時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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40、予言者の語らい

 

 

 

 

『そういえばこの前に言ってた氷室との案件はどうなったの? 私の名前を使うのは一向に構わないけど、あんまり関係が悪化しても面倒なのよねー』

 

 電話から流れてきていた少女の声は、こちらが黙りこくっていることを不自然に感じたのか、ぴたりとやんだ。

 

『……咲夜? なんでさっきから一言も喋らないの?』

 

「えーと。もっと早めに言っときゃよかったと思うけど……俺は加藤勝。咲夜さんじゃない」

 

『……どういうこと? じゃあどうして咲夜は出ないわけ?』

 

「今日ミッションがあって……」

 

『ああ、そういえばそんなこと言ってたわね。そのミッションがどうしたの?』

 

「咲夜さんが死んだ」

 

 途端に、沈黙が下りてきた。やがて、こわごわと確認するように、訊き返してくる。

 

『……それは、本当に?』

 

「間違いない。敵の攻撃を受けた」

 

『そんなわけ……! あの子は避けられようと思えば避けられるはずよ。時間だって止められるんだから!』

 

 それを聞いたレイカが、申し訳なさそうにうつむいた。確かに、自分一人を守るだけなら彼女には可能だったはずである。電話の相手は、咲夜の死を認めないとでも言うかのように怒鳴った。

 

「……俺ともう一人の仲間をかばったんだ」

 

 すると、声の主はさっきよりも驚いたようで、素っ頓狂な声をあげた。

 

『ええ? 咲夜が? かばった? ありえないでしょ。だいたい人間なんか……』

 

 そこではたと何かに気付いたように相手は言葉を止め、後はぼそぼそした独り言が聞こえてきた。

 

『……いや、ありうる? 命がけなワケだし……情がわくってのも……』

 

「……咲夜さんについては考えがある。……けどその前に、あんたは咲夜さんの何だ?」

 

 姉妹? 親戚? まさか子ども? 俺が考えていたいくつかの予想は、彼女の一言ですべて覆された。

 

『私は咲夜の主人。レミリア・スカーレットよ』

 

「はあ?」

 

『だから。主人だって。ほら、あの子たぶん、そっちに来た時メイドの格好してたでしょ?』

 

「………」

 

 確かに初めて会った時はそうだった。相手の名乗りからすると、咲夜は名家に仕えるマジモンの使用人だったのかもしれない。となるとこの相手は咲夜が世話をしていた「お嬢様」なのだろう。

 

 そのとき、近くで聞いていた坂田が「ちょっと待て」と言った。

 

「加藤。あれ忘れたか? メンバー以外に喋ったら……」

 

『大丈夫よ。もうだいたいあなたたちの置かれてる状況は知ってる』

 

「……咲夜はなんで頭がぶっ飛ばなかったんだ?」

 

『まあ、私なんてそっちじゃ存在しないのも同じだから……かしら』

 

 なぜか煙に巻くような言い方をすると、レミリアはくすりと笑った。

 

『冗談よ。私は別の人から聞いたの。それでさっき言ってた、咲夜を何とかする手段って、百点ボーナスでしょう? 誰か咲夜を生き返らせてくれるあてがあるの?』

 

「そこまで知ってるなら話が早い。俺が今、99点で、次に敵を倒して再生するつもりだ」

 

『自分の解放は望まないの?』

 

「俺は前に咲夜に再生されたからな。計ちゃんが頼んでくれたらしい」

 

『へえ、あの咲夜が………まあいいわ。次で、絶対に咲夜を生き返らせてちょうだい。私も協力を惜しまないわ』

 

「協力? あんた、ガンツチームの人間か?」

 

 大阪には大阪のチームがあったように、ガンツチーム自体は他にもたくさんあるのかもしれない。どこのチームかは知らないが、助力してくれるというのはありがたい……と加藤は思ったが、レミリアは否定した。

 

『いいえ。全然。………ただ、私の指示通りに動けば、勝利はほぼ間違いなしと言ってもいいわ』

 

「……どういうことだ?」

 

『まあ見てからのお楽しみ……と言いたいのだけれど、流石に直前に言うのはまずいでしょうね。でも私はともかく、今はあなた達の方は疲れていないかしら? 明日に電話をかけてくれれば説明するわ』

 

 確かに今は何を説明されても頭が受け付けないかもしれない。だが、ガンツチームでないのにそこまで知っている理由だけは聞いておきたかった。

 

「最後に一つ訊かせてくれ。さっきガンツ……いや、黒い球の部屋の人間じゃないッて言ってたが、なんであんたはそんなに知ってるんだ?」

 

 解放された人間なら計ちゃんのように記憶が無くなっているはず。仮にガンツチームの人間じゃないと言ったのが嘘としても、そもそも嘘をつく理由がない。

 

『だから咲夜に聞いたって言ったでしょ。それに、あなたたちみたいな「チーム」に所属してるわけじゃないし……』

 

 レミリアの次の一言は、俺たちを凍りつかせた。

 

『そもそも私は人間じゃないわ。吸血鬼だもの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。俺が訓練場にしている廃屋にやって来たとき、すでに先客が数名いた。

 

 練習しているのは計ちゃんとレイカ。計ちゃんは銃の撃ち方を一からやり直すことになっているが、もともと才能が飛びぬけているのか、すでに使い慣れし始めているようだった。

 

 ガンツのシステム、失われた記憶についても全て説明しておいたが、記憶が戻っているわけではない。そこだけは気がかりだが、計ちゃんのことだからおそらく自分で何とかするだろう。

 

 離れた場所でたたずむのは、和泉だった。普段はここに来ないのだが、今日はおそらくレミリアの情報を聞きに来たのだろう。和泉は俺がやってきたのに気づいたらしく、声をかけてきた。

 

「……で、あれから電話をかけたか?」

 

「いや。まだだ。皆と一緒に聞いた方がいいかと思って」

 

「………お前は信用するか? そのレミリアって相手。吸血鬼なんだろう?」

 

 吸血鬼……。俺は、大阪での戦いの前に襲撃をしかけてきた吸血鬼たちを思いだした。そしてその直前に咲夜が襲撃を知らせてきたことも。あいにく吸血鬼の襲撃を知ることになった経緯は彼女の口から語られることはなかったものの、なんとなく想像はできた。

 

 レミリアが最初に口走った名前。氷室。そしてレミリア自身が吸血鬼だと言った事実。それらから考えられるのは、レミリアは氷室と何らかのつながりがあり、咲夜はそれをレミリアから聞いていたということ。

 

 しかし吸血鬼といっても一枚岩ではない。少なくともレミリアは友好的と言える。

 

「俺は信用する」

 

「根拠は?」

 

 すかさず和泉は問う。そういえば咲夜も信じられない相手を信用するというのは思考停止だと言っていた。あんがい似た者同士だったのかもしれない。

 

「……氷室との関係悪化を気にしているあたりだな。それを心配するってことは俺たちを助けるつもりなんじゃないか」

 

「それを気にして今度は俺たちを罠にかけるとかは考えられないか?」

 

「それは……どうだろうな」

 

 結局のところ、彼女自身に答えてもらうしかないということだろう。俺が和泉と話しているうちに全員が集まったようで、各々俺の声が聞こえる範囲にいた。

 

「……あー、皆そろったみたいだから、電話をかけてみようと思う。音はめちゃくちゃ大きくしてあるから、皆にも聞こえるはずだ。聞きたいことがあったら順に言ってくれ」

 

 そして俺が電話帳を開こうとしたとき、向こうから着信が来た。慌てて電話に出ると、昨日と同じ少女の声が聞こえてきた。

 

『皆そろったでしょうから、お話をするわね』

 

「……どうして分かったんだ?」

 

『16時27分にあなたたちが集合する運命だって知ってたから、かしら』

 

「要するに?」

 

 いちいちもったいぶった言い方をするタイプの人間から要点を聞きだす一言。レミリアは『無粋ねえ』とため息をつきながら、答えた。

 

『私は未来が分かる。見えると言った方がいいかしら? だからあなたたちが廃墟に来ることも分かったし、集まる時刻も分かった』

 

「つまりあんたは……未来予知ができるのか?」

 

『簡単に言えばそうね。そっちは「こっち」といろいろ違うから、せいぜい2時間後の未来までしか分からないけどね』

 

 それを聞いた坂田は、自分や桜井、咲夜の例があるせいか、すんなりとそれを受け入れた。

 

「……案外超能力者って多いもんだなあ」

 

『あら? そっちは超能力の否定派が多いと聞いていたのだけれど。こんなにすんなり納得してもらえるの?』

 

「俺たちがPK持ちですからね。十六夜さんの例もあるし」

 

『へえ、そっちにもいるのね』

 

 ガンツチームになって非常識なことばかり起こるせいか、メンバーでいちいち常識的にありえないことに騒ぐヤツはいない。レミリアは肩透かしを食らったというような調子で続ける。

 

『だから、次の戦いは、私が敵の攻撃がどう来るかを全て予知してあげる。これなら確実に勝てるでしょう?』

 

 参戦するわけではないのか、と一瞬落胆しかけたが、すぐにレミリアの提案がすさまじく戦いにプラスになることに気が付いた。

 

「それって……戦いやすいなんてものじゃないわね」

 

 レイカも気づいたらしい。俺たちが苦戦する理由。振り返ってみれば、ガンツが敵について詳しく教えてくれないからである。難敵でも弱点や攻撃手段が分かっていれば倒せるのだ。ぬらりひょんだって、初めから皆で狙撃していればオニ星人より楽に倒せていた可能性が高い。

 

 俺たちに欠けていた情報支援。レミリアは、それをしようと言っているのだ。

 

「……でも、なんで咲夜が戦う時に予知してやらなかったんだ?」

 

『万一携帯電話への攻撃の予知を見逃したら咲夜と連絡がつかなくなるから。それにあの子なら死なないと思ってたしね。……他に質問はあるかしら、和泉さん?』

 

 和泉が口を開く前にレミリアは聞いた。

 

「……俺が質問する内容を予知してるなら答えを言えばいいだろう?」

 

『それもそうね。私と氷室……あなたたちを襲った吸血鬼の関係についてでしょう?』

 

「そうだ」

 

『まあこの前まではお互い悪くない関係だったけどね。咲夜がそっちに行くまではあんまり利害が衝突しなかったから。でも、最近はあなたたちを生かすかどうかでちょっと対立気味だったかしら?』

 

「つまり、俺たちをやつに売る気はないと?」

 

『当り前よ。だいたいあなたたちを殺したら誰が咲夜を生き返らせてくれるのよ。それに氷室の勢力はあなたたちとの戦いでほぼ壊滅したから気にすることは無いわ』

 

 レミリアの言葉に嘘はなさそうだった。和泉も黙っているものの納得したらしく、それ以上は何も言わなかった。次に聞いたのは、稲葉だった。

 

「えーと、さっきから「そっち」とか「こっち」って言ってるけど、あんたはいったいどこにいるんだ? 咲夜もあんたと同じところ……例えば海外にいたのか?」

 

『うーん、何と言えばいいのかしら。日本ではあるけれど、あなたたちのいる世界じゃないってとこかしら』

 

「要するに?」

 

『……ごめんなさい、私たちのいる場所を論理的に表現すべき言葉がないわ。まあこっちはこっちということで』

 

 和泉への言葉とくらべて、今度の返答はひどくつかみどころがなかった。稲葉はいくつか質問を重ねたものの、レミリアは「説明しづらい」の一点張りだった。

 

「……ま、私が今どこにいるかなんてどうでもいい話よ。重要なのは、あなたたちの戦いを無事に終えさせること。タイムリミットぎりぎりになったけど、私も咲夜を回収する準備が整いつつあるから」

 

 レミリアの「タイムリミット」という言葉に、和泉がぴくりと反応した。

 

「……そのタイムリミットッて、「カタストロフィ」のことじゃないのか?」

 

『あなたたちはそう呼んでるの?』

 

「……ちょっと待って。和泉君はなにか知ってるのかい?」

 

 おっちゃんが聞くと、和泉は、うっと言葉をつまらせた。図星らしい。

 

「……俺はよくわからないが、最後に、カタストロフィというやつがおこるらしい。軍備したものだけが生き残れるらしいが」

 

「よくわからないって?」

 

「何が起こるか、がわからない。核戦争とか宇宙からの侵略とか……ただ、ガンツはあと一週間程度で始まると予想してる。わざわざカウントしてるくらいだから、ガンツが俺たちにこういうゲームをさせてるのはカタストロフィのためだとは思うが」

 

 突然和泉が語りだした内容は、俺たちを唖然とさせた。

 

「何言ってるんだ」

 

 訊くと、和泉は鬱陶しげに俺を見た。

 

「今のでわからないなら聞くな。ガンツのラストステージが近いって話だ」

 

『確かに一週間後に巨大な宇宙船がそっちに到着することは知っているけれど……それがあなたの言うカタストロフィってものなのかしら?』

 

「巨大な宇宙船?」

 

『ええ。こちらに少しずつ近づいている……何者が乗っているかはわからないけれどね。でも、あなたたちを呼び出す存在……ええと、ガンツだったかしら? それが宇宙船が到着するのに備えて作られていたのだとしたら……確かに訪れるのかもしれないわね』

 

 レミリアの未来視は一週間も遠くを見通すことはできないーそれを知っていてもなお、続く言葉は確実に的中する予言のように聞こえた。

 

『地球にとっての、破局(カタストロフィ)が』

 

 

 

 

 




そういえばガンツの「再生」と「転送」って実は同じシステムなんじゃね?と最近思い始めました。殺人どこでもドアと同じ原理ですが、ガンツは別の場所に人間のコピーを作っているだけで、転送される前の人間とは別人となっている……的な。まあ、仮にそうだったとしてももともとガンツメンバーは皆スワンプマンなので今更って感じですけど。
あと、レミリアの能力解釈は今作では未来視となります。
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