眼が覚めると見覚えのない天井で、思わず滝藁は二度寝を決め込もうと現実逃避に走った。が、しかしながらそんなことは叶わず、ガチャリと開いたその扉からはたばこを咥えて腕を組み、こちらを見つめる「お姉様」がいらっしゃった。
「よっ、おはよー、」
「成乃さん・・・」
情けない・・・まさかのショックで倒れるて。
メンタルが弱い方だと自覚はしていたがまさかここまでとは。
かけられていた布団をバサリと引き剥がすと直視したくない現実と向き合った。
「まさか俺ここに来たことあるなんて覚えてなくて・・」
「いやあ、まあ小さかったしねえ」
すぱすぱと煙を吹かすと、ガタリと椅子に腰掛けて笑う。
うああ、喫煙者あ・・・、俺煙苦手なんだよなあ・・
と、かほりと咳をした俺に気づいたのか、成乃さんはすぐに煙草を灰皿に押し当てた。
「ああ、ごめんねー、つい癖で。お客さんの前ですごい失礼だったわね。ごめんなさい。」
「えっと、その……今日からお世話になります……」
もうなんつータイミングで自己紹介なんだ……,。
イレギュラーが重なりすぎて頭がいたい。
ベッドから立ち上がり、ぺこりと一礼。驚きはしたが、兎にも角にもここが俺の職場。出来ることを一つ一つこなしていこうと思う。
「あはは、そんなかしこまらなくてもいいのに。あ、そういえば君、吉乃と同じクラスなんだって?仲良くしてあげてね〜あの子、ああ見えて不器用だから。」
「はあ……」
俺が仲良くしようとしても、あっちが嫌がりそうなものだが。
「じゃ、早速お仕事してもらおうかな。買い出し行ってきてくれる?吉乃と。」
……………………えっ。
「ちょ、成乃さんそれは流石に」
「何?吉乃となんかあったの?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
何もねえから嫌なんだよ!!あっちは無関心だし俺は緊張するし!空気が死ぬわ!俺のメンタルも死ぬわ!!
「滝藁、いくなら早くして」
「うわっ!よ、吉乃……さん」
いつの間にやら背後に立たれていた。おそるべしステルス能力。もしかしてこの子暗殺者向きじゃないの?
「じゃ、宜しくね〜」
バタン、扉が閉められ歩き出す二人。
側から見ればどういう関係性なのか分からないだろう。
カップル?その間の空気が険悪すぎて思いもしない。
親子?男の方がビクビクしすぎている。
兄妹?そもそも世の兄妹は実際いっしょに出歩くことなどまず無い。
もしあるとするならばそれはきっとよほどのブラコン、シスコンか、気の使える優しい子だ。
「あ、あー、今日はいい天気だなあー」
「くもってるけど」
うっ、
くそ、頑張って喋ろうとしても全てがから回っている気がする……
しかしこいつ全くと言っていいほど喋らねえな。なんだ?本当に人間か?愛想がないにもほどがあるだろ……傷つくわあ……
「お前、機嫌悪いの?」
「なにいきなり。」
「いや別に」
………うわああ……こわぁ。なんなんだよこの険悪さは。
仲良くしたいが距離を詰めさせてくれない。なんか、見えない壁があるというか。
そんなこんなで最寄りの業務用スーパーに到着。主に俺が荷物持ちだ。
「なあ、思ったんだが安達垣は車とか出してくれねえのか?」
「今日は車がいるほどのりょうじゃないから。ほら、はやく」
「わーかったって」
小走りで駆ける。うーん、思ってたけどやっぱこいつ少し可愛いな。サイズ感つーか、なんつーか。とか、言ったら確実に500回は殺されるので言うわけがない。精々心に留めておく。
さて、肉体労働頑張るか。