戦場最強の二人が学校で生活するそうです~魔術と機械のエージェント~ 作:翠晶 秋
全ての道はマーロに通ず
「……と言うわけだ」
「どういうわけさ……」
いつもの路地裏、俺はナイアと待ち合わせをして近況の報告をしていた。
急いできたのか髪もぐしゃぐしゃで、女として思うところがあるのか先ほどから席を外したそうにそわそわしている。
「砂の国に行けば、何かわかるかもしれないというわけだ」
「ちょっと待ってよぉ……。学園の地下にそんな大層なものがあっただけでもかなりの発見なのに……いやまぁ、確かに砂の国に行ったら少しは価値のある情報が出てくるだろうけどさ?でもさ、それが一体何になるの?ウチの組織は、学園の地下施設のことでお金を搾ろうとしてたみたいだし、歴史なんて詮索しても意味がないと思うけどね」
「この情報を考古学者にでも売ったらどうだ」
「……上手いこと考えるねぇ。それ、ただの好奇心でしょう?」
お見通しか。
ノアもウチの所属だが、個人の経歴などは関係ない。調べたいことは勝手に調べろ、という形なために、砂の国に行くのに組織の協力は借りれない。
ノアが大量に召喚した水のおかげで学園は殆どが流され、地下施設のシェルターはどさくさに紛れて埋め立てられていた。
消化もできたし被害はないが、後にナイアが潜入して撮るべきだったシェルターの写真は作れなくなったというわけだ。
だったらその失敗を利用して、新しい金蔓を作ってはどうかと提案してみたわけだが……。
しかし、写真機などどうやって調達したのだろうか。
「わかったよ。頑張って見る。……知ってるかい?私結構頑張ってるんだよ?」
「そうだな、知ってるからもっと頑張れ」
「さては信じてないなぁ!?ねぇ!?あっちょいコラ逃げるなポンコツスパイ!!い〜っ!!」
壁を蹴って屋根に登り、ナイアから身を隠す。
ふっ。全てはこちらの思い通り。
さて、今日は午後から課外学習だ。課外学習と言っても、屋内が無いのでやむなく課外になるだけだが。
◇
「「「「他の国に旅行???」」」」
「うん、修学旅行。ほら、学園があんなになっちゃったでしょ?だから、補修期間で修学旅行するんだって」
「いつすか!!いつすか!!」
「おーおー、落ち着きたまえよゼータ君。すぐにってわけじゃない。寮もところどころ壊れちゃったし、しばらくは学園からお金を出してキャンプやホテルで一夜を過ごすことになる」
なるほど?
要は、この修学旅行で砂の国へ行けるように仕向ければ良いのか。
「先生。その修学旅行、行き先は決めれるのか?」
「それがね、セルカちゃん。先生が決めるんだって。まぁ、私も会議に参加するから希望だけは聞いておくけど、どこか行きたいところはあるの?」
「夜の国……ヨルノワール」
「ヴェ……うーん、あそこはオトナな国だから……ちょーっと厳しいかもね……」
「……そうか」
セルカが目を伏せる。
夜の国か。確かにあそこは観光にはうってつけだが、暗闇に紛れて色んな組織が闊歩している。
なぜ、そんな国に……まぁ、セルカは自分を出さない性格だし、どこかの令嬢ということもあり得なくはないが。
「先生」
「あいノイン君」
「砂の国マーロはどうだ?歴史の勉強とか……」
「……胡散臭い……」
解せぬ。
「ま、確かに勉学に励む場としては最適かもしれないけど……何か企んでない?」
「お、今日はルーンが綺麗だな」
「話聞いて!?」
レンナ先生は呆れたようにため息を吐くと、再びチョークを片手に黒板をなぞり出した。
そこには、SからFまでのアルファベット記号が書かれている。
「今回は、ノイン君が起こした無茶の収集をつけるための策でもあるんだ。ノイン君が決めてしまった、クラス制度の撤廃。これをいつから始めるかを先生達が頭を捻って考えた結果、今回の研修で行われることになったんだよ。今回は、学園の生徒を全てシャッフルして班を分ける。よって、これからはFクラスのみんなも、上位クラスと一緒の組み分けになって研修に臨むこともあるかもしれないよ」
「ほぉ……なるほどなぁ」
「ゼータ、わかってないっスよね。はぁ……あとで教えまスよ。鍵開けといてください」
「おう!」
なるほど。対抗戦の結果がこんな時に出てくるとは。
学園長は、学園長としての役目はちゃんとしているようだ。
……俺に、ルーンアーマーのペンダントをかけ、俺を暴走させた張本人。
その奥底に何があるかは、全くもってわからないが……。
少なくとも、今回の修学旅行で自由時間があるだろう。そこで、少しでも手がかりなりを見つけられれば。
「じゃ、先生は行き先を決める会議に行くから。今回は、この書類をクラス全員で協力して全部片付けること!それじゃ!!」
「「「はい!」」」
「なのです!」
それぞれに席を立ち、クラスメイト達が大自然の下で書類を手に取っていく。
俺も一枚手に取り……『Sクラスの性格矯正案』?
これは……。
「「「「レンナ先生の溜まった書類……」」」」
「なのです……」
どうやら、みんなも同じ考えなようだ。
「ちょっ、先生、あのっ、あぁもう姿が見えねぇ!!仕事押し付けられた!!」
「生徒に自分の仕事を押し付ける教師がいまスか!?」
「ええっと、『Fクラス生徒ノインスの処分について妥当な意見を述べよ』……えぇ……」
「おいライカ何だそれはまるで俺が問題児のようじゃないか」
「なのですぅ……」
ったく、素性が知れないところといい、下手に真面目なくせに仕事はしないところといい。
あの先生は何がしたいんだ……?
「……っと、セルカ?」
「ッ、なんだ?」
「ぼうっとしているようだったからな」
「あ、あぁ……何でもない」
そう言って立ち上がったセルカも書類を手に取り、みんなと同様のリアクションを取った。
このクラスは……俺が思っているより、深い事情がありそうだ……。
◇
「ノイン、ノイン」
「どうした」
「ここ、わからない、です」
ノアが見せてきた書類には、Fクラス態度や能力を評価する書類が書かれていた。
ゼータの欄に「少しおっちょこちょいだが意欲はある」など書かれているのを見るに……先生からの視点で、良く書けているように見えるが。
「なにがわからないんだ?」
「あの、自分の、欄が……」
あぁ。
自分を客観視しても贔屓が入るから、自分で自分も評価は書けないということか。
「わかった、俺が書いてやろう」
「お願い、します」
受け取った紙のノアの欄に評価を書いていく。
ちなみに、と目を向けた俺の欄には、『近年稀に見る天才。Fに置いておくのは持っていないです』と書いてあった。
……最後の方は素が出てるな。
「ほら、終わったぞ」
「ありがとう、ございます」
ノアは俺から紙を受け取った後、何かにハッとしたように紙面を見つめて。
「……見まし、た?」
と、少し顔を赤くしながらこくりと首を傾げた。
息を飲む。
ただでさえ容姿が淡麗なノアに魅了されつつあると、自分でも自覚してしまう。
紙の代わりにぬいぐるみでも持っていたら、理性がもたなかったかも知れない。
「見てない」
「嘘、です」
「……なぜそう思う」
「ノインが、動揺するのは、レア、です」
動揺しているのは核心を突かれたからじゃないんだがな……。
「ピピーッ!イチャイチャ警察です!そのピンクの空気をかき乱しに来ました!」
「なっ、イチャイチャなんかしてないぞ!?」
「ノイン。話は署で聞くからな」
「ゼータッ、お前もそっち側に……!」
……どうしてか、こんなやりとりが懐かしいように感じる。
幸せを噛み締めることが、どれだけ恵まれた事なのかを、俺はスパイとしてボロボロになった体で感じていた。
どうか、この幸せがいつまでも続きますように、なんて、柄にもなく神に祈りながら。
立った!フラグが立った!