春。と言ったらなにを連想するだろう。入学、卒業、恋、桜、出会い。まあ何であれ、春に結びつけて考えられるものなんて掃いて捨てるほどある。こじつけに近いものまで含めるとするならそれはどれだけの数になるだろうか。小岩井吉乃は購買の人の波に揺られながら意味もなくそんなことを考えていた。意味もなく、といえば語弊があるか、と考え直し、これは現実逃避だと言う結論に至る。今日はいつもより皆威勢がいい。学年も上がったのだから少しは落ち着いてもいいものを。
「焼きそばパン!」
「コーヒー牛乳!」
「俺あんぱん!」
お前はあんぱんじゃないだろ、とか普段なら気にも留めない言葉に対してもイライラしてしまうのはやはりこの人混みに他ならない。きっとそう。断じて豚足とイチャイチャしながら「買いに行ってこい」なんて言われたわけではない。断じて。というかむしろあの一件以来、愛姫はえらく吉乃と対等の友人になることに執着した。勿論気持ちは嬉しいのだが、立場が違いすぎるというか、今までの関係もあって本当に恐れ多いので、と言った風に必死に頼み込んで今まで通り過ごさせてもらっている。
「ふう、なんとか・・・」
ようやっと手に入れた戦利品を抱えながら、愛姫と豚足の待つ教室へ急ぐ。最近は愛姫の暴食癖も収まりを見せ始め、教室で昼食をとることも多くなってきた。どうやら豚足と付き合い始めてからのようだった。
「ストレスもなくなったってことね」
苦笑しつつも歩を進める。
複雑ではあるが二人が付き合っていることは素直に喜ばしい。
自分の蒔いた種は自分で片付けなければならないと思い続けたあの日々が報われた気がした。まあ、少し悔しさはあるけれど。
扉の前に差し掛かって、うんしょとパンで塞がった手でなんとか開ける。古風にガラガラと音を立てて扉は開いた。
「あっ、吉乃!遅かったじゃない!混んでたの?」
「いえ、それほどでも」
「師匠重いだろそれ、へいパス」
わらっ、とやってくる二人。
思わず顔を綻ばせると、珍妙なものを見たかのように政宗が目を剥くので、少しだけ脇腹を小突いた。
「キモい。」
「なっ、なんだよ、うわっいてっ、いてえって!」
「マサムネ。あなた堂々と浮気かしらいい度胸ね」
「や、ちがっ、愛姫ちゃん、いてっ、師匠ちょっと」
ほら、もう下の名前で呼んでる。仲直りできたみたい。
肩の荷が降りたような気分である。
「なあそういえばさ、」
愛姫が頬張る姿を眺めながらポツリと政宗は呟く。
「師匠のクラスに転入生来たんだろ?」
「・・・は?」
「え、いやだから転入生。騒いでたじゃん師匠のクラス。なんか、割とイケメンな?まあ俺には遠く及ばないと思うけど?」
ナルシストモードを発動させる豚足と、それをサンドウィッチをかじりながら呆れまじりに見つめる愛姫はこの際置いておこう。
はて?転入生?いつ?朝?そんなことあっただろうか。
「吉乃、気づいてないと思うけどあなた結構ぼーっとしてるわよ。ちゃんと起きてたの?」
「愛姫様、さすがにわたしもホームルームくらい起きてますよ。」
まあ確かに眠かったとは思う。
ぼんやりとしか思い出せないというか。うん、そういうことでしょう。
「聞いてなかった・・・」
「吉乃・・・学校にいたのにもかかわらず、しかも自分のクラスの転入生の存在忘れるとかもはや伝説の域よ。」
そこまで言われるか。
「まあ、昼休み終わったら確認してみなさいな、いい人かもしれないわよ」
「愛姫様、わたしふられて日が浅いのでそういう気遣いほんとにつらいんですけど。」
・・・なるほど、少しだけ謎の転入生が気になって来た。