時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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39、電話の相手

 

 

 

 どん、と突き飛ばされた瞬間、背後で何かが光った。とっさに振り向いた俺が目にしたのは、骸骨のようなバケモノが目から放った光線が、咲夜の胸を貫く瞬間だった。

 

「うわああっ!」

 

 桜井が、慌てて重力銃でぬらりひょんを叩き潰す。もちろん致命傷になるわけはなくただの時間稼ぎだが、仕切り直さなければ一気に崩される。

 

「今のうちに下がるぞ!」

 

 この状況では不意打ちなど不可能。メンバー全員が建物の影に隠れた。咲夜はレイカに背負われて退避させられており、俺のそばで横たえられていた。

 

「加藤さん……十六夜さんの怪我が……」

 

 レイカは、泣きそうな顔で咲夜の傷口ーいや、胴体の半分以上を持っていってしまっているクレーターを見ていた。恐ろしいほどの量の血が流れ、もはや止血など無意味な状態になってしまっていた。

 

「咲夜。しっかりしろ」

 

 しかし咲夜の眼は焦点が合っておらず、目の前の俺やレイカですら見えていないようだった。そして、うわごとのように、ぼそぼそとつぶやいた。

 

「申し訳……ござい……ません、お嬢……様」

 

 絞り出すように言った後、こわばっていた咲夜の身体から、ふっと力が抜けた。はっとしてレイカを見ると、彼女は首を振り、開いたままだった咲夜の眼を閉じた。

 

 信じられない。計ちゃんと同じく、これまで一度も死んだことがなかった咲夜が。いつでも冷静に盤面を見て動いていた彼女が。

 

 死んでしまった。おそらく、俺とレイカをかばって。

 

 呆然とする俺の視界の端で、ぬらりひょんが再び立ち上がった。みちみちとおぞましい再生音をたてながら、ぎろりと辺りを睥睨する。

 

「……加藤君」

 

「ああ。……まだ、作戦は生きてる。それであいつを倒せたら……咲夜を生き返らせられるかもしれない」

 

 今回、何体かの敵と戦ったので、俺の点数は100になっている可能性が高い。つまり、このぬらりひょんさえ倒して帰還すれば、彼女を再生することはできるのである。

 

 計ちゃんは俺を生き返らせるのと引き換えに、咲夜がもし死んだら再生すると約束していたらしい。だが、計ちゃんは記憶喪失で、しかも今回で100点に達するほど敵を倒せたはずはない。

 

 それなら、命を拾った張本人である俺が約束を果たしておくべきだ。

 

「……こっちだ!」

 

 俺が建物の陰から現れ、走り出すとぬらりひょんはこちらを向き、ゆっくりと歩き出した。

 

(……よし、まずは引きつけることには成功と)

 

 背後で、Xガンの咆哮が何度もこだましている。俺を追うぬらりひょんを皆が攻撃しているのだろう。

 

 あとは、致死の光線を浴びないように、あの地点へ向かうこと。俺がそう思った瞬間、前進が総毛だつような感覚に襲われた。

 

 俺は振り向かず、右へ体をそらす。と、純白の光線が俺のすぐ近くを駆け抜けていった。

 

(あっぶね)

 

 後ろを見ると、ぬらりひょんは他のメンバーの狙撃を受けながらも、俺の方へと歩みを進めている。俺が安堵したとき、ぬらりひょんは何を思ったか、ぐるんと首を一回転させた。

 

 もう一度、首慣らしをするように一回転。俺は、ヤツが何をするのかに思いいたり、とっさに跳躍した。

 

 直後、ばね仕掛けのおもちゃのように、ぬらりひょんの首が360度、ぐるりと回転した。あのすさまじい破壊光線をともなって。

 

 周りにそびえたつビルの壁にびっしりとヒビが入ったかと思うと、無数の瓦礫と化して崩壊した。悲鳴と怒号はわずかに聞こえたものの、ビルの崩れ落ちる音にかき消された。

 

「……マジかよ!」

 

 ぬらりひょんは見通しのよくなった道の向こうに俺がいるのを見つけると、何事もなかったかのように歩き始めた。俺は脱兎のごとく駆けだした。しかしなぜか、さきほどまで後ろから聞こえていた援護射撃の音は聞こえてこない。

 

 後ろを見ると、何の障害も無くぬらりひょんが悠々と俺を追いかけてきているところだった。

 

(考えるな! 考えるな、考えるな……)

 

 なぜ誰もぬらりひょんを狙撃しないのか。どうして誰も立ち上がっていないのか。どうして周りに人の声がしないのか。

 

 俺は最悪の事態を頭に思い描きながら、立ち止まる。そして、レーダーを見て、ぬらりひょんはちょうど俺のすぐ後ろまで迫ってきていることを確認した。

 

「………」

 

 俺が振り返ると、異形の姿へと変貌したぬらりひょんは、荒い息をたてながら、俺を見下ろした。

 

逃げも隠れもせず、突っ立っている俺に、ぎょろりと目を向けると、吐息まじりの声で、ぼそぼそと問う。

 

「こ、これで………終わりか。もう、逃げないのか」

 

 不気味な吐息をもらすその声に。

 

「……ああ、終わりだ」

 

 俺は、ぼそりと答える。

 

 

 

 その、一瞬のことだった。

 

 アスファルトが裂けた。そしてそこから現れた黒い刀身が、ぬらりひょんを縦に一刀両断したのである。

 

 ぬらりひょんは驚愕したのか、それとも眼圧が異常に上がったためか、異常なまでに目を見開いた。

 

 ぬらりひょんを斬ったのは、和泉。ただし地上ではなく、地下道に待機させていた。レーダーに映る地図は地上のものであるため、ぬらりひょんを和泉のいる真上の位置に誘導すれば、いつ刀を振ればいいのかが分かる。そして和泉はレーダーでそれを察知し、ぬらりひょんを地面越しに斬ったのだ。

 

 狙撃がうまくいかなかったときに動きを止めるための保険だった。だが、斬った後、地上にいる誰かがとどめを刺さなくてはならない。

 

だが、今地上にいるのは、おそらく俺一人。

 

 俺は銃をぬらりひょんに向けたまま、立ちすくんだ。

 

 ぬらりひょんは、()()()()()()。俺はとどめをさせない。そして、俺の他に地上に生きているメンバーがいるのかもわからない。もしこのまま時間が過ぎれば、打つ手はない。

 

 ぬらりひょんの目が、ふたたび光りはじめた。

 

 駄目だ。これで俺もー

 

 死ぬ、と思ったその刹那、ぬらりひょんの身体が歪んだ。そしてそのまま、ドンッ、という音とともに、ぬらりひょんのいたところに大きなクレーターと、血だまりができた。

 

「………⁉」

 

 俺が呆然としていると、瓦礫の中からぼこっ、とあの重力銃をもった腕が現れた。

 

「……すまん。ちょっと遅れた」

 

 ぬらりひょんにとどめを刺したのは、岡だった。瓦礫の中から身体を起こすと、じいっ、と血だまりを凝視した。

 

「……もう起き上がって来んようやな」

 

「ああ。……しかし、よく無事だったな」

 

「アホ。スーツ着とんのに、あの程度で死ぬ奴があるか。邪魔な瓦礫除くのに時間がかかっただけや。たぶん、そろそろ他の奴らも出てくるで」

 

 岡がそう言った瞬間、あちこちにできた瓦礫の山から、次々とメンバーが顔を出し始めた。

 

「………加藤! あのバケモンは⁉」

 

「倒した……と思う」

 

 稲葉は血だまりを見て、岡と同じようにじっと見た。あの不死身さを見せつけられたら、死んだというのを疑いたくなるのも当然だろう。

 

「すみません、レイカさん! 師匠の腕が挟まって抜けないそうです! 手伝ってくれません?」

 

「わざわざ瓦礫から出なくても転送されるんじゃないの」

 

 他のメンバーを数えていると、まだ埋まっている坂田を含めて、誰もさっきの攻撃で死んではいないようだった。計ちゃんとおっちゃんと東郷はもう少し遠くにいたから大丈夫だったはずだが……。

 

 そう思っていると、肩を後ろから叩かれた。

 

「マジであれ倒せたんやね」

 

 杏だった。揶揄するような気配はまるでなく、心なしか頬を上気させているような気がする。

 

「……実際にとどめを刺したのは岡だけどな」

 

「作戦を考えたのは君なんやろ?」

 

「まあ、そうだけど」

 

 何が言いたいのだろう? 俺がけげんに思っていると、杏はにっと笑った。

 

「君の連絡先訊いてもええか?」

 

「……なんで?」

 

「言わんとわからへんか?」

 

 少しすねたように言ったちょうどそのとき、杏の頭が消え始めた。

 

「あっ、アカン。はよ聞かんと……っていうかウチの連絡先言えばいいんか。後で連絡してや」

 

 転送される直前に杏が言った電話番号を一応暗記しておいた。彼女の意図するところは今一つわからないが、大阪のメンバーと連絡がとれるなら、ガンツについて新しい情報を得ることができるかもしれない。

 

 俺は脱力しそうなほどの安堵の中で、部屋への転送を待った。

 

 

 

 

『それでは、ちいてんを はじぬる』

 

 採点が始まったとき、部屋には静かな沈黙が下りていた。

 

 今回はおそらくこれまでで最強の敵だったにもかかわらず、死者はほとんどいなかったーただ一人を除いて。

 

 十六夜咲夜。おそらく計ちゃんは彼女についていくつか知っていることはあったかもしれないが、その記憶をなくしているため、現時点では誰も咲夜の身の上について知る者はいない。

 

 ただ分かっているのは、少なくとも俺とレイカを庇ってくれたことだった。

 

(……頼む。俺の点数が100点に届いていれば……)

 

『あほの、、、 13てん

 total 48てん あと52てんでおわり』

 

『レイカ 5てん

 total 63てん あと36てんでおわり』

 

『イナバ 0てん

 ひとりだけ。あろーん あと42てんでおわり』

 

『元チェリー 10てん

 total 10てん あと90てんでおわり』

 

『ハゲ 0てん

 よわすぎ あと100てんでおわり』

 

『くろの 0てん

 使えなさすぎ あと100てんでおわり』

 

 今回は戦闘を控えて大阪チームに任せていたため、皆点数は稼げていないようだった。

 

「おい加藤……この点ってなんだ?」

 

「それは後で説明するから……」

 

 俺の点数はどうなのだろう。計ちゃんに答えながら、俺はそのことばかりが頭にあった。

 

『ごるご 50てん

 total 50てん あと50てんでおわり』

 

『和泉くん 76てん

 total 76てん あと24てんでおわり』

 

『きんにくらいだ(仮)35てん

 total 55てん あと45てんでおわり』

 

『こども 26てん

 total 26てん あと74てんでおわり』

 

『パンダ 0てん

 やる気なさすぎ あと96てんでおわり』

 

 東郷と和泉、風は、しっかり点数を取っているようだった。もっとも、驚くべきはタケシが26点も取っていたことだろう。パンダの方は和泉を復活させたらもう自分の点数に興味はないのか、点数は動いていなかった。

 

 これで全員分が出そろった。最後に来るのはー

 

 俺は、ガンツをじっと見つめた。画面が切り替わり、俺の点数が表示されるー

 

『加藤ちゃ(笑) 10てん

 total 99てん あと1てんでおわり』

 

 俺は何度も何度もそれを見返した。しかし、点数は99のままで、変わる気配など当然なかった。

 

「採点は……終わりだな」

 

 坂田はつぶやいた。そう、これで終わり。咲夜を生き返らせることはできない。たった1点、されど1点。俺は、失敗したのだ。

 

「……大丈夫。次はある………はずだから」

 

 レイカが、肩を落とす俺に、なぐさめるように言った。すると計ちゃんが、うまく事情を飲み込めていないような顔をしながら、話しかけてきた。

 

「……おい加藤、大阪に行く前にいたあの女は?」

 

「死んだ」

 

「……それって誰かに伝えなくちゃなんねーんじゃねえの? 親類とか」

 

「俺は咲夜のことはよく知らないからな。計ちゃんは思い出せるか?」

 

「思い出せるって?」

 

「一緒に暮らしてたから、もしかすると咲夜のことを知ってるかもしれない」

 

 すると、計ちゃんはぶんぶんと首を横に振った。

 

「いや、俺覚えてないからな」

 

 分かってはいたが、ここには誰も咲夜について知っているメンバーはいなかった。あれほど近くにいたのにもかかわらず、出身地も、死因も、何もかもが。

 

 謎を残したまま死んだ咲夜のことを考えていると、突然廊下で着替えていた桜井が、息せききって部屋に飛び込んできた。

 

「どうしたんだ?」

 

「ど、どうしていいのかわからなくて……」

 

 桜井の手に握られていたのは、携帯電話だった。着信音が鳴っている。

 

「……? 電話に出ないのか」

 

「違うんすよ。俺のじゃなくて咲夜さんのです。着替えと一緒に置いてありました」

 

 そうだった。そういえば彼女はいつの間にか携帯電話を持っていた。そしてその電話が鳴っているということは……。

 

「俺、ちょっとよく分かんなかったんですけど……出てもいいのか」

 

「……じゃあ、俺が出よう」

 

 着信音の鳴り続ける携帯電話を受け取ると、すこし緊張しながら、俺は電話に出た。画面に表示された通話相手は、「お嬢様」と表示されている。

 

 俺が電話に耳を当てると、そこから年端のいかない少女の声が聞こえてきた。

 

『もう、さっきからずっとコールしてるんだから早く出なさいよ。ねえ咲夜?』

 

 

 

 




遅れて申しわけありません。次は早めに投稿することを心がけます。

ちなみに冒頭で桜井の持っていたZガンは和泉が大阪チームの死体から回収したものです。ところで見返して思ったんですが、やはり私は恋愛を描くのが苦手な模様です。戦闘描写とか犯人捜しは書いていて楽しいのですが……イカンなぁ。

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