長谷川千雨はペルソナ使い 作:ちみっコぐらし335号
お ま た せ 。
元々は前話と合わせて一つのお話の予定だったのにナー…………いつもの悪癖で文字数が増殖してたでござる()。
そしてついに『世界観融合』タグが真価を発揮する時が――――――――来た、のか?
※拙作において、稲羽市はモデルとなった山梨県にあるものとします。
【追記】
思いの外続いてしまっているし、そろそろ短編から連載に切り替えた方がいいのでは? ボブは訝しんだ。
【2011/07/10 日曜日 晴れ】
「………………俺ら今回、だいぶ遠くまで来たよな?」
「ああ、テレビの中ってここまで広かったんだな」
仲間の言葉に頷き、
ここはテレビの中――――テレビ画面を通して行き来できる奇妙な異世界だ。
『ペルソナ』という特異な能力に目覚めた者だけが訪れることができる場所に、複数の若い男女の姿があった。
現実世界ではただの高校生である彼らは、全員が『ペルソナ使い』だ。
そんな彼らがテレビの中の世界を探索している理由。
その原因は、平和だった田舎町・
ある日突然発生した、『死体をアンテナに逆さ吊りにする』という猟奇的な殺人事件。
死因も、犯人に繋がる手掛かりすらも掴めない怪事件だが、彼らは偶然にもその『凶器』を知ってしまった。
犯人はテレビの中の世界を利用して罪を犯しているのだ。
まず被害者をテレビの画面から
人をどこかに連れ込むだけなら誘拐だが、ここは異世界。人知を超えた化け物――――『シャドウ』が生息している。
抑圧された人間の精神であるシャドウは特定の条件下で暴れ出し、中に入れられた人間を殺す。
そうして人が死ぬと、外の世界に逆さ吊りにされた死体が出来上がる――――というわけだ。
全く以て、尋常ならざる殺人だ。
普通の警察に対処できるわけがない。
詳しく相談したところで、まともに取り合ってもらえないだろう。
だが彼らには『力』がある。
警察よりも詳細な事情を把握している。
だから彼らは街を――――大切な誰かを守るため、何より真実を探るべく日夜こうして探索をしているのだ。
力を磨き、攫われた人間を助け、真相を暴くその日まで――――――。
これまでに二人もの犠牲者が出ている殺人事件だが、その後彼らは誘拐された三人の救出に成功している。
天城雪子、巽完二、そして久慈川りせ。
救出された者たちもその後ペルソナ能力に目覚め、事件の捜査に加わった。
八十稲羽の事件を調べる
特にサポート能力に長けたペルソナを持つりせの加入は大きい。
戦闘能力も探索能力も整ってきた。
そう判断した『特捜隊』の面々は、仲間の『クマ』からかつて話に聞いていたエリアまで足を伸ばしていた。
――――遠く離れた空間に生まれた、新たな地域とシャドウの気配。
距離があったため、いつ
既にそのシャドウの気配はないようだが、ダンジョンと思しき区域は健在だ。
この場所の探索を決める前、仲間内で稲羽の殺人事件とは何の関係もない可能性を相談していた。
何せこのエリアが生じたと推測できる日の前後に特捜隊――――ひいては警察が把握している行方不明者はいなかったからだ。
それに事件の犯行予告と思われる不思議な映像『マヨナカテレビ』にも何も映っていなかった。
無論、悠たち特捜隊メンバーの皆が気づかなかったという可能性は捨てきれない。
しかし、それならばとっくに攫われた人間の死体が上がっているはずだ。
このエリアが生成されてから何度も霧が晴れる――――シャドウが暴れるタイミングはあったのだから。
半ば無駄足になると覚悟しつつも探索を決定したのは、特捜隊員たちの好奇心とリーダーである悠の強い希望あってのことだ。
悠はペルソナ使いの中でも特別な『ワイルド』の力を持っている。
通常一人につき一つしか持ちえないペルソナを、複数扱えるのだ。
彼はワイルドの力を十全に発揮するため、テレビの中とはまた別の異空間――――ベルベットルームの客人として、そこの主・イゴールに招かれていた。
ベルベットルームはペルソナの管理や調整、強化を行える場所。
夢と現実、意識と無意識の狭間にあるのだといい、その外観は
イゴールは鼻が長く、目がぎょろりと飛び出た異常な風体の老人だ。
これまでも幾度となく悠に予言めいたアドバイスを送ってきた。
そのイゴールがこう告げてきたのだ。
――――これから赴こうとしている場所は事件の真相とは関わりがない。
しかし、『未知なる世界への鍵』が待っている、と。
わざわざ「関係ない」と断言しつつ、『何か』の存在を匂わせたのは何故か。
悠たちが勝手に勘違いして、真実を見失う可能性でも考えたのか。
理由はわからない。
悠はそう判断を下した。
「ここさ、稲羽っぽくないよね」
「ダンジョンだからといって現実の風景が反映されるわけじゃないと思うけど…………」
里中千枝と天城雪子の会話を聞き、特捜隊の面々は今までに探索した場所を思い返す。
現実の景観に則した商店街エリアもあったが、雪子が入れられた際に出来た『城』や完二の時の『巨大サウナ』、りせの『ストリップ劇場』は現実離れした場所であった。
確かに、ダンジョンの見た目だけで判断できるものではない。
「もしかして稲羽の外だったりするのかな?」
「テレビを通じて稲羽の外に――――ってか? そもそもこの空間自体有り得ないの連続だし、もしかしたらもしかするかもな」
花村陽介も軽く同意を示すと、周囲の確認作業に加わった。
特捜隊メンバーは全員が眼鏡を掛けていた。と言っても視力が低いわけではない。
掛けているのはクマお手製の、テレビの中の霧を見通す特殊な眼鏡だ。
その眼鏡の効果によって、彼らの目には周りの風景がくっきりと見えていた。
先ほどからどこまでも続いているのは西洋風の街並みだ。
スクリーンに投影されているかのように色味が薄く、実体がない。
だがあちこちに見えない壁が設置されているらしく、調子に乗ったクマが突っ走ったところ透明な壁に何度もぶつかり涙目になっていた。まるで迷路である。
それを見た悠ら特捜隊の面々は、慎重に道を探しながらクネクネと進んでいた。
「おっ」
先頭を歩いていた陽介が、カフェらしき建物の斜向かいに宝箱を発見した。
ダンジョンではこうして
…………擬態していた
「お宝発見クマー!」
「…………うん、シャドウが隠れてたりはしてないみたい」
「っしゃ、開けるぜ」
カチャリと音を立てて開いた箱の中を全員で覗き込んだ。
「…………………………何これ?」
「布、かな…………?」
「マントじゃない?」
皆が思い思いの感想を言い合うが、疑問符を浮かべているのは共通している。
箱の底に鎮座していたのは折り畳まれた大きな布。
ただし、ラメ入りなど目ではないと言わんばかりにピカピカと光り輝いている。
悠が手に取り広げてみると、どうも外套のようだ。
「何に使うんスかね、それ」
「…………さあ?」
「えーっと、あー……………………ミラーボール的な?」
「ぷっ――――――」
雪子は千枝の発言がツボに入ったらしく、口元を押さえて小刻みに震えていた。
ダンジョンでのドロップアイテムには思いも寄らぬ掘り出し物もあるが、こうした使いどころに困る品々もある。
まさに玉石混交。
ダンジョン産アイテムの使い道も、基本的には
爆笑を堪えている一名を除き、仲間の視線が集中する。
「……………………………………………………うん」
悠はそっとマントを畳んだ。
さて、気を取り直して探索の続きだ、と意気込んだ――――――その時、
「――――――ぁあ! 来るんじゃねぇ!」
緊迫感に溢れた女性の声が響いてきた。
全員が一斉に、悲鳴がした方に振り向く。
「嘘、誰かいるの!?」
「アッチから聞こえたクマ!」
「そりゃこうしてダンジョンができてんだから、誰かしら入れられた奴がいるかもとは思っちゃいたが―――――」
「でも『マヨナカテレビ』には誰も映ってなかったよね!?」
「だぁぁぁ!! ワケわかんねぇ!?」
「考えるのは後だ、みんな行くぞ!!」
◆
千雨は滞在中、入ってきた場所の近辺をぶらぶらしているつもりだった。
だが、軽く歩いただけだったのに、またも元来た方向を消失。
前の経験から気を付けてはいたが、あまりにも霧が濃すぎるのだ。
急なことだったので、方位磁石なども当然持ち合わせているわけがなく、一度己の感覚に疑念を持ってしまえば現在位置を失う他ない。
決して千雨が方向音痴なわけではない、念のため。
とはいえ、それだけならばまだ何とかなったのだが……………………迷い歩いていたそんな時、
「ちィ――――――――!」
疾走する千雨の後ろにピタリと付けているのは、不定形の黒いスライムモドキ。
霞がかった視界でもわかるほど、不気味な仮面をボディに貼り付けている。
動きが粘体じみているのですぐに逃げ切れると思っていたのだが、これが予想外に速かった。
何をしても振り切れない。
千雨は追いつかれまいと、とにかく全速力で駆ける、駆ける、駆ける。
こんな状況で、道なんて最早わかるはずもない。
帰り道を意識する余裕など今の千雨にはなかった。
「んだよあの化け物!? 前の時はいなかったじゃねぇか!?」
悪態を吐きながらも走る千雨。
これなら前来た時の方がまだマシだったかも――――なんてアホみたいな考えが浮かび上がる。
前回も非常識さでは大概だったが、少なくとも怪物との過酷な強制マラソンだけはなかった。
少しでも速度を保つため、彼我の距離を測ろうと振り向くこともできないが…………スキル『警戒』が感知していた。
敵は、近い。
――――――追いつかれる!
「ああぁぁぁ! ペルソナァ!! 『アギ』っ!!」
間一髪、隠者のタロットカードを砕き、ペルソナを召喚。
千雨の背後に顕現したアメノウズメから
炎はモンスターに直撃。断末魔の如き不気味な音を奏でながら、一体の化け物が消滅した。
今の攻防も、ここに入ってからもう何度目だろうか。
化け物がひっきりなしに襲撃してきて、きりがない。
おかげでペルソナの使用回数も鰻登りだ。
これはこれで頭が痛い問題だが、今まさに生命の危機である。ペルソナの使用自体に後悔はない。
これが緊急時でなくて何だというのだ。このくらいは普通、セーフだセーフ。
それに、ここには千雨の自室と違って壊れるような精密機械も存在しない。
だから、躊躇う必要は何もないのだ。
「アメノウズメ!」
千雨の叫びに呼応し、魔法がもう一度放たれた。
――――命中。先頭の化け物が怯む。
その隙に、千雨はもう一つ新たなスキルを発動した。
「『スクカジャ』!!」
逃げまくっている間に習得していた、使用対象の速さを上げる魔法だ。
もっと早く覚えておけよと文句の一つも吐きたくなるが、贅沢を言っていられない。
スクカジャの効果で黒い怪物たちとの距離を少し作れたようだ。
ペルソナの『警戒』に引っかからなくなった。
だが、この調子でいつまでも逃げられるかというと『否』である。
仕組みは不明だが、ゲームで言うところのマジックポイント的なものを消費している感覚が千雨にはあった。
果たして、あとどれだけ魔法が使えるのやら。
徐々に限界が近づいていることを千雨は感じ取っていた。
――――ああ畜生。あの時、何でまたここに来ちまったんだ。やっぱり非常識はくそったれだ。
千雨は部屋での選択を悔いるが、その事に関しては手遅れである。
スタート地点に帰る必要性を再確認したが、敵は千雨に探す時間を与えてくれないらしい。
「げぇ!?」
待ち伏せのように、前からも朧気な黒いシルエットの怪物がやってきたのだ。
――――しまった、挟まれた!?
横に逃げようとするが、見えない
ここに来て千雨は自らが追い詰められたのだと悟った。
「だぁぁぁあ!! 来るんじゃねぇ!」
――――ジオ。
稲光が走る。
一体は焦げて動かなくなったが、まだ他に無傷の個体がいる。
「くそ、あっち行けよ!」
――――アギ。
火花が飛び散る。
だが、群れを焼き尽くすには圧倒的に
出力が足りないならば数で補う他ないだろう。
そう思い至り、更なる魔法を放とうとした千雨はあんぐりと口を開けた。
「なっ――――――」
何も出ない。すなわち『力』の
怖れていた限界がついに訪れてしまったのだ。
千雨からペルソナを取ったら、そこに残るのはただの少女。
哀れにも怪物に喰われる被害者でしかない。
――――もうダメだ。
千雨が諦めかけた時、
「『マハガル』!!」
「『ブフーラ』!!」
自分以外の誰かの声が静寂を切り裂く。
猛烈な吹雪が吹き荒れ、怪物を瞬時に飲み込んでいった。
い、一体何が…………?
ポカンと呆ける千雨に声をかける者がいた。
「大丈夫か?」
「キミ、怪我はない!?」
「あ、ああ…………」
呆然とした様子で返事をした千雨。
立ち込める霧で人相は判然としないが、少なくとも話が通じる相手だ。
化け物よりはマシである。
ふっと力が抜け、千雨はぺたんと座り込んだ。
はっきりとは見えないが、やってきたのは何人かの集団らしい。
彼らはあの化け物を駆除する方法を持っているようだ。
そしてそれは恐らく――――。
「ペルソナッ!!」
「来て、トモエ!」
「燃やし尽くしなさい!」
ぼんやりとした青い光があちこちで生じ――――――ペルソナが召喚されたかと思うと、瞬く間に化け物は狩り尽くされていった。
「うーっし、終わった終わったー」
「ラクショーだったクマー!」
早い。早すぎる。
逃げていたのがアホらしくなるほど、彼らは簡単に片付けてしまった。
ほ、本当に助かった…………のか?
「で、その子がさっきの声の?」
「みたいっスね」
散らばっていた謎の一党が、千雨の周りにぞろぞろと集結してきたらしい。
人の気配が次々と近づいてきた。
命の危機から脱したという実感が、千雨に冷静な思考を取り戻す。
今周りには、千雨があれほど必死こいて逃げながら一匹ずつ削っていた化け物を、一網打尽に殲滅した正体不明の連中がいる。
――――もしコイツらが悪人で、何か良からぬことを考えていた場合、自分は全く抵抗できないのでは?
即座に青ざめ、警戒レベルを最大限に引き上げる。
「あ、アンタたち誰だ…………?」
腕をぎゅっと抱きしめながら、走り疲れて掠れた声で千雨は問うた。
「俺は
応えるように男が一人、千雨の前に出てくる。
その口から紡がれたのは簡素な自己紹介だった。
見えてきた顔付きはまあ悪くない。普通だ。人によってはかっこいいと感じるだろう。
知的な眼鏡男子という属性だけで好む
彼の後ろでは「よろしくね」だの「クマー」だのといったガヤが聞こえてくる。
一体何の集団だ? というか、
「八十神高校…………?」
呟きながら考え込む千雨。
そんな学校、麻帆良学園にあったか?
無論、麻帆良学園が超弩級のマンモス校の集合体故に『学校名を知らないだけ』という可能性もあるが、黒地に白いスティッチの入った制服を千雨は一度も見た記憶がなかった。
「ああ、山梨県の八十稲羽市にあるんだけど…………」
「はあ!? 山梨ィ!?」
素っ頓狂な声を上げ、驚愕に目を見開く千雨。
――――山梨県なんて、隣とはいえ思いっきり他県じゃねぇか!?
どうなってんだテレビの中!?
仰天して動きが止まる千雨を余所に、ポテポテとした足音が距離を詰めてきた。
音は背後で止んだが………………今度は一体何だ?
「ねーねーチミチミー、ところでお名前なんていうクマか?」
千雨が振り向くとすぐそこにあったのは着ぐるみらしき物体だった。
丸っこいフォルムに大きな目。頭頂部にちょこんと乗った耳らしき物。
霧の中でもそのアメリカンな色合いが見て取れた。
何なんだこれ、着ぐるみ? というかクマって言ったか?
想定外の視覚的衝撃に千雨は固まる。
――――いや、この際
ともあれ、名乗っていなかったのは事実。
こちらも自己紹介をすべきだろう。
「麻帆良学園女子中等部二年A組、長谷川千雨…………です」
発言の通りなら相手は先輩とのことなので、気分を害さないように一応敬語を用いる。
向こうの反応は――――――
「麻帆良学園!」
「――――――――ってどこ?」
「埼玉かどっかにあるスッゴい大きい学校」
「へー、大きいってどんくらい?」
「都市丸ごと学校らしいですよ?」
「え、マジで!?」
芸人集団のコントだろうか。
なんだか警戒していたのがバカみたいだ。
千雨は乾いた笑いを漏らした。
一方、集団のリーダーらしい男、鳴上悠は一度千雨の名前を口の中で転がした。
「…………で、千雨は何でシャドウに追いかけられていたんだ?」
「シャドウ?」
何だ、それは?
身近にある「しゃどう」という音…………さすがに車道ではないだろう。
イントネーションも違ったようだし。
となると
「さっき追いかけられてただろ? あれだよあれ」
千雨の胡乱気な声を聞いて、伝わっていないことに気づいたのだろう。
悠はとってつけたように情報を重ねた。
それを受けて、散々追いかけてきやがった憎きスライム形モンスターを思い出す。
「ああ。あの化け物、シャドウっていうのか…………」
千雨は思わず呟いた。
黒いから『
何にせよ、名前なんて千雨には関係ない。覚えたところで何か利点があるわけでもないだろうし。
…………で、化け物に追いかけられていた理由だったか。
「や、『気づいたら追いかけられてたので逃げてた』としか言いようがないというか」
無我夢中だったので、訊かれても上手く答えられないのが千雨の実状だった。
ぶっちゃけ、原因ならこっちが知りたいぐらいである。
どうも最近、追いかけられてばかりな気がするのだが――――。
「そ、そうか」
眉尻を下げ、ちょっと困ったみたいな反応する男、鳴上悠。
そのような反応をされても、千雨としてはあれ以外の回答は用意できない。
一瞬、悠は仲間とやらに目配せしたように見えたが…………何かの合図、か?
「ところで、千雨はどうしてテレビの中に?」
「あー、非常識から逃げてきたというか何と言うか…………そんなとこです」
「ん、んん…………?」
千雨にこれ以上の詳しい説明は無理だった。
先の自己紹介を信じるなら、彼らは麻帆良の外の人間である。
外部の人間に「扉の前に忍者が云々」と伝えるべきではないだろう。
千雨の『
あとそんな非常識どもの同類と思われるのも、千雨的には避けたかった。
「今回のことで、ここもかなり非現実的で危険だということがわかったので、もう来ないと思いますが」
千雨は膝をパンパンと払って立ち上がる。
さて、帰るべき方向はどちらだろうか。
しかし千雨とは対照的に、悠にはまだ用事があるようだ。
真剣味を帯びた声色で千雨へ質問を投げかける。
「ここに来たのは何回目?」
「二回目ですが」
――――少し尋問みたいだな。
そう感じた千雨の顔にも僅かに剣呑さが宿る。
思考時間なのか、悠はしばし無言だった。
「――――ごめん、最後にこれだけ教えてほしい。君がここに初めて来た日はいつだった?」
「最初…………ええっと、確か進級した後の――――」
千雨がその日付を告げると、周囲の空気が弛緩したのは気のせいではないだろう。
「そうか………………ありがとう、色々答えてくれて」
「いえ、助けてもらったんで、これぐらいは」
――――本当はさっさと帰りたいんだけど。
表面上は取り繕っていたが、これこそが千雨の偽りなき本心だった。
「じゃあ、そういうことで――――――」
「これでチサチャンも仲間クマね!」
別れを告げようとした千雨の台詞に被せるように、何かが横から飛び出してきた。
よくよく見ずとも、さっきの
――――つか横から急に来るじゃねぇ、ビックリすんだろ! 心臓縮みあがるわ!
千雨は睨みつけたが、着ぐるみに効果はないようだ。
「てかさっきから仲間仲間って何なんですか? 学校の部活って感じでもなさそうですが」
複数の男女が仲良くしている、というグループは少々珍しいがないわけではない。
が、先ほどチラリと不良っぽい
千雨が疑問に持つのも当然だった。
悠は特に気負うことなく答えた。
「俺たちは『特別捜査隊』だ。ここで、地元で起こった事件について調べている」
「じ、地元の事件?」
「うん、稲羽の『連続逆さ磔殺人事件』って聞いたことない?」
近くにいたジャージ姿の女性の言葉に、千雨は目を丸くした。
――――何じゃその物騒な事件は!? 磔? しかも連続?
いや、そもそも殺人事件とテレビの中は関係ないだろ!?
混乱の最中にいる千雨に、悠ら特捜隊は説明を続ける。
「この世界でシャドウに殺されると、現実世界で死体が高い場所に引っかかるみたいなんだ」
「で、犯人は何人も被害者を誘拐してテレビの中に突き落としてるってわけ」
「は――――――――――はあああぁぁぁぁぁ!?」
開いた口が塞がらない。
――――え、さっきそんな場所に避難とかヌかしていたわけ?
避難どころかむしろ猛獣の眼前に飛び込んでんじゃねえか。
あのまま死んだら私もそうなっていた――――?
己が危険な橋を渡っていたことを知り、千雨はブルリと震え上がった。
「ペルソナなんて言ってもサツは信じちゃくんねーかんな、オレらで犯人とっ捕まえようって話だ」
「そうそう! 千雨ちゃん、だっけ? テレビの中に入れるってことはキミもペルソナ使えるんだよね? 一緒に事件の捜査してくれないかな?」
「は、私が…………!?」
――――待て待て。何でそんな話になってるんだ!?
自身にとって良からぬ流れになってきたことを、千雨は敏感に察知した。
「でもですね、そっちの事情詳しくないしそもそも場所も遠いですし」
「ここの探索の時だけでいいから、ね?」
「いや、だからそーゆーのは結構なんで」
「ねぇケータイ持ってる? ――――お、スッゴーい最新式じゃん! メアドメアドっと」
「って、ちょ、ま」
後ろからやってきた女に、千雨は携帯をブン盗られた。
その鮮やかな手口は、千雨の携帯の収納場所がわかっていたとしか思えないほど。
――――というか、今一瞬目の前にあった顔、どこか見覚えがあるような…………?
ほんの少し千雨の気が散った隙に、事態は目まぐるしく変化する。
「先輩たちの連絡先も入れとくねー」
「サンキュー。これでいつでも連絡が取れるな」
「チサチャンにはこれもプレゼント! クマ、急いで作ったから、チサチャンが掛けてる眼鏡とクリソツにしといたクマ!」
「あ、待ってクマくん。千雨ちゃん眼鏡かけてるから、眼鏡に度が入ってないと、せっかく作ってもうまく見えないんじゃないかな?」
「いや、千雨のは伊達眼鏡だから問題ない」
「え、鳴上くん何でわかんの!?」
「ふっ…………」
「時々意味不明なところで拘り見せるよな、相棒」
なんて賑やかな奴らなんだ。
少しクラスの雰囲気に似ているかもしれない。
以上、千雨の軽い現実逃避である。
「そうそう、何もなくても連絡してきていいぞ。困ったことがあれば協力する」
妙に自信溢れる笑顔で、千雨の肩に手を置く悠。
謎の手作り眼鏡と一緒に、携帯も手の中に帰ってきた。
尤も、千雨としては「今まさに帰れるかどうか心配なところで変な連中に絡まれている」という感想しか浮かばない。
これをフレンドリーと言うか、ごり押しが強いと言うかは個人差があるだろう。因みに千雨は後者だった。
「そ、そうですか」
――――いいからもう勘弁してくれ。
失礼になるので言えないが、彼らと出会ってから千雨は精神にチクチクとダメージを受けていた。
「これも渡しておくよ」
「私からはハイこれ『肉ガム』! 食べると疲れが取れるよー!」
「いやそれ千枝だけだと思う」
などというやり取りの後に、千雨はいくつかの物品を贈呈された。
アイテム毎に「食べると体力回復する」だの「この玉を投げると必ず敵から逃げられる」だの「安全地帯まで移動できる」と説明も受けたが、半信半疑。
むしろ疑いの方が強かった。
ゲームじゃあるまいし、ガラクタを使って説明通りの『不思議な現象』が起こるわけがない。
まあ、こんな状況でなくとも『肉ガム』は緑ジャージ女子のセンスを疑うが。
とんでもない菓子を寄越すんじゃねぇ、と千雨は無言でガムをポケットに突っ込んだ。
あとでクラスの誰かに押し付けてやろうなどと考えながら。
「――――っと、いけないいけない。そろそろ帰らないと夕飯の時間に間に合わなくなるな」
「今回は遠くまで来たから早めに帰り始めないとヤバいよね」
「来る時も相当時間掛かってたからな」
「じゃ、またな」
「バイバーイ!」
「次会った時は逆ナンよろしくクマー!」
六、七人ほどの団体は現れた時と同様、嵐のように去っていった。
「ようやく………………解放されたか…………」
千雨は疲れを全て吐き出すように、深い溜め息を吐いた。
携帯の画面を付け、そのままアドレス帳を開く。
元々大した数のない中、登録件数が六件ほど増えていた。
間違いなく、今し方別れた連中の連絡先だ。
これからは『殺人事件の調査』の件で、千雨の元に電話やメールが来ることになるのだろう。
「くそ、不本意な連絡先が増えやがった…………!」
口では盛大に罵りつつ、衝動的に削除しない分だけ千雨の対応は大人だった。
なお、千雨が彼らに助けてもらった礼を言い忘れていることに気づくのは、テレビから出た三日後だった。
ようやっと時系列のすり合わせを行った本作。
そうしたら今度はP4側が無印なのかゴールデンなのかという問題ががが。
でもまあきっと多分メイビー未来の自分が何とかしてくれるはず(目そらし)。
あ、ちなみに今回のお話のMVPは、加入直後なのに長距離遠征に駆り出されたりせちゃんです。
この後特捜隊は某教師がコロコロされていることを知って愕然とします。
【
◆アギ
◆ジオ
◆ディア
◆アナライズ
◆警戒(New!!)
◆スクカジャ(New!!)
【硝子越しの摩訶不思議学園・ドロップアイテム】
◆ピカピカマント:
光り輝く外套。着ていると大変目立つ。
備考:敵シンボルの出現率が上がる。敵からターゲットにされやすくなる。