戦場最強の二人が学校で生活するそうです~魔術と機械のエージェント~ 作:翠晶 秋
無駄に長く広い通路を進み、右手を壁に当てつつ倉庫へと向かう。
一応全ての道を覚えたつもりだが油断はできない。なにかを掴んでも帰れないようでは意味がない。
「……一応やっておくか」
小瓶に詰めたインクを取り出し、親指で壁にシミを作る。
このインクは薄いので上から濡らした布で拭き、白いインクを塗ればまったく目立たない。
お目当のものがあったときにこれをすることによって万が一自分が失敗したときに後方にヒントを繋ぐことができるのだ。
ちなみに俺の部屋にはドアノブに『開始』の意のあるシミを作ってある。ノアなら全て記憶しているし、何かが始まったことがわかるはずだ。
「よし」
ノブを捻り、倉庫へ進入する。
チョークや教材がまず目につき、一見すればただの倉庫だろう。
……が、棚の奥に監視カメラ。しかも隠されている。
扉を開けたときの小さい機械音から推測すると恐らく扉自体にからくりがある。
となると、監視カメラは個々で独立したもの。警報などはならないし、常に監視する存在もいないだろう。
この点から、既にここに何かが隠してあることは確かだ。
さらに。
……この国にここまで精密な監視カメラなどあるはずがないのだ。
安易なシステムの監視カメラなら外交などで手に入るケースもある。
が、このタイプは機械の国でも珍しい。まずこの国で手に入ることはないだろう。
「……ふむ」
扉をもう一度開き、機械音を聴いて場所の特定に試みる。
カメラの起動する音から位置を割り出し、棚に手を突っ込んだ。
……危ない、下手に動かすと警報が鳴るタイプか。ならば今回は電源を落とすだけにしよう。
そして、肝心の地下への扉だが……それは俺の足元にある。
床板の下から微弱なルーンが漏れ出ている。本当に微弱だ、運が悪ければ俺も気付かなかっただろう。
床板の隙間にコインをねじ込み、てこの原理でこじ開ける。
出てきた、金庫扉だ。
恐らくこれは機械の国で普及していた金庫と同じ、数字を重ねてダイヤルを回すものだろう。
ならばすることは一つ。
「【熱】のルーン」
余計なことはしない、熱で溶かして道を作る、俗に言うごり押しというやつだ。
鍵も何もかも全て溶かす。そうすればわざわざ面倒な手を使って金庫を開ける必要もない。
……後々考えればこの扉は秘密裏に作られたもののようだから溶かしたことがバレても
大丈夫だ、うん。
「……さて」
出現した階段を降り、暗闇を進む。
暗くて全く見えない。当たり前のことだ。
蓄積していた【火】のルーンから火を作り出し、その小さな明かりから【光】のルーンを作り出した。
生み出された光は思い通りに直接的な光を作り出し、宵闇を照らした。
【火】のルーンを細かく分類した物だからルーンの生産が追いついてないものの、火で照らすよりも広範囲を均等に照らせる。
しかし……この壁はなんだ?この材質は機械の国のものじゃないのか?
以前戦争をしているときの地下シェルターの材質に似ている……が、そのときはこんな奇妙なラインは走っていなかったな。
これは……ルーンか?なんのルーンかは分からないものの、ラインを流れるものがルーンである事だけはわかった。
ここまで来ると言い逃れはできないだろう。
この学園は、機械の国と交流がある。それも、互いの技術を提供し合えるほどの。
海を越えた国に、ここまでの技術を考え成しに見せびらかすなんてただの阿呆だ。
だからこそ、この国では誰も『機械と魔術の複合』というものを考えもしなかったのだろう。
まして、【魔銃ルーンバスター】……魔術で機械の国の物を作るなんて、構造から銃を知らなければ作れるはずも無い。
たしかにこの国には大砲や銃、精密機械が見られない。あっちが出し惜しみしているのならそれも道理。
逆に、あっちでは魔法の類いなど一部の者しか扱おうとしなかった。否、扱える者がいなかった。
この先に、今までの謎が全て解ける何かがあるに違いない。
そうでなくては、そもそもこんな物を作らないだろう。
「扉には何もついていない。が、鍵の形が機械の国の物だな」
コインを【熱】のルーンで溶かし、【風】で直接触れずに鍵穴の元へ。【氷】から【冷気】のルーンを作り出し、即座に冷却。
ここでは何をしようが自由だ。何度も言うが、秘密裏に作られたのだから。
金庫だったりした場合はどうしようかと思ったが、ルーンと複合材質の壁がある。
隠してるということはここの存在がバレればここの主は困るということだ。
よってここに法律はない。以上。
鍵を開けると、無数のレバーと大きな扉が目に付いた。
言わずもがな、これも機械の国の技術。
一つだけ一際大きいレバーがある。コレが扉を開けるレバーか。
レバーに手を掛け、下に降ろす。
仕掛けが作動し、ゲートが横開きに開いた。
心臓が高鳴る。
近未来感のあふれる壁や実験に使われていたと思われる道具の数々や、端材となった銃や歯車の欠片。
見る物が見れば、学術的価値しかない知識の宝庫だ。
が、手を伸ばすのは後にしよう。
「……これは……なんだ?」
一見すると軽めの鎧か。
赤と青、それと白色の下地装甲。
顔は出るデザインで、全身鎧と言うよりか、どちらかというと増強アーマー、強化外郭と言った方がいいのだろう。
一番の特徴はその鎧の全身からあふれ出る大量のルーン。
性質が謎である壁に使われていたルーンとはちがう。火、熱、炎、氷、冷気、風、旋風。
大雑把にまとめられたルーンもあれば、細かく分類されたルーンまで、ありとあらゆるルーンをそのボディから放出している。
……素晴らしい。素晴らしすぎる。なんだこの技術は。
「これを纏えば、魔術が使い放題ではないか?しかも見たところ他のルーンを吸収して別のルーンに作り替えている……好きなときに好きなルーンを持ってこれるうえに、永久機関になっている……?」
「そのとおりだ」
ッ。
手首のリングや靴底に仕込んでおいた金属を【熱】で溶かし、顔に持ってきて、即座に仮面を作る。
冷却。振り返る。
「……誰だ」
「この学園の長さ」
学園長であってくれと思ったが、どうやらそうであってしまったようだ。
相手は少し痩せていて身長は高い。足払いを組めば組み伏せるのは難くない……が。
「君は、こんなところに来て何をするつもりだったのかね?」
「……ご想像にお任せする」
「……なるほど」
いやな予感がしてならない。
なんだこの寒気は。
学園長は革靴をコツコツと鳴らし、道の真ん中を歩いてゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「それが気になるかね?」
やがて俺の横を通り過ぎると、その鎧を見上げて語り始めた。
「遙か昔、この国は機械の国と双方信頼し合える仲にあったそうだ。その時に、互いの国に自国の作った最も素晴らしい物を送ったという。が、その贈り物は途中で何者かに船が襲撃されて互いの国に届くことはなかった」
なるほど。
機械の国で、そのシェルター技術を教えてくれなかったわけだ。
既に失われた文明である魔術と技術のハイブリッドはその時代に作られてそれっきり、設計図も時代の彼方に消えて行った。作り方は失われた。
「我が学園は深海に沈んだ贈り物を引き上げることに成功した。幸いにも、それは本来ならば我が国にあるであろう、機械の国からの贈り物であった」
機械の国で作られたから外装などという機械要素の多い物が作られたわけか。
「コレの名はルーンアーマー。魔術外装ルーンアーマーという。……さて、侵入者君」
学園長が初めてこちらを向く。
……そうだ、なぜそれを俺に教えた。
「君の正体には全く検討がつかない。ただそれはウチの制服だが、この学園の生徒などごまんといる。もちろん、金庫扉や鍵を無為やり開ける程の実力を持った生徒も多い。……それなのに、なぜ君にここの秘密を教えたのか。君なら、予測できないこともないだろう?」
ここまでの道のりで、俺がルーンにも機械にも精通していることがばれている。
機械の国の事を全くしらなければ、道中のしかけはおろか、まず防犯カメラに気づかないだろうから。
してやられた。
「さて、このルーンアーマーだが欠点があってね」
学園長がペンダントの様な物を握った。
「装着者はよほどの術者か
……まさか。
ハッとして学園長の手元を見る。既にペンダントがない。
カチリ、と首の後ろで金属の引っかかる音がした。
「そしてそれが、ルーンアーマーのキーだ」
俺の胸元に、金の装飾のペンダントがぶら下がっていた。
心臓が不気味に跳ねる。
体中がルーンにむしばまれる。視界が暗くなる。
いつの間にか、俺はルーンアーマーを装備していた。
「ッッッが、あああああああっ!!!!」
理性が失われる。
自分が自分で無くなるのがわかる。
胃の腑がひっくりかえったようだ。
「さぁ、駆けたまえ、未来ある我が生徒よ。機械の国との親睦を明かしてしまうルーンアーマーの存在は、私の野望には邪魔でしか無いのだ」
痛みと恐怖による苦痛で悲鳴を上げるよりも、別の意思が先に思考を占領する。
戦え。
壊せ。
力を。もっトちからヲ。
そこで俺は、吠えた。
───オオオオオオオオオオッッッ!!!!!!