「へぇー、トレーナーのおフロってこんなに広いんだー。もしかして他のトレーナーのおフロもそうなの?」
「・・・・・同じ」
「外にも温泉があるから出れるみたいね」
水着姿で十数人が一度に入ってきてもまだ広い浴場。広い湯船から立ち昇る湯煙から湯に浸けてある無数の柚子の香りが漂う。トレーナー専用の浴場を興味津々に見回し、視界に入れていればオグリキャップとタイキシャトルが既に動いていた。
「トレーナー、早速洗ってやるぞ」
「私達がクリーンにしてあげマース!」
「・・・・・よろしく」
「じゃあ、ボクはトレーナーの頭を洗ってあげるねー!」
「マスターの前の身体を洗います」
「では、私は長い髪を洗って差し上げますわ」
等と、自分達も! と主張するウマ娘達が増えた結果。一刀両断の言葉をトレーナーが発した。
「・・・・・トウカイテイオー達、しなくていい」
「「「「「「えーっ!!」」」」」」
トレーナーの願いを叶える権利でオグリキャップが叶えたい願いで了承し、タイキシャトルがオグリキャップに懇願したからこそ身体を洗ってもらうことを受け入れたのだ。それ以外は既に願いを叶えるつもりでいるのだから拒絶したのだった。二人だけズルい! と頬を膨らませてブーイングするウマ娘一同に魔法の言葉を送った。
「・・・・・後で髪を洗う」
「それは私達の髪のことですの?」
「・・・・・そう」
トレーナーが頭を洗ってくれる。そんな機会は滅多にないと最初に思ったウマ娘達はそうしてほしいがままに、あっさりと引き下がって湯冷めしないよう湯の中に入った。
「私達の髪も洗ってくれるのか?」
「・・・・・してほしい?」
「お願いしマース!」
二人も望んだので背中を素早く且つ丁寧に洗ってもらうと、すぐにトレーナーがオグリキャップ達の頭と髪を洗い始めた。指先だけ力を入れつつ頭の地肌を優しく擦り付けて髪と一緒に洗うその技術は、最初に洗ってもらったオグリキャップの口から深いため息を吐かせた。
「ズルいなトレーナー。料理だけでなくこうしてこれからも洗ってもらいたくなる気持ちにさせるなんて。これではトレーナーから離れなくなるじゃないか」
「・・・・・気持ちいい?」
「ああ・・・・・このまま寝てしまいたくなるほど気持ちよく、心が和らいでいくのが実感するぞ」
「オウ・・・・・本当に気持ちよさそうですネ~・・・・・ワタシも早く洗って欲しいデース」
「・・・・・待つ」
身を委ねるオグリキャップの感想に羨ましそうにしているのは、横から見ているタイキシャトルだけではなかった。早く、自分達も洗って欲しいとウマ娘達は多数いるのだから。
「・・・・・終わり」
「む・・・・・もうか? もう少し洗ってもらいたい」
「・・・・・地肌、痛める。綺麗な髪、痛む」
「・・・・・わかった」
何気に綺麗な髪だと褒めてくれたことに嬉しくて口元が緩んでるオグリキャップ。ウマ耳の中にお湯が入らないよう気を遣って泡を洗い流すトレーナーの手によって、次にタイキシャトルの番になった。
「お願いしマース!」
「・・・・・やる」
わしゃわしゃとタイキシャトルの頭髪を洗い始めると、心底から目を細めて喘ぎ声に似た気持ちよさそうな声を吐露する。
「オ~ウ、オオ~ウ・・・・・本当に気持ちいいデース・・・・・トレーナーさんのハンドはファミリーのホットを感じマース・・・・・」
タイキシャトルのそんな反応を見聞してしまうと、そんなに気持ちいいのかと気になって仕方がない。洗い終えたら次は―――と虎視眈々に三番目を狙うウマ娘達がジリジリとトレーナーににじり寄る。
そしてそれから他のウマ娘達の髪も洗ってもらっては、誰かに髪を洗ってもらう心地好さを思い出し、またトレーナーに洗ってもらおうと考えたそれぞれのチームのウマ娘達だった。
しかしここで伏兵と言うべきウマ娘が乞うた。
「トレーナー、またアンタの翼で寝たい」
「・・・・・外」
「ああ」
『っ!?』
ナリタブライアンがトレーナーの身体を確保したのであった。何も知らないスピカとリギルはシリウスから説明を聞き、あの綺麗な金色の翼の上で寝れるという事実に大変興味を持ってしまったので、トレーナーを中心に翼の上で就寝することに決めたのだった。
―――因みに。
「シリウスの皆さん。凄く羨ましいです」
「あんなモフモフの上で、トレーナーさんと一緒に寝れるなんて最高じゃん!」
「くっ、どうしてアタシはあのポスターでチームに入っちゃったんだろうっ・・・・・!」
「トレーナーさんのウィング、とってもハッピーになれマース!!」
「本当に気持ちよく寝れました。トレーナーさんに抱きしめられているかのように、全身が心地の良い温かさに包まれて・・・・・」
「またトレーナーさんの翼に寝たいデース」
スピカとリギルからシリウスに対して羨望を向けられ、シリウスのウマ娘は優越感でトレーナーの良さを知ってもらえて満足気だった。
―――翌朝。
「ライスも、今日はダイヤモンドトレールを完走するっ」
「わ、私も頑張りますっ」
「他の皆が完走したからにはチーム全員で完走しないとね」
「というわけで、行ってきます」
ライスシャワー、メイショウドトウ、ナイスネイチャ、ディープインパクトの四人がダイヤモンドトレールのコースへ挑戦しに行った。スピカとリギルのウマ娘達もトレーナーから挑戦するように指示を受けたのでライスシャワー達と一緒に走りに向かった。
「・・・・・何故、筋肉痛」
「「・・・・・」」
他のウマ娘達もそれぞれ走ろうと思うコースへ赴いたところ、ゴールドシチーとナリタタイシンが半日以上も重力装置を着けていたので、全身の筋肉が悲鳴を上げてる身体でトレーナーに告げた。
「「重力装置を着けて走ったから・・・・・」」
「・・・・・貸す許可、していない。誰から」
ナイスネイチャとディープインパクトから借りた、と言う二人。あの二人、お仕置きと決めた後に二人の筋肉痛を和らげるためのマッサージをすることにした。時間を掛けてほぐすと、本当にその日の内に筋肉痛が治ったことに信じられない気持ちの二人は、トレーナーと並走トレーニングをすることになった。
実際に、話だけしか知らなかったトレーナーと走る。その実力は一体と思って走ってみたら・・・・・。
「本当に速いっ!!」
「なんなんだよ、あのトレーナーっ!!」
ウマ娘の全力70Kも余裕で超えた速度を維持して駆け抜けるトレーナーの背中を見て走らされる二人。しかも―――走りながら編み物をしている始末で、めちゃくちゃ過ぎるだろ! と叫びたい二人はトレーナーを差すことも出来ないまま1700M走を終えた。
「・・・・・休憩、その後、3000M走るスタミナ、作る」
「アタシ達にあの重力の首輪は用意してくれないわけ?」
「・・・・・正式加入。物で釣られる?」
食べ物で釣られるウマ娘がいるため、物で釣られるウマ娘もいるのかと思っての問いだった。トレーナーの指摘にナリタタイシンは間も置かず否定する。
「そんなわけないだろっ。というか、あんなの着けさせて本当に速くなれるのかよ。すっごい身体が重たかったんだけど」
「二倍だけでも碌に走れなかったのは確かにね」
「・・・・・夏休みの間、ずっと着けさせてる。外すと前より速く、確実」
本当にそうなのかと胡乱気な目でトレーナーを見る二人。
「それで、スタミナ作りはどうやって?」
「・・・・・ダイヤモンドトレール、走る。今の二人、完走は不可能」
「言ってくれるじゃんっ」
「・・・・・時間的、完走できない」
そっちのことかよ。と言葉数が少なく意思疎通が少し困難なトレーナーに二人は呆れてしまう。
「・・・・・今日はずっと、並走」
「アンタと?」
コクリと頷くトレーナーに若干眉根を寄せる。
「・・・・・アイドル、ゴールドシチー、他のウマ娘よりトレーニング少ない」
「なに、アタシを舐めてるわけ?」
「・・・・・この中なら、仕事の休憩の合間、可能」
「・・・・・それで?」
「・・・・・欲しいなら、完走を目指す」
ゴールドシチー、そしてナリタタイシンはこの後、トレーナーと一緒にダイヤモンドトレールのコースを走り、途中で休憩を挟んで夜になるまで走り続けた。
「キッツ・・・・・!」
「登ったり下りたり、急な斜面もあるし、マジだるっ・・・・・」
「・・・・・ギブアップ?」
「「ふざけんなっ」」
「・・・・・ピッチ走法、脚の歩幅を狭く、小さく走る・・・・・坂の走り方」
突然のアドバイスを受けて、息を整えながらウマ耳を立てる。
「・・・・・スリップストリーム、前に走る相手の後ろに走れば風の抵抗が少なく、走りやすい」
「「・・・・・」」
「・・・・・スタミナ、脚を温存、ラストに使い切る走りが出来る、勝率も高くなる」
休憩後、その通りに走ってみればトレーナーの言う通りに楽に走れているような感覚を覚えた。
「・・・・・相手の走りのリズム、合わせて走るのも悪くない」
「「アンタ限定でそれは絶対に無理!」」
高速回転する歯車みたいな走り方を彷彿させるトレーナーと同じ走り方したら脚が壊れる!! 言外するそんな意味も込めて叫んだ二人であった。
「・・・・・じゃあ、他、頑張れる」
いや、それもちょっと・・・・・と言えずなゴールドシチーとナリタタイシンはこの後、一週間までにトレーナーと並走し続けることで心なしか体力が増えたような気がするのだった。
それからダイヤモンドトレールのコースを完走した三チームのウマ娘達も魔法の道具を得られる権利を獲得した。ギリギリ、飛び入り参加したゴールドシチーとナリタタイシンも含めてだ。
―――一週間目の朝。
「・・・・・全員参加、最後の一日、皆知ってるお宝争奪戦を始める」
チームスピカ、リギル、シリウスのウマ娘達とゴールドシチーにナリタタイシンが腰を落としてトレーナーの話に耳を傾けながら顔をあげる。
「・・・・・これを捕まえてもらう」
そう言うトレーナーが展開した魔法陣から無数の銀色の玉が飛び出して四方八方に飛んで行った。
「・・・・・銀色のあれを十、個人用。これがチーム用、集める」
見せつけるように握っていた拳の中にある物を解放した。それは金色の小さな玉のような物にしか見えないが、その玉が意思を持っているかのように虫のような羽を広げ、高速で羽ばたき素早く宙に浮いて動き回る。
「・・・・・個人用、全員分。ただし、スピカとリギルのチーム用、これ一つだけ。隠れている、飛んでいるのを捕まえ、この中に入れる」
金色の玉が空の彼方へと飛んで行ったあと、また別の魔方陣からチーム別に人数分の鳥籠を出した。
「・・・・・制限時間、夕暮れの十七時まで」
魔法で全員の前の前に鳥籠を移動させて、手に取った様子を見たトレーナーは言う。
「・・・・・ゲーム開始」
気迫のない声でお宝争奪戦の開始を告げた。各ウマ娘達は一斉に散り散りに飛んで行った金銀の玉を探しに走り出す。
「個人用の銀色の飛ぶ玉、結構な数だったのに見つからないね」
「大きさが小さいのも含めて、この中はかなり広いから余計に見つけにくい要因の一つだろう」
「全員分もあるのに、簡単に捕まえられないんだね。だから争奪戦かぁー」
トウカイテイオーはシンボリルドルフと共に探す選択をして、当てもなく探す。注意深く周囲を見回しながら無言より会話して楽しくしたいトウカイテイオーは口を開き続ける。
「ところで、トレーナーと一夫多妻の婚約届けに書いてもらうってほんと?」
「本当だがどうしてだ?」
「ルドルフさんってば、独占したいんじゃないかなって思ってたからさ」
自分も独占したい気持ちがありつつ、隣にいる憧れであり恋敵でもあるシンボリルドルフに言ったら、淡々と彼女は返した。
「否定はしない。誰でもトレーナーさんを独占して二人きりの時間を求めてるはずだ。だからこのゲームに真意はどうであれ参加してる」
「この中で一週間も過ごせたらボク、トレーナーのお嫁さんになっちゃうかも」
「それはまだテイオーには早い。なるのは私さ」
「むーっ、確かにルドルフさんは体もスタイルもボクより大きいけどさ、それでトレーナーをユーワクできるのかは別だよね」
「ほう・・・・・テイオーはできると?」
挑発的に言い返されたトウカイテイオーは、シンボリルドルフより凹凸が少ない自身の身体を無意識に見て触れる。
「・・・・・というか、トレーナーが好きって、心が壊れてるから相手からの好意が疎いって言ってたし、ボク達の身体を見ても平然としていそうな気がするよぅ・・・・・」
確かに・・・・・。シンボリルドルフもそう思ってしまった。
「それでも、私達のこと大切なウマ娘として認識してくれている。まずはその『大切』の意味を変える必要があるか」
「意味って?」
「君も知っての通り、トレーナーとウマ娘の関係は信頼と信用で築きウマ娘の目標、トレーナーの目標・・・・・言い換えれば夢を誠心誠意の心で目指している。そこに敬愛があれど情愛は抱いていない」
私達はそうでないだろう? と訊かれ頷くトウカイテイオー。
「元々トレーナーをするつもりなかったあの人は、私達に対する想い、ウマ娘を大切に想う気持ちはトレーナとしての義務からきている」
「うん、トレーナーはトレーナーだからね」
「ああ、だから愛情があれどそれは家族愛に近いもの。私達が最終的に望んでいるのは恋人同士が築き合う恋愛の想いだ」
肯定の意味で頷くトウカイテイオー。
「私が一夫多妻の婚姻届に書いてもらおうと、トレーナーさんは私達を一人の女として愛情を抱かず書くかもしれない。―――それではダメだ。トレーナーさんには本当の意味で私達に好意を抱いてもらわないと意味がない。故に虎視眈々と機会を窺って狙うよりもトレーナーさんに全力投球の気持ちでぶつかっていかねばならない」
「皆でトレーナーに好き好きってアピールするの? 逆にウザがられたりしない?」
「当然そうならないように皆で相談するべきだ。故にこの魔法の道具を手に入れなければならない」
不意に、銀色の輝きを発する玉が地面に転がっていた。個人用の銀色の玉である。
「あ、あった!」
先にトウカイテイオーが捕まえようと走り出すと、地面に落ちてた銀色の玉が急に羽を動かして逃げ始め出す。
「え、ちょっ、ま、待ってよー!」
「・・・・・思い出した。トレーナーさんは少し意地悪だった。簡単に捕まえさせないつもりだな。いや、ゲームだというこれもトレーニングかなトレーナーさん」
「つかまえる、つかまえる、つかまえる、つかまえる・・・・・」
見つけた逃げる銀色の玉を猛獣のような目つきで追いかけるライスシャワー。その気迫も執念も凄まじく、鳥籠の中には既に一つの銀色の玉が入っていた。絶対に捕まえる、絶対に逃がさないライスシャワーの末脚。一定の距離まで跳ぶと飛行速度が低下する銀色の玉との追いかけっこは、スパートをかけた彼女が地面をえぐるように蹴って飛び出したことで伸ばした左手の中に納まった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・これで二つめっ」
鳥籠の中に仕舞い周囲を探すと、三十M先に飛ぶ銀色の玉を見つけるや否やダッシュした。瞳に青白い炎を
「面白い趣向ねこれ」
四つめの銀色の玉を掴み取ったマルゼンスキーは魔法の道具の争奪戦の意図を読めていた。
「目の前に大好物の物をぶら下げて、走らせるなんてシリウスのトレーナーさんは本当変わってる」
なんのしがらみもなく走らせるまるで子供の遊び。吹く風も心地好く気持ちよく、何の障害物もない芝の地面もどこまでも広がって、ウマ娘の心を表しているかのようだった。まるで自由に走れと、身体を撫でる自由な風もそう促しているかのようであった。
「―――最高ね♪ それっ!」
楽しく笑いながら五つめを探すマルゼンスキー。―――だったが。
「―――ハッ! ここならもしかして交通ルールを気にしないで自由に『タッちゃん』を乗り回せるんじゃ!? もし可能ならこうしちゃいられないわっ! あの何でも願いを叶える権利を保留にしてよかったー!」
別の意味で彼女に更なるやる気を出させ、目の前にぶら下げられたニンジンよりも意欲的に捕まえる目的が出来てしまったのだった。
因みに―――。
「って、言ってるみたいだけど実際この中に持ってこられるわけ?」
「・・・・・違う、用途違う・・・・・可能」
「出来ちゃうのかよ」
全員の様子を別荘の中で立体的な魔方陣で見ていたトレーナー三人がそこにいたのだった。沖野はトレーナーに映像を見ながら思ったことを口にして聞いた。
「ていうか、これもトレーニングだろ」
「・・・・・9割」
「でしょうね。全力で捕まえに行くウマ娘や、速力が落ちたところを狙って加速するウマ娘、並走して走るウマ娘とか自然に出来上がってるから、自分達がトレーニングしていると気付くウマ娘は片手で数えるぐらいしかいないでしょう」
「俺んとこは欲望に忠実だから気付かないだろうなぁ~」
気付くか気付かないかは、トレーナーからすれば二の次、三の次以降のことで今はとにかく彼女達を走らせるのが重要だ。
「ん? ・・・・・おおっ!」
突然、沖野が歓喜した声を上げだした。なんだ、と二人は、トレーナーは沖野が見ている映像を拡大してみると―――。
「やっと三つめか」
広過ぎる空間の中で見つけるのが困難を極める今回のゲーム。常に飛んでいる金と銀の玉はその場にとどまることは少なくなく、飛行しているところを目撃できればラッキーである。三つめを鳥籠に入れたエアグルーヴは次のを探すため、草原の五十Kコースから離れようとした時だった。
「うぉおおおおおおお!! 待て待てお宝ぁー!!」
「む、この声は」
声がした方へ振り向いたその目の視界に、銀髪をなびかせるウマ娘、ゴールドシップが―――金色に輝く玉を追いかけていた。それはチームスピカとリギルが争奪戦をする対象の、専用の魔法の道具が手に入る金の玉だった。
「あれはっ、譲らん!」
チームのためにも、エアグルーヴはゴールドシップと競い合う並走を臨み駆け出した。
「リギルかっ! 先にアタシが獲らせてもらうぜ!」
「ぬかせ、私が獲る!」
「いけエアグルーヴっ!」
「負けるなゴルシ!」
「・・・・・応援する親」
金の玉の争奪戦が勃発したことを知らない他のウマ娘達は、現在ゲームが始まってから一時間が経過。着実に一つずつ手に入れて多いところでは五つ、少ないところはまだ二つという成績だ。日暮れ時はまだ時間があるものの、最初に見つけるのが苦労させられていて見つけても逃げて追いかけねばならない。
「やったー! これで五つめだよダイヤちゃん!」
「うん、あと残りはお互い半分だねキタちゃん」
仲良く平等に獲りあって微笑ましいところが一つ、キタサンブラックとサトノダイヤモンドの二人だ。
「でも考えたね。逃げる方角にもう一人が挟み撃ちして捕まえるなんて」
「うん、何となく私達がどこまで近づいたら逃げるのか考えていたの。それが大体把握したら次は挟み撃ちにしたらどうなるかなって思ったんだよね」
サトノダイヤモンドの作戦は実に嵌っていた。そこまで計算されてしまったトレーナーは見ていて「・・・・・失敗」と玉の動きの設定を気付かれたことにそう呟いた。逃げる玉を追いかけさせるのが目的であるのに、効率よく集めさせるのが目的ではないのだ。故に設定を変更せざるを得ない。指同士を弾いて鳴らしたトレーナー。全ての銀色の玉の動きの設定を変更する。五つ以上も捕まえたウマ娘限定で、真っ直ぐ直線だけでなくカーブも加え、更に難易度を高めた。既に五つ確保し、六つめもと意欲的に獲りにかかるウマ娘達にとってこれには驚かされた。
「曲がるようになった!?」
「逃がさないよ、捕まえる!」
「こっから本番のタイマンってわけだね!」
難易度が高くなったために六つめ以降は、捕まえるのに時間がかなりかかったウマ娘も含め九つも集めるのに苦労が絶えなかった。
一方、ゴールドシップとエアグルーヴの方では・・・・・。
「クッソ、はぇえ・・・・・!」
「すまない・・・・・誰か、後は頼んだ」
最後まで金の玉を捕まえることが出来ず、スタミナ切れで地面に沈んだ二人。そしてエアグルーヴの思いを知らずに引き継いだのは、日本一の短距離ウマ娘のタイキシャトルが追いかけた。
「ゴールデンボールは絶対に捕まえマース!」
短距離ならば他の名のあるウマ娘と引けを取らない末脚の持ち主。追いかけるタイキシャトルの姿をたまたま近くにいたスペシャルウィークが見かけ、金の玉を見て争奪戦に交じった。
「タイキシャトルさん、勝負です!」
「オウ! リベンジマッチですねぇ? 負けまセーン!」
二人は追いかけてると心臓破りの坂のコースを登ることになった。ピッチ走法を用いて歩幅を狭く速く走って上へ上へと向かう金の玉を追いかけてると、短距離が適性距離のタイキシャトルとはいえど、長距離を走るスタミナがあるかどうかは別の話だ。走り続けるうちにスペシャルウィークがハナ差でタイキシャトルを差し抜かんと迫っていた。
「うぉおおおおおおおおっ!!」
「くぅっ!」
それからとうとう、頂上まで辿り着いてあと一歩で捕まえる金の玉へ手を伸ばす二人―――だったが。
頂上に先客のウマ娘が頂上にいて、下を眺めている後ろ姿が二人の視界に飛び込み、金の玉がそのウマ娘の方へと飛んで行った。
「うん? 銀の玉か?」
そしてあろうことか、条件反射で地を蹴って飛び出し金の玉を掴み取ってしまった―――ナリタブライアン。
「えっ?」
「ホワッツ?」
ズサーッ!!
シリウスが捕まえてしまった目の前の現実に間抜けな顔をした後、仲良く地面を舐めるように倒れ込むスペシャルウィークとタイキシャトル。見物していたトレーナー三人もこれに唖然だった。
「ねぇ、どうなるわけこれ? あなたのチームは参加していないのに捕まえちゃったのだけれど」
「・・・・・予想、不可能」
「別にシリウスも、金の玉を獲っちゃいけない話をしてなかったしなぁ・・・・・」
確かにそうだった。ならばこれは自分の不注意ということになるトレーナーは取得権利の方法を考えた。
「・・・・・心臓破りのコース、先に辿り着いたもの勝ち」
「いいわよそれで」
「ほぼ同時に頂上に登ったから判定は難しいな」
という事が決まり、その場にいたナリタブライアンに記録した映像の判定をしてもらうことにした。
スペシャルウィークとタイキシャトルからもそれで構わないと了承を得て、頂上に辿り着いた瞬間の二人の画像を展開し、ナリタブライアンに判定・・・・・。
「トレーナー、一応聞くが同着も含まれてるか」
『・・・・・アリ』
「なら、私の目で見た事実を言わせてもらう。どちらも僅差がない綺麗な同着だ」
『『いよっしゃー!!』』
「や、やったー!!」
「ゲットデース!」
喜びの声を上げる両チームのトレーナーとウマ娘。その事実は後に報せとして他のウマ娘達に伝わり、スピカとリギルはスペシャルウィークとタイキシャトルに歓喜の声で称賛した。しかし、当の二人は坂を登るのに体力が消耗、直ぐには走れなかったので回復に時間を費やした。