兵藤家主催、力の大会開催日―――。参加者と観戦客がこぞって東京ドームに集まり人類の若手最強を決める戦いが始まろうとしていた。参加する世界中から日本に集結した二十歳以下の強者、
「これからお渡しする書類に目を通し、項目に記入、問題なければ内容証明書サインをしてください」
―――トレセン学園。
『さぁ、世界中から集った千人以上の猛者達が東京ドームのグランドを占めたところで、続いては
公共大食堂に設置された大型テレビの前で一般の生徒やウマ娘が交じって陣取り、観ていた。その中でトレーナーを応援するガチな姿勢で見守ろうとしている。名前や応援の言葉を書いた鉢巻や団扇を装備して他の傍観者よりも気を吐いていた。
「あっ、トレーナー発見!!」
「真紅色の長い髪だから分かり易い」
「トレーナーさん、頑張ってください!」
『これで全ての参加者が集いました。いよいよ今世紀最大の大会、人類の若手最強を決める力の大会が始まります!』
ドーム内の観戦者達の歓声が爆発的に湧いた。一般人が九割とグラウンドを占拠し、残り一割が
「あれ?」
「どうしたの?」
「見覚えのあるウマ娘がいるような・・・・・」
「いやいや、あの大会にそんなウマ娘なんている筈が・・・・・」
『実況は私、喋ると口が一時間も止まらない定評の兵藤弘毅が送ります。そしてゲストには我等が兵藤家当主の兵藤源氏様と式森家当主の式森和真様であります。更には
『おう、よろしく頼むぜ。早速だが、この大会にウマ娘もいるとは驚きだな。戦闘も嗜んでいるとならばとても有能なウマ娘だぜ』
『はい、えーと、特に知名度で名を挙げるならば「ゴールドシップ」さんですね。レースでも好成績を残してる力強い走りを見せてくれてますので、どこまで生き残れるのかとても興味深く思います』
「「「ちょっ!?」」」
「「「なんで参加してるの!?」」」
ズームアップされるカメラに笑顔とピースをするゴールドシップ。一般枠に参加してる様子だが、友人知人を驚かせるのには充分すぎる事実であった。
「・・・・・ゴールドシップ」
「知っているようだが強いのか?」
「・・・・・走り的に悪くない。性格、難らしい。強くはない、と思う」
Dもゴールドシップの存在に驚く。
『アザゼル総督から見て、決勝に残る挑戦者はどなたと思います?
『そうだな。実力は当然として、一週間も断食を強いられるならば、
アザゼルが兵藤家当主に話しかけた。
『お前、よく認めやがったな。下手すりゃあ一本勝ちになってるぞ。お前の息子にして前の当主、兵藤誠が参加してるなんてよ』
『・・・・・条件付きで認めたまでだ』
『え、兵藤誠って・・・・・ああ!! 本当にいる! 久しぶりに見たぞあの風来坊! 当主、本当に何故お許しになさられたのですか!? ルールは破るためにあるんだぜ、と真顔で言う大バカ野郎を! しかもその隣には自然と当たり前のように、式森家当主の姉であり元は当主だった最強の魔法使いの式森一香様までいるじゃないですか!』
『あの男・・・・・っ』
『・・・・・黙れ、特別に許した』
当主達に苦い顔を浮かばせる二人も、カメラに向かって笑顔で手を振る。
『故に、特別ルールを加えることにした。そこにいる兵藤、式森の元当主をどちらか先に倒した者は決勝戦に勝ち残らずともこの大会の優勝者とする。どちらも兵藤家、式森家の歴代にして過去、現在、未来において正真正銘の人類最強の存在だ。一週間断食するまでもなくそこのバカ共を倒せた者こそが、次世代最強の人間として歴史に名を遺す英雄となるだろう』
っっっ―――!!!
挑戦者達が雄叫びを上げて二人に好戦的な視線と言う睨みを付ける。
「それは困るな。Dと決勝戦で戦いたいと言うのに楽な勝ち残りのルールを決められたら」
「・・・・・強さの壁を越えた者、勝てない」
「心配は無用と言うことか。なら、決勝戦の人数の枠はあの二人にして」
「・・・・・残り赤い龍、白い龍」
『えー、少しお見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした。次は挑戦者達が闘うフィールドについて説明いたします』
実況者が進行を進める。
『これから挑戦者達は特別なフィールドにランダムで転移してもらい、そこで一週間断食してもらいながら勝者四人になるまで勝ち残っていただきます。なお、食糧以外の道具の持ち込みは認められておりますが、時間が経つ毎にフィールドが狭くなります。その合図の放送が流れた際、分かり易く表示いたしますので急ぎ戦闘ができる地域に移動してください。仮に次の戦闘領域までおらず、戦闘範囲外にいた場合は即失格です』
『また挑戦者達が戦闘が維持できない場合は負傷具合によって運営側が強制退場させていただきます。他、ギブアップと叫んでください。しかしギブアップ宣言は兵藤家の皆様だけが適用外でございます。相手の挑戦者に倒されるだけがフィールドから退場のみでございますので、断食する中での戦闘は十分お気をつけてくださいませ』
『さらにこのフィールドは時間の流れが現実世界の時間と異なっている設定です。フィールドの中での一週間は、現実世界の時間では7時間しか経過しておりません。途中でCMの放送も入れず7時間も生中継させていただく所存ですので、お茶の間の皆さんや会場からご覧になられる方々も自由にお過ごしくださいませ』
『そしてここで一つ、お茶の間の皆さま向けの企画があります。携帯、PC、テレビのリモコンで誰が優勝するのか予想していただきます。もしも予想した選手が優勝した暁には抽選で五十名様には、最大二十名様までお連れすることが出来る兵藤家が所有する五つ星高級旅館の七泊八日間の宿泊無料チケットを贈呈致します。当主、太っ腹ですねー!』
『さらに元当主のお二人を倒す選手の予想もしてくださると、当たった方には抽選で賞金1000万円が授与されます! 一回きりの選択なのでご自身の勘を頼りに選んでくださいませ』
Dを知る者達は迷いなくDを選択して登録した。
『フィールドのご説明は以上ですが、戦闘の際に相手を殺害してしまった選手は強制的退場をさせていただきますのでご注意ください。ではこれより、兵藤家主催の力の大会を開始です!』
挑戦者達の足元に広大な魔方陣が展開され、視界が真っ白に染まり目の前が何も見えなくなった―――。
ランダムに振り分けられた挑戦者達は今自分がいるフィールドの光景を見て、唖然とする。
全員が各フィールドに配置された瞬間。大会は始まった―――が、開始早々、とんでもないことをする挑戦者が注目されるようになった。
森の上空に高く飛んで地形を把握、戦闘用の擬似フィールドは見渡す限り森林だらけであった。
それ以外ではたくさんの挑戦者や戦闘の気配を感じたDは空へ移動しながら上昇、誰もいない無人の空に辿り着いたそこから巨大な真紅の龍と化して・・・・・限界まで開いた口内から巨大な火炎球を放ったそれは、森林に直撃して大爆発。木々を薙ぎ倒さんとする衝撃波と共に、瞬く間に森が炎に包まれて燃え広がり火の海と化した。突然の火災にその場にいた挑戦者達は命の危険な状況にギブアップ宣言をして早々に退場したのだった。
『な、なななっ、フィールドからドラゴンが出現しました!! ドラゴンの一撃に一部どころじゃない規模で森林のフィールドが火の海に変わり果て、周辺に転移された大多数の挑戦者達がギブアップして退場!』
『はっはっはっ! 世界は広いもんだな。ドラゴンに転生した元人間がいるなんてすごい発見だぜ』
『あれが元人間!? 人間の皮を被ったドラゴンでは!?』
『人間しか宿らない摩訶不思議な能力を持っている時点で元人間だろう。な、お二方』
『・・・・・そうだな』
『信じがたいことだが、正式に参加を認められているならば異を唱えることはできまい。我々が認知も既知もしていない未知などこの世界にありふれている。ならば尚更あのような存在を打破する人間もいてもおかしくはない』
『いるのですか? あんな化け物を倒せる人間が』
『いなくてはこの人間界はあっという間に滅ぶぜ? というか、実況者とはいえ、人類最強の一族の者が弱気でいるのはおかしなことだな。今の兵藤家は闘う前に尻尾巻いて逃げるのか?』
『・・・・・貴様、兵藤家の者として弛んでいるようだな。これが終わったら他の者共と鍛え直してやる』
『も、申し訳ございません当主!!』
『さぁーて。このまま焼け野原にされる前にあのドラゴンを止めりる者はいるかな? 先の発言で兵藤家の若者達にはいなさそうだからな』
『勝てずとも、挑む姿勢を世界に示してもらいたいですな源氏殿』
しかし、挑む前に身を焼かれ、焦げる挑戦者達が多く緑の森と共に焼失していくばかりだった。そして焦土と化する大地を置き去りに広がっていく火炎の輪の一部分が氷結、極太のビームに吹き飛ばされた。
『あ、あーっと!? 空からの映像で炎の餌食になる前に自力で対処した挑戦者達がいたぞー!! 果していったい誰だぁ!?』
『ほう?』
『興味深い』
『だが、それ以外の火炎輪はまだまだ燃え広がっている。フィールドの果てまで続く勢いだ』
それを確認したからか空からの降りるDにまたビームが飛んできた。魔力のビームで返して二つの力が衝突、鍔迫り合いをした後に大爆発した。爆煙が晴れた頃には、Dを見上げる二人の影。
「はっ! あの化け物がこのフィールドの中で最も強い相手で間違いないな。まさか、ドラゴンと闘える日が来るなんて参加して正解だった!」
「確かにな。お前を倒す前にまず奴だ。実に闘い甲斐がある奴がいて嬉しいものだ」
片方はともかく、軍服姿で透き通った水色の髪と鋭い瞳の少女はとても懐かしい相手であった。元の人型に戻ったDは、水色の髪の少女へ近づく。
「・・・・・久し振り」
「私のことか? どこかで会ったか?」
「・・・・・昔の勝負、決着」
「昔の勝負・・・・・? ・・・・・―――お前、まさか」
ショタ狐と化したDを見て、二人はぎょっと目を見開いた。
「「お前っ!? い、生きていたのか!!?」」
「・・・・・川神百代、気付かない」
「気付くかぁーっ!? あれから何年経っていると思っている!! 外見も昔と別人だぞ!!」
「・・・・・川神鉄心。気付いた」
「おいジジイ!!」と空に向かって叫ばずにはいられなかった川神百代その人だった。
「お前、今までどこにいたんだ。その姿もドラゴンのことも」
「・・・・・倒してから」
「ふっ、それそうだな。ああ、あの時の続きをしようか! ここなら誰にも横やりを入れられない。存分に死闘を繰り広げるぞ!」
「・・・・・勝つ」
「私もいるぞ! 空気扱いするなぁー!」
凄まじい衝撃音、瞬時に大きく氷結する氷の山に巨大な火炎球がぶつかり合う激しい激闘が繰り広げられる中。
「・・・・・名前」
「戦闘中に他人の名前を聞くとは余裕だな! だが、お互い名前も知らないのは不便だろう。教えてやる。私はソビエツカヤ・
「・・・・・D」
「兵藤D?」
「・・・・・兵藤、捨てた。ただのD」
「そうか。では、D! 力尽きるその時まで戦いの舞踏をしようじゃないか!」
「・・・・・勝負」
「また空気ぃー!!」
せっかくの再会なのに泣きそうな川神百代は、意地でもDの意識をこっちにも逸らさんと猛攻しかかる。氷の大輪の華を咲かせるソビエツカヤ・
『激しい! とても激しい戦いです! 時さえ凍らせる氷を拳ひとつで粉砕、全てを焼き尽くさん炎の塊に臆しない三者三様の戦いが第一試合の中心となり観客達が歓声を上げております! ドラゴン相手に引けを取らない二人の若者達は世界中に注目されております! アザゼル総督コメントをお願いします』
『片方はともかく、川神百代は川神鉄心の孫なだけあって闘争心が高いのが窺えるな。一撃一撃が重みがありそうだ。上級悪魔相手にも通用するだろう。ソビエツカヤ・
『ドラゴンは氷、もしくは寒いところは苦手なのですか?』
『一概にそうではないな。絶対とは言わないが、ドラゴンの身体は頑丈で屈強、そして力が強い三拍子が揃っている。生半可な攻撃は絶対に通用しないぜ。例えガドリングガンだろうとミサイルだろうとドラゴンの鱗に傷すらつかない。あの二人のように強さを極めんとしている者達じゃなきゃ倒せんよ。ところで源氏殿。川神百代をどう見ている?』
『人類の最強の頂に辿り着く資格がある者の一人だ。誇らしく思い、これから現れるだろう他の者達の戦いを見守らせてもらう』
『そもそもあの真紅のドラゴンの真名は? アザゼル総督』
『そいつは決勝戦に教えてやるよ式森家当主殿。―――あっちも終わらせようとしているみたいだからよ』
《―――此の身に禁忌の化生を宿さん》
謳い出すと腰に狐の尾が生え出したDの玲瓏に紡ぐ呪文のような声が場に響く。
《―――日陽を落とし、命を劫火の炮烙へ誘わん》
二人が素早くDから距離を置いた時。狐の尾がさらに増えると太陽の光が途絶え、フィールドが常闇のように暗くなった。空は深い闇に塗り替えられ地上を覆い尽くさん勢いでいく最中―――。
《―――此の身が幾多も刻まれようとも、九つの尾の美化生と啼き嗤い、舞い謳う》
いつの間にかDの傍にいた九桜の全身の毛が逆立ち、体が巨大な獣へと変化していく。
《―――禁忌の身にして忌み嫌われし我らは、此処に誓わん》
八本目の尻尾が生えるとDの長い髪から狐の耳が生えていて―――。
《―――嗚呼 汝等よ、心して掻かれ》
最後の一本が生えた時、フィールド全体が激しく揺れだし地面に亀裂が生じる。地割れが発生した。
《―――烽火が挙がった時、千の命が殺生せん》
最後の謳の一節が言い終えた次の瞬間だった。亀裂の隙間から炎が噴き出し、九桜が寄り添うDと二人の少女を残して場所が燃え広がる。天は深い闇に閉ざされ、植物は焼失し地は灼熱の劫火、フィールド全体が荒ぶる炎の世界と化した。今三人が立っている場しか安全地帯と言っても過言ではなかった。
「・・・・・息苦しいな。それに、この感覚は・・・・・体力が奪われているのか」
「・・・・・正解。 力、体力、この異空間にいる間、奪われる」
「なら、全てを奪われる前にお前を倒せばいいだけだな」
「こんな炎の世界、氷の世界に変えて―――」
周辺の景色を塗り替える氷の壁がソビエツカヤ・
「・・・・氷系
「実際に戦ったみたいに言ってくれる」
太い氷の槍が飛んでくるが、Dに届く前に蒸発して消失した。
「・・・・・実際、戦った」
刹那。二人の身体が発火した。目を見開き驚愕の色を浮かべるが苦痛を感じていない様子に、炎に熱が無いようであった。しかし、代わりに体力が凄い勢いで吸い上げられていくのが手に取るように分かってしまう。
「くっ・・・・・!? 一気に力が・・・・・!」
「・・・・・呪いの炎、浄化しない限り、永遠に体力を吸収」
「お前、正々堂々と戦え!? せっかくお前と闘えると思ったのに!!」
巨大狐が口を開く。
『川神百代は学園でもしょっしゅう勝負を仕掛けているではないか』
「喋れるのか、化け狐。今までDとどこに行っていたんだ」
『ここでは語れぬ。知りたければお主の祖父に聞くのだな』
「やっぱりジジイも絡んでいるのか。どうして、どうして私に教えてくれなかった!」
『D曰く―――面倒くさい、だそうだ』
なんど、それは・・・・・。そんな理由で? と唖然と目を丸くする川神百代は立っていられなくなるほど体力を奪われたソビエツカヤ・
『旧知との再会など、Dは望んでおらん。それはかつて共に過ごした兵藤家の娘達も例外ではない』
「なんだと・・・・・っ」
『勘違いするではないぞ。Dは自分を見守ってくれた者には壊れた心でも感謝し、その者達の身に危険が及べば優先的に助ける気でおる。だが、それ以外の事は干渉する気は一切ない。お主等も友人と知人の者達と深く関わろうとせんであろう? それと同じじゃ』
二人の下へ九桜が近づき右脚を上げた。何をしてくるかわかっているが、Dの尾に身動きを封じられてる上に体力が奪われて力が入らない。完全に積んでいる二人は真っ暗な影に覆われ・・・・・。
『まぁ、アップルパイの一つでも持って寄こせばDは喜んで干渉してくるゆえ、構ってもらいたいなら試してみるがよい』
ズン! とその言葉を最後に二人は踏み潰された。