時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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8、夜の大鴉

 

 

 

 私と加藤、岸本、背の高い美形の男—北条というらしい—と老婆と孫はひとまず、もう一匹の田中星人のいるであろう場所を目指して、歩いていた。玄野と残り二人、そしてスーツの壊れた西は戦いに参加しないつもりらしい。彼らは今、どこか安全なところにいるはずである。

 

「……近い。この辺りにいるはずだ」

 

 加藤がレーダーを見ながら、言う。そのため私たちは息をつめて辺りを警戒したが、まだ田中星人の姿は見えなかった。スーツは着ているものの状況を未だによく呑み込めていないらしい北条が、周りを落ち着かない風にちらちら見ながら、訊いてくる。

 

「……でも、これ何なんだ? 俺たち、いつ解放されるんだ?」

 

「一応、あの田中星人を全滅させれば私たちは一旦解放されます。でも、次に戦いがあるときはまたあの部屋に呼ばれることになりますが」

 

「……そうか。俺たちは死ぬまでずっと、こういうことをやらせられ続けるのか?」

 

「いえ、100点を取ればガンツ―ああ、あの黒い玉のことですが、あれから解放されるらしいですよ」

 

「100点、か」

 

 北条が少し希望を見出したように呟くと、向こうを向いていた加藤が振り返り、こちらを見た。

 

「今の話、本当か?」

 

「……ええ。西さんから聞いたので、多分本当だと思います」

 

「西? いつ聞いたの?」

 

 岸本が訊いてくる。あの部屋での一幕で西へのイメージが決定的に悪くなったらしく、少し怯えの色が見える。

 

「この前玄野さんちから歩いてたら……」

 

「え、計ちゃんと住んでんの?」

 

 これには加藤の方が驚いていた。岸本はどうやら玄野と住んでいることをばらされたくないらしく、目で私に合図してくる。仕方がないので岸本に右目でウインクをして、分かったと答えようとしたとき、

 

「……うわああああ! あれ、あれ!」

 

 突然、子どもが悲鳴をあげた。加藤と私は顔をあげ、その指の指す方を見る。

 

「………田中星人!」

 

 ういん、ういんと奇妙な音をたてながら、もう1体—いや、よく見ると2体目がいる—の田中星人が姿を現す。微妙に人間に似ている分、どこか気味が悪い。さっさと倒してしまおうと銃を向けようとして、

 

「こっちからも来てるわ!」

 

 岸本の叫ぶ方からも、来ていた。こちらも2体。つまり私たちは、計4体の田中星人に囲まれたことに—

 

 私がそう思った瞬間、空から降ってきた田中星人が、凄まじい衝撃と共にメンバーの間に降り立った。道路にびしびしとヒビが入ったが、田中星人は平気なようで、ぎろりと私たちを見る。

 

「……訂正、5体ね」

 

 加藤は突然降ってきた田中星人を凝視していたが、意を決したようにそれに掴みかかった。

 

「う、おおっ!」

 

 がしゃん! という音と共に、田中星人を組み伏せると、加藤はそのまま、ぎりぎりと締め上げる。田中星人は奇声を発しながらじたばたと暴れ、逃れようとするが、加藤はがっしとしっかり胴を抱え、それをおさえていた。

 

 あのスーツはどうやら身体能力の向上の機能もあるらしいから、このまま加藤だけでもこの星人は倒せてしまうかもしれない—と思った瞬間、残りの田中星人たちがこちらへ飛んできた。

 

「……誰か、後ろの2体を頼みます!」

 

「ちょ、ちょっとあんたは?」

 

 後ろから北条が訊いてくるが、答えている暇は無い。私は前方の田中星人2体を視野に入れ、銃を構えながら、駆けた。

 

 田中星人は向かってくる私に気付き、こちらに顔を向ける。そのうちの1体ががぱあ、と口を開き、叫ぼうとした瞬間、時間を止めた。

 

 まだ私はこの銃という武器の扱いに慣れていないので、攻撃するときはこうしていちいち時間を止めて相手の動きを封じなければ攻撃が当たらない。この戦いを無事に切り抜けられたらきちんと的に当てる訓練をした方がいいかもしれない。

 

 私が口を開いたまま固まっている田中星人の顔に一発撃つと、時は再び動き始めた。

 

 血煙を吹き散らしながら田中星人の頭が消し飛ぶ。そして私がもう1体に銃口を向けると、そこにはすでに口を開けたままエネルギーの迸る直前といった様子の田中星人の顔があった。

 

「ち……!」

 

 もう一度あの攻撃を受ければ、西とほぼ同量の攻撃を喰らった私のスーツも恐らく、壊れてしまう。しかも攻撃方法が音波であり、時止めも連続では使えないため、この距離では回避しようがない。

 

—まだだ!

 

 私は田中星人の右腕を両手でつかみ、力を込めると、そのまま力任せに投げ飛ばした。

 

「せいッ!」

 

 宙を舞う一瞬、田中星人の口から例の攻撃が放たれた。しかしその狙いはそれ、どこかの家の屋根が吹き飛ぶ。そしてそのまま背中から落下し—

 

 重い金属が地面とぶつかる音とともに、田中星人は地面に叩きつけられた。自重ゆえすぐに立てないのか、もがいている。私は銃を倒れている田中星人につきつけた。

 

「……3体目」

 

ぎょーん、という音がした数秒後、田中星人の頭が消し飛んだ。……しかし人形のような見た目なのに、なぜ中には臓器や筋肉組織が詰まっているのだろう。

 

首をかしげながら残った田中星人を始末すると、私はすぐに背後を振り返った。こちらは首尾よく全滅させたが、あちらはどうなのだろうかー

 

「咲夜さん!そっち行ったぞ!」

 

「ええ?」

 

目の前には、ぬめぬめとした粘液を滴らせながら走ってくる、鳥の化け物がいた。それは血走った目で私をねめつけ、こちらへ向かってくる。

 

「なんですかこれ」

 

近づいてきたところに数回撃ち込むと、体を四散させ、その化け物は死んだ。加藤たちはこちらへやって来て、死んだ鳥の化け物を見下ろす。

 

「このロボットみたいな奴に、入ッてたんだ。ひょっとしたら、コイツらはロボットみたいなのから出たら死ぬのかもしれない」

 

加藤は説明しながら、ちらりと少し遠くにある田中星人の死体を見る。

 

「……あれは、咲夜さんがやったのか?」

 

「ええ。全部片づけました。そちらは?」

 

「1体逃がした。残りは俺と、そこにいる北条が倒した」

 

「そうですか。……ところであのお婆さんとそのお孫さんは?」

 

そう聞くと、加藤はメンバーの顔ぶれを見て、その2人がいないことに気がついたようだった。そして顔を青ざめさせ、

 

「まずい……あの田中星人は逃げたんじゃない。逃げたこちらのメンバーを追って行ったんだ!」

 

「はやく、助けにいきましょ!」

 

岸本もそう言って、北条も頷く。当然私もそれについて行くーわけではなく、加藤からレーダーを借りて、残り時間と敵の数を確認する。するとレーダー上には現在地の近くーおそらく加藤たちが逃がした個体だろうーともう1ヶ所、反応があった。

 

「……ちょっと待ってください、皆さん。時間があと15分ほどしかありません。それに今逃げたらしい1体以外にももう一ヶ所反応があります。2手に分かれてはどうでしょう」

 

「2手…か。なら俺はあの2人を助けに行く」

 

「私は加藤くんと一緒に……」

 

岸本はよほど加藤が好きなのか、真っ先にそう言った。

 

「では北条さん。私たちは別の方へ行きましょう」

 

「……あ、ああ。あんたが一緒だと心強い」

 

 

 

 

くそっ、あと10点だったのに……。

 

俺ー西丈一郎は、ステルスを見破られた瞬間に慌てて動きづらい川に飛び込み、あのいまいましい田中星人にスーツを壊されてしまった。だからこうしてこそこそと誰かの家の庭に侵入して隠れているのだ。

 

今回のミッションで100点ゲットを達成し、ガンツから解放される予定だったのだが、気負いすぎたせいか、今回は1点も取れずに終わってしまうかもしれない。

 

川に逃げるときに咲夜が俺の撤退の邪魔をして声をあげなかったらターゲットから外れていたかもしれないのにと思うと、田中星人以上に俺をいらつかせるあの女の顔が浮かんできた。

 

(まじであいつは何なんだ……?)

 

ミッション外で出会い、咲夜に銃を向けた瞬間、俺の手の中から銃とレーダーが消えていた。おそらくガンツの100点武器なのだろうが、その正体が分からない。

 

というか東京メンバーは俺しか生き残っていなかったし、そうなると咲夜は別のガンツ部屋から来たことになる。一体何のために? そして何故新規メンバーのように振る舞うのだろうか?

 

質問をしてもはぐらかされ、逆に100点を取っているなら知っているはずの情報を訊いてくる。明らかに俺をおちょくっている態度だ。

 

(絶対、次に吐かせてやる……!)

 

どんな手を使ってもいい。住所をつきとめ、スーツを着ていないであろう日中に襲撃して脅せばその武器を奪うことができるかもしれないーそう思考を巡らせていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきて、俺は頭をあげた。

 

「おい、見てこいよ!」

 

「何言ってんだ。こんなとこに宇宙人なんているはずないだろ!?」

 

玄野とあのどこにでもいるような面白味の欠片もないヤンキーの2人のようだった。こっそり覗き見ると、玄野は銃で脅され、星人の本拠地であるらしいアパートに1人で入っていった。

 

(あーあ、あいつ死んだな)

 

スーツも着ずに星人の本拠地に乗り込むとは、自殺行為もいいところである。玄野もスーツを忘れさえしなければこんな末路はたどらなかっただろう、と思いながら見ていると、しばらくして突然玄野がアパートから出て来て、次の瞬間、みしみしみし、と木の砕ける音がして、アパートが崩れていく。呆然としている2人の前で、玄野は叫んだ。

 

「ははは、やってやった! 俺がまとめてブッつぶしてやったぜーっ!」

 

なるほど、建物を撃って田中星人を建物の倒壊に巻き込んでつぶしたということだろう。ねぎ星人の時もそうだったが、奴は直感がすごいのか、土壇場に強いのかは分からないが、咲夜とはまた違う強さがある。だからこそこの前は「こちら側」の人間だと思って友好的に接してやったのである。

 

「……玄野さん、なぜここに? 田中星人は?」

 

向こうから咲夜と北条が走ってくる。玄野は誇らしげな顔で答えた。

 

「もう全部倒した。あとは転送されるのを待つだけだ」

 

「それなら2手に分かれる必要も無かったですね…」

 

どうやら咲夜と北条は別動隊だったらしい。少しして加藤と岸本がやってくる。

 

「あの2人……助けられなかった」

 

加藤の目の周りには涙のあとが残っていた。たいして関わりのない人間の死にも泣けるとは、相変わらずの偽善者ぶりである。

 

北条と玄野はそれを聞いて少し気まずそうな顔をした。咲夜はなにも言わず、ただレーダーを見ていた。

 

「……あれ、転送されない」

 

岸本がそう言ったとき、玄野ははっとして空を見上げていた。

 

「上だ! アタマが生きていやがった!」

 

「はあ? 上?」

 

暴走族のバカどもの1人が顔をあげる。するとその瞬間、鉤爪がゾクの肩をつかんだかと思うと、そのまま空へ飛んで行って見えなくなった。

 

「なんだ……アレ」

 

ゾクの1人をさらっていった者の正体。それは巨大な大鴉だった。

 

「おい、沼田! 大丈夫か!」

 

もう1人のゾクが叫ぶ。すると空からなにか丸い物体が落ちてくるのが見えた。

 

べちゃり。

 

「うわあっ!」

 

それはさらわれたゾク、沼田の頭部だった。そしてそれに追随するように、巨大な影が空から降りてくる。

 

それが北条の目の前に着地すると、猛烈な風圧が隠れているこちらまで届いたのか、傍の木が揺れる。

 

「な……んだコイツ」

 

加藤は、その怪物を見て、ひとりごちた。

 

真っ黒な羽毛を全身に生やし、鴉のような見た目である。しかしその大きさが異常で、明らかに3メートルはあろうかという巨体だった。

 

「グルルル…」

 

怪物はすぐに襲わず、周りのメンバーの顔を見て、1人1人確認しているようだった。

 

「な、なにやってんだ……?」

 

玄野が言うと同時に怪物の視線は玄野に向き、とても鳥類とは思えない獰猛な鳴き声をあげた。

 

「え……俺?」

 

 

 

 




私は田中ボスより田中星人のほうが何となく怖いですね。ガンツ後半の敵は絶望的に強かったと思いますが、薄気味悪さという点では前半の敵の方が勝っているような気がします。
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