時止めメイドと黒い玉 作:ばるばろさ
「えーと、まず何から訊けばいいんですかね」
私は西と対峙しながら、口を開いた。見れば向こうは上着の下にスーツを着て、おまけにあの銃も持っている。対してこちらは銃のみ。いくら時が止められるといっても、西が殺す気で動いてきたらまずい。
食べもしないのに動物を殺すような異常な趣味の持ち主であるらしいし、警戒するに越したことはない。しかし人通りの多い場所で撃ちまくることは難しいし、そもそも私を殺すメリットがない。彼の銃の向きにさえ気を付けていればいい。
「あんた、この辺に住んでるのか?」
「……さあ、どうですかね。そんなことよりあなた、あの戦いについての知識がいっぱいあるんですよね? ちょっとだけ、教えてくれませんか?」
「………ったく、取引になってねえじゃん」
西はちっと舌打ちをした。
「あんたには聞きたいことがあるんだよ。例えば、俺がステルスで隠れてる間、あんたは一瞬だけブレたように見えた。ねぎ星人に吹っ飛ばされた時と、銃をぶっ放す時に。撃つ時も、全くタイムラグが無かった」
「……何の話ですか?」
あの部屋でしつこく私を見てくると思ったが、やはり時間停止の瞬間を見られていたらしい。それで私にこんな質問をしているのだろう。そう思っていると、西は「そうだ」と納得したような仕草を見せ、
「分かったぞ……あんた、100点クリアして、「強力な武器」を選んだんだろ?」
「は……? 強力な武器?」
私がぽかんとしていると、西は片眉を上げ、
「今更演技してもおせーんだよ。どうせあんた、どっかで100点クリアして新しい装備持ってんだろ? だから俺の知らない攻撃方法があるんだ」
「……ちなみに、100点取るとどうなるんですか?」
「だから初心者のフリはもういいって。ほら、記憶を消されてガンツから解放されるか、強力な武器を支給されるか、そして誰かをガンツのメモリーから生き返らせるかの3つから選べるってことくらいは知ってるだろ?」
知らない。彼は何も聞かなくても勝手にぺらぺら喋ってくれるのではないだろうか。そう思っていると、西はにやっと笑って、
「だからさ、ちょっとその武器ってどんなのか、見せてほしいんだよ」
「いや、知りませんって」
まず私自身の能力であるから、物体として見せることはできない。しかし西は私がガンツから支給されるという強力な武器を持っていると信じて疑っていないようだった。
「仕方ないな……なら効果だけ見せてもらうか」
「………!」
かちゃり、と西は銃を私に向ける。そして、その人差し指が引き金を引く直前、私は時を止めた。
「危なっかしいわね……」
止まっている時の中、私は西の右手から銃を奪い取り、ついでに左手に持っていたレーダーももぎとる。そして後ろに回り込んだ丁度その時、時間停止が解除された。
「……なっ!」
西は空になった両手を見て、驚いているようだった。そしてその後頭部に、ごり、と頭に当てて銃口を突き付ける。
「あなたも分からない人ですね……本当に知らないって言ってるんですけど」
「はは……でもやっぱり、何かは隠し持ってるんだろ? じゃなきゃこういうことはできないし……銃とレーダー、返してよ」
「次の星人との戦闘の時に返しますよ」
「は? ふざけんなよ、おい……」
今西にこれを返せば、私が持っている武器を奪おうと考え、姿を消して襲い掛かってくるかもしれないし、家まで
「では、ごきげんよう。またあの部屋で会いましょう」
私は西を突き飛ばすと、あの部屋で西がやったように装置で姿を消した。それを見た西はきょろきょろと辺りを眺め、返せと叫んでいたが、そのときには既に私は西を尻目に、さっさと走り去っていた。
(遅くなったわね)
私は図書館でこの世界の歴史や地理、通常の生活などを調べているとあっという間に時間は過ぎ、玄野の家に戻るころにはすっかり日が沈んでしまっていた。一応西に出会わないよう、図書館から出た後、夕食の材料を買ってから寄り道せず、真っすぐここまで帰ってきた。
もちろんそれだけ時間を費やした分、収穫は十分だった。私はどうやら地球という無限の虚無の中にぽっかりと浮かぶ惑星の日本という国、さらにその人口の集中する東京という里に住んでいるらしい。そしてこちらでは予想以上に科学が魔術や超能力よりも幅を利かせており、特殊な能力を持っていない一般人でも金さえ払えば空を飛べるし、場合によっては強力な武器を持つこともできるらしい。
社会のシステムも幻想郷とは違い、なんとここでは20歳を超えてもまだ勉強を続けるのだという。私などは基本的な読み書き計算をお嬢様から教えてもらっただけで、後の訳の分からない問題は里の道楽者がやる遊びだと思って一切しなかった。
居候させてもらっている玄野も勉学という暇つぶしを本業にしているらしいが、数字や知識をこねくりまわして遊び続けるだけで良い職に就けるとは、こちらの世界はなかなか楽しそうである。
「玄野さん、帰りました」
鍵を差し込んでドアを開けると、そこに立っていたのは玄野—ではなく、色素の薄いショートヘアの、少女だった。
「はえ?」
少女は私と顔を見合わせたまま、動かなかった。私も彼女を見据えながら、どこかで見たことがあるなと思って記憶をまさぐると、ガンツの部屋に全裸で転送されてきた、岸本恵だということを思い出した。
「……あなた、あの時、一緒にいた……」
丁度彼女も私のことを思い出したらしい。そう言ってそのまままじまじとこちらを見て、言う。
「……なんで玄野くんの家に?」
「それはこっちのセリフですが……訳あって昨日から彼の家にお邪魔させてもらっているわけです」
そう言うと、一瞬だけ岸本はぽかんと口を開けた。次いで玄野がいるらしい居間の方を見て、「ふーん、そういうこと」と呟いた。
「……妙な勘違いをされては困ります。私は住まわせてもらう代わりに家事をする契約を結んでいますので」
すると彼女は慌てて、「いや、変な意味じゃなくってね」と答えた。ではどう意味だと詰め寄るのも面倒なので放っておくことにしたが、それよりも気になるのは彼女が何故ここにいるのかという理由である。私がそれを聞くと、岸本は嫌なことを思い出したとでもいうように顔をしかめ、
「実は私ね、2人いるの」
それから続いた彼女の話を要約すると、昨日の夜、戦いの終わった後に岸本はすぐに自宅へ帰ったのだという。そして服を着替えているうちに電話がかかってきて、それは死んだはずの自分が助かっていたということを知らせるものだったのだ。
『ガンツって結構いい加減な奴だからさ、前にいたオッサンは帰ったらオリジナルが死んでなくて……』
私の脳裏に西の言葉が蘇った。つまり彼女は死んだと判断されてあの部屋にコピー人間として作り出されたが、帰ってみたらオリジナルはまだ生きていたという事だろう。そして行き場のない彼女は、住処を探して玄野の家にたどり着いたというわけか。
ぞっとする話である。今こうして考えている私もおそらくオリジナルは既に死んでおり、それを元にしたコピー人間なのだということを否応もなく自覚させるものなのだから。しかしそれでも主観的には特に不都合は無いので、問題はあまりないのだが。
「玄野さんの家はどうやって見つけたんですか?」
「貸してもらった服の中に、生徒手帳があって。それで住所が分かったの」
「なるほど」
生徒手帳とは、玄野や西のような学生がそれを証明するための、一種の身分証明書のことだろう。……しかし玄野は昼に学校に行っているらしいが、西は普通にその辺りを歩いていた。学校にも様々な種類はあるのだろうか……。と思考が横道にそれかけた時、居間の方から玄野の声が聞こえてきた。
「あれ、咲夜帰って来たの?」
私は居間に入ってテレビを見る玄野に軽く会釈をした。
「はい。遅くなりました。今日の晩御飯の献立は生姜焼きですよ」
「おっ、美味しそうじゃん。……それとゴメン、明日から岸本の分も買ってきてくれない? 食費は俺が出すから」
玄野はテレビから顔を上げると軽く手を合わせ、そう言った。まあ学生としてこれまで勉強しかしてこなかったであろう岸本にいきなり稼げと指示したり、能力も無しに私のように盗みを働けと言ったりしても難しいだろう。しかしずっと玄野に世話になるわけにもいかないだろうし、岸本はこれからどう過ごすつもりなのだろうか。
そう思っていると岸本は玄野の座っているソファに腰かけ、テレビを見て笑い出した。たいした能天気ぶりである。横にいる玄野は玄野で、ちらちらと横に座る岸本を見ている。彼女に気があるのは知っているし、だからこそ居候までさせているのだろうが、ここまで分かりやすいのも珍しいかもしれない。
「……もう、冗談じゃないわよ! あんたが喧嘩するたびに呼び出されて……」
計ちゃんと一緒にホームレスを助けようとして死に、あの妙なガンツの部屋で戦ってから何日か過ぎたある日のこと。俺ー加藤勝は家に住ませてもらっている伯母さんに呼び出されていた。
というのも、俺は計ちゃんのようなスゴイ奴を目指して、学校でヤンキーに絡まれている奴を見るたびに助けていたのだが、先日その中でも大物の鬼塚という3年に目をつけられてしまったからだ。
プロボクサーで体格も俺より良いという話を聞いて心底恐ろしかったが、何とかトイレに籠っている最中に喧嘩を吹っかけて、ようやく勝った。これでこの学校のヤンキーも他の弱いやつにちょっかいを出さなくなるだろう、と安心していたが、教員から伯母さんが呼び出しを喰らってしまった。
俺の両親は既に死んでおり、今は叔母さんの家に厄介になりながら弟の歩と暮らしているため、伯母さんにはどうしても頭が上がらない。
「だいたいね、いくら妹の子供だからって私が面倒見る義理はないんだからね。そのうち、世の中の渡り方教えてやるから。他人なんだからね、この家の人間は」
「………すみません」
喧嘩をしたのは俺で、その度に伯母さんが呼び出されるのに辟易するのは当然のことだし、叔母さんの怒りは当然だろう。俺がうなだれていると、がらりと戸を開けて伯母さんの子供がやってきた。これからステーキを食いに行くらしい。伯母さんは俺に
「じゃ、お留守番よろしくね」
と言って、その子供たちと一緒に行ってしまった。玄関を閉める直前、子供の一人が、「勝くんたちも連れて行ってあげたら?」と言ったのに伯母さんが「だーめよ。甘やかしたら」と答えるのが聞こえてきた。
その後晩飯をつくって歩と一緒に食べていると、歩が「兄ちゃん、ステーキ食べたい」と言った。
「……今度バイト代上がるから、その時に食おうな」
「………うん」
歩は俺たちに金の余裕が無い事をきちんとわかっているから、あまり無茶なわがままは言ってこない。だが、歩も心の中ではやりたいことや食べたいものなどがまだまだあるに違いない。だからこの家を出て、もっと稼げるようになったら思う存分ステーキを喰わせてやろう、というのが俺の一つの目標である。
夕食を食べ終わって、俺は二人分の食器を持って台所へ戻り、さァ皿を洗おうという時に、「それ」は起きた。
ぞくり。
「なんだ、これ……?」
うなじに、奇妙な寒気がした。
「……あ、なんか今寒気がした」
「私も」
私が皿を洗い終わって居間へ戻ってくると、玄野と岸本はそんなことを言って首を捻っていた。実は私も、戻ってくる途中で嫌な悪寒に襲われ、風邪を疑っていた。しかし何故3人同時に寒気がはしったのだろう、と思っていると、やがて、きゅいいいん、という音が聞こえてきて、ぴきっ、という音とともに体の自由が利かなくなっていた。
「なんだこれ。体が動かね」
「金縛りですかね……?」
私がそう言った瞬間、あの焼け焦げるような音が聞こえてきた。
「げ、咲夜……転送されてるぜ」
転送? ということは、ひょっとするとガンツが新しい星人を見つけたのかもしれない。またこの前と同じような戦いになるのだろうか?
あの戦場にまた呼び戻されるーそう思うと、ふっと笑みが浮かんだ。
それならば、今回の戦いでは星人をなるべく私だけで殺してやろう。西の言っていた100点メニューから、1番—記憶を消されてガンツから解放される、を選んで早いところこの血みどろの戦いから去り、幻想郷に帰らなくてはならないのだから。
私が転送された先はやはりガンツの部屋で、先客—西がいた。準備よく既にスーツを服の下に着こんでいる。私が転送されてきたのを見ると西は、はあと1つため息をついた。
私は西のその態度にかちんときたが、その理由を思い出して、ポケットからレーダーを取り出した。
「あ、この前のレーダーです。銃は向こうに置いてきちゃったんですけど……」
「もういい。どうせまだレーダーも銃もガンツの中にある。あんたが持ってろ」
しばらくして前回のメンバー、玄野、岸本、加藤、犬が転送されてくる。犬が出てきた後も転送は続き、目つきの狂暴な若者が4人、老婆、子どもが現れ、最後に若い男女が出てきた。一人はハンサムな顔つきで、もう1人は前髪がだらりと垂れ下がり、顔を覆い隠している。おそらく彼らは新規のメンバーだろう。
「……おい、どこだよここ」
若者の1人がそう呟いたとき、例の歌が流れてきてガンツの新規メンバーへの死亡宣告が終わった後、表示が変わった。
『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい
《田中星人》
・特徴 つよい、ちわやか、とり
・好きなもの とり、カラス
・口癖 ハァ― ハァ― ハァ―』
GANTZって時間少しでいいから止まれーっ! ていうシーンが多かったのでこういう話を書いているわけなんですが、実は咲夜以外にも時間停止能力者の主人公候補がありました。
以下没主人公候補たち
1,グルド(ドラゴンボール)
息を止めている間だけ時間を止められる。ただし彼自身が宇宙人であるため、ガンツメンバーになる前に多分ミッションのターゲットにされる可能性が高いので却下。
2,Dio(ジョジョの奇妙な冒険)
スタンド(the world)で9秒時を止められる。ただし吸血鬼なので昼に戦闘がある場合は駄目だし、日常生活が書きにくいので却下。
3,暁美ほむら(魔法少女まどか☆マギカ)
時間操作能力の1部で時をおそらく任意の時間だけ止められる。魔女との対決+ガンツの呼び出しの過労が懸念され、しかもどっちの戦いも味方が死にまくる鬱展開になりそうなので却下。
4,ドラえもん(ドラえもん)
タンマウォッチで任意の時間停止が可能。しかも地球破壊爆弾を使えば人類は滅亡するもののカタストロフィを防ぐことができる。チートすぎるので却下。