戦場最強の二人が学校で生活するそうです~魔術と機械のエージェント~ 作:翠晶 秋
今まで溜めたルーンが全て放出される。
風が吹き荒れ、地がうねり、雲は立ち込め、雷が大気を揺らす。
「な、なんだ!?なんなんだ、このルーンの量は!?」
「ずっと、溜めてた……からなっ。つう!」
頭が割れるようだ。
この量のルーンを扱うのは初めてだからな。
下手したら脳に支障が出るが……。
「それでも、見てみたい!この、先を!魔術の、完成を!」
結局、俺は魔術バカになってしまっていたようだ。
機械の作り方を教えてもらったときもそうだった。
学ぶのは、楽しい!
「さあ、まだまだ、これからだ!」
「おい、アイツを止めろ!」
「させない!」
俺が使いもらしたルーンで、それぞれがルーンの結界を張る。
この結界も、俺が教えた技術。
ルーンの消費が馬鹿にならないので戦闘には不向きだが、初めから守るつもりで張るのなら効果的だ。
そうして二の足を踏む生徒たちの前で、ようやく、ようやく魔術が完成する。
「機動型攻城機械弓───【バリスタ】ッ!!とくと、味わうが良い!」
メタリックなボディの前面に取り付けられた大きな機械弓。
そこには槍のような矢がつがえられ、弦は光でできており俺の手に集まっていた。
槍が光りだす。
輝きが満ちたとき、俺は──
───弦をつまんだ指を、弾いた。
槍から五本の光の矢が翔び、生徒に突き刺さり、貫通する。
ドッッッッと空間が歪み、そしてその歪みを直すために衝撃が俺たちを、観客席までもを直撃した。
『なっ!?こ、これはどういうことでしょうか!!眩しい、眩しいぞ!!』
『……目が、目があ』
全てのルーンに耐性の付いた俺は、目が眩む思いなどせず、しっかりと見ていた。
光の中にいたのは、ブリーチでも、他の生徒でも無かった。
「……誰だ?」
「大きくなったな」
どこかで見たような、懐かしい顔をした大柄な男。
その隣には、これまたどこかで見たような女が寄り添っていた。
「ごめんなさい、アイゼン。あなたに辛い思いをさせてしまって」
「おい。コイツの名前はノインスだ、少なくとも、今はな」
「し、師匠……!?」
赤いハチマキと迷彩服、無精髭を生やした男が俺の後ろから現れた。
「……そう。ノインス、ごめんなさいね」
「アイゼ……ノインス、お前は、これからもっと辛い思いをするかも知れない。だが、決して、決して、挫けないでくれ」
言われた事を理解する前に、師匠と、男性と女性は姿が薄れていく。
「まっ、待ってくれ!どういう意味だ!?師匠!この二人は、いったい誰なんだ!?」
「わるいな、ノインス……今は、言えない。いずれお前が、アレを手にしたら……」
「ノインス。辛くなったら、あの子を、ノアちゃんを頼りなさい。あの子は、私達の未来を……」
「さらばだ、ノインス。お前が、アルゴノートの真の力を解放することを願ってい──────」
光は声を遮り、収縮するように収まって行く。
Sクラスの生徒は残らず胸を押さえて倒れているが、どれも肉体に傷はついていない。
相手が肉体であって、それを傷つけられない、もしくは傷つけてはいけない場合、光の矢による純粋な波力を相手の精神に叩き込む。
相手が霊体、言わば
無論、鉄の塊を射出する本来のバリスタとしての機能もあるのだが。
『こっ、これは!?だ、誰かー!担架を持ってきてください!』
『今のはなんなんでしょ……あっ、学園長入ってこないでぇ』
『Fクラスのノインス、そして担任のレンナ。表彰の後に学長室へ来い』
アナウンスが響く。
……さすがにやり過ぎたか。
未知のルーンをふんだんに使い、終わったら相手が倒れているなど、恐怖の対象でしかないだろう。
「の、ノイン、どうしよう!?」
「落ち着けライカ。なあ、大丈夫なんだよな?ノイン」
ライカは額に汗をにじませ、ゼータはライカの背中を擦りながら、自信も不安を隠しきれない様子だ。
「ああ、大丈夫だ。俺はやりたいことがあるのでな、それを成し遂げるまで、俺はここから離れたりはしない。なんとかしてみせる」
「ノインス、今の放送は聴いてたよね。君はやり過ぎだ。後で、先生と一緒に来てもらうよ」
レンナは真面目な顔で言ってきた。
まだ近くで乱れているルーンを操作し、ルーンの流れを正常に戻す。
今の内に、できることをやらないといけないな。