透明に輝く新入りの話 作:凍血
あくる日の早朝。
僕は学校の中を歩き回ってフォスを探していた。
きのう先生が瞑想と言う名のお昼寝タイムに入る直前に、外出の許可を出してくれたのだ。
もう教えることはほとんど無いし、ずっと
ただし、まだ外は初めてなのだから、必ず誰かと一緒に行動すること。
すごく嬉しかった。
やっと見られる。
大きい雲、広い海、綺麗な花、ふわふわの草。
話で聞いてからずっと楽しみにしていたから。
そのために同行者を探さなくちゃいけないけど、それも大した問題ではなかった。
こんなにたくさん仲間がいるし、僕の中では誰に頼むかは最初から決まっていたようなものだった。
フォスだ。
彼は冬のあいだに僕のそばにいてくれたほぼ唯一の宝石だ。
みんなとはきのう初めて会ったばかりだし、誰が話しやすいのかまだよく分からない。その点、彼は間違いない。
というわけで、僕はときどき名前を呼んだりしてフォスを探している。
彼も戦うことになってるみたいだから、ただくっついてくだけでも色んなものが見られるだろう。
「……あ」
光を透かして輝く、綺麗な薄荷色。
気づいてないみたいだから、大きく手を振って。
「おーい、フォスぅ、う」
あれ。
隣にいるのは、もしや。
──ボルツだ……!
ボルツは怖い。
絶ッ対怖い。
きのう廊下ですれ違った時も全くの無反応だったし、勇気をだして話しかけてみたら無視されちゃったし。
見た目も中身もちょっとツンとして、近づいたら割られてしまいそう。
事実彼の髪は切れ味がかなりいいらしいので、これは物理的な話でもある。
正直に言おう。
僕はボルツが苦手だ。
逆にそんなところがかっこいいなあ、とか思ったりもするわけなんだけど。
──でも、こんなときこそ笑顔笑顔。
「お、おはよう!ふたりとも!」
ちょっと裏返っちゃったけど、大きな声で挨拶。
「おはよう、ダイオ」
フォスは返してくれる。
……ボルツは返してくれない。
「……ふたりって組んでるの?」
「うん、今日から。先生に確認してないからまだ
「へー……」
なるほど。
ボルツ、強そうだもんなあ。フォスが熱烈アプローチしたのかな?
そこもだいぶ気になるけど、まあ後でも聞ける。今は本題。
「ねぇ、ついてっていい?」
できるだけ無邪気に、かわいく、を意識してみる。
印象って大事だから。
ボルツにも「いーい?」って尋ねる。
うーん、でも返事はなさそうだよなー。
とか思ってると、そのまっくろい目で急に睨みつけられる。いや、ただ見てるだけかもしれないけど。
「だめだ」
え。
「仕事中にべたべたとつきまとって、僕らの邪魔をする気か?」
「え、あ、いやそんなつもりは」
「もし月人が来たらどうする。僕はお前を守るような戦い方はしない。……粉にされたいなら勝手にしろ」
うひゃー。
やっぱ怖い、怖すぎる。つい「ごめんなさい」とか言ってしまった。
口調もキツいんだなあ。僕、嫌われてるのかも。そんなことした覚えはないけど……。
「え、えっとぉ……」
フォス、助けて!
「……ごめん、ダイオ」
「そんなぁ」
「また今度ね」
ぼんやり、苦笑い。
あーあ、いけると思ったんだけどなあ。
「……別に。お気になさらず、先輩様がた。ダイヤにつれてってもらうもん」
さっさと背を向けてその場を離れることにした。
フォスの困ったような顔。
こんなことで拗ねて、子供っぽいって思われるだろうけど。
事実うまれてから一年と
……なんて、考えて。
振り向いたらもういないし。
「…………」
やっぱり、後で謝ろうかなあ。
そんな感じでフォス(とボルツ)に振られた僕は、現在学校に残っているらしいダイヤを新たな標的にした。
獲物はどこだとうろつく間もなく。
彼は窓際で花を
僕にとっては初めて見る花だ。完璧で最高な、観察の対象。
……の、はずなんだけど。
それすらも
僕なんかが隣にいたら絶対釣り合わないよなあ、なんて。
「ねえねえ、ダイヤ」
「あら、ダイオ」
「うん、ダイオプサイド。一回自己紹介しただけなのによく覚えたね」
「そうね。僕と名前が似てるから」
「確かにー」
ほわほわと優しくてかわいいダイヤ。
ダイヤモンド属はみんなこんな風なのかな……いや、ボルツもダイヤモンド属だった。じゃあ逆に、同属なのにどうしてこうも違うんだろ。気になる。
まあ、今はいいや。
新入りの僕でも分かるくらい優しいダイヤなら、きっとすぐいいよーって言ってくれるはず。
「ダイヤ、一緒にお散歩しない?一人で外出するのはだめだって言われちゃってさ、つきあってくれると嬉しいんだけど」
きょとんとして話を聞いていた彼の表情が柔らかくなったと思うと、ふんわり微笑む。眩しい笑顔。
やっぱりダイヤは優しいなあ。
「ごめんね」
…………。
……………………。
「え?」
「今日はあんまり動きたくないの」
「……そ、そっか。え」
そうなの……?
全く予想していなかった方の返事が返ってきて、ちょっとアホっぽくなる僕。
「今日やっと出られるようになったんでしょう?本当にごめんね」
「ああ……いやいや、気にしないで!他に探すから」
「ううん」
ふるふる。
困り眉で首を横に振るダイヤ。
「先生が寝ちゃった日はみんな出るの」
あー……。
「……そっかあ」
「うん」
じゃあ、もう学校には僕ら以外いないってことか。
うーん。
しょうがないよね……。
「じゃあ、今日はいいや。明日とか
「そう。ごめんなさい」
「ダイヤは悪くないよ」
へらへらと笑ってみるけど、ダイヤの表情は
悪いことしちゃったかな……。
「僕こそ、なんか……ごめん」
そんなに落ち込ませちゃうとは。
「ううん、違うの──これは」
僕が、弱いせいよ。
とりつくろうような笑顔。
「……そっか」
なんのことかは分からないけど。
ダイヤにはそんな顔は似合わないと思った。