透明に輝く新入りの話 作:凍血
「さっさとしろ、クズ!」
生まれて初めて聞いたのはそんな言葉だった。
まだ生まれたばかりでほとんど何も分からなかったけど。
不完全な体のどこかがぎゅっと凍ったみたいになったのを覚えている。
それから。
それから。
さっきの声ともうひとつの声が、ちいさく言葉を交わすのを聞いて。
自分以外にも、自我を持った何かが存在するってことを知って。
その日は、おしまい。
寂しかった。
ひとりぼっちで。
まだ何も見えないから、音が無いだけでもう僕の世界には僕しかいなかった。
しばらくぼうっとしていたけど。
ふと、自分が自分の意思で動けることに気づいた。
生まれたての体じゃやっぱり上手くはいかなかったけど、少しずつでも前進することはできた。
やけにふわふわとした地面を蹴って。
それにしても動きづらいなあ、すぐ疲れちゃうなあ、なんて思いながら。
あちこちでこぼこした体だと一部だけがやたらと軽かったり重かったりして、大変だったけど。
ふと、前に伸ばしていた腕が何かに触れた。
後で知ったけど、それはフォスの靴だったらしい。
「寂しい」ってことと、「ほっとする」ってこと。
そのとき、ふたつの感情を知った。
僕が生まれてから、約十日目の事だった。
フォスフォフィライトはちょっと寂しげだけど、強くてかっこいい人だ。僕なんかすぐ辛くて動けなくなっちゃうのに、彼はずっと寝ていなくても平気だなんて言うんだからびっくりした。
金剛先生は僕らの成り立ちやこの世界について色々と教えてくれるんだけど、いつも眠そうだしなんなら授業中に寝ちゃうこともある。
ふたりとも、すごく優しくて賢い。
ちゃんとした目をつけてもらって、見るってことがとても楽しくなった。
最初は特に何もかもが初めてで、視界に入るもの全てがキラキラと輝いて見えた。
とはいえ今はもうそこまでではなくなってきてしまった。
生まれたばかりだからか外出は禁止にされてる上に外は真っ白で何もない。
あとこれはすごく、いや、すっごくがっかりしちゃったんだけど、ここにはこのふたりしかいないらしい。
自分を入れても三人だけ。
こんなに対象が少ないなんて、これじゃいくら観察が好きでもさすがに飽きる。
他にも僕らによく似た人達がいる部屋があるにはあるんだけど、いつ行っても皆眠ってるし。
でも、もっとお日様がたくさん出て光がおいしくなれば、今は寝ちゃってる人ともいっぱい話せるんだって。
今は何も無いように見える雪原でも、色んな花や虫に会えるんだって。
それはすごく楽しみだけど。
僕、冬しか知らないからなあ。
春や夏のことを説明できるフォスや先生が羨ましい。
ふたりともなんでも知ってるのに、僕だけがなんにも知らないんだ。
それは当たり前のことなんだけど、取り残されてるような気持ちになることもある。
やっぱりちょっとだけ、寂しいよ。