時止めメイドと黒い玉 作:ばるばろさ
再生されたばかりでまだうまく呑み込めていないが、おおよそ私が死んだあとの流れはつかむことができた。加藤たちとお嬢様が会話をしていたのには驚いたし、これからまもなく「カタストロフィ」が起きることになると分かっているということも寝耳に水だったが、むしろ何とかここまでこぎつけたともいえるだろう。
カタストロフィさえ乗り越えれば、あるいは途中で戻る準備ができれば、私は元の世界に戻れるのである。しかし今ここでは、カタストロフィを乗り越えるために、強い仲間を一人生き返らせなければならない。
「……で、誰を選ぶと?」
座っていた風が、加藤を仰ぎ見た。加藤たちの話によると、すでにZガンを複数鹵獲しているため、強力な武器を選ぶ必要はないという。カタストロフィが始まるまでにガンツ装備を捨てる馬鹿はこのチームにはいないだろうし、となれば最後は誰を再生するかという問題になるだろう。
「……俺たちが加わってから来た奴らで強いのって見なかったからな。加藤か咲夜、なんか前に有望そうなの知らないか?」
坂田がそう言ったとき、つかつかと歩いてきてガンツの前に腰を下ろした者がいた。私でも加藤でもない。いつも寡黙な、あの東郷だった。全員が呆気に取られている中、東郷はガンツに映る死者の顔写真を2つ指さしてから、部屋の隅にもどった。
「……そうですね。確かにその2人のどちらか、ですね」
「いや、たぶん点数的にはどちらも可能だ」
「じゃあ最初に蘇生するのはどちらにしましょう」
「……堅実な方かな」
加藤はそう言うと、風に再生したい人間を伝えた。
「……分かった。この人を再生してくれ」
そういうと、再生が始まった。皆が見守る中、流麗なキックボクサー、桜岡は目を開けた。私の例と同じく記憶が死ぬ直前で止まっているらしく、きょろきょろと辺りを見回している。やがて私と加藤を見つけると、不思議そうに話しかけてきた。
「誰? この人たち」
「……まあ、話せば長くなるが……再生されたんだ」
「誰が再生してくれたの?」
桜岡は玄野の方をちらちらと見ていた。が、恐らく彼女にとって予想外なことに、風がゆっくりと手を上げた。桜岡は首をかしげながら、私に訊いてくる。
「あんな知り合いなんていないけど……なんで私を再生したの?」
「……消去法です」
「どういうこと?……まあ再生してくれたのは嬉しいんだけど。ありがとう」
「お、おう」
風は桜岡から少し顔を背けながらそう答えた。そして次に、加藤の言うようにもう一人だけ100点に達していた者がいた。
『軍@ 1n0 天 100てんメニューから 選んでくだちい』
東郷だった。東郷が本当にこいつでいいのか、というように目で確認してきたので、私と加藤はうなずいた。
その人物の顔写真を東郷が指さすと、ガンツはその人物を空中に描き出した。今ではメンバー中でさほど実力を持っているとは思えないが、ガンツについての知識で、私たちよりも何かを知っているかもしれない。
「なんか、急に人が増えたな……」
西はじろじろと皆を眺めまわしながら、そう呟いた。
「ちらほら見知った顔はあるが……俺を再生したのはどいつだ? あと、今はいつだ?」
どうやら西は状況がすぐに理解できたらしい。
「東郷だ。……で、今はカタストロフィまであと少し」
「? 加藤、お前はともかくその軍人は千手に殺されてなかったか? ……ッて、カタストロフィまで時間ねーのかよ!」
カタストロフィ、という言葉にレイカが目をみはった。
「この人、誰ですか? カタストロフィを知ってるって……」
「前に言った、ガンツのミッションを面白おかしく小説に仕立てていた人です」
西はイタリアで回収されたというZガンを見て、ふんと鼻を鳴らした。
「俺が死んでる間に、必死こいてアイテム集めしてたみたいだな。……でもまあ、何で帰って来てんのかはしらねーが、和泉あたりだろ? アイテム集めてたのは。1つもらうぜ」
手を伸ばす西の腕を、坂田がつかんだ。
「待てって。物事には順序ってものがある」
「なんだと?」
西は、ぎろりと坂田を睨んだ。するとそのとき、私の携帯電話からお嬢様の声が聞こえてきた。
『そうそう。西丈一郎さん、その銃はだいたい私がイタリアから火事場ど……いや、回収してきたものなの。対価が要るとは思わない?』
「誰? つーか、どうしてこの部屋で携帯が繋がってんだ?」
『レミリアと呼んでちょうだい。あと、電話が通じている理由は私もよく分からないわ』
「レミリア……欧米のチームか?」
『いいえ。でも、私たちが知っている内容をあなたはたくさん知っているのね。その理由を教えてくれないかしら?』
「……そのデカい銃を一丁くれるならな」
『いいわ。もうひとつ条件を加えると、あとで私たちに協力してくれるなら』
西は渋々といった表情でうなずいた。協力はしたくないが、強力な武器への魅力の方が勝っていたのだろう。
「俺は、海外のチームのやつらと情報交換してたンだ。結構深いとこのサイトだけど……ま、あんたらにゃ無理な深層にあるけど……」
「サイト……?」
何かを思い出したように、レイカがつぶやいた。
「あなた、パソコン得意なの?」
「まあな……それがどうした?」
突然食いついてきたレイカに、西はけげんそうな目を向けた。
「前、大阪チームの人がパソコンで何かしてたのを見たの。ひょっとして、パソコンが得意な人ならガンツに直接アクセスできるんじゃないかって……」
西は目を見開いた。
「……やったことないな」
「じゃあ、うまくすれば、カタストロフィで何が起こるか分かるかもって……ことですよね」
桜井のつぶやきに、加藤はうなずいた。
「そうとなれば……この部屋はいつ鍵かかるかわかんねーし、ガンツをどこかに移動させて、そこで解析しよう」
「まてまて。お前ら馬鹿か。頭パーンてなりてえのか?」
「それは大丈夫だ。俺たちの頭には、今爆弾はない」
西は一瞬だけぽかんと口を開けていたが、やがてポケットに入れていたらしいメモ帳に何か書きつけると、それを破って私の方に投げてよこした。
「俺はノートパソコン取りに戻るから、ガンツを移動させたら電話してこい」
「おっちゃんの家ってもう少しか?」
「ああ、うん。そうだよ」
俺と鈴木が話している後ろでは、風がガンツを担いで歩いていた。そのさらに横ではタケシがはしゃいでおり、後ろでは道行く人にレイカが「映画の撮影」だと言ってごまかしている。
ガンツの移動先は、鈴木の家に決まった。1人暮らしで誰にも遠慮する必要がないという理由からである。
「あーあ、せっかく命張ったのに記憶ないって……もう……それだけじゃなくてセッ……」
「いや、その先は言わなくていい。覚えてないけど、それに関しては感謝してるから」
「おい玄野、あの子一筋じゃなかったのか」
「だから両方覚えてないんだッて……」
桜岡と玄野の会話に、坂田の茶々が入っていた。強い奴を生き返らせる必要があったとはいえ、記憶にないことで責められる計ちゃんは少し気の毒だった。
『ずいぶん入れ込んでるわね、咲夜』
「ええ、まあ、はい……」
『あなたならもっと突き放してるかと思ったけど。「優しい者にチェスはできない」わよ?』
「私は人間ですから。そういうこともあるとお考え下さい」
咲夜は携帯電話でレミリアと不穏な会話をしていた。レミリアが吸血鬼ということは、途中で彼女らが俺たちと敵対する可能性だってあったはずである。
咲夜の能力はまだ数でなんとかなるとはいえ、レミリアの予知能力にバックアップされた吸血鬼たちと戦わなければならなかったら……俺は少し身震いした。
(……ん? 吸血鬼?)
吸血鬼。この言葉がどこか引っかかる。何か見落としをしているのを無意識から警告されているのか、違和感が胸につっかえたような感覚だけがあった。
(まあいいか。少なくとも、あのゲームに参加する必要は無くなったわけだしな)
あと少しで、あの日常に戻れるのだ。いきなり呼び出される心配のない、平穏な日々に。
鈴木のおっちゃんの家に到着すると、すぐに西に電話をかけた。しばらくして、西はリュックを背負っておっちゃんの家にやって来た。
西はノートパソコンをガンツにつなげて起動した後、画面とにらめっこしながらぼそりとつぶやいた。
「こんなプログラムコード見たことねえなあ……」
「見たことあるプログラムコードにすればいいんじゃねえの?」
「ロクに分かってねー奴は黙ってろ。明日までかかるかもしんねーし、お前らいなくていーよ」
計ちゃんにむかってしっしっと追い払うような仕草をしながら、西は答えた。確かに俺たちがここにいてもどうしようもないなら、帰る方が賢明だろう。俺は家主であるおっちゃんに話しかけた。
「おっちゃん、西が解析し終えたら教えてくれ」
「うん、わかった」
「あと、注意も。一回あいつ人殺したんだ」
「えっ、そうなの? ……まあ、風君も住んでるから大丈夫かなあ」
「それなら……大丈夫か」
おっちゃんと風とタケシの3人なら、西が何をしても取り押さえられるだろう。
とくにすることもないので各々が自分の家へ帰り始める中、俺は咲夜に訊いた。
「俺はもう帰るつもりだけど……咲夜はどうする?」
彼女が死ぬ前、俺のところへ下宿するという約束をしていたものの、今は状況がすっかり変わってしまっていた。改めて聞かなければならない。
「ああ……そういえばそんな約束もしていましたね」
咲夜は流石に覚えて(というか彼女の感覚ではついこの前の約束なのだろうが)いたらしい。
「それは……すみません。だいぶ状況が変わって、お嬢様と積もる話もありますし……私が「帰る」までには、ホテルなどに泊まっても差し支えないでしょうから」
「それならいいんだが。……ところで、レミリアも言ってたが、咲夜が「帰る」場所ってどこなんだ?」
記憶喪失と言っていたが、それは嘘で本当は彼女が「元いた場所」と東京があまりにもかけ離れた場所で常識が分からなかったからなのではないか。
レミリアと話しているうちに、そんな仮説が俺の中に生まれていた。もっとも、これまでもっとも彼女の近くにいた計ちゃんの記憶がないため、咲夜がそう言わない限りは証明のしようがないものだが。
咲夜はそうですね、と言ってから少し悩む様子を見せたあと、こう答えた。
「何とも表現しがたい場所ですが、あえて一言で表すなら、全てを受け入れる場所、でしょうか」
さいわいまだそれほど遅くない時間だったため、私はホテルにチェックインすることができた。
こちらの世界での現金を持ち帰っても使い道がないため、金には糸目をつけず、できるだけよい部屋にとまった。内装は豪華な洋風のつくりで、あちこちにテレビや冷蔵庫などの電化製品が備え付けられているのを除けば紅魔館に似た部分のある部屋である。
ふとベッドに目をやると、一筋のしわが目についた。元メイド長として言わせてもらうならば、客室のベッドは普通しっかり整えておくべきである。しかしいちいちそういうことで苦情を言うのも面倒なので、しかたなく自分でベッドメイキングをしなおそうとした。
そのとき、携帯が鳴った。電話の相手はお嬢様らしい。
『もしもし、咲夜。寝てた?』
「いえ、大丈夫です。それより何かご用ですか?」
『まあね。カタストロフィっていうのが何かがちょっとずつ分かりかけてるから』
「……なぜですか?」
私がそう訊くと、お嬢様はこともなげに答えた。
『月に、船団の先遣隊が来ているそうよ。月の都の奴らは敵の侵攻を食い止めてるみたいだけど』
「月? そんなところを攻めて何の得があるんです?」
『そりゃ、基地にするんでしょ。月をとれば、船が浮かんでいない地球の裏側へ効率的に兵を送れるから』
「……? まあともかく、交戦はしてるんですね。相手の情報は分かりますか?」
『ええ。ちょっとびっくりだけど、相手は大きいヒト型の生物ね。細部はちょっと違うわ』
「ヒト? つまり、私たちと同じような?」
『そうね。感情もある、知性もある、文明もある……全く別の場所にいた生物同士なのにどうしてこうも似てるのか気になるわね。あなたが言ってた「星人」たちみたいな異形でも全く不思議ではないのに……』
お嬢様の声は、深い興味を示すトーンで続いていく。私が嫌な予感を覚えながらそれを聞いていると、『あっ、そうだ』とお嬢様は何かを思いついたような声をあげた。
「咲夜、もしできるなら、帰るときにその巨人を一匹捕まえてきてくれない? 興味があるの」
京が持っていた敵の点数が分かるパソコンは果たして自前だったのか否か…京に高等技術があったとは思えないですが、後の描写的にはやはりアクセス自体はできるんでしょうねえ。