戦場最強の二人が学校で生活するそうです~魔術と機械のエージェント~ 作:翠晶 秋
「うっ……」
「がんばれフィオナ! もうすこ……うっ」
海の香りが心を落ち着かせる。
そういえば、船旅は久しぶりだったことを思い出し、潜水艦での日々を懐かしく思う。
ノアとともに各国をめぐり、あらゆる敵を排除し続けてきた。
「あああうううああ……」
「大丈夫か? 水を飲むといい……っとと」
「ご、ごめんセル……うぅ」
俺はもともと海が好きだった。潜水艦を支給された時はつい興奮して試運転と称し出向してしまうほどには。
海には神秘が溢れている。
「あああああああ! 気持ちわるうううううい!!」
本当に、船旅とは良いものだ。
……本当に……。
「「「「ノイン!!!!」」」」
「船旅に慣れてなさすぎるだろう……!」
「みんな苦しそう、です」
「頼むノイン! まじでやばいんだって! フィオナが吐く!」
「どうしてそんな平気そうなのかわかんないよぉ……」
「ライカも限界そうだ。なにか、酔いを止めるコツのようなものはないか?」
そんなこと言われても。
「俺とノアは入学の時船で来たからな。慣れてるってだけだ」
「コツ……ピンと、こないです」
「「そんな!!」」
「僕らは船に戻ってるよ……セルカぁ、ちょっと送って……」
「わかった。なんなら私の部屋で寝てもいいのだぞ」
吐き気で突っ伏している担任教師を放っておいて、生徒全員がすごすごと部屋へ引き下がっていく。
さすが豪華客船バターデ・パンクー・ヒトヨ号。二人一組ではあるが、各々に寝泊まりする部屋を用意できるとは。
さすがに、他国への旅行は時間がかかる。飛行機か、それがなくとも空を飛ぶ獣を使って空を渡ればいいのだが、ただでさえ学園修復に費用がかかるために、そこまで金を出す余裕はないらしい。
「ひどいよみんなぁあああ!! せっかく頑張ったのにぃいいいい!!」
「う、うるさい……!」
「びゃあああああああ!! みんなも気持ち悪くなればいいんだああああああ!!」
レンナ先生は会議で奮闘し、見事旅行先を砂の国にしたらしい。
感謝を伝えると、自分も学を与える者の端くれだから、少し砂の国には興味があった……などと言っていたが、八割は俺たちのためだろう。
「迂闊だった。まさかこの私が船ごときに酔うなんて! 酔うならお酒がいい!」
「生徒の前で何を言ってるんだこの人は……」
「よし、よし、です」
「ありがと……うぇ……」
レンナ先生はどうやら叫んで酔いを紛らわしていたようだが、ノアが近づいたことでやりづらそうにしている。哀れだ。
ふぅむ、しかし……さすがに酔いすぎじゃないか?
Fクラス組は全滅。その他のクラスも、耐えている者はいるにはいるが、かなりの数が頭を抑えている。
確かに波は荒いが腐っても豪華客船。全クラスを収容できる大型船が、そう簡単に大きな揺れを許すだろうか。
「ノア、どう思う」
「海綺麗です」
「そうか良かったな」
俺がただ気にしすぎているだけらしい。
まぁ、ここから行く先も任務を成すために向かう。緊張もするというものだ。
「ノア」
「?」
「せっかくだから、聞きたいことがある」
「はい、なんなりと」
「このペンダントのことだ」
俺がポケットから取り出したのは、例のペンダント。
赤と青の装飾のついたペンダント……の形をしているが、実際はペンダントとしての機能はなく、首にかけるとルーンアーマーに身が包まれる。
「俺が倒れたとき、このペンダントを首にかけていたか?」
「かけて、いました。ルーンが溢れて、苦しそうだった、ので……」
「なるほど。やはり、首にかけることが機動の条件なのか……?」
あのあと、回収にも来ない。俺が持っていろということなのか、既にこれを複数持っていて、一つくらい俺の手に渡っても構わないと言うことなのか。
こんなものはさっさと海に投げ捨てたいところだが、研究者の
「ノイン」
「ん。なんだ?」
「それを、渡してください、です」
「なぜだ? これは危険だと分かっているだろう」
「ノインが持っている方が危険、です。手強かったです。もし同じようになっても、ノインなら、勝てます」
「そうか……いや、しかし」
「むっ」
ぱし、と。
ペンダントは俺の手から奪われ、その小さな手の中に収まった。
「おい」
「預かります」
「返すんだ」
「預かります」
「……ノア」
「心配しているのは、ノインだけじゃないのです」
少し、焦ったような、怒ったような声色だった。
可愛らしく頬を膨らませ、ペンダントを握るノアから、珍しく、絶対の意思が感じられる。
「……そうか、わかった……ここは折れよう」
「それで、いいのです」
「だがノア。一応言っておくとそれは思った以上に危険だ。ノアは複雑なルーンの扱いはできないが、ルーンの変換効率はクラスで一番だ。暴走は、なるべく避けたい。首にかけたりはするなよ」
「はい、です!」
それを区切りに、俺たちも部屋へ戻ろうかと甲板から離れようとした時……。
「オオオオオオオオオ!!」
とてつもない揺れが船を襲い、俺やノアも含めた全員がその場でバランスを崩した。
見れば、船体後方に白い触手のようなものが絡まっている。
「魔獣!? でっけえイカだ!!」
隣を並走していたジャムモーイ・シーヨ号も襲われている。
だから魔獣は嫌なんだ……。個々の力が定まっている分、機械どものほうが戦いやすい。逆に、それぞれ別の強さや個性を持っている魔獣は戦いにくい……。機械の国には魔獣は生息していないから、魔獣との戦闘経験が少ないのも俺が敬遠する理由の一つだ。
「ノイン」
ノアが武器を取り出して指示を待っている。
いつでも触手を叩き斬りに行けるという目だ。
だが……。
「大丈夫だ。既に手は打ってある」
苦手だから、対峙した数が少ないからと、いつまでも逃げ回っているのは
「来い、アルゴノート」
突如、巨大イカに突撃する者がいた。
海を割って、その大きな角でイカを差し貫く。
アルゴノートはそのまま海の底へと潜り、再び急上昇してイカに突撃。
「クジラ……一角クジラだ! 一角クジラがイカと戦ってる!」
「怪獣大決戦だ!!」
……この学園の生徒は殆どが魔術の国か、その近くの国の出身だ。
機械側は戦争地域だし、来た者がいなければ機械を見た者もいないだろう。
しかしまさか、一角クジラと呼ばれるとはな。
少しだけそのノリに付き合ってやろうという意も込めて、左腕に装着したパネルを操作し、アルゴノートに伝達する。
「ぼおおおおおおおおおッ!!!!」
「おぉ!!」
瓶を吹いたかのような低い音が響き渡り、海面から水が吹き出した。
船に乗っている者からしたら、見事巨大イカを仕留めた一角クジラが、勝利の咆哮とともに潮をあげたように見えることだろう。
「じー…………」
「…………」
「追尾、させたのです?」
「俺がアルゴノートを置いて海を渡るわけないだろう」
「……まぁ、いいのです……でも目立つようにはしないでほしいのです」
「善処しよう」
「しないでほしいのです」
「わ、わかった……」
なんだか今日は、ノアの押しが強いな……?