時止めメイドと黒い玉 作:ばるばろさ
星人の表示の後、がちゃんと音がしてガンツの中から格納されていた武器が出てくる。新規メンバーの中でも目つきの悪い4人組は興奮して、銃をいじり始めていた。
「……ほんとなんだこれ。おい、お前知らねーか?」
「……こっちが聞きてーよ」
先ほどの前髪の異常に長い女と一緒に出てきた男もいきなりこの状況に放り込まれたことに神経がいらだっているのか、つっけんどんに返す。傍ではどうやら孫と祖母であるらしい二人がいて、子どもはお家に帰りたいと泣きわめいていた。
今回の新規メンバーはやはり全員が戸惑い、ざわめいていた。私としては彼らが生き残ろうが生き残るまいがどちらでもいいが、少なくとも玄野に死なれては困る—また宿無しになるからだ—そう思って玄野の方を見ると、何故か青白い顔をして、何度もスーツの入っているはずのケースの中を確認していた。
「……どうしたんですか?」
「……スーツ、忘れてきちまった……」
「え」
そういえば私が西から没収した銃はここには転送されてこなかった。玄野はスーツを持ち帰っていたのだろうが、いくつか替えのある銃と違って、スーツの有無は前回の戦闘でもそうだったように、生死にかかわる。
「……しょうがないですね。戦いの間はどこかに隠れているしかどうしようもない……」
それに玄野が何か答えようとした瞬間、加藤がざわめく新規メンバーに向かって、口を開いた。
「ここにいる全員が生きて帰るために、できるだけ情報を伝えたい。……まず、全員どこかへ転送されると思う」
それを聞いた西は、「ふざけんな!」と叫んでいた。おそらく前回のように点数を横取りするチャンスが減るからだろう。しかし加藤は構わずに続ける。
「この、スーツを着るかどうかで、生き残れるかどうかが決まるんだ……」
加藤が説明しようとするが、ガラの悪い4人は意に介さず、銃をいじって無視し続けている。先ほどまで誰か教えろなどと言っていたくせに、大した無関心ぶりである。
「……着ると、どうなるんですか?」
子供と一緒に居る老婆が訊いてくる。加藤はこれから着替えるのかケースを持って歩きながら、
「着た後に説明します。とにかく、着てください」
その後岸本や私、老婆と子供が着替え終わった。そして加藤はその時点でまだスーツを着ていない玄野を見てスーツを持っていないことに気が付いたらしい。
「……どうすんだ、計ちゃん。一応死なないように守るけど……死なせはしない……そうだ」
加藤はそう言って、スーツを持っていない玄野ににやにや笑いを向けている西を振り返る。
「……計ちゃんが生き残る方法は無いのか!?」
「ないね。いさぎよく死ね」
西がそう言ってけらけら笑っていると、その傍で銃をいじっていた若者の一人が、引き金を西のほうに向けて引いていた。
ぎょーん。
「あ………なんか出た?」
玄野や加藤、岸本、そして私は息を呑んだ。あの銃は、内部から敵を破裂させる銃である。それを西が食らったということは、数秒後には—
「……ざけんなよ」
何故かしばらくしてもその頭は破裂せず、西はすぐさま袖の中に隠していたらしい銃を取り出し、引き金を引いた若者の頭に狙いをつけ、一発だけ撃つ。
「何しやがんだ、このガ……」
その瞬間、若者の頭が一瞬大きくなったかと思うと、内部から爆裂した。
「きゃああああ!」
岸本が目を背け、叫ぶ。玄野は胃の内容物を床にぶちまけていた。せっかく先ほど私が料理を作ったのにもったいないと思いながらも私は返り血を浴びながらたたずむ西を見据える。
(やっぱりあの時銃とレーダー奪ってて正解だったかも)
西はじろりと皆を睥睨し、口を開く。
「いいか、よく聞けバカども。俺に銃を向けた奴は、ソッコー殺す。ソッコー殺すからな。ちっこい脳みそに記憶しとけ」
それだけ言ってつかつかとガンツに歩み寄っていく。途中で加藤が、
「……銃で撃たれてもなんともないのは、そのスーツのおかげか?」
と訊いたが、西は背を向けまま、
「質問にはもう答えない。……おいガンツ、俺を一番先に転送しろ」
すると西の体が頭からだんだん消えはじめた。気の利かない、というよりも明らかに悪意のある情報を流してくるガンツがこんなことをするとは思わなかったが、誰を先に転送するかどうかは自由なのかもしれない。
「ガンツ……私も、次に転送してください」
西はおそらく今回、積極的に点数を取りに来る。残り点数がたったの10点だから、今回の戦いで100点を集めてしまうことができるかもしれないからだ。別に彼が100点を取ってもそれ自体に問題は無いが、彼が1番—記憶を消されて解放される選択肢を選びたい場合は彼の持っている情報も一緒に消えてしまうため、あまり点を取らせたくない、
西が転送され終わると、続いて私の体が転送され始める。
「ではお先に……あ、加藤さん」
「何?」
「玄野さんのこと、頼みます。星人はできるだけ私と西で斃しますから……他のスーツのない人を、守ってください」
「……分かッた」
星人は殺したくないらしいし、加藤ならばスーツを着ていない者を守るという役にはぴったりだろう。私にとっても加藤にとっても得になるのだから、この上なく効率のいい役割分担である。
「咲夜さんも、気をつけてくれ」
「了解です」
瞼を開けると、街灯の光が目に飛び込んできた。辺りを見回すと、まだ周囲には誰もおらず、ただ暗い夜道の中にぽつんと私だけが立っていた。
(そういえば制限時間は1時間、だっけ……)
制限時間が切れるとどうなるのか分からないが、どうせ頭が吹っ飛ぶのだろう。玄野が言うには前回の戦いの途中で家に帰ろうとした老人は頭が破裂していたらしい。西もガンツのことをメンバー以外に知らせたりすれば頭が破裂する、というようなことを言っていたし、ガンツによるペナルティーは頭の中に仕掛けられているらしい何かによって行われるのかもしれない。
(なら、私は今回のターゲット—田中星人を探すべきかしら)
さっき加藤に玄野のことを任せてきたので、動けるのならば今すぐにでも田中星人を倒しに行くべきだろう。西から奪い取ったレーダーを確認すると、すぐ近くに一つの反応があった。おそらく近くに田中星人がいるのだ。
私はレーダーを見ながら、田中星人がいると思われる方向へ駆ける。
(最初は姿を消して様子を見てみるか)
かちり、とレーダーのボタンを押して姿を消す。転送直後に西の姿は見当たらなかったので、もう既に彼も姿を消してどこかで田中星人を探しているのかもしれない。
「……うわああ!」
すると田中星人の反応のあるところから、玄野の声が聞こえてきた。どうやら真っ先に彼が遭遇してしまったらしい。角を曲がると、橋を挟んだ川の向こう岸で玄野が何かから逃げているのが見えた。
追っている者—田中星人は遠目には人間に見えるが、金属光沢のせいでどちらかというとブリキの人形のようである。しかしねぎ星人のときもそうだが、私が戦場で玄野と会うたびに星人に襲われているのは何故なのだろうか。
「……計ちゃん、はやくこっちに!」
と、加藤の声がした方を見ると、そこにはあの部屋にいたメンバーが揃っていた。どうやら私だけ少し離れた位置に転送されたらしい。私はとりあえず橋を渡り、傍で田中星人を観察すべく、歩を進める。
「……雄三君? 雄三君?」
近づくにつれて、田中星人が喋っている内容が聞こえてくる。といっても、ねぎ星人のときと同じく、意味不明な言葉ではあるが。
他のメンバーは田中星人を見たまま、動かない。玄野と加藤が田中星人の目の前で何かを喋っているが、田中星人もそれを襲う気がないようだった。
田中星人の足元を見ると小さい鳥が歩き回っていた。ぎょろぎょろと血走った眼玉に巨大な
(とにかく、あの田中星人を撃つ……!)
私は少し近づいて、田中星人に狙いを定めようとする。するとその時、田中星人が怒ったような顔でこちらを向いた。
(………バレた!?)
田中星人はこちらを睨み、大口を開け、次の瞬間に—
「カアアアアッ!」
「うっ!」
びりびりと空気が震える。大音量が私の鼓膜を叩き、その痛みに少し顔をしかめる。おそらく田中星人の放った攻撃の正体は音波の類だろう。音の塊で攻撃してくるのだ。
そこまで考えた時、バチバチと音がして、私のステルスが少しだけ解けた。そして何もいないはずだった私の左方の空間でも同様にバチバチと音がして、西の姿が一瞬露わになる。
「ちっ……!」
よく見ると西の足元にはあの小鳥の死骸があり、西の足にはその血がついていた。おそらく私と同じように田中星人を撃とうとして、足元を動き回る小鳥に気付かずに踏んでしまったのだろう。
(……てことは西のせいで私、巻き添え喰らったんじゃ……)
再び田中星人があの怪音波を発し、私と西の周りでばちばちとスパークが散る。西はまた舌打ちをすると、橋から身を躍らせ、川へ逃げ込もうとした—が、彼はどうやら田中星人のみに集中して私の存在に気付いていなかったらしい。
私は西が移動するルート上にいて、しかも西はスーツの力で一気に手すりを登ろうとしていた—つまり、西の逃走に巻き込まれ、私の体も手すりを越え、空中を舞っていたのである。
「……ハァ?」
「周りもっとよく見てくれませんかね」
西が私の声が聞こえたのに驚き、目を瞠った瞬間、2人仲良くどぼんと着水していた。
「……ったく、あんたも隠れてたのか……!」
「別に隠れるのはあなたの専売特許じゃないですからね。それより、来ますよ」
「カアアアアッ!」
田中星人は川に飛び込んだ私と西を狙って攻撃してくる。ごぱっ、という音と共に水面が弾けた。
「……くそっ!」
そしてその攻撃の後、西の姿が現れる。また隠れようとボタンをカチカチと押しているが、どうやら機械が壊れたらしく、姿を消すことはできないようだった。そして私もステルスが解除されたらしく、橋の上にいるメンバーたちは「2人いるぞ!」と叫んでいる。
「とりあえず1カ所に集まっていればまとめて攻撃されます。離れましょう」
西は答えなかったが、ばちゃばちゃと水音をたてて向こうへ走っていく。私も西と反対方向に走り、田中星人がどちらへ来るのか確認する。
田中星人は一瞬だけ逡巡したようだったが、西の方へ飛んでいった。
「そちらへ行きました! 気を付けて!」
西はそれを聞いて銃を構え、田中星人に向かって撃つ。だが田中星人はぴたりと動きを止めたかと思うと、素早く横に移動し、それを回避する。
そしてお返しとばかりに、西に向かって、怪音波を放った。
「カアアアアアアッ!」
まともに攻撃を受けたらしく、西はもんどりうち、ばしゃりと水しぶきを上げて倒れる。田中星人はそれをチャンスと見たのか、一気に西との距離を詰める。西はどうやら銃を取り落としたらしく、慌てて水中を探っている。しかし目のまえにはすでに田中星人のかっぽりと開いた口があり、目はそれに釘付けにされているため探り当てることができないらしい。
そして、田中星人の口から攻撃が放たれる瞬間—私は時を止めた。
「……なんとか、近づけたわね」
もちろん西と田中星人が戦っている間、黙って指をくわえて見ていたわけではない。田中星人が西に意識を向けた瞬間、背後から狙い撃つために移動していたのだ。
もちろんそろそろ時間が動き出すため、あまり悠長にはしていられない。田中星人の後頭部に向かって、立て続けに3発撃ち込んだ。
時が再び動き始めた瞬間、田中星人の頭が爆裂した。ぴちゃぴちゃと肉片が水面に落下し、残った体はがしゃりと音を立てて、水中に沈む。
「うおおおおっ! やった!」
見上げると、上で玄野や加藤が叫んでいる。しかし、新規メンバーはどこかへ行ってしまったらしく、玄野と加藤、岸本の姿しか見当たらない。まさか家に帰ろうとしているのだろうか。
「……そういえば、銃、ありましたか?」
振り返って西に訊くと、西は何故かいらいらとした表情で、
「見つかんね。しかも、スーツがオシャカになっちまった」
どろり、と西のスーツから水とは違う液体が滴り落ちていた。おそらく田中星人の攻撃を何度も受けたせいだろう。西ははあとため息をつき、言う。
「……スーツが無かったら、危なくて戦えやしない。俺は抜ける」
言い残すと西は岸へあがり、階段を上ってどこかへ行ってしまった。すると入れ違いで玄野と加藤、岸本がやってくる。加藤はちらりと田中星人の死体を見て、
「倒してくれてありがとう。……だが、まだ転送が始まらない。咲夜さんも確かレーダーを持ってたよな。ひょっとしたら前みたいにまだ他の星人がいるかもしれないし、調べてくれないか?」
私は加藤の言う通り、レーダーを取り出す。が、西のものと同じく、壊れてしまっているようだった。
「……どうする?」
加藤が言うと、玄野が「そういえば」と言ってポケットからもう一つ、レーダーを取り出す。
「あの背の高い奴から借りてたんだよね。やっぱ帰るって言ってて」
すると丁度向こうから新規メンバーたちが戻ってくるのが見えた。そのうちの1人の姿が見えないので、おそらく戦場外に出たので殺されたのだろう。
加藤は少し考えてから、
「……やっぱり俺はあいつらにいろいろ教えながら戦おうと思う。咲夜さんはどうする?」
「そうですね。私もスーツの耐久度が危ういですし、一応加藤さんと一緒に行きます」
そう言うと、加藤も頷いて、玄野の渡したレーダーに目を落とす。
「……やっぱり。もう一匹いる。捕まえにいこう」
この前ガンツをまとめ買いして24巻まで揃えました。どの戦いも面白いですが、37巻分を全て小説にできるのか不安になってきますね……。
この作品って結構2次作られてそうな気がしましたが、GANTZ原作で調べてみたらハーメルンでは19件(2018年11月30日現在)しかないんですね。しかも完結しているのがごくわずかという……。このペースで進めていっても大丈夫かなあ……。