「世間話に来ただけなら邪魔しないで頂戴」
「つれないねぇ。俺はおハナさんのチームにも利益になるお誘いをしに来たのに」
「あなたが? なによそれ」
「気になるなら今ちょっとだけ俺に時間をくれないかな。なーに、もう一人声に行くだけだからさ。ほら、あそこにいる俺達の後輩のところに」
「・・・・・わかったわよ」
「そういえば最近、身体が重く感じなくなってきたなーって思うのはアタシだけかね」
ナイスネイチャの一言は円陣になって走る前の準備運動をしていた皆のウマ耳に届いた。
「確かに、まだ重くは感じるが初めての頃よりはだいぶ身体が動きやすくはなっているよ」
「上げる肩が少し重いけどねー」
シンボリルドルフとトウカイテイオーの言葉は他のウマ娘達も同感だと思わせた。あともう少し慣れれば重さも感じなくなり、重力装置を外したらどれだけ速くなっているのか興味も湧いてくる。
「―――てなわけでさ、一回だけ重力装置なしで全力疾走してみたいのですよトレーナー」
「・・・・・実感」
「そうです。皆で速くなった実感を知ったら感動的じゃないですか?」
「・・・・・タイム測る」
「ありがとうございます!」
トレーナーの許可を貰って、OKのサインを両手でするナイスネイチャの姿にシンボリルドルフ達は重力装置を外しにかかった。そして知ることになる。適性距離を走ってもらい、全員が走り終えてから決河を発表するトレーナーの口から出た言葉は、知るよりも走った自身が実感を得ていたこともあって―――。
「嘘っ、前より結構速いじゃん」
「おおーっ」
「個々によってタイムの差は異なるもの、重力下のトレーニングの成果が出てるな」
「思った以上の効果がある結果に脱帽で、認めざるを得ないですわねこれは」
「す、すごい・・・・・」
はしゃぐウマ娘達から目を逸らし、現状の彼女達のステータスを端末で新たに更新するトレーナーの下へ二人の男女が寄ってくる。
「いやー、彼女達は随分と速くなってるねぇDくん」
「おはよう」
後頭部に髪を束ねた上で左側頭部のみを刈り上げた独特の髪型をして、顎に無精ひげがちらほらある男性の沖野と東条ハナ。端末に目を落としたまま無言で返すDの傍へ立ってシンボリルドルフ達を見つめる。
「うちのスペを評価してくれてありがとうな。日本一のウマ娘になれるってよ」
「・・・・・本題」
「建前はいいから話せって言ってるわよ」
「なぁ、どうしてわかるんだ? いや、今のは浅かったが単語でそこまで読めるのは、不思議を通り越して意思疎通で来てるのかってぐらい凄いよおハナさん」
沖野からの指摘に顔を逸らし東条ハナ。
「・・・・・何となくよ。ほら、あなたから持ち掛けた話なのだから伝えなさいよ」
「はいはい、わかりましたよ。Dくんの言う通り本題に入って単刀直入に言うとだ。俺とおハナさん、そしてDくんの三チームで合同混合訓練をしたいんだが」
「・・・・・」
始めて顔をあげるトレーナーの顔を見つめる二人。合同混合訓練という単語に興味を抱かせた手応えに沖野は内心握り拳を作った。
「・・・・・本心」
「勿論、俺達が担当するウマ娘達に経験を積ませたいからだ。そしてDくんのトレーニングの秘訣も俺とおハナさんも興味ありありだ」
「ちょっと、私はそこまで・・・・・」
「俺の提案に乗った時点で興味あるのと一緒だぜ?」
「・・・・・はぁ、してやられたってわけね」
異を唱えんとしたが、自分の気持ちを含めた上での誘いであったことに気付かされて沖野に何も言えなくなった。二人の気持ちは嘘ではないことを左眼で見て認識し、指を二つ立てた。
「・・・・・条件」
「一つ目は」
「・・・・・担当ウマ娘、一週間分の食糧調達」
「二つ目は?」
「・・・・・一緒に料理を作る」
その程度なら条件を呑む二人の言葉を聞き、沖野の提案を承諾したトレーナーはこの日から二人に準備をさせた。
「「・・・・・」」
三人のトレーナーが話し合ってる様子を別々の場所で眺め赤髪を見つめる四つの視線は、トレーナーしか感じられなかった。ので―――沖野と東条ハナの前で二人分分裂したトレーナーが瞬間移動して視線を送ってくる者の前に現れた。
「「っ!?」」
「「・・・・・何か用」」
突然目の前なに現れたトレーナー。あそこに同じ姿のトレーナーがいるのに目の前のトレーナーは一体なんだと警戒を隠さず後退る。
「アンタ、何者なんだよ・・・・・」
「・・・・・魔法。魔力で同じ姿、分裂」
「マジか・・・・・魔法使いってやつなの?」
「・・・・・純粋じゃない」
ここまで同じ質問を受け、トレーナーは再度問う。
「・・・・・何か用」
「・・・・・別にただ見てただけだし」
「・・・・・興味、体験してみる?」
「アンタのトレーニングに?」
「・・・・・チームスピカ、チームリギル、チームシリウス。合同混合訓練、後日することになった」
「だから?」
「・・・・・トレーナー有無、無関係、興味あるなら、参加」
「してもいいわけ? トレーナーがいようが、チームに所属していない野良のウマ娘だろうが他のチームのトレーニングに参加してもさ」
「・・・・・所属していないウマ娘、仮入団、入団体験、問題なし」
「仮入団・・・・・」と鸚鵡返しで吐露する。トレーナーの許可を貰ってるなら、余計な諍いもなく参加できる考えたこともない制度に興味を持った。そこへトレーナーが無表情でお茶目に言う。
「・・・・・強いウマ娘の走り、間近で走りを盗める機会、お得」
「なんだよそれ、・・・・・自分のチームのウマ娘の走りと強さの秘訣を知られてもいいわけ? それって変じゃん。アンタ、自分の担当ウマ娘に怒られるよ?」
「・・・・・それぐらいする、自分の走る姿、見せつけたいならする。ゴールドシチー(ナリタタイシン)」
「「っ・・・・・」」
「・・・・・胸の内に秘めてる強い想い、レースでしか晒せない。どのウマ娘も同じ事」
それぞれ彼女達に告げるトレーナーは最後に言う。
「「・・・・・レースに絶対はない。でも、誰にも負けない強い想い、ウマ娘を強くする」」
それから数日後―――。三チームによる合同混合訓練の当日となった。場所はチームシリウスにとって馴染みあるトレーナーの部屋である。そこにある模型を閉じ込めてる今回は巨大なガラス玉の中でトレーナーに介して入り始めるのであった。
「・・・・・ここがガラス玉の中だっていうの?」
「おいおい、青い空と太陽があるし踏んでる地面だって本物・・・・・なのか?」
「・・・・・地面と植物、全て本物、空と太陽、俺の魔法で見せてる幻」
「「・・・・・魔法ってすごいね」」
初めてこれから体験するトレーナーと別のチームのウマ娘達の言動は、シンボリルドルフ達を気持ちはよく分かると同感させた。
「・・・・・注目」
手を叩いてチームシリウスの皆の意識を集めるトレーナーは、傍で立たせている今回特別に参加させることになった二人のウマ娘の件を話す。
「・・・・・ナリタタイシン、ゴールドシチー、チームシリウス、一週間仮入団体験。・・・・・挨拶」
「「よ、よろしく」」
「「「「「「「「「「「よろしく(お願いします)」」」」」」」」」」」
別名『魔の巣窟』とも称されてるチームシリウスの面々に緊張気味で挨拶する二人であった。
「ところでD。この中で一週間も過ごすってどういうわけなの?」
「・・・・・魔法で時間の流れ変えてる。この中での一週間、外の時間、一日、一時間、十分、一分間しか経ってないことにできる」
「なんじゃそれ、好都合的過ぎる便利な道具じゃないかよ。でも、リスクとかはないわけ?」
「・・・・・体感が狂う。短い時間なら問題ない、十年以上いると、外に戻る時老ける」
そこまで知らなかったチームシリウスのウマ娘達から「えっ!?」と驚きの声が上がった。
「・・・・・しばらくすれば体感が戻って元の若さに戻る。問題ない」
「だから短期間の一週間ってわけか。納得したけどそれ以上に便利な道具だな。これ、複製出来ちゃったりする?」
「・・・・・創れる。ダメ」
トレーナーに断られて肩を竦める沖野。内心、貰えるなら貰って活用したかった東条ハナも少し残念がった。
「でもこれで納得したわ。短期間で貴方のウマ娘が強くなった原因がこういうことだったのね」
「・・・・・時間、有限。強さは本人達の努力次第。頑張ってる。ナイスネイチャが証人」
照れるナイスネイチャがいたが、トレーナーはこの時の為に立て替えた木造の大きな別荘へ皆を案内した。
「うわ、前の別荘より広い!」
「前になかった部屋もあるよー!」
「浴場も増築されておりますわね」
「あ、部屋の場所も変わってる。円形の空間に扉があるよ?」
使い慣れてるチームシリウスにとってはこの変化も新鮮であり驚きものだ。スピカとリギルのウマ娘達は驚嘆で思わず好奇心が芽生えて探検気分で別荘の中を歩き回った。どこに何があるのか、どこに何があったのか情報を共有しつつ把握していった。
「・・・・・これが、チームシリウスの日常?」
「変わり過ぎでしょ・・・・・」
ナリタタイシンとゴールドシチーは呆気に取られつつも別荘の中の構図を頭に叩き込んで、部屋を選んで荷物を置き、定められた集合時間である三十分後までふかふかなベッドの上でのんびりと寛いだ。
そしてその三十分後。
別荘の前で三チーム全員と特別ゲストの二人を含めたウマ娘達が三人のトレーナーの前に座って見上げた。
「お前等。これからチームシリウスから説明と案内をしてもらえ」
「今日から一週間はこの中にある彼が用意したコースで自主的に走ってもらうけれど、とにかく怪我をしないようにしなさい」
「・・・・・新しいコース、二つ追加。ウッドチップコース、ダイヤモンドトレール模したコース。・・・・・頑張る」
と、それぞれのトレーナーから告げられた中。挙手するスピカのスペシャルウィーク。
「ダイヤモンドトレールってなんですか?」
「・・・・・大阪、奈良、和歌山の県境に跨る全長約50kmの関西を代表する縦走路のロングトレール(「踏み跡」を意味する、人が歩く道のこと)。このロングトレールはアップダウンが激しく階段が多いことでも有名。・・・・・とりわけ平石峠から大和葛城山山頂までの6.2kmは、荒れた登山道と延々と続く階段が関西ハイカーを鞭打つ。トレイル各所の名物丸太階段は、合計すると約5,000段あると言われてる場所のこと」
軽く引くほぼウマ娘達。―――なんてコースを作ったんだこのトレーナーは、と。
「・・・・・完走出来なかったら、ギブアップ言う。山全体に魔法、この場所に転送される。完走したウマ娘、一日なんでも言うこと、願いを叶える権利のご褒美、授与する」
『っ!?』
「・・・・・トレーニング、開始。頑張る」
「「「「「「はいっ!!!」」」」」」
気合が入った声を発するチームシリウスが他のチームのウマ娘達の案内、誘いつつ行動を開始した。
「・・・・・お前のチームがどうして強いのか何となくわかったよ。うちはスイーツで発揮しそうだわ」
「頑張ったご褒美があれば、やる気も出るってわけね。ところでダイアモンドトレールって、完走するまでどのぐらい時間が掛かるわけ?」
「・・・・・人間によって、朝早くからでも数時間~十数時以上」
「ウマ娘の場合は、それ以下だとして・・・・・数時間ぐらいか」
曖昧だがそうかもしれない、と首肯するトレーナーは三人を連れて夜までに料理の支度を始めるのだった。
新しく追加された山のコースにはサイレンススズカを筆頭に長距離の適性が高いウマ娘達が水と昼食用の軽食を腰に携えて走り込んでいた。今まで走ったことが無い程の全長50kmはウマ娘に過酷さを襲い掛かりにきている。延々と伸びる丸太と山の土の道と階段が続く最中、周囲の景色が千差万別に変わっていき、彼女が好む先頭の景色として楽しませた。
「色んな風景を見ながら自然の中で長く走るトレーニング・・・・・凄く楽しいわトレーナーさん」
トレーナーの過去を知る前と知った後のトレーナーに対する想いが大きく違くなり、トレーナーのことを想うと胸が熱く、脚の力が更に増えて彼女を更に加速させる。重力装置を作動させたままでだ。
「絶対に完走してみせますトレーナーさん・・・・・」
このコースを走り切れば何でも言うこと、願いを叶えるご褒美がもらえるのだ。後から時間を掛けて完走するウマ娘は必ず大勢現れる。今だってサイレンススズカの後ろには―――。
ナイスネイチャ、メイショウドトウ、ディープインパクトを除いたシリウスのウマ娘達が、リギルの数人のウマ娘が、やや赤みがかった栗毛で、水色の髪留めでまとめた膝丈までの長さのツインテールと八重歯が特徴で、頭頂部にはティアラを載せており、左耳には桃色のリボンを付けているスピカのウマ娘と他二名のも走って来ているのだから。
チームシリウスの特別なトレーニングを体験をして脱帽するスピカとリギルの両チーム。トレセン学園の実寸大のコースではないコースだらけ。しかも時間の流れが違うので、一日一週間もトレーニングをできるならば一日の七倍も強化できるというチートな道具だ。
「一体どうなっているのさ、チームシリウスのトレーニングは。普通じゃないコースばかりじゃないかい」
やや青みがかっている黒鹿毛。肌は褐色。左耳に赤いシュシュをつけているウマ娘、ヒシアマゾンが信じられないと先ほど走ったコースに対して異を唱えた。
「GⅠからGⅢのコースを完全再現したトレーニングコースにウマ娘を模した木人形と走ることになるとは思わなかったな。しかも全部速いと来た」
髪型は濃い目の鹿毛のワンレングスボブのウマ娘、エアグルーヴも信じられない体験をした実感と共に荒い息を整え、そう感想を述べる。
「ふふ、チームシリウスのトレーナーさんはエンターテイメントだね。好感が持てるよ」
黒っぽい青鹿毛、前髪の一部にメッシュが入ってるウマ娘、フジキセキは外の実寸大のコースでは体験できないトレーニングに面白さを見出し、こんなコースを用意したトレーナーと通ずるものがあると認識した。
「んで、タイキとグラス、エルやオペラオーは他のコースで走っているようだけど、そこも普通じゃないんだろうねぇ」
「オペラオー以外の彼女達はダイヤモンドトレールに挑戦している。日本一の短距離ウマ娘のタイキがあの超長距離のコースに挑む理由がわからないが・・・・・シリウスのトレーナーに何を叶えてもらうつもりだか」
「おや、知らなかったのかい? タイキの話ではいつか母国のファミリーに紹介したい人だそうだ」
「友人としてか?」
「ボーイフレンドとしてだよ。紆余曲折でどうやらシリウスのトレーナーさんの事を恋したらしい。実際、オペラオーと私達以外の娘達は完走したら願いを叶えるご褒美が貰えるコースに走っているからね」
「・・・・・あの二人もそうだったのか」
そんな様子は今まで見たことが無かったのに、自分が知らない間に恋愛感情が芽生えていたとは驚きのエアグルーヴだった。
「当然だけどシリウスのトレーナーさんは全く知らない。恋路に現を抜かしてウマ娘の指導を疎かにしていないし、ちゃんと真摯に向き合ってるのが信頼できるね」
「そうでなくてはトレーナーは務まらないだろう。だが、こんなトレーニングをさせてるトレーナーを初めて肌で実感させられた。異常だなあの男は・・・・・」
普通の人間では到底創れない物、それをこうして創り上げるトレーナーは存在しないのだ。故にエアグルーヴはトレーナーのことを異常だと評価したのであったが、フジキセキは朗らかに言った。
「それでも慕われているのさ。ポニーちゃん達にね」
三チーム合同混合訓練に参加させてもらっているナリタタイシンとゴールドシチーは愕然していた。トレーナーが指導してくれるものだと思っていたが、用意されたコースで走れと言う指示と、そのコースを走ってみれば思った以上にキツかったのだ。並走せず、それぞれ別のコースで走り、実感した。
「「シリウスが『魔の巣窟』だって呼ばれてる所以が分かった気がしてきた・・・・・」」
余裕で走り切っているわけではないが、何度も何時間もこんなコースを走っているなら強く速くなるのも頷ける話だ。実際―――休憩中に並走の誘いをして来たナイスネイチャとディープインパクトと走ったら後れを取って負けたのだ。
「アンタ、確か3着かそれ以下しかなれなかったはずなのに、どうしてそんなに速いんだ」
「いや、ホント今のアタシはギリギリだったよ。実際、この首輪をつけてるから身体が重くてさ」
「・・・・・? そういえば、アンタら首輪をつけてたね。なに、トレーナーの所有物だって証?」
「はいっ!? い、いや、ちゃうし! これトレーナーが造った重力装置なんで! 実際に着けてみればわかるし!」
顔を赤くして弁明するナイスネイチャから胡乱気な面持ちで首輪を渡され、首に嵌めたナリタタイシンを見てナイスネイチャは重力を起動させた。
「んなっ!?」
全身にかかる重みに目を大きく開いて酷く驚く。地面に吸い込まれそうになる身体に喝を入れて、小柄な全身に力を入れて何とか堪えんとする姿勢に遠い目で見るナイスネイチャから言われる。
「どう、実感できたでしょ」
「な、なんだよコレ・・・・・こんなの着けて走っていたのかよ・・・・・っ」
「風呂に入る時と寝るとき以外はずっとね。一週間ずっと着けてるとやっと少しだけ重くなるんですよ。因みに今は二倍の重力で重くしているからね」
これで二倍とか、あり得ないだろ! と叫びたいがあるウマ娘を思い出す。
「ライスシャワーも同じのを着けてるってことは」
「身体に重力の二倍が負荷されてる状態で動いたり走ったりしてるね」
「・・・・・!」
同じ身長、小柄なウマ娘がこの状態で・・・・・そう思うと、ナリタタイシンの中で負けん気の炎が燃え上がり、脚を動かし始めた。
「これ、しばらく借りるよっ」
「ちょっ、いきなり走るのは脚に負担がかかるからダメ!? まずは歩いてから! ライスも私達もそうしてから走れるようになったんだから! 先輩方もそうしたんだからアンタもそうしなさい!」
「・・・・・」
「仮でも入団してるなら経験者の耳を傾けて欲しいんだけど。あのトレーナーさんなら、ウマ娘の願いを時間かけて叶えてくれる。アタシのようにね」
説得を試みるナイスネイチャ。ブロンズコレクターの称号を挽回させてもらいGⅠで一着にしてもらったからには、信頼せずにどうしろというのだ。
「・・・・・わかった。歩いてこの重さに慣れればいいんだろ」
少し渋々そうな顔をしていたがナイスネイチャの説得を受け入れ、走らず重さに慣れる事から始めるナリタタイシン。
ゴールドシチーは尋ねた。
「あのさ、トレーナーがウマ娘と走ってるってほんとのところ、どうなわけ?」
「事実よ。三冠ウマ娘でも勝てない客足で競り勝ってるところ、何度も見たし私でも勝てないわ」
休憩中にディープインパクトのトレーナーの事を知ろうと質問した答えが、やはり聞いても見たことが無いから鵜呑みにできない信じられなさが返ってきた。
「人間よね」
「一応は」
ディープインパクトは、ほんとうは・・・・・心中でトレーナーの正体と過去を打ち明けたい思いが込みあがった。しかし、正体だけ言ってもいいのだろうか? と悩んだが黙っていることにした。
「にしても、この魔法の? 道具はいいわね。時間が欲しい時にこの中にいれば余裕で時間を確保できるし、一つ欲しいわ」
「チームでもそう思って欲しいとトレーナーに懇願したけれど却下されたわ」
「残念」
本当に残念がっている様子ではなく肩を竦めるゴールドシチーは本気で欲しがっていたわけではなさそうであった。
「ところで、その黒い首輪はなに?」
ゴールドシチーの視線と指摘が重力装置に向けられ、ディープインパクトは首輪を触れながら説明する。
「これも魔法の道具。トレーナーが造った重力を発生させる装置でもあってトレーニングの道具」
「それ、何の意味があるわけ?」
「全身に何倍もの重力の重さが掛かって普段より体が重くて動かし辛いけど、その分スタミナと筋力が増えていくらしい。ブルボンの解説ではね」
本当に? 意味深に首輪を見つめるゴールドシチーの探るような視線に「試してみる? あ、立ってからね」と言いながら首輪を外すディープインパクト。受け取って少し見つめてから自身の首に首輪を嵌め、一拍遅れてから急激に身体が重くなった実感がゴールドシチーに襲い掛かった。
「おもっ!? ちょ、待ってなにこれ!?」
「それでもまだ二倍だ。 三倍はトレーナーの許可を得てからじゃないと上げてはいけないから」
「これでも二倍って・・・・・腕を上げることも困難なんだけど・・・っ。まるでダンベルを持ってるかのような重さだし・・・・・!」
「最初は皆もそうだった。一週間以上もずっと着けっぱなしだと重さが少し気にならなくなった。うん、体が軽いなー」
全身の筋肉を伸ばし、ほぐすディープインパクトの他所にゴールドシチーは絶対明日筋肉痛になる重力で重くなった体を引きずるように動かす。
「ちょっと走ってくる。あとそれを着けるなら走らず歩くことをまず慣れて。筋肉痛になったらトレーナーにマッサージしてもらった方がいい。トレーナーのマッサージは筋肉痛になったその日でも治してくれるから」
「くっ、ご忠告、どうも、ありがとうっ・・・・・!」
普段よりも歩きづらくなった身体で四苦八苦するゴールドシチーは、助言の通りに二倍の重力が負荷された状態のまま、歩くことから始めた。
―――数時間後。
魔法の道具の中では初めての夜を迎えた。下りた夜の帳は木造の別荘以外、景色を常闇に塗り替えた夜天は煌めく数えきれない星空で彩っていた。
別荘に戻ってきたウマ娘全員は動き続けて掻いた汗と疲労困憊の身体をお風呂で流し、癒す。そして疲れた身体は食欲を欲してか、皆で集まり食べる広間へ足を運ぶと。趣向を変えて立食させるつもりか椅子がないテーブルに、これまた学園の食堂、カフェテリアに負けない量の料理がズラリと置かれており、料理人でもないのにトレーナーだけでこれだけの量と豪勢に創り上げたことに脱帽する。それ以外にも―――。
「あ、これ・・・」
「オウ! 故郷の料理もありマース!」
「懐かしい料理が食べられるなんて嬉しいデース!」
外国出身のウマ娘達は目の色を変えて故郷の料理があるテーブルに寄る。他のウマ娘達も椅子が無いので立って食べる趣向に皿と箸やフォーク、スプーンをお盆に乗せて選んだ料理を皿に盛って食べ始める。
だがその裏でキッチンの方では散々慣れていない料理を作らされ、手伝わされて肉体的にも精神的にも疲労してる東条ハナと沖野は調理場で椅子に座ってグッタリとしていた。
「・・・・・あと六日、手伝う」
「死ぬわっ!?」
「料理を手伝えって、こういう意味だったのかよ・・・・・」
「・・・・・誰がする」
そんな二人に叩きつけるトレーナーの鬼のような言葉に我に返った東条ハナと沖野。魔法の道具の中で一日の数倍も得られることしか頭になかったことから、食事の事まで考えていなかった二人は思い知らされた瞬間でもあった。一体誰が料理をするのだ? ―――と。トレーニングで疲労したウマ娘達に作らせるのは・・・・・そもそも何人のウマ娘達が料理を作れるのかという問題も考慮しなくてはならない。凝った料理が出来ず栄養が偏った料理しか作れないならば今後のトレーニングやレースにも影響が及ぼす可能性を。
「あなた、料理の関する資格とかあるの?」
「・・・・・栄養士」
「若いのに他にも国家資格をお持ちとか凄いな」
会話を交わす二人にも作り終えた料理を提供して三人だけで静かに食べ始める。東条ハナを挟んで食べる形で料理を食べながらでも話を続ける。
「Dくん。明日も変わらずにコースを走らせるだけでいいんだな?」
「・・・・・自主性」
「うんうん、俺と同じなんて気が合うな」
「一緒にしないでよ。少なくとも彼はあなたよりは真面目なんだから」
「俺は自分の考えを押しつけない主義なんでね」
否定しない沖野は開き直った口調で言い返した。
「・・・・・七日目、宝争奪戦する」
「「宝争奪戦??」」
鸚鵡返しをする二人に首肯し、宝の内容を口にする。
「・・・・・宝、この魔法の道具。勝った団体(チーム)、個人に授与」
「「・・・・・」」
それを聞いた二人のトレーナーは軽く目を張った後に互いに顔を向き合った。食事に関するリスクがあるもの、一日の七倍の時間を過ごせるこの便利な道具を利用すれば相手のチームを出し抜くことができる。
「ねぇ、電気製品を持ち込めることが可能なの?」
「・・・・・インターネット、不可能。充電式機器、可能」
「じゃあ、この中の全てのコースがある道具を貰えるってことでいいんだな?」
「・・・・・リクエスト、希望通り、創る」
トレーナーの説明を聞いて負けられない勝負が出来た二人は闘争心を燃やした。
「・・・・・チームシリウス、参加する」
「何でよ? もうこの道具を持っているじゃない」
「・・・・・団体の話、個人、別」
「ああ、そう言うことか。つーことは、この魔法の道具は最大何個までくれるんだ?」
「・・・・・参加資格。ダイヤモンドトレール、完走したウマ娘の人数分」
あのコースにそんな隠し要素があっただなんて、と知らなかった二人の耳にトレーナーを探しにキッチンに顔を出したウマ娘の「えっ!」という声が聞こえた。出入り口の方へ振り向けば三人のトレーナーが担当するウマ娘達が一人ずつそこにいて、銀髪に近い芦毛のロングヘアー、右耳に青いリボンを付け、頭絡に似た大仰な作りの顎紐を通した茶色の水兵帽を被ったウマ娘、ゴールドシップが踵を返してすぐにいなくなった。
「Dくん。すぐに今の話が広まるぞ」
「・・・・・? ・・・・・隠し事ではない」
「それならいいけどよ。ま、俺からもスペ達に参加してもらうよう走ってもらうから遅かれ早かれか」
「そうね。参加してもらうウマ娘は多い方がいいし」
「なら、おハナさんには負けられないな」
「上等よ。ぶっちぎりの勝利をしてやるわ」
不敵の笑みを浮かべ、送る視線同士が火花を散らす一方でホールの方では・・・・・。
「この魔法の道具が個人にも貰える!?」
「それ、嘘じゃないわよね!」
「嘘じゃねぇよ。このゴルシちゃんの耳はしっかりと重要発言を聞き逃さなかったぜ!」
チームスピカのゴールドシップから伝えられた衝撃的な話は、ウマ娘達を激しく勝負心を燃やさせた。
「この中でなら一日一週間もお兄様と一緒に・・・・・ラ、ライス・・・・・欲しい・・・・・!」
「ボクもー!」
「公私共々、利用する価値がある魔法の道具を手に入れられるなら是が非でも、な」
恋するウマ娘達は競争率が激しい? トレーナーの奪い合いが緩和されることも考慮して二人きりの時間を求めて欲する意思を示す。スピカとリギルもトレーナーが欲しがるだろうと思って参加する意思を露にし、まだダイヤモンドトレールを完走していないウマ娘達は明日、挑戦しようと意欲を高めた。
そして―――ダイヤモンドトレールを完走したウマ娘達は後にトレーナーの部屋へと集まった。
「トレーナーさん。ダイヤモンドトレールを完走したのでご褒美をもらいに来ました」
「・・・・・求めるものは?」
トウカイテイオーが誰よりも早く シュバッ! と挙手した。
「はい! はい! はい! ボクはトレーナーの寮長室の鍵が欲しい!!」
『―――――ッ』
「・・・・・遊びに来る?」
「うん!」
ウマ娘とトレーナーのスキンシップをしたい! と強く強請っているのかと想像したトレーナーは特に疑問も抱かず、リストに書いた。
「・・・・・終わったら渡す。次・・・・・サイレンススズカ」
「あの、後日書いてもらいたいものがあります・・・・・今手元にないので」
「・・・・・? 内容による、でも、わかった」
「はい・・・・・っ」
「・・・・・シンボリルドルフ」
「トレーナーさんと未来の先でも一緒に生活をできるにはどうすればいいか、考えた末に一夫多妻の婚姻届に記入してもらうことに決めた。それが私の望みだよトレーナーさん」
『なっ!?』と驚くウマ娘達。まだ未成年なのに婚約を要求したシンボリルドルフに愕然とした表情と開いた口が塞がらなかった。
「・・・・・未来の話」
「ええ、いつかあなたから指輪を嵌めてくれるまでの延長期間です。まだ未成年と互いの立場を考慮して結婚は叶いませんがね」
「・・・・・後悔」
「トレーナーさんと寄り添う生活に後悔の二文字は皇帝には存在しないよ」
確固たる想いを知らされ、リストにシンボリルドルフの願いを書き留めた。
「・・・・・メジロマックイーン」
「私と一心同体になってもらいたいですの」
「・・・・・一心、同体?」
ここで小首を傾げるトレーナーはそれはどんな願いなのだと不思議がったので、メジロマックイーンは行動に出た。トレーナーの膝の上に背中を押しつけるように小振りな臀部を乗せて座り出した。
「こういうことですわ。四六時中、いつでもどこでも私があなたと一心同体であることを周りに納得させることが望みですの」
「・・・・・」
単に引っ付きたいだけか。そう結論に出したトレーナーはメジロマックイーンの小柄な身体に両腕をギュッと回して抱きしめる。
「・・・・・これ?」
「・・・・・はい」
トレーナーの胸に顔を預けて呼吸すると、鼻孔の中にトレーナーの体臭が通り過ぎた。とても好きになれる匂いだったのでメジロマックイーンは、心地の良い体温と共にトレーナーに包まれながら目を閉じて堪能することにした。羨望の眼差しを強く感じながら―――。
「・・・・・ミホノブルボン」
「マスター、夏休みが終わる前に宿泊する旅館はお決めになられましたか?」
「・・・・・まだ」
「では、私が旅館を決めてもよろしいでしょうか? 他の皆さんと泊まる旅館の費用も考慮して選抜いたします」
「・・・・・? ・・・・・わかった。任せる」
理由はわからないが、泊まる旅館を選びたいなら選ばせるつもりのトレーナーはミホノブルボンの願いを叶えることにした。
「・・・・・タイキシャトル」
明るい栗毛のポニーテールと緑色の星型の髪飾りがトレードマークのウマ娘、タイキシャトルの番にして話しかけたところ。満面の笑みで彼女は願った。
「トレーナーさん! ワタシのボーイフレンドになってくだサーイ!」
「・・・・・トレーナーさん、どういうことですの?」
胸の中から有無を言わせない、メジロマックイーンの迫力ある笑っていない顔が視界に入る。他のチームのウマ娘にまで好意を抱かれているとは知らなかったのは彼女だけでなく、理由を教えろとシンボリルドルフ達からも無言の圧が・・・・・。
「・・・・・兵藤家、助けた」
「・・・・・そうですの?」
「イエース!! トレーナーさんには何度も助けられまシタ!! 駆け付けるその姿ハ、まるでヒーロー!! 私はそんなトレーナーさんに助けられる内に心からアイラブユーを抱きましタ!!」
「何度もとは、どうしてそんなに・・・・・?」
「・・・・・言葉巧み、騙される。学習能力無し」
ああ、それじゃあ・・・・・と、騙される方が悪いのと何度も助けたトレーナーに恋する理由も分からなくはない、そんな二つの気持ちが交ざり合って納得してしまった一同。
「だが、タイキ。彼と交際するのは少し心構えが必要だ」
「オウ? 心構えとはなんデス?」
「・・・・・それは最後に話をしよう。済まないがその願いは保留にしてほしい」
シンボリルドルフの意味深な意見に、タイキシャトルは不思議そうにしていたが頷いて了承した。
「・・・・・ナイスネイチャ」
「うーん、と取り敢えず保留でいいですかね? いつか決めたら言いますんで」
「・・・・・わかった。・・・・・ナリタブライアン」
「ネイチャと同じ理由で保留にしてくれ。新しいコースを走ってみたかっただけだからな」
二人目の保留の願いを聞き受けて次に話しかける。
「・・・・・ダイワスカーレット」
「願いを言う前に質問なんだけどさ、アンタって、付き合ってる女の人いる? 恋人の意味で」
「・・・・・いない」
「ふーん、そう・・・・・そうなんだ。・・・・・じゃあ、その一番にアタシがなりたいって言ったら叶えてくれる?」
「・・・・・? なんの一番?」
は? と信じられないものを見る目でトレーナーを見つめる。近くにいたシンボリルドルフに質問した。
「素で言ってます?」
「言っている。ハッキリと口にしないとトレーナーさんは伝わらないぞ。そしてその願いは私達に対する宣戦布告と受け取ってもいいのだな?」
「当然。相手が誰だろうとアタシはレース以外でも、トレーナーの一番になりたいって助けられた時から立てた目標だからね」
疑問符を浮かべるトレーナーの目の前で皇帝と紅の女王が対立。譲れない戦いの火蓋が切って落とされた。
黒鹿毛で流れる流星、もしくはトウカイテイオーやシンボリルドルフと似た三日月のメッシュが入っており、頭の両側に花の飾り付きの赤い紐付きで髪を結ったキサタンブラック、前髪の一部に菱形のメッシュが入ってる右の耳に飾りをつけた資産家令嬢のウマ娘、サトノダイヤモンドが願いを乞うた。
「あの、今度の休日に私の家にご案内させてください。父があなたに感謝の礼をしたいとおっしゃっておりましたので」
「私もトレーナーさんの寮長室の鍵を下さい!」
二人の要望に応えるつもりでリストに書き、オグリキャップの願いを聞いた。
「今夜、トレーナーの背中を流してあげたいから一緒に入浴したい」
『ッッッ―――!?』
「・・・・・わかった」
あっさりと受け入れたオグリキャップの希望に別の意味でシンボリルドルフ達に雷の衝撃が走った。ある意味、恋人として付き合うよりも重大な関係を築くことを望んでいるかもしれないオグリキャップが―――ウマ娘達の間で一度は聞く伝説の『うまぴょい』をするつもりならば―――。
「・・・・・エルコンドルパサー」
「あの、何でも願いを叶えてくれるのは本当デース?」
黒鹿毛に近い髪色と目の周りを覆う覆面がトレードマークのウマ娘が訊く質問に首肯する。
「で、ではデス・・・・・・私も合鍵が欲しいのデス・・・・・」
「あら~、エルちゃんとかぶっちゃいましたねぇ。私もトレーナーさんの合鍵が欲しいのでよろしくお願いしますね?」
栗毛で額の辺りにある盾状のメッシュが特徴のウマ娘のグラスワンダーが微笑ながらそう言うので、リストに書くトレーナー。
「・・・・・解散」
その一言でシリウスは先に部屋を後にする中、オグリキャップは問うた。
「いつ風呂に入るトレーナー」
「・・・・・この後、この部屋」
「わかった。すぐに用意してくる」
と、言うオグリキャップであったが、その場にいた全員が聞き耳を立てていたことに、二人は気付きもせずに話し合っていた。
「二人だけでバスルームにはいるのデスか? 私も一緒にトレーナーさんと入ってみたいデース!」
「そうか。では一緒にトレーナーの身体を洗おう」
「センキュー!」
タイキシャトルまでトレーナーと入ることになり、しっかり聞いていた他のウマ娘達の心情を表しているかのように尻尾が忙しなく揺れてた。しかし、メジロマックイーンとトウカイテイオーは違っていた。
「・・・・・水着を着て入れば合法だよねマックイーン(ボソッ」
「・・・・・そうですわね。入る場所とお湯か水の違いだけでして、入っても問題ない素晴らしい物が丁度ありますわ(ボソッ」
「・・・・・じゃあさ、問題ないよね? 別に裸で入るわけじゃないもんね(ボソッ」
「・・・・・ええ、水着を着て入る行為はみ、淫らな意味ではありませんものね(ボソッ」
―――声を殺して話し合う二人の会話は、全集中して聞き耳を立てていたミホノブルボンや他のウマ娘達が聞き逃さず、ガシッと二人の肩を掴んだ。更には逃がさんと取り囲むウマ娘達。
「興味深い合法の話です。マスターと正式に入浴できるその案をメモリーにインプットします。ライスたちも誘いましょう」
「確かにトレーナーさんも水着を着て入ってくれれば合法的に混浴できるな。―――トレーナーさん、頼みたい事があるのだが」
そんなこんなで、トレーナーと混浴を臨んで自室で水着に着替え、他のチーム、同チームのウマ娘達に気付かれないよう動いてトレーナーの部屋の浴場へ赴き、水着姿で海パンで入っているトレーナーと合法的に混浴を可能にしたのであった。