時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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4、ガンツ

 

 

 じじじじ。

 

 私が転送されてきた時、玄野ははっとこちらを見て、なんだお前かとでも言いたげに肩を落とす。生き残って悪かったわね、と言ってやりたい気分だったが、彼からすれば生きていて当然の私よりも、死にかけだった加藤が転送されるかどうかが重要なのかもしれない。玄野は私に背を向けたまま、訊く。

 

「咲夜……加藤は、どうだった?」

 

「…………生きてましたよ」

 

 それを聞いた玄野が振り返るのと、新しく人間が転送されてくるのは同時だった。

 

「加藤君よ……ね……ねっ」

 

「うん、この高さはそうだ……絶対、そうだ」

 

 皆の予想通り、加藤がレーザーで描き出されていく。加藤は何故か何かを締め上げるようなポーズをとった状態で転送されてきているようだった。

 

「あ、あれ? 計ちゃん……? どーなってんだ? ねぎ星人は?」

 

「あいつはもういない。俺たち……帰れるんだぜ」

 

 加藤は玄野の言葉に目をみはる。信じられないといった顔だったが、玄野とその隣にいる彼女が涙ながらに帰還できることを信じているのを見て、少し表情を和らげたようだった。

 

 ちーん。

 

 突然聞こえたその音に、皆が反応する。どうやら今の音は後ろの黒い玉から出たようで、新たな一文が表示されていた。

 

『それぢわ ちいてんをはじぬる』

 

 西は、誰に言うともなしに呟く。

 

「ガンツが採点始めるぜ」

 

「はあ? ガンツ? 何それ?」

 

「この玉の名前。俺がつけたんじゃない。前からあったんだ」

 

 西と玄野が話している間、いつの間にやら犬が走り出てきて、ちょこんと黒い玉—ガンツの前に座る。そういえばこの犬も星人を倒すためのメンバーとして数えられているのだろうか、と不思議に思ったが、まさか犬語で聞くわけにもいくまい。放置することにした。

 

『いぬ 0てん

 やるき、なちすぎ

 ベロ 出しすぎ

 シッポ ふりすぎ」

 

 きゅうんん、と悲し気な鳴き声をあげ、犬はとぼとぼと歩き去っていく。その姿はどこかユーモラスで、ほんのちょっぴりだけ笑ってしまった。

 

『巨乳 0てん

 ちち でかすぎ

 ぱんツはかづにうろつきすぎ』

 

「巨乳って……」

 

「あたし!? なにこれもー。しかも0点だし……」

 

 まあ巨乳と書いてある時点で私だとは思っていなかったが。しかし、巨乳の反対語を私のあだ名にしていたら、このガンツの本体であろう中にいる人物の頸動脈を掻っ切らねばならない。

 

『加藤ちゃ(笑) 0てん

 おおかとうちゃ(笑)死にかけるとわなにごとぢゃ』

 

「………さぶ」

 

「ウケ狙ってるよね、これ……」

 

「そうだな。そういえば俺、何点なんだろ……ドキドキしてきた」

 

『西くん 3てん

 TOtAL90てん あと10てんでおわり』

 

「ちっ、3点かよ」

 

 西の採点画面を見て、やはり、と思った。西はさっきのような戦場を何度も経験していたのだ。その結果がトータル90という点数。仮に今日のような戦闘1回で手に入る点数を3は少ないようなので5点と見積もっても16回は戦闘をしている計算になる。そして、この「おわり」とは一体何なのだろうか。

 

 考えていると、また表示が変わる。私の採点結果だった。

 

『めいど 0てん

 ずるしすぎ

 点取らなすぎ』

 

「………」

 

 ガンツは私の時間停止の能力も、それを行使したことも知っているのだ。それでいて、使用を認めていたのかもしれない。しかし周りの人間には特にそんな能力が備わっているわけでもなさそうなので、確かに「ずる」に相当する行為なのかもしれない。

 

「ズル……?」

 

 玄野と西が、ちらりとこちらを見る。私は首をかしげて「ああ、途中で玄野さんを追ってたねぎ星人を撃とうとしたからですかね」と言い訳したが、納得したのは玄野だけで何故か西の方はそれでもしつこくこちらを見続けていた。

 

 別に能力について説明しても良かったが、信じてくれるかわからないうえに認められたら認められたで大変なことになりそうだ。それに、何となく西の前で自分のカードをさらすと良くないような気がした。

 

『くろの 0てん

 巨乳みて ちんこ たちすぎ』

 

「はァ!? あ……あっ」

 

 にやり、と西も笑う。当の「巨乳」、彼女はさっと玄野から離れ、加藤の方に駆け寄る。玄野は溜息をついた。

 

「なんだよ、もう……てかこれで終わり?」

 

 ガンツはそれ以上何も表示しない。西はそれを確認するや否や、さっさと部屋を出て行こうとする。

 

「どこに行くのですか?」

 

「外。ドア開いてるぜ」

 

「ちょっと待ってください。いろいろ訊きたいことがあるんですが」

 

 私が言うと、西は立ち止まった。残りの3人も、頷く。西は少し考えてから、

 

「いいぜ。俺の知ってる範囲ならな」

 

「……じゃあ私からでいいですか。あなたは何者ですか? そして何故他の方よりもこの戦いの知識があるのですか?」

 

「……あんたこそ何者なんだよ」

 

 ぼそり、と私にしか聞こえないほどの声で西が呟いてから、続ける。

 

「俺は、普通の中学生だ。ただ、ここに来たのは1年前……というわけ」

 

 1年前。ということは、やはり推測通り、今夜のような戦いを繰り返してきたのだろう。それなら戦いについて私たちよりも多く知っていて当然である。問題は……。

 

「なんでわざと見殺しにした!? お前が最初に教えていれば皆生き残れていたかもしれない」

 

 加藤が詰め寄る。頭の回転が戦闘時以外は少々鈍いらしい玄野や名前もよく知らない少女もそれに気づき、「そーいやそうだ」、「なんで? どうして教えてくれなかったの?」と西に訊く。しかし西は何も言わず、加藤たちを見やるばかりである。

 

「……答えろッ!」

 

 加藤がついに耐えきれなくなり、西の胸ぐらをつかみ上げる。西はにやっ、と笑って、

 

「知ったこっちゃねえ。他人が死のうが生きようが。それにあいつらが死んでる間、ターゲットが油断するだろ」

 

「………」

 

 加藤は怒りのあまり声も出ないようだった。といっても私は加藤のように西を糾弾しようとは思わないし、そもそもそんなことをする資格はない。私も初めは西のように様子を見ようとしていたからだ。

 西は加藤を見上げ、挑発するように続ける。

 

「何がしたいんだ? 殴りたいのか、俺を? お前偽善者くせーんだよ。こん中で一番。なあ、偽善者、偽善者‼」

 

 加藤が、手に力を込める。玄野も今の言葉で頭に来たらしく、「殴っていいぜ、そいつ!」と言っている。

 

「あーあーしょうがねえなあ、馬鹿どもが。俺が一番この中で強いんだぜ?」

 

 西は、加藤の手を掴み、力を込める。さほど力を込めているようには見えないが加藤は痛みを感じているようで、みしみしみし、と嫌な音が聞こえてくる。

 

「手を離せ」

 

 玄野は、西の頭に銃を突き付けていた。西は少し汗をかきながら、

 

「撃てんのか? 頭破裂するぞ」

 

「なら、腕を狙う……」

 

 すっ、と玄野は狙いを変え、西の腕に狙いをつける。しかし、すぐに慌てたように口を開いた。

 

「聞きたいことはまだまだある……。お前、俺は生きてるって言ってたよな。本当に生きてんのか?」

 

「………生きてるよ。だが、俺の考えでは本体……オリジナルは本当に死んでる……!」

 

「はあ!?」

 

「ここにいる人間は、ファックスから出てきた書類なんだよ。コピーだ」

 

 西はそう言うと、何やらあのねぎ星人の居場所を示していたコントローラーのボタンをかちり、と押す。すると西の姿が一瞬でかき消えた。

 

「なっ!?」

 

「ガンツって結構いい加減な奴だからさ、前にいたオッサンは帰ったらオリジナルが死んでなくて……ま、いっか。帰ってもここのことは話さない方がいいぜ。頭バーンだからな。ははは」

 

 きい、がちゃん、と音がして、西の声はそれ以上聞こえなくなった。どうやら出て行ったらしい。

 

「……いなくなったようです」

 

 しばらく玄野たちは顔を見合わせていたが、誰が言うともなしに外へ出ることになった。私がドアを開け、次いで玄野、少女、最後に加藤が出るとドアはがちゃり、と音がして、勝手に鍵がかかってしまった。

 

「あ、開かね」

 

「いいだろ。そんなの。それより早く帰ろうぜ」

 

 私はそこではっとした。私は幻想郷へ帰れないのだろうか、と。皆はこちら側の住人だから家に帰ることができるかもしれないが、私は紅魔館に帰れなくてはただの一文無しにすぎない。あのガンツがご親切に幻想郷へのワープゲートを作ってくれるなどということは無さそうだし、私は少なくとも、どこかに住むところを確保しなくてはならない。

 

「おい、皆でタクシー乗るぞ。あんたもメイド服でこのあたりをうろつくわけにはいかねえだろ?」

 

 玄野は、手招きして言った。どうやらこちらではメイド服で外をうろつくのはまずいらしい。やはり外の世界は幻想郷とは違い、勝手がよくわからない。人に頼ると言っても、私の知り合いは、残念ながらこちらの世界には1人もいない。

 

私は玄野の後を歩きながら、意を決して声をかけた。

 

「あの、悪くなければですけど……あなたの家に私を泊めることって、できますか?」

 

「え、はあ!? ちょっと待って、何、それ……」

 

 玄野はそれを聞いて慌てふためいた。これは何か非常識なことを言ってしまったのだろうか。首をかしげると、玄野は「ああ、嫌ってわけじゃない。俺一人暮らしだし、全然OK。だけど、何で……?」

 

 私は本当のことを玄野に話すかどうか迷った。だが、本当のことを話したところで何の意味も無いし、今日のような非現実的なこと(少なくとも彼らにとってはそうに違いない)の後でも幻想郷の存在などこちらの人間は信じようともしないだろう。頭がおかしいと思われるよりかは、まだ真実味のある嘘をついた方がいい。

 

「……私、刺される前の記憶が、無くって……どこに帰ればいいのか……」

 

 ついでに目を伏せる。玄野はそれを見て元気づけるように肩を叩き、

 

「そっか、なら俺の家にひとまず泊まっていってくれ。まあこんなことがあるくらいだし、記憶喪失も、まあ普通にあるだろ」

 

 どうやら信じてくれたようだった。私はおそらくこれから行われるであろう宇宙人との戦い以外にも、ある程度こちらの世界に順応しなければ生きていけない。情報収集から始めなければならないだろう。

 

 私たちはエレベーターという上下運動を繰り返す金属質の箱に乗って高い建物の1階へ降り、これまた妙な姿をした乗り物が走ってくるのを見ると、手をあげ、停める。どうやら中で運転している者に金を払って車に乗せてもらうらしい。

 

「……ほんとに、いいの?」

 

 玄野が、囁くように訊いてくる。

 

「……ええ、まあ食費は明日になったら何とかしますし、毎日お食事をつくるのと洗濯、掃除くらいならできます」

 

「……そうか」

 

 玄野はぷいと顔を背けると、奇妙な乗り物—車に乗り込む。4人で少々手狭だったが、我慢して乗っていると、加藤が「そういえば」と言って真ん中に座る彼女に訊く。

 

「名前、何?」

 

 そういえば、自己紹介の後に出てきたので誰も彼女の名前を知らない。玄野もそれに気が付いたようで、ちらちらと2人の様子を窺っていた。

 

「あたしは、岸本恵よ」

 

「そうか、岸本か」

 

 加藤は頷く。玄野は「俺とおんなじ名前だ……」と呟いていた。

 

 私たちは闇の底を走る車の中で街灯の煌めきに照らされながら、各々の帰路についた。

 

 

 




ここまでで2巻の内容でまだまだ私の知っている範囲からは抜け出さないので、しっかり書いていけそうです。

採点のところを書いてて思ったんですが、ガンツの鏡文字って普通じゃ書けませんよね……少なくとも私の使っているソフトでは無理そうです。
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