ハイスクールD×D忌避されし存在   作:ダーク・シリウス

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真実と再会

この日―――ナイスネイチャが走るレースの当日を迎えた。それもGⅠのレースに走る日だ。トレーナー達は会場の地下通路で勝負服を身に包むナイスネイチャを出迎え、エールを送った。

 

「ほらほら、トレーナーも何か言いなよー」

 

「そうですわ。一人沈黙を貫いて・・・応援の一言でも仰ってくださいまし」

 

トウカイテイオーとメジロマックイーンから催促される。そんな言葉は不要だと言わんばかりに、ただただナイスネイチャを見つめていたトレーナーは口を開いた。

 

「・・・・・周りの声に耳を傾ける」

 

「それだけ? ま、トレーナーさんの寡黙な発言は今に始まったわけじゃないけど、頑張ってみるよ」

 

どちらからでもなく手を動かしてパンッ! と互いの手を叩き合って信頼、絆の証を窺わせる二人は真っ直ぐ見つめ合った。

 

「・・・・・頑張れ」

 

「うん、行ってくるよトレーナーさん」

 

ターフへ続く通路へ歩くナイスネイチャ。GⅠのレースでは一着を逃していたナイスネイチャの為に試行錯誤でトレーニングをして来たトレーナーもこの時は確信していた―――。

 

 

だが、大外8枠17番という運に見放されたゲートから他のウマ娘達と一斉に走り出されるナイスネイチャだった。それでもナイスネイチャは運なんて関係ないと言わんばかりの走りを見せつけてくれて―――。

 

 

『いよいよ最終コーナー! おおっと、ここでナイスネイチャが上がってきた!』

 

(まだ脚に余裕がある・・・・・! この直線コースで一気に!!)

 

『第4コーナーを抜けゴールまで一直線!! さぁ、どのウマ娘が勝つのか上位争いが激しい!! 後続は団子状態だ!!』

 

あの一週間のトレーニングで酸素が少なく数倍の重力の負荷が掛かったコースや模擬レース、自分自身と競争を繰り返してきたナイスネイチャ。その際トレーナーからも本番は中盤まで脚を温存してみる作戦を伝えられ、実際走れば前の自分と大きく違っていた確信を感じた。

 

(体力がかなり厳しくなるけど、大外の方が芝も荒れていないし誰もいない無重力状態で・・・・・走りやすい!)

 

敢えて大きく、大外から這い上がり他のウマ娘達を中間からごぼう抜きに駆けて行く。ゴールまで残り200M。先頭とは5バ身差も広がっている

 

(肺が苦しい・・・!! でも、酸素が少ないあのトレーニングをして来た!! これは延長戦だ!!)

 

残り170M。

 

(脚が重い・・・っ。だけど、そんなの何度も経験してきたっ!! 何度も負けて来た!! でも今日は!!)

 

残り140M。

 

(そう言えばトレーナーさーん、耳を傾けろって・・・・・)

 

不意に思い出す送られた言葉。どうしてそう言ったのかわからない。―――しかし、次の瞬間。

 

「ネイチャ、限界を超えろっ!!」

 

「っ!」

 

最前列から見守る観客達と交ざって、チームの皆とトレーナーが大声を張り上げて応援と見守ってくれる光景が視界に入った。腕を組んでいるトレーナーが、あのトレーナーが叫んだ。何時も寡黙で何を考えているのか分からない無表情でギリギリ聞える声量しか発しない、あのトレーナーが・・・・・。

 

「~~~ああああああああああああああああっ!!!」

 

アタシの為に叫んでくれた。ナイスネイチャの心が高揚して震えた。アタシの為に今日まで真摯に向き合ってくれた。過ごしてきた日々を走馬灯のように脳裏に過る。アタシを信じてトレーナーが・・・・・ッ!!

 

「ちくしょうっ、絶対に勝ってやるんだからぁああああああっ!」

 

じゃなきゃ無様じゃない!! ここで負けたらトレーナーに会わす顏がない!!

 

というか、一週間は絶対に会わせれないし部屋で凹んでる!! 

 

残り90M。

 

がむしゃらに走り、気づけば先頭に走る二人のウマ娘の背中を捉えた。横一列に並んで、身体を限界まで前に倒して大きく脚を広げ、力強く芝を踏み込み抉って前にナイスネイチャを突き動かす。その状態がゴール直前まで続いて観客が大いに沸いた。

 

 

そして―――。

 

 

『ゴォ~~~ル!!』

 

ほぼ同時で三人がゴールしたことから掲示板の判定で写真判定とされた。誰もがどのウマ娘が一着なのか、応援しているウマ娘であって欲しいと願う観客は大勢だ。

 

掲示板に叩きだされた結果は―――。

 

 

 

ハナ差 一着17番 

 

 

 

「・・・・・え・・・・・勝っ・・・・・た・・・・・?」

 

茫然自失しかけるナイスネイチャ。掲示板の結果に信じられないと見つめる彼女の耳に大きな歓声と拍手が聞こえてくる。じわじわとそれが現実だと実感が沸き上がり、口が震える。

 

「勝っ・・・・・たんだ? アタシが・・・・・」

 

念願だったGⅠの一着。ようやく、ようやく手にしたGⅠの勝利はナイスネイチャの涙腺から雫を流させた。それは歓喜の涙。ナイスネイチャはトレーナー達の所へ喜びを分かち合いに向かう。

 

 

「ネイチャさんついにやりましたわね!!」

 

「おめでとうネイチャー!!」

 

「トレーナーの応援から一気に加速した。きっとトレーナーの期待に応えられたからだろう」

 

「というか、叫ぶことも出来たんだなアンタ」

 

「はぅ、吃驚しちゃった・・・・・」

 

「うん、私も驚いて今も耳がキーンって鳴ってるよぉ」

 

「「「おめでとうネイチャ」」」

 

「おめでとうネイチャ。キミのゴールの執念と熱意は確かに伝わったよ」

 

「皆・・・・・ありがとう・・・・・トレーナーも、その、ありがとうね」

 

「・・・・・頑張った」

 

それしか言葉を掛けないトレーナーに「ああ、いつものトレーナーだ」と苦笑いする。

 

「・・・・・お祝い、貸し切りの焼き肉店で食べ放題。デザートも」

 

「まぁ、本当ですの!?」

 

「いつの間にそんなことをしていたのですか」

 

「「焼き肉食べ放題・・・・・」」

 

「ブライアンはともかくオグリキャップ。主役はナイスネイチャなのだから食べる量は抑えるのだぞ」

 

シンボリルドルフに窘められ、絶望の表情を浮かべるオグリキャップ。そんな顔をされちゃあ祝いされる側は心から祝いされにくいというものだ。

 

「まぁまぁ、アタシは気にしませんって。トレーナーさんに美味しく焼いてもらう権利をくれるならば構わないので」

 

「そうか・・・? 君がそう言うなら・・・・・今なんて言った?」

 

「感謝する、ナイスネイチャ」

 

 

 

 

『ついにGⅠ一着になりましたね! 今の感想はどうですかナイスネイチャさん!』

 

レース後の勝利者のインタビュー。たくさんのカメラのフラッシュが焚かれ今ナイスネイチャに当たっていた。その隣にはトレーナーも斜め後ろに立っていた。

 

『今もまだ、アタシでも信じられない気持ちです。トレーナーの最後の叫びでアタシの念願を叶えてくれましたから』

 

『トレーナーさんと強い絆が窺えますね!! トレーナーさん、ナイスネイチャがGⅠ一着になってどう思っておりますか? 感想を一言』

 

『・・・・・走れるレースが許せる限り、これからもGⅠレースを走らせ、更に応援してくれるファンの皆にナイスネイチャという輝く星を見せたいと思う』

 

『ちょ、ハードル上げないでくださいよトレーナーさぁ~ん!!』

 

記者達が微笑ましげに笑う声が沸き、照れるナイスネイチャの頭を撫でるトレーナー。

 

「「・・・・・・」」

 

その映像を見ていたとある男女。和服と着物姿でジッと真紅の髪の青年を見つめ・・・・・。

 

「靖」

 

「はい」

 

「出立する。車を出せ」

 

「本日のご予定はありませんがどちらに」

 

「―――この男、Dとやらに直接会いに向かう」

 

行動を開始した。

 

 

インタビューの後。ナイスネイチャのウイニングライブを観て学園に戻る前に、約束の焼き肉を食べさせた。貸きりにした焼き肉店で客が12人しかいない中、献身的にナイスネイチャの為に野菜も焼いて彼女の舌を喜ばせる。オグリキャップとナリタブライアンがひとつのテーブルを陣取って大量の肉を焼いては大量のご飯と食べる以外、他のウマ娘達は和気藹々と一緒に食べている。

 

「トレーナーさん、食べないの?」

 

「・・・・・主役」

 

「こんなアタシを主役にしてくれたトレーナーさんにも感謝しかないのでー、はいあーん」

 

「・・・・・」

 

ナイスネイチャから程よく焼いた肉を突き出され、しょうがなく食べさせられるトレーナー。タレが染み込んだ肉はとても柔らかく、肉汁も舌に広がって美味しかった。

 

「ささやかなお返しだけど、これからもよろしくお願いしますトレーナーさん」

 

「・・・・・ん」

 

「というわけでアタシばかり食べさせるのはアレなんでトレーナーさんも食べてくださいな。アタシが食べさせますんで」

 

別にそんな必要はない、と思って見てもトレーナーはピトリ、と身体を寄せてくっついてきては箸に摘まれた焼けた肉を突き出すナイスネイチャに、トレーナーも食べさせることで食べさせ合いをすることにしたのだった。

 

「ううぅ~・・・・・羨ましいよネイチャ~・・・・・!!」

 

「今日の主役はナイスネイチャだ。いくらでもできる機会があるから譲ってやれテイオー」

 

「・・・・・そう言うけど、さっきから尻尾の動きが激しいのはどうして? 席に当たって音が五月蝿いけど」

 

乙女心は複雑なのだ。

 

「ごちそうさま。焼肉美味かったぞトレーナー」

 

「・・・・・どういたしまして」

 

店を後にトレーナーにお礼の言葉を送るウマ娘達。皆満足した様子で笑顔を浮かべている。

 

「トレーナー」

 

とても真剣な眼差しのオグリキャップが話しかけた。振り返り話を伺う。

 

「私がGⅠのレースで一着取ったら、ご褒美が欲しい」

 

「・・・・・約束」

 

トレーナーとナとオグリキャップの話を聞き、そんな話をされれば必然的に自分達も、と乞うことになる。

 

「トレーナーさん。私もGⅠで一着になったらスイーツ食べ放題のご褒美を・・・・・」

 

「・・・・・次は2200M宝塚記念。する?」

 

「出走しますわ。あ、勿論トレーナーさんの手作りを所望しますわ」

 

「・・・・・わかった。その間のレースも頑張る」

 

「ええ、言われなくても頑張りますわ」

 

トウカイテイオー達もトレーナーに強請り、約束を取り付けた。

 

「・・・・・ダービーの後のレース、GⅢ鳴尾記念、芝2000M。GⅠ安田記念の芝1600M。GⅢエプソムCの芝1800M。GⅢ函館スプリントSの芝1200M。GⅢユニコーンSのダート1600M。

GⅢマーメイドSの芝2000M。GⅠ宝塚記念の芝2200M。出走するなら、選ぶ」

 

それらのレースを走るならば必ず誰かが同じレースをし、競い合うことになる。それを百も承知の上でトウカイテイオー達は出走するレースを選んだ。

 

「・・・・・」

 

不意に、異変を感じ取り周囲を見回すトレーナーにシンボリルドルフ達は不思議そうに見ていた。

 

「どうしたトレーナー」

 

「・・・・・静かすぎる」

 

「夜間ですし、静かになるものでは?」

 

「・・・・・車道に車が走っていない」

 

そう言われると確かに、と思ってしまう。貸し切った焼き肉店はまだ閉店時間を過ぎていない。今頃スタッフたちが片づけていようとも貸し切りから普通の営業に戻したはずだ。なのに、焼き肉店の方にも見れば明かりが消えていた。

 

「トレーナー、これって・・・・・」

 

「・・・・・」

 

何かが起きる、と確信したその時だった。焼き肉店の広い駐車場に一台の大型乗用車である黒いリムジンや複数の黒い車がやってきた。その車のライトに照らされ眩しく目を細め、警戒態勢に入る他所に車は一行を半分囲うように停車。更には車から降りる黒いスーツ姿の屈強な男達が、もう半分囲って周囲に警戒するように背を向けて立った。

 

「誰なの、この人達は・・・・・」

 

「ただ者じゃないのは明らか」

 

「ど、どうなっちゃうのぉ・・・・・?」

 

微動だにせず、仁王立ちの佇まいでまっすぐ前を見つめるトレーナーに寄り添うウマ娘達よりも意識を向けなければいけない相手がいた。その相手も車から降りてライトを背に近づいてきた。人影は二人分。二人の顔が近づくにつれ、誰なのかシンボリルドルフは信じられないと瞳孔を開くほど愕然とした。

 

「まさか・・・あ、あなた方は・・・・・!!?」

 

その場で土下座しそうな勢いで上半身を折ろうとしたシンボリルドルフを、トレーナーが手で「しなくていい」と制する。

 

「いや、するべきだっ。あの方々は私達ウマの神器(セイクリッド・ギア)を宿す者達の為に尽力を尽くし、今の世界を創った―――兵藤家当主なのだぞっ」

 

「「「「「っ!!?」」」」」

 

そこまで言われて鈍感ではないトウカイテイオー達も相手が誰なのか直ぐに気付く前に、深々とお辞儀をした。そこで相手、兵藤家現当主である兵藤源氏が口を開いた。

 

「厳密には兵藤家前当主、私の息子がお前達ウマ娘の存在を世界に受け入れてもらうために動いていたのが発端だ。私は、その後押しをし世界に呼び掛けた。お前達もまた絶滅したウマの神器(セイクリッド・ギア)を宿しただけの人類なのだとな」

 

「そのおかげで私達ウマ娘は人類としても扱われ、受け入れてもらって夢も希望も見れるのです。兵藤家当主におかれましては誠に感謝の言葉しかありません。日本全土、全てのウマ娘の代表としてここに感謝の言葉を送らせください」

 

「・・・・・お前達の活躍は世界中の人類にとって大いに沸き活気づく。シンボリルドルフ、これからも頼むぞ」

 

「はいっ!!」

 

感激しかない天皇からの言葉にはっきりと返事をしたシンボリルドルフ。そして源氏はトレーナーへ目を向けた。

 

「こうして・・・・・会うのは初めてだな。Dとやらよ。お前の話は度々、兵藤家にも届いていた。随分と兵藤家に対する敵対行動をする者だとな」

 

「・・・・・」

 

「いや・・・・・その左の瞳は見間違うはずがない。その顏もかつての面影がある・・・・・」

 

トレーナーにもっと詰める源氏はこう断言した。

 

「生きていたか、一誠・・・・・私の『孫』よ」

 

「・・・・・お爺ちゃん、お婆ちゃん」

 

一瞬の空白が生まれ、場が静寂に支配され―――。

 

「「「「「「「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!?」」」」」」」」」」」

 

ウマ娘一同、人生で一番大声をあげて驚いた瞬間だった。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

衝撃的で震撼させる事実から数十分後。車に乗せてもらうこととなった一行は、しばらくリムジンの中で葬式のような沈黙を貫いていた。だが、訊かずにはいられまいとサイレンススズカが問い質した。

 

「トレーナーさん・・・・・本当なのですか?兵藤家当主と血の繋がりがあるのは」

 

「・・・・・昔はそうだった。今は、わからない」

 

「わからない?」

 

鸚鵡返しをするサイレンススズカに、他の皆にも見せつけるよう突き出した腕に意識を集めさせると、その腕が人間ではない別の、異形の腕と化したのだった。

 

「・・・・・人型ドラゴン。ドラゴンに転生した、元人間。そう言う存在」

 

「トレーナーが、人間じゃない・・・・・」

 

「嘘、全然気づけなかった・・・・・」

 

「だから、私達と並走できていたのか。人間じゃないから走れるのかアンタは」

 

誰もが唖然とし、異形の手を割れ物のように触れるシンボリルドルフやディープインパクト。ウマ娘でも人間の腕の感触が全くしない硬質な腕を。

 

「マスター。過去に何が遭ったのですか?」

 

ミホノブルボンの指摘は誰もがそう思う言葉だった。それ以降、重く口を閉ざししばらく押し黙ったトレーナー。

 

「・・・・・何時か伝える。今は言いたくない・・・・・」

 

「・・・・・かしこまりました。その時までお待ちしております」

 

無理強いはできない。寡黙なトレーナーがとても暗く苦虫を嚙み潰したような顔をする。そんな表情を見てミホノブルボンは掛ける言葉が見つからないことに己の不甲斐なさに悔しんだ。

 

「・・・・・聞く」

 

「はい」

 

「・・・・・嫌いな、警戒する兵藤家の男だったこと隠していた。・・・・・忌避するか」

 

「しないよ!」

 

「しませんわ!」

 

トウカイテイオー、メジロマックイーンが聞いて間も置かず、否定した。

 

「トレーナーはトレーナーじゃん! トレーナーが兵藤家だったとしても嫌いになるわけないよ!!」

 

「人間でもなかったことに驚愕しましたが、私達も外見だけ見れば人間ではありませんわ。そんな些細なことはお互いさまで、私の知る兵藤家は野蛮人で傲慢。トレーナーは彼等のような方ではありません」

 

横から首に腕を回される。隣に目だけ向ければナリタブライアンが密着状態で身体を寄せて来た。

 

「アンタが兵藤家の奴であろうがなかろうが、私はアンタだから一緒にいるんだ。姉貴を助けてくれた件にも感謝している。でなければ私が奴らに対して暴れ狂っていたかもしれないからな」

 

「私もだ。私はあなたが好きだからここにいる。トレーナーが誰であろうとずっと一緒だ」

 

「ラ、ライスもお兄様とならどこまでもついていくよ・・・!」

 

「ドジで何をやってもダメな私でもいいなら、私も・・・・・」

 

「まったく。今日、念願のGⅠ一着にしてくれたトレーナーを嫌うわけないでしょうーが」

 

「ここにいる皆は、あなたを忌避するなんてあり得ないよトレーナー」

 

「その通りだ。私達はあなたには感謝しかないのだから気を病まないでくれ」

 

「トレーナーさんを信じています。だから私達から離れることはしないでください」

 

「その通りですマスター。私達を導く人はあなた以外他はありえません」

 

励ましの言葉を送られるトレーナーの視界は担当ウマ娘達の顏で一杯になった。皆、席から立ち上がって団子状態になるほど寄ってきていたのだ。

 

「・・・・・面倒くさい。忌避するなら楽。トレーナー業抜けれた」

 

「そんなこと絶対にさせないからな。少なくとも私達がレースから引退するまではずっと一緒だ」

 

「・・・・・引退後」

 

「そうだな。心から愛する者と結婚して、専業主婦になって夫を出迎える楽しみをするのもよし、同じ職場に入っていつでもどこでも一緒にいる生活も楽しそうじゃないですか?」

 

「引退後・・・・・何しているのだろう」

 

まだ先の話だが、何名かがトレーナーを熱い視線を自分の中の未来予想図を浮かべながら向けて、逆に顔を真っ赤にしているウマ娘が複数いた。

 

「・・・・・結婚式、出席する」

 

「さて、トレーナーさんの場合は出席どころではないかもしれませんよ? ・・・・・ところで」

 

シンボリルドルフはスモークガラスの外を見つめた。夜間の為に暗くてわからないが、気にかけていることを口にした。

 

「兵藤家当主が直々にトレーナーさんと会うために来るほどだ。トレーナーさんのご両親も兵藤家当主なら、次期当主に?」

 

「・・・・・純粋な人間でなければなれない。なるつもりも、ない」

 

「あの方々はトレーナーさんが人間じゃないことは?」

 

「・・・・・気付いている」

 

それでも孫と呼ぶからには家族の愛情があるのだろう。だが、一つ気になる点を聞き逃していなかった。

 

「トレーナーさん。当主の『生きていたか』と言うは・・・・・まるで一度トレーナーさんが死んだ者に扱われていたか、行方不明になっていたかのような発言だ」

 

「・・・・・何時か伝える」

 

「・・・・・わかりました」

 

それからしばらくして車が停車した。扉が従者の手によって開けられ、車から出る一同は―――愕然とした。

 

「学園の寮じゃ、ないっ?」

 

「ここって―――」

 

「・・・・・ハメられた」

 

送られた場所は天皇家が所有する代々当主とその一家が使用している由緒正しく歴史ある建造物。天地人ノ館―――その場所に連れてこられたのであった。

 

「・・・・・理由」

 

後に現れる当主とその妻、羅姫に睨むトレーナー。悪そびれた風でもなく変わらない態度で告げた。

 

「学園には一泊だけこちらに泊まらせる旨を伝えた。お前には色々と訊きたい事がある」

 

「・・・・・」

 

「式森家の当主も待っている。式森家の前当主であるお前の母親の弟、叔父に当たる者だ」

 

源氏の告白によりウマ娘達は思考が停止しかけた。

 

「式森家の当主・・・・・弟、姉?」

 

「・・・・・冗談だろ」

 

「式森家の前の女性当主がトレーナーさんのお母様・・・・・?」

 

「わ、わけわかんないよ~!?」

 

「い、一体どうなっておりますの。トレーナーさんの家系は・・・・・!」

 

「兵藤家当主の子供でも信じられないのに、同じ天皇家の式森家の当主の子供でもあっただなんて・・・・・」

 

二度目の衝撃的新事実。

 

「・・・・・あの人か」

 

「ああ、一度会ったことがあるだろう。その際はメフィスト・フェレス郷に介入されてしまったらしいが、致し方あるまい。相手が悪かったのだからな」

 

「・・・・・」

 

「行くぞ」

 

天皇家、それも当主とその一家しか入ることを許されない建物の中に入るトレーナー一行。一生縁がない場所に招かれるとは思いもせず、ライスシャワーとメイショウドトウは緊張しすぎるあまりにトレーナーの腕にしがみ付いて歩くほどだ。案内されるがままに歩いて高級な敷物を踏む前に靴を脱いで玄関に上がる。シンボリルドルフ達は息を殺し、緊張で張り詰めた状態のまま移動する。源氏自ら一階の広間の扉を開けると・・・・・。

 

「「「・・・・・」」」

 

畳の広間で正座している白いローブを着込んだ三人の男女が既にいた。うち一人は少年だったが、その少年もトレーナーは見覚えがあった。しかし、どうでもよさげに視線を変えて先に三人の前に座る源氏と羅姫を見つめる。

 

「座りなさい」

 

「・・・・・」

 

源氏に言われ従うように二組の間に座り込んだ。シンボリルドルフ達は壁際で待たされることになった。

 

「さて、ようやく聞けることが出来る。お前が今までどこでどうやって生き延びていたのかを。その前に紹介しよう」

 

白いローブを着込んだ三人に対する紹介をしようと源氏が話を進める。

 

「先程も言ったが、お前の母親の弟であり叔父に値する式森家の現当主の式森和真、奥方の巴、二人の子供、お前のいとこの和樹だ」

 

「よろしくね」

 

「・・・・・」

 

沈黙で返すトレーナー。シンボリルドルフ達は朗らかな家族紹介にも見えず一言一言が圧を感じてならず、空気のような蚊帳の外に置かれても話に介入する事すら許されないでいるのが雰囲気で感じ取った。喋る事すらもだ。

 

「まさか、あの時のキミが僕のいとこだとは思わなかったよ。赤龍帝の意味も込めてね」

 

「・・・・・」

 

「僕もトレセン学園に通っているけど、話はよく聞くよ。兵藤家の生徒に対して良く言えば鉄拳制裁、悪く言えば暴力的蹂躙の話をね」

 

「・・・・・」

 

「それと、女子達の間でもかなり人気だよ。危ないところを何時も駆け付けてくれるってね。まぁ、流石に学外まで手は回らないだろうけど、そこは彼等の従者がカバーしてるから問題は無いと思うよ」

 

問題ないと思う・・・・・? トレーナーの眉根が不機嫌そうに寄った。

 

「・・・・・四年前に会った兵藤家の従者は、何もしないどころか仕えるクズ共を蹂躙すれば襲い掛かってきた」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・同じ天皇家、所詮は赤の他人か。知っていても、何もしない式森家」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・兵藤家に対して何もしない、俺がする・・・・・邪魔するなら、潰す」

 

源氏へ視線を送る。

 

「・・・・・兵藤家、いらない。性欲の塊の野蛮な獣、動物園に入れるべき」

 

「・・・・・お前はその光景を見て来たというのか」

 

「・・・・・殺した方が世のため。兵藤家、犯罪者を育てるのが務め?」

 

「違う!」

 

「・・・・・違わない。それ、学園の常識になっている。修復不可能、悔恨の溝は深い」

 

トレーナーから告げられる若い兵藤家の者の愚行。展開された立体的な映像を映す魔方陣はこれまで助ける前に証拠として記録した強姦未遂や暴行の光景だった。

 

「・・・・・ッ」

 

「・・・・・これが、三年前までの日常。権力を笠に着る、天皇家の姿を見て卒業した生徒、心に消えない傷を負った被害者、大勢いる。・・・・・これが今の兵藤家なのだと記憶に残っている」

 

式森家の方にも責める口調で言う。

 

「・・・・・同じ天皇家、役立たず。陰口叩かれてる。無能扱い。目の前で暴行されている、見かけたのに見ぬ振りして去る式森、関わりを持ちたくない式森、何度も見た」

 

「「・・・・・」」

 

「・・・・・世間のアピール。無意味、無駄。天皇家の威光、奈落の底に落ちるのも時間の問題」

 

深いため息を吐き、喋り疲れたとどこからともなくアップルパイを取り出してはショタ狐と化して食べ始めるトレーナー。

 

「・・・・・孫よ。その者達の情報を提供できるか」

 

「・・・・・ん」

 

どさり、と聞こえそうな三年間も集めた犯罪を犯した兵藤家の生徒の資料の束を魔方陣から召喚した。思った以上の量と厚さに、和樹は顔を手で覆いたくなる気分に駆られた。兵藤家と通っている同じ学園に裏でこんなことをしていたとは、想定以上の被害者と加害者がいたとは思ってもいなかったからだ。

 

「・・・・・和真殿。式森家の魔法で愚者共を自白させる協力を頼む」

 

「式森家も風評被害を受けている事実は初めて知りましたからな。協力致します」

 

「・・・・・遅い。今更。下を視ない当主も無能」

 

グサッ!! と見えない心にダメージを与える槍が二人に突き刺さった。

 

うわ、とトレーナーの遠慮のない精神的悪口に和樹がヒく。壁際のシンボリルドルフ達はハラハラドキドキものだ。

 

「えっと、溜まってる思いはあるかもだけどもうそのへんで・・・・・」

 

「・・・・・三年分、言い足りない。聞く、三日余裕」

 

「すみません。勘弁してください」

 

「・・・・・不甲斐ないヘタレ魔法バカ一族、ミジンコ並み、期待していない」

 

自分にまで矛で突かれ、何も言い返さず押し黙るしかできなかった和樹だった。

 

「・・・・・話、終わり。部屋」

 

「いや、まだお前のことが知って―――」

 

「・・・・・現状の改変しない、天皇家、無能家に改名される。いい?」

 

 

―――さっさと学園で起きている、抱えている問題を解決しろよテメェコラ。

 

 

言外するその言葉が伝わったかどうかわからないが、源氏はそれ以上の言葉を追求できず突き出された問題を終えてからじゃなければ聞き出せないと判断し、トレーナー達を空き部屋へ従者に案内してもらった。

 

「見ない間に辛辣な言葉をするようになっていたとは・・・・・ううう・・・・・心に響く」

 

「そうなっても仕方がないぐらい、あの子は目の当たりにし体験してきたわ。あんな言葉を吐くのも当然かと。寧ろ純粋でいられるのが異常です」

 

「だが・・・・・昔と違って喋るようになったな」

 

「ええ、あの子達も喜ぶでしょうね」

 

「・・・・・大会に参加すると思うか」

 

「聞かないことには何ともわかりません。私の方から聞きましょう。あなたは学園が抱えてる問題を解決してください」

 

怒りで握り拳を作り「ああ」と低い声音で返した。

 

 

 

それから部屋に案内された一行はというと。

 

「お兄様ぁ・・・・・」

 

「あうう・・・・・緊張で眠れません・・・・・」

 

「すみません。場所が場所なだけに寝付けません」

 

彼女達にとってここは天皇家の居城。気が小さく、臆病な性格の者はなおさら触れただけで壊れそうな高級品ばかり囲まれた状態では落ち着くことも叶わない。ライスシャワーとメイショウドトウが部屋に入ってきてトレーナーに抱き着くその後に他の皆もやってきた。

 

「まさか、全員トレーナーのところに来るとはな」

 

「無理もありませんわ。ここは天皇家の所有する建物。私達が入って良い場所ではないのです」

 

「精神的不安により、リラックス効果が求められております。それ可能にするのがマスター、あなたであります」

 

「というわけで、またあの翼で寝たいんだトレーナー」

 

トウカイテイオーの言葉にベッドを壁際にどかしてから金色の翼を大きく広げた。トレーナーが寝転がり、ライスシャワーとメイショウドトウに腕を貸す前、自身の身体にサイレンススズカを寝かした。

 

「・・・・・これ、恥ずかしいけどトレーナーの温もりが凄く伝わって安心できるのね」

 

「・・・・・寝る」

 

「ええ・・・・・ありがとうトレーナーさん」

 

心が安らぐ温かな翼の上で寝れることで、シンボリルドルフ達は安心した朗らかな表情を浮かべて夢の中に旅立った。なお―――夢の中で純白のタキシード姿のトレーナーとウェディングドレスに包んだサイレンススズカが結婚した夢を見てしまい、朝方目を覚ました彼女は目覚ましたトレーナーと目が合うと見た夢を思い出し、ポヒュンと聞こえそうなほど一気に顔が紅潮した。

 

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