時止めメイドと黒い玉 作:ばるばろさ
(あと一週間でヤバいやつらが宇宙から攻めてくる……ッて、信じられるかよ、そんなの)
俺はネットサーフィンをしながら、ぼうっとこの前の出来事を思い出していた。地球侵略なんてSF映画のようなことが実際に起こるとは思えなかった。しかし、ここしばらく俺の身に起きた出来事を鑑みると、それを一笑に付すことはできなさそうだった。
俺がため息をついていると、携帯にタエちゃんからのメールが届いた。
『この前学校休んでたけど大丈夫? 何か困ってることでもあるの?』
俺は周りのメンバーから記憶を失う前の俺について聞き、できるだけそれに近づけて生活していた。このタエちゃんも記憶を失う前に付き合っていた彼女らしい。
(……つーか、結構俺ひでえ態度とったと思うけどこんなメール送ってくれるんだな)
加藤によると彼女がガンツのターゲットにされたとき、俺はタエちゃんを殺そうとするメンバーを敵に回して戦っていたのだという。自分のことながらそれは本当に俺なのか? と疑いたくなるが、事実だという。
(まあ、悪いコじゃないしな……)
正直かなりの記憶が飛んでいたのはショックだが、おいおい何とかなるだろう。俺はふぁ、とあくびをしたとき、パソコンの方にメールが届いた。
「き、菊池……?」
吸血鬼の襲撃の前、俺を付け回していた男だ。いったい何のメールを送って来たのだろう?
俺がそれを開こうとした瞬間、うなじに寒気がきて、俺の体は動かなくなった。
「は? 何だこれ……」
俺が目を開けると、すでに全員が揃っていた。計ちゃんも「初めて」の転送で戸惑っているようだったが、問題はなさそうだった。
ただ一つ奇妙だった点は、ガンツの動作がおかしいことである。部屋も暗く、異様な雰囲気が否めない。
「不気味……だな」
稲葉が全員の思考を代弁した。ガンツの、いつもなら腹立たしいほどの音楽も切れ切れで、申し訳程度の敵情報ですら文字化けして表示されない。
「……こんなときのためにあいつがいるんだろ? おいレミリア! 予知してるなら電話に出ろ!」
和泉がさけぶと、俺が持ってきた携帯が鳴った。
『あはは、まあそういきり立つと長生きできないわよ? 皆が怖がってるみたいだからあえて何もしなかったけど』
場違いなセリフとともにくすくすと笑うレミリアの声に、皆から脱力する気配がした。
「……で、今回の敵はどんな奴だ」
『そうねえ。何て言うか……芸術的な敵ね。動く彫像っていえばイメージしやすいかしら』
「彫像? 大仏みたいなもんか」
『ええ。……でも、戦い方は全然綺麗じゃないわね。単純な物理攻撃しかないみたい』
残念そうなレミリアとは反対に、皆は安堵した。ゆびわ星人のような相手なら、死ぬ危険も低いだろう。
『ん、でも私の予知ではそこの禿頭のおじさまとちょっと男前のあなたは殺されるみたいよ?』
「は?」
「え?」
稲葉とおっちゃんがぽかんと口を開けた。
『攻撃は単調だけど、人がゴミのように死んでるわね。侮らない方がいいわ』
「ちょっと待てよ! 俺はどうすりゃいいんだ」
『私の予知を聞けばいいのよ。そうすれば、あなたが死ぬ運命も回避できる……それこそ私の運命を操る能力の真骨頂』
「お、おう……」
俺はそろそろこのレミリアの芝居がかった台詞回しにも慣れてきたが、稲葉はどう反応すべきか困っているようだった。……しかし咲夜はこの「お嬢様」にどうやって対応していたのだろう。
考えているうちに、転送が始まった。
(次も、絶対生き残る)
そう念じて目を開くと、見慣れない文字の羅列が飛び込んできた。
「アルファベット……英語?」
「いや、こいつはイタリア語だな」
坂田の言葉に、皆がざわめいた。
「なんでイタリアに来とんのか?」
「知るか。……大阪の例を考えたら、ろくでもないことになりそうだとは思うけどな」
和泉の言葉に、稲葉とおっちゃんが縮み上がった。レミリアに一度死亡宣告されたためだろう。
『はあい。皆、ちゃんと揃ってる?』
電話から、その張本人の声が聞こえてきた。
「ここ外国なのによく電話通じるな……」
『ま、ちょっとその携帯は特別だから。それより戦闘用の予知をこれから伝え続けるから。加藤さんは私の指示を皆に伝えてくれないかしら?』
「わかった」
最初のレミリアの指示は、100メートル前進、だった。道のあちこちに岡の着ていたスーツの残骸や人間の死体が転がっている。俺たちは肝を冷やしながら走った。
『戦いに必要なのは……第一に兵士。第二に装備。そして第三に情報。あなたたちは今、そのすべてを満たした。安心しなさい』
レミリアはそう言った後、するどく予知の内容を伝えた。
『20秒後、レイカは頭上右斜め上からの攻撃に備えなさい。23秒後、鈴木と和泉は前方にジャンプしなさい。26秒後、加藤は電話を右手に持ち替え、後ろにYガンを撃つ』
俺が指示を伝えたとき、レイカが宙を見ると、上から有翼の像が迫ってくるところだった。訳も分からず跳躍した鈴木と和泉がいた場所に、どすんと天から巨像が降ってくる。俺が電話を持ち替えた瞬間、左手に戦いの余波で飛んできたらしい石礫が当たった。
「……なるほどな」
俺が後ろを向き、その刹那に発射したネットは、迫ってくる彫像を捕縛していた。
『離れたら私の予知が
俺たちが広場に出ると、彫像とガンツチームの間で乱戦が繰り広げられているところだった。芸術品や神の形をした偶像が人間と争い、あたりには臓物や血液の臭いが充満している。イタリアだけでなくアメリカや中国のチームも来ているらしい。広場は複数の言語での怒号と悲鳴で溢れていた。
『12秒後、風は左に回避。14秒後、坂田とレイカは同時に前方の巨像の足を撃つ。15秒後、玄野は左側の敵を攻撃』
レミリアは先ほどとは打って変わって、淡々と予知内容を告げていった。1秒刻みの予知もあるため、余裕があまりないのだろう。俺はむせかえるほど辺りにただよう血霧の中、命綱である予知を指示していった。
もちろん俺たちが普通にかわせる攻撃や対処できることをわざわざ予知する暇はないので、そういったものはそれぞれで何とかするしかない。
「加藤っ! こっちの援護頼む!」
「鈴木さん! 頭下げて!」
俺たちは荒れ狂う彫像たちとの死闘を続けた。どうやら相手はすさまじい攻撃力を持っているようだが、防御面ではどの手段を使っても倒せるようだ。引き金を何度引いたか分からなくなるまで、俺たちはひたすら戦い続ける。
すると、奇妙なことに劣勢であったはずのガンツチームが勢いを盛り返し始めた。おそらく俺たちがレミリアの予知によって「最善手」を指し続けることによって、戦局がこちらに傾いてきているのだ。
他のチームも攻勢に回ったらしく、絶命するメンバーよりも倒される巨像の方が目立ちはじめる。
しかしなぜか、そこでレミリアの指示の内容が変化しはじめた。
『……17秒後、レイカと加藤は50メートル後退。25秒後、桜井は道に落ちているZガンを拾って同じく後退。28秒後、風は後退しつつ東郷を援護』
撤退の指示が多くなってきたのだ。
「おい、何で撤退するんだ? 今勝ってるぞ!」
『確かに、しばらく戦えばあなたたち側が勝利するでしょうけれど』
「そこまで分かってるならなおさら何でなんだ?」
『これ以上戦う必要はないから。この戦いは最後まで遂行されない』
「は?」
『あなたたちは全ての敵を倒し切る前に回収されることになる。それに、咲夜を復活させるために必要な点はたまったでしょう? それならもう戦う必要はないわ。むしろあなたたちが死ぬリスクを減らしてるのよ』
「……でも、他のチームは今も戦ってるぞ? 俺たちが抜けて死ぬ奴がいるかもしれない」
レミリアは呆れたようにため息をもらした。
『……あなたねえ。他のチームを助けたって何の得もないのよ? 命をベットする価値すらない。私の予知も完全にあなたを守れるわけじゃないし、潮時よ』
やがて乱戦地帯から、ほぼすべてのメンバーが戻ってきた。
「ちょ、加藤さん、なんでここに集まってるんすか? まだ皆向こうにいますよ?」
『あなたも加藤と同じことを言うのね。でもあと少しで戻れるのに、犬死にしたらつまらないでしょ?』
「あと少しで戻れるって?」
『言葉通りよ。あなたたちは、ガンツから解放されるのよ』
「それってどういう……」
レイカが言いかけたとき、じじじ、という音とともに、皆の身体が消え始めた。しかし向こうの広場からはまだ戦闘音が聞こえてくる。戦いは終わっていないのに、転送が始まっているのだ。
声も出ず呆然とする俺たちの耳に、レミリアの言葉が流れ込んできた。
『……でも、ガンツの目的を考えてみるなら……次の行き先は本物の戦場かもね』
やはり俺たちが戻って来ても、部屋の様子はおかしなままだった。ガンツは相変わらず文字化けした画面を表示しており、いやに静かだった。
「……これ、どうなるのかしら」
レイカが不安そうに言ったとき、ちりりん、と鈴の音のような音がして、採点結果が表示された。
『あほのy、*?
75てん おわり。』
坂田は首をかしげた。最後の3文字の意味が、どうにも理解しづらかったらしい。
「おわり……? どういうことだ」
『たぶん、ガンツが本格的に「カタストロフィ」に備え始めたんじゃないかしら。だから、もう呼び出しはない、ととらえればいいんじゃない?』
「……本当か?」
そのとき、桜井が目をみはった。
「……師匠! 透視してみたら、皆の頭から爆弾が消えてました」
「てことはつまり……本当にここに二度と来ないでいいってことか……?」
『イ△バ
5+てnf おわり。』
「本当に……終わりなのか」
次々と表示されていく「おわり。」表示。俺はガンツの画面を見ながら、呆然としていた。
『い泉@#
10)てん 100点めにゅ~:;l』
「……ぼうっとするなよ。それなら、100点ボーナスが貰えるのも最後ッてことだろう」
和泉はそう言うと、「新しい武器」を選択した。
「……まあ、俺は誰かを生き返らせる気はないからな。そういうのはお前らだけの間でやってくれ」
和泉の手に、Zガンが現れた。和泉はすでに大阪で3丁Zガンを拾っていたためか、少し眉間のしわを深め、ため息をついた。するとレミリアが電話越しにふふんと笑った。
『……その武器はイタリアで結構拾わせたから、だいたい皆に行き渡ると思うわ。……それで、もう解放されるっていうのに1番を選ぶ必要はないわよね? もし100点なら、再生してトクのある人を生き返らせたらどうかしら?』
そうか、と俺はようやく気付いた。時折レミリアは持ち主が死に、地面に転がっているZガンを拾う指示も出していた。そうすれば、100点メニューで選ぶ選択肢は必然的に誰かを再生する、しかなくなる。
『ま、もしも加藤がやられたらってときの保険だったけど、彼は生き残ってる。100点取った人は適当に戦力になりそうな人を生き返らせればいいんじゃないの?』
俺が死ぬ可能性を計算にいれての指示だったことが少し複雑だったが、結果としてはプラスに出ている。……しかし、咲夜以外にいい戦力になりそうな人間がいるのだろうか。
『くろの 20てん おわり。』
『こども 0点 おわり。』
『ハゲ15てぬ おわり。』
今回は死人こそでなかったものの、点数に関してはレミリアがあまり踏み込むような指示をださなかったためか、全体的に低かった。もっとも、あの乱戦に踏み込めば、レミリアの予知能力をもってしても死者がでると判断したのかもしれないが。
『か藤ち&8 120p; 100てんメニューから[@ppでくだ7”』
そして、ついに、俺の採点画面が表示された。もちろん100点は超えている。そして俺が何を答えるかも、すでに決まっていた。
「咲夜を再生してくれ」
じっと皆が息を呑むなか、ガンツが空中に照射するレーザーから一人の人間が描きだされていく。そして前進が完全に再生すると、閉じていたまぶたを上げ、銀の瞳で俺たちを見た。
「……ここは、いったい? 私は……ぬらりひょんと戦って……」
困惑の表情を浮かべながら現れた咲夜は、すぐに自分の身に何が起こったかを理解したらしく、周りにいるメンバーを見回した。
「私は死んだんですね……誰が、蘇生を?」
「俺だ」
「そうですか……ありがとうございます。しかし、なぜご自分の解放を選ばなかったんですか?」
「ガンツのゲームはこれで終わりだからな」
「え?」
『そうよ咲夜。あと遅くなったけど、こっちもそろそろ準備できてるからね』
レミリアの声が、俺の持つ携帯から聞こえてくる。咲夜はそれを見て、呆気にとられていた。というか彼女がこれほど驚いたのをはじめて見たかもしれない。
「お嬢様? なんであなた達が? というか私はどれくらい……いやまず終わりっていうのが……ちょっと待ってください。頭が追い付きません」
珍しく慌てる咲夜を見て、はは、と稲葉が笑った。
「確かにここしばらくいろいろあったから、それを含めて話した方がいいだろ」
『そうね。でも、まだ採点は残ってるんじゃないの?』
レミリアの言う通り、次の100点メニューが表示されていた。
『きんに¥。3~ 109いg 1o0点meニューからえらんでくだちい』
ダヴィデ星人は強いんだけど小説にしづらい……だいたいの敵に通用するガンツソードを折ったのはとても記憶に残ってますね。