

「もう、世話焼かせるわね!」

 

 走りながら、時間を止める。この一回で決めなければ、玄野もあのやくざたちと同じ運命を辿るだろう。殺せなくてもいい。当てさえすれば—

 

 私はねぎ星人の背中めがけて、引き金を何度か引く。

 

「そして時は動き出す」

 

 時間停止が解除された瞬間、ねぎ星人の肩が破裂した。そして玄野は跳躍に成功し、見えなくなる。ねぎ星人も撃たれた衝撃でバランスを崩し、下へと転がり落ちていく。

 

(命中しさえすれば、勝てるわね)

 

 時間を止めている間にねぎ星人の頭部を撃ってしまえば簡単に勝てる。もしものことがあっても、スーツさえあれば多分大丈夫だ。負ける要素はない。

 

私は、玄野とねぎ星人が落ちて行った階段の下を見下ろす。血まみれの加藤が横たわり、玄野があのねぎ星人と殴り合っているのが見えた。

 

「……何?」

 

 玄野とねぎ星人の距離が近すぎ、銃では狙えない。流石に彼ごとねぎ星人を殺そうとするほど切羽詰まっているわけではないのでひとまず状況を推測しながら階段を駆け下りる。

 

 血まみれの加藤は、おそらく玄野を追っていたねぎ星人にやられたか、それともさっき私と別れたところですでに重傷を負っていたかのどちらかだろう。切れているのは動脈が走っている左手である。心臓に近く血の吹き出る勢いが静脈とは比べ物にならないので、右手が切れるよりも危険な状態である。おそらく彼は助からない。

 

そして玄野。こちらが特に問題である。彼はおよそ筋骨隆々といった体躯でもなかったはずなのに、互角かそれ以上にねぎ星人と渡り合っている。あの力の源は、一体何なのだろうか。

 

「らあっ!」

 

 やがて玄野がねぎ星人を殴り続ける、一方的な展開になった。私が丁度降りてきた時に、瀕死の加藤が何か言ったのか、玄野はねぎ星人を殴るのをやめ、加藤に駆け寄る。

 

「加藤っ! おい!」

 

 玄野が必死に加藤を揺さぶる。そしてはたと降りてきた私に気付き、

 

「おい、加藤を助けてくれ!」

 

「……そんなの無理ですよ。その人はもう助けられません」

 

 私だって必要でない人間の死を見るのは好きではない。しかし、手の施しようが無いのだ。もうどうしようも……。

 

 その時だった。 ぷしゅっ、と何か空気の抜けるような音がしてねぎ星人にワイヤーが絡みついたのは。

 

「……何だ?」

 

 玄野が呟く。私はまた新しいねぎ星人の新手か、と身構えたが、ワイヤーの放たれた方向から、ばちばちとスパークをさせながら現れたのは敵ではなく、人間だった。

 

「……西! お前、これまで一体どこに……」

 

「近くにいたよ。ずっと……」

 

 要するに、彼は私たちの近くで姿を消して高みの見物を決め込んでいたというわけだ。先行組が全滅する際も、玄野が追われている時も、虎視眈々と星人を楽に殺すチャンスを狙って。

 西は捕縛されたねぎ星人を玄野と私に指で示し、言う。

 

「点数はあんたらのどっちかにやるよ。おい、その外人のほうのあんた。持ってる銃でコイツ撃ってみろよ」

 

「撃つって、これでですか? そしたらこのねぎ星人、死にますよね」

 

「そうだよ。見たいでしょ、こいつの死ぬとこ」

 

「……別に」

 

 答えると、西はにやりと笑って、

 

「……あんた、僕と同類でしょ。死体写真とか見るのが好きじゃない? あの時、あんたはあのやくざどもの死体から顔色1つ変えずにその銃を拾ってたじゃないか。あんたも、本物を見たいんじゃないか……?」

 

「……いいえ、そんな趣味は無いわ。それに、あなたなんかと同類とは思われたくないし……遠慮しとくわ」

 

 私は職務上お嬢様に料理を出すため、人体を解体することは何度もあったが、それはあくまで仕事であり、楽しいと思ったことは1度も無い。言うなれば洗濯や掃除のような日常生活の一部であり、趣味ではない。

 

「ちっ、腰抜けめ……あんたは?」

 

 西は玄野にも問うが、玄野も「ざけんな」と一蹴した。

 西は面白くなさそうにふんと鼻を鳴らしてから、ねぎ星人に引き金を引く。

 

「せっかく点ゆずってやろうと思ったのに……まァいいや」

 

 すると、私ややくざたちの持っていた銃のように爆発はせず、空から降ってきたレーザーがねぎ星人の頭に当たり、だんだん消えていく。それは殺しているというよりもむしろ、私たちが転送されるのと同じように、どこかへ運ばれているようだった。

 玄野は不思議に思ったのか、西に訊く。

 

「おい、それなんだ?」

 

「これ? これは星人をどっかに送る用の銃。そこの銀髪が持ってんのがぶっ殺す用の銃だ」

 

「送ったって……お前、全部知ってんのか?」

 

「まあ、全部は知らないけど、お前よりはね」

 

 玄野は、西に詰め寄る。

 

「これから、どうなるか教えてくれ」

 

「部屋に戻って、それからは自由……そうそう、いろいろ心配してたみたいだけど、俺たちはちゃんと生きてるよ。それに帰れる」

 

「生きてるし、帰れる……!」

 

 玄野は呟いて、はっとしたように倒れ伏す加藤を見る。

 

「おいっ! こいつを生き返らせることは出来ないのか!?」

 

「無理だね。生きてりゃ胴体千切れてても部屋には戻れるけど……死んだらもうそれっきり」

 

 それを聞いた玄野は、加藤を揺さぶり、「おい、起きろ!」と呼びかける。しかし加藤はぐらぐらと揺れるばかりで、一向に意識は戻りそうにない。

 

「ん、お先……」

 

 西はそんな玄野の様子も意に介さず、転送されていった。続いて、玄野も転送され始める。

 

「加藤! 加藤! おい、起きろ!」

 

 口が転送されて静かになっても残っている玄野の体は加藤を揺さぶり続ける。玄野が完全に転送されてしまうと、加藤の体は全く動かなくなってしまった。

 

「………」

 

 目でも閉じてやるべきだろうか。私は転送されるまでに暇だったので、加藤の顔に触れ、半開きの目を閉じようとする。

 

 ぴくり。

 

「………あ」

 

 加藤の右手が、動いた。

 

 

 




 ねぎ星人って現れた当初は「どうやって勝つんだー!」と思ってましたが、よくよく考えてみるとちゃんと装備整えてたら楽に勝ててましたよね……。ガンツも実はその辺の配慮はしてたのかなと思ってしまいます。

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