戦場最強の二人が学校で生活するそうです~魔術と機械のエージェント~   作:翠晶 秋

19 / 35
大魔術、発動

 

今まで溜めたルーンが全て放出される。

風が吹き荒れ、地がうねり、雲は立ち込め、雷が大気を揺らす。

 

「な、なんだ!?なんなんだ、このルーンの量は!?」

「ずっと、溜めてた……からなっ。つう!」

 

頭が割れるようだ。

この量のルーンを扱うのは初めてだからな。

下手したら脳に支障が出るが……。

 

「それでも、見てみたい!この、先を!魔術の、完成を!」

 

結局、俺は魔術バカになってしまっていたようだ。

機械の作り方を教えてもらったときもそうだった。

学ぶのは、楽しい!

 

「さあ、まだまだ、これからだ!」

「おい、アイツを止めろ!」

 

(くう)にかざした手のひらに、やがてその輪郭が見え隠れした時、ようやくブリーチ達が動き出す。

 

「させない!」

 

俺が使いもらしたルーンで、それぞれがルーンの結界を張る。

この結界も、俺が教えた技術。

ルーンの消費が馬鹿にならないので戦闘には不向きだが、初めから守るつもりで張るのなら効果的だ。

そうして二の足を踏む生徒たちの前で、ようやく、ようやく魔術が完成する。

 

「機動型攻城機械弓───【バリスタ】ッ!!とくと、味わうが良い!」

 

メタリックなボディの前面に取り付けられた大きな機械弓。

そこには槍のような矢がつがえられ、弦は光でできており俺の手に集まっていた。

槍が光りだす。

輝きが満ちたとき、俺は──

 

 

───弦をつまんだ指を、弾いた。

 

 

槍から五本の光の矢が翔び、生徒に突き刺さり、貫通する。

ドッッッッと空間が歪み、そしてその歪みを直すために衝撃が俺たちを、観客席までもを直撃した。

 

『なっ!?こ、これはどういうことでしょうか!!眩しい、眩しいぞ!!』

『……目が、目があ』

 

全てのルーンに耐性の付いた俺は、目が眩む思いなどせず、しっかりと見ていた。

光の中にいたのは、ブリーチでも、他の生徒でも無かった。

 

「……誰だ?」

「大きくなったな」

 

どこかで見たような、懐かしい顔をした大柄な男。

その隣には、これまたどこかで見たような女が寄り添っていた。

 

「ごめんなさい、アイゼン。あなたに辛い思いをさせてしまって」

「おい。コイツの名前はノインスだ、少なくとも、今はな」

「し、師匠……!?」

 

赤いハチマキと迷彩服、無精髭を生やした男が俺の後ろから現れた。

 

「……そう。ノインス、ごめんなさいね」

「アイゼ……ノインス、お前は、これからもっと辛い思いをするかも知れない。だが、決して、決して、挫けないでくれ」

 

言われた事を理解する前に、師匠と、男性と女性は姿が薄れていく。 

 

「まっ、待ってくれ!どういう意味だ!?師匠!この二人は、いったい誰なんだ!?」

「わるいな、ノインス……今は、言えない。いずれお前が、アレを手にしたら……」

「ノインス。辛くなったら、あの子を、ノアちゃんを頼りなさい。あの子は、私達の未来を……」

「さらばだ、ノインス。お前が、アルゴノートの真の力を解放することを願ってい──────」

 

光は声を遮り、収縮するように収まって行く。

Sクラスの生徒は残らず胸を押さえて倒れているが、どれも肉体に傷はついていない。

機動型攻城弓(バリスタ)の真髄はその多様性にある。

相手が肉体であって、それを傷つけられない、もしくは傷つけてはいけない場合、光の矢による純粋な波力を相手の精神に叩き込む。

相手が霊体、言わば精神(アストラル)体であるならば、一撃で葬り去ることも可能だ。

無論、鉄の塊を射出する本来のバリスタとしての機能もあるのだが。

 

『こっ、これは!?だ、誰かー!担架を持ってきてください!』

『今のはなんなんでしょ……あっ、学園長入ってこないでぇ』

『Fクラスのノインス、そして担任のレンナ。表彰の後に学長室へ来い』

 

アナウンスが響く。

……さすがにやり過ぎたか。

未知のルーンをふんだんに使い、終わったら相手が倒れているなど、恐怖の対象でしかないだろう。

 

「の、ノイン、どうしよう!?」

「落ち着けライカ。なあ、大丈夫なんだよな?ノイン」

 

ライカは額に汗をにじませ、ゼータはライカの背中を擦りながら、自信も不安を隠しきれない様子だ。

 

「ああ、大丈夫だ。俺はやりたいことがあるのでな、それを成し遂げるまで、俺はここから離れたりはしない。なんとかしてみせる」

「ノインス、今の放送は聴いてたよね。君はやり過ぎだ。後で、先生と一緒に来てもらうよ」

 

レンナは真面目な顔で言ってきた。

まだ近くで乱れているルーンを操作し、ルーンの流れを正常に戻す。

今の内に、できることをやらないといけないな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。