ハイスクールD×D忌避されし存在   作:ダーク・シリウス

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アンツィオ高校

中央トレセン学園の制服を身に包むチームシリウスは観光用客船に乗り、アンツィオ学園艦に向かっていた。一行以外にも本土から観光目的で乗船した乗客たちと一緒で少しの間の海の旅を満喫していた。潮風で髪が痛むのが嫌だとメジロマックイーンはぼやいてたが、トレーナーの膝の上に座り、後ろから抱きしめられてコンディションは絶好調だ。羨望の眼差しを向けるライスシャワーや嫉妬するトウカイテイオーに両脇を固められているにも拘らず、トレーナーは空気のごとく静かに学園艦に着くのを待った。

 

―――二時間後。

 

「船の上に、建物があるー!」

 

「凄い、ここで生活しているの?」

 

「トレーナーさんに連れてってもらえなかったら知ることが出来なかったね」

 

「うわぁ~・・・・・!」

 

到着したアンツィオ学園艦。一緒に来た観光客たちと階段を登って賑やかなところへ向かう。

 

「・・・・・朝、屋台」

 

「美味しそうな匂いが充満しているね」

 

「それに料理を作っている人ってみんな、ボク達と変わらないんじゃない?」

 

「未成年の、しかも学生が店員? 凄いですね」

 

学園艦、艦船にいるとは思えないお祭り騒ぎの雰囲気に一行は物珍しさを覚える。様々な料理、主にトレーナーの知識が正しければイタリア料理が多い他、雑貨の商品も売っている屋台もある。

 

グゥゥ~・・・・・ッ。

 

「・・・・・トレーナー、お腹が空いた」

 

「オグリさん。まだお昼前ですわよ?」

 

「こんな屋台の真ん中にいると匂いに釣られてお腹が減ってしまうんだ」

 

空腹を訴えるオグリキャップに危機感を覚える。しかし、さらに追い打ちをかけられてどうしようもなくなってしまった。

 

「おおっ! Dさんじゃないか! アンツィオ学園にようこそ!」

 

Dを見つけた黒リボンで結んだドリルツインテールとツリ目が特徴の少女ことアンチョビ。嬉しそうにエプロン姿で寄って来て歓迎の握手のつもりでDの両手を掴んで喜びを露にする。

 

「・・・・・来た」

 

「アンツィオはDさんとウマ娘達を歓迎するぞ! 何か食べるか? アンツィオの流儀でもてなしてやるぞ」

 

「・・・・・食料、大丈夫?」

 

「問題ないぞ。どんどん食べてくれ。あの時私達を助けてくれた礼として、ここの全ての屋台の料理は全てタダで食べていいぞ」

 

グウウウウウ~ッ!!!

 

オグリキャップの腹の虫がアンチョビの言葉に歓喜したかのように凄く鳴った。へ? と呆けるアンチョビはこれから健啖家の恐ろしさを知ることになるだった。

 

「・・・・・許しが出た。食べていい」

 

「待っていた、この時を・・・・・!」

 

もはや我慢ならないと近くの屋台へ足を運び、その屋台の食糧を食べ尽くすと次へ移った屋台の食料も残さず食い尽くすと次々と屋台に売っている料理と食材を腹の中に収めていくのであった。

 

総帥(ドゥーチェ)大変っす!! 白いウマ娘の奴が食料を食べ尽くされました!!」

 

「こっちもです! もう料理が作れません! というか作りすぎて疲れたっす!!」

 

「な、なんだとぉっー!? ・・・奴は暴食の怪物だというのかっ!!」

 

通称屋台街の屋台の料理を食べ尽くす勢いのウマ娘の姿にアンツィオが戦慄したのは言うまでもない。

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかった」

 

「う、嘘だろっ・・・!?」

 

たった一人のウマ娘に屋台の料理を全て、在庫の食糧までも食べ尽くされアンチョビは恐怖を覚えた。下っ腹を大きく妊婦のように膨らませて至極満足そうな白髪のウマ娘は自分達の想像を絶する健啖家であることにも度肝を抜かされた。無論、全て無料で食べさせてしまったから利益はなく大赤字だ。

 

「・・・・・利益、後で渡す」

 

「・・・・・すみません。凄く助かります」

 

幸い、担当ウマ娘が食べた分の利益を回収できたのでこの日の売り上げを得れて安堵したアンチョビだった。改めて観光を再開、アンチョビの案内と説明を聞きながら楽しんだ。

 

イタリア人商人が母国の文化を日本に伝えるために設立した歴史ある学校であり、学校そのものの本籍地が海の無い栃木県の為、静岡県の清水港を母港代わりに借りているようだ。その為、静岡県や愛知県から越境入学している生徒が多いらしい。

学園艦施設にはスペイン階段風階段、三神変形合体教会、トレヴィーノの泉などイタリアにあるそれっぽい建造物が揃い、テーマパークみたいになっているため観光客からの人気は高いが、地味なため生徒からの評判はイマイチだと言う。他にも日伊友好の記念として贈られたポンペイの巨大な古代宮殿の石柱(本物)、パンテオン(イライラした時に思いっきり叫ぶ用、オペラ上演もやる)やコロッセオ(戦車道訓練場兼運動場兼舞台兼お祭り広場)もあり、街並みもローマのそれなため、学園長曰く「ローマよりもローマ」とのこと。

 

「あ、これボク見たことある! 確か、トレビの泉だったよね!」

 

「・・・・・トレヴィの泉」

 

「そうだぞ。トレヴィの泉だこれは」

 

「え? トレビの泉じゃないの?」

 

「・・・・・呼び方、様々。勉強、足りない」

 

自信満々に言った矢先に違うと指摘されて恥ずかしくなって黙るトウカイテイオー。この後トレーナーが、トレヴィの泉の言い伝えである―――。

 

後ろ向きにコインを泉へ投げ入れると願いが叶うという言い伝えがあり、投げるコインの枚数によって願いが異なるとされる。コイン1枚だと再びローマに来ることができ、2枚では大切な人と永遠に一緒にいることができ、3枚になると恋人や夫・妻と別れることができると言われる。

 

―――と語るや否や、ウマ娘達がそれぞれ反応し出した。

 

「んんっ、恋愛的なおまじないを願うことができる人工的な造形物だとはな。物は試しにやってみようと思うが」

 

「賛成ですわ。せっかく観光をしに来たのですから何事も挑戦を、ええ・・・体験をしてみるという大切な気持ちを忘れてはいけませんわ」

 

「ボクも賛成ー!」

 

「ラ、ライスも興味、あるかな・・・・・?」

 

「これ、皆でやらないといけない雰囲気だよね? まー、一回ぐらいはやってみようかね」

 

「ふふっ、そうね。こういう時は皆で楽しめる時は楽しみを分かち合わないとね」

 

「・・・・・やらないといけないのかこれは。誰かが考えた言い伝えは言い伝えだろう」

 

「空気を読むべきですナリタブライアンさん」

 

「チームシリウスが一丸となって願いを込めるという体なら」

 

「トレーナーと永遠にいられるようになれるなら私もしよう」

 

「皆さんと一緒なら私もします~」

 

チームシリウス全員が泉へ後ろ向きで2枚のコインを投げた。これで確実なものとなるかどうかは神ですら分からない。しかし、信じるか信じないかだけは当人達次第だ。

 

「Dさん。次はどこを行ってみたいか?」

 

「・・・・・水路、ゴンドラ」

 

「お安い御用だ! すぐに用意するぞ!」

 

余談だが。観光ができる場所という場所をめぐり、またオグリキャップが空腹になると第二次ウマ娘災害が発生してしまい、アンツィオの生徒の間で「白い髪のウマ娘に気を付けろ」と恐ろしい言い伝えが出来上がってしまったのであった。

 

そしてその日の夜・・・・・アンツィオ学園の戦車道の皆にトレーナー自らの手料理を振る舞う感謝を込めてコロッセオの中で用意したのだった。主にイタリア料理をメインに作り上げ、アンチョビ達を驚嘆させた。

 

「これ、全部Dさんが作ったのか? 一体どこでこんな短時間に?」

 

「・・・・・後で。冷める」

 

「わかった。よぅしお前達! Dさんが作ってくれた料理を残さず食べるんだぞ!」

 

おおーっ!!

 

戦車道の少女達が一気にトレーナーの手作り料理を食べ始め、そして目を丸くする。

 

「「「「「うまいッ!!」」」」」

 

「男の手料理ってこんなに美味いなんて!」

 

「私らと同レベルかそれ以上の美味しさっす!」

 

「というか、男が作った料理って初めて食べた私!」

 

「あっ、確かにね!」

 

和気藹々と初めて異性の料理を口にした新鮮な気分で舌鼓を打ち、その味を堪能している少女達から黒髪のショートヘアーでくせっ毛、左のもみあげを三つ編みにしているのが特徴の黒目の少女がトレーナーに近づいた。

 

「お兄さん・・・いや、これからはアニキと呼ばせてください!」

 

「・・・・・? 兄貴・・・・・?」

 

「そうっス! 姐さんを助けたどころか、一人でこんな美味い数々の料理とナポリタンを作れるお兄さんを尊敬したっス! だからお兄さんのことをアニキと呼ばせてくださいっ! 私のことはペパロニと呼んでください!」

 

ペパロニと名乗る彼女の言葉に他の戦車道の履修者の少女達の間で衝撃が走った。手に持っていた食器を置いて、トレーナーに近づくと一斉に深々とお辞儀をしだした。

 

『これからよろしくお願いしますアニキッ!!』

 

「ちょ、お前たちDさんに失礼だろぉっ!? 兵藤家の現当主の孫の人にアニキ呼ばわりは禁止だぁ~!!」

 

焦燥に駆られて制止するアンチョビの努力は結局報われず、トレーナーに対してアニキのユニゾンコールが止まらず肩を落とす総帥の頭を労いの意味を込めてぽんぽんと触れる。

 

「・・・・・気にしない」

 

「嫌でも、Dさんに失礼ではないか」

 

「・・・・・気にしない」

 

ぽんぽんともう一度アンチョビの頭を触れて宥めるトレーナー。申し訳ないと言った表情でトレーナーの言葉を受け入れ、ペパロニ等に告げる。

 

「お前たち! Dさんに失礼な言動は一切禁止だぞ! いや本当マジで! したらおやつ1ヵ月間抜きだからな! いいな!?」

 

『はい、総帥(ドゥーチェ)!』

 

「本当にわかっているのか、私は心配だよ~・・・・・」

 

物分かりが良すぎる仲間に不安と苦労が滲み出ているアンチョビ。

 

「・・・・・アンチョビ」

 

「なんだ?」

 

「・・・・・明日、戦車」

 

「見たいのか? トレーナーとウマ娘達的にはつまらないと思うぞ」

 

戦車道と無縁で興味がないなら尚更だと言外され、自分の近くにいたシンボリルドルフに問うた。

 

「・・・・・先に帰る?」

 

「私達の事は気にしなくていいよトレーナーさん。トレーナーさんがしたいなら私達は見守るだけだから」

 

トレーナーの気持ちを尊重するというシンボリルドルフに頷き、アンチョビにもう一度戦車の案内を懇願して了承を得たのである。

 

「ところでDさん達はどこで寝泊まりするんだ?」

 

「・・・・・宿泊施設」

 

「え、ないぞ学園艦にホテルなんて」

 

「・・・・・知らなかった。問題ない」

 

知らないのに問題ないとはどういう事だろうか? アンチョビの疑問はすぐに解消された。夕餉の時間が終わりアンツィオ側が食器類を片付けてくれる間にシンボリルドルフ達は、トレーナーが魔方陣から召喚した大きなガラス玉に触れ、足元に浮かんだ魔方陣の光に包まれ消えていく光景にアンチョビ達は驚愕する。

 

「ど、どうなっているんだ!?」

 

「・・・・・入る?」

 

「入るって、そのガラス玉の中に? 入れるのか私達も?」

 

頷くトレーナー。どうしよう、入っても問題ないのか不安と好奇心が混濁する気持ちで躊躇うアンチョビを他所に、ペパロニが口を開いた。

 

「アニキ、私らが入っても問題ないんで?」

 

「・・・・・問題ない」

 

「じゃあ、入ってみたいっス!」

 

それを皮切りに他の履修者たちも自分も! と主張するので心配になったアンチョビも意を決してガラス玉の中に入ることにした。片付けが一段落してからというトレーナーに、急いで済ませることで準備完了した。

 

「・・・・・触れるだけ」

 

「こ、こうか・・・・・?」

 

恐る恐るとガラスの表面を触れるアンチョビの視界は、足元に展開した魔法陣の光で真っ白に染まって何も見えなくなったところ・・・・・。

 

「うわっ!?」

 

「あ、すんません姐さん」

 

後から入って来たペパロニに押されて倒れそうになったことで、今自分がどこにいるのかようやく認識できた。

 

「ここ・・・どこだ?」

 

降ろされている夜の帳に煌めく星々がアンチョビ達を照らし、離れた所には大きな木造の別荘が中から明かりで灯していた。

 

「ガラス玉の中っスね」

 

「だけど、まるで外にいるような空気と風、それに地面の感触が本物のようですね」

 

「そうだなカルパッチョ」

 

金のロングヘア―と緑目の少女の意見に同感するアンチョビ。全員が入ると最後にトレーナーも入って来た。

 

「Dさん、ここは一体・・・・・」

 

「・・・・・俺が作った、魔法の道具」

 

「魔法の道具!? 魔法って本当に実在しているのか!」

 

縁のない力と出身の自分と違いトレーナーは首肯して、魔法で生み出した大きな水の塊をアンチョビ達に見せつける。水の塊を凍らせ、炎で溶かし、激しい風で炎を消し、風を貫く雷を放電し、隆起させた地面にぶつけて見せる。

 

「・・・・・これが魔法」

 

『お、おおおーっ!?』

 

初めて目の当たりにした魔法の現象にスタンディングオベーションが起こった。

 

「すげー! 初めて魔法ってものを見たっす!」

 

「アニキ、マジすげー! ますます尊敬するっす!」

 

「他にどんなことが出来ますかアニキッ!」

 

魔法の実演に感動し、興奮してもっと見たい! と気持ちを全身で訴える彼女たちに不思議気に瞬きするトレーナー。

 

「・・・・・ウマ娘達、寝ている。これ以上不可。いい子は明日」

 

『うっすアニキ!』

 

私より聞き分けよくないかこいつら。と、自分の地位を危うくさせつつあるトレーナーにちょっと不安を抱くもガラス玉の外へ出て、明日に備えて眠りに部屋へと戻る。

 

―――翌朝。

 

朝食を済ませたチームシリウスはガラス玉から出ると、既にアンチョビが率いる戦車道チームが勢揃いしていた。

 

『おはようございますアニキ!!』

 

「すっかり定着したねトレーナー」

 

「・・・・・慕われている証拠。好きに呼ばせる」

 

「では、マスターのことを旦那様と呼んでもいいですか?」

 

「まだ、駄目よ?」

 

「ああ、同感だ」

 

一部不穏な空気が漂っているも、トレーナーはアンチョビに戦車を見せてもらう意識をしていて気にしなかった。そして戦車を保管している倉庫に案内してもらうと3種類しかない戦車を見せてくれた。

 

砲身がなく機銃が主な射撃で小さなフォルムの戦車『CV33』。砲塔が回らない大口径砲を搭載している戦車『セモヴェンテM41』。他の戦車の中で重戦車だという『P40』。

 

「・・・・・3種類? これだけ?」

 

「ああ・・・我が校は諸々な理由で財政難で、私が高校入学時この学園艦の戦車道を始めた頃なんてこの私一人しかいなかったんだよなぁ」

 

「え、たった一人? 先輩は?」

 

「皆卒業した後か戦車道から離れてしまった後だった。それから2年目はカルパッチョとペパロニが入って来てくれて、今年は今の一年の後輩が戦車道に加わってくれた。P40は先輩の代から残してくれた貯金と私達が集めた資金でようやく変えた唯一の重戦車だ。それでも私達は圧倒的にお金がないがな」

 

つまりは貧乏であると言い切ったアンチョビに何とも言えない雰囲気が漂い始めた。

 

「えっと、練習は? してるよね?」

 

「してることはしてるっスけど。燃料が少ないんで思いっきりできないんスよね」

 

「修理するお金も、弾薬と燃料を補充するお金もないので・・・・・」

 

まさか優勝どころか、初戦敗退であっさり終わってることが多い? そんな思いを抱いてしまうのは無理もなく、何だか不憫でならないと感じてしまう。

 

「戦車を買うだけでどれぐらい高いの?」

 

「数千万以上だ」

 

「高い!?」

 

「そして屋台の売り上げで戦車のパーツを買うためには10年以上もかかるからな」

 

「長すぎる!?」

 

想像以上の貧困なアンツィオにトレーナーは思わず聞いてしまった。

 

「・・・・・戦車道、止めない?」

 

「ここまでみんなと頑張っているから今更止められないさ。来年卒業するまで勝つ喜びを知ってもらいたいからな」

 

「・・・・・勝つ、喜び」

 

ウマ娘達も誰よりも早く1着になって勝つ喜びを味わいたい。夢をかなえる為に努力して、叶えた時の喜びは自分だけのもの。学園と戦車道が財政難の問題で一度も優勝すら手が届かず終わりを迎え、挫折してしまったアンツィオの戦車道の先輩はどんな気分だっただろうか? 後輩に残した軍資金を託して自分達の分まで頑張って欲しいと願っているのだろうか?

 

「・・・・・ナイスネイチャ、ミホノブルボン、そうだった」

 

「まぁ、ね。やっと念願を叶えた喜びは一生の思い出になるよ」

 

「三冠達成の願望が叶ったあの時の喜びは、絶対に忘れません」

 

本番で一番頑張った二人が願いを叶える時までどれだけ辛く苦労した訓練や特訓を積み重ね、夢を勝ち取ったのかトレーナーが一番知っている。だが、それはトレーナーという存在がいたからこそ夢を叶えたのだ。それに比べて戦車道は履修者を指導する存在はいない。自分達で独自の練習をし、技術や熟練度を向上させ戦車の数と性能の優劣を関係なく貪欲な勝利の執念を胸に秘めて優勝を目指すしかない。

 

「・・・・・アンチョビ、一人、戦車道、苦労した」

 

「確かに色々と頑張って今に至るが・・・それが何か?」

 

「・・・・・優勝、したい?」

 

「そんなの決まっている。優勝をしてアンツィオは弱くない、じゃなくて強いことを証明したいんだ」

 

アンチョビの瞳を見つめ質問し、自分にはない欠けた想いを口にした彼女を見てみたくなり歪んだ空間ができた穴に手を突っ込んだ。そこからアタッシュケースを複数取り出してアンチョビ達の前に置いた。

 

「・・・・・アンツィオ、優勝、見たい。協力する、戦車、強力する」

 

「強力って・・・・・このケースの中身は?」

 

「・・・・・援助金」

 

援助、金? アンチョビはアタッシュケースに伸ばし手で金具止めを外し、開くとびっしりと詰まった万札がアンチョビの目に飛び込んだ。

 

「うぇええええええええええっ!? こ、この大金は一体どこで!?」

 

「・・・・・力の大会、優勝、三十億。その半分、援助」

 

「じ、十五ォッ・・・!?」

 

何十年懸けて屋台で稼ごうと決して届かない額を援助金として譲ろうとするトレーナーに、アンツィオ戦車道チーム全員が泡を食った。

 

「ア、アニキ・・・・・本当にこの大金を私達にくれるんスか?」

 

「・・・・・重戦車、買う。優勝、目指せる」

 

と言った傍からペパロニたちがトレーナーに群がった。

 

「漢の中の漢っすアニキ! こんな太っ腹な男の人はアニキ以外いません!」

 

「凄く惚れました! アニキに一生ついて行きます! 結婚してください!」

 

「ウチも! そしてアンチョビ姐さんとアニキのために大会頑張ります!」

 

「私も惚れたぜ! アニキのことがもっと好きになってきた!」

 

「こんなに大金を私達の為に寄付して下さるなんて・・・・・」

 

「Dさん・・・・・ッ!!」

 

膨大な寄付のおかげで戦力を増強できる喜びと、感謝してもし来てない恩を感じ好意を持つようになった。

 

「・・・・燃料、持ってきて」

 

求めるトレーナーに履修者の数人が弾かれたように動き出して、ゴロゴロとドラム缶を転がして持ってくるとトレーナーは魔法使いが使うような、どこからともなく出現した金色の杖を掴み、ドラム缶に向かって杖を光らせた。それに呼応してドラム缶も光りだして・・・・・戦車の倉庫内が埋め尽くす勢いの数に分裂しだした。

 

「ちょ、えええええええええええええっ!?」

 

「ね、燃料が分裂していくぅうううう!?」

 

驚く履修者達。流石に戦車を入れるスペースまで増やすわけにはいかなかったので止めたが、軽く十年分はある燃料入りのドラム缶にアンチョビ達は言葉を失った。

 

「・・・・・練習、捗る」

 

「いや、あの・・・・・この数の燃料をどうやって運べば?」

 

「・・・・・これで」

 

また杖を輝かせては革の手袋を多く『創造』した。アンチョビに手袋をはめさせて持ってみろと指示した。疑心で言う通りにドラム缶を両手で持つと・・・・・不思議なことにひょいっと持ててしまった。

 

「え、燃料がないとか?」

 

「・・・・・外す」

 

手袋を外して再度持つアンチョビは、重たくて持てないドラム缶に力及ばず疲弊するだけで終わり、中身を確認すると燃料特有の臭いが鼻を刺激させたので本物だと疑う余地はなかった。

 

「この手袋で持つと、燃料が入ったドラム缶を持てるようになるのか?」

 

「・・・・・少し違う」

 

トレーナーが手袋を装着してP40に近づくと、片手で軽々と何十トンもある戦車を持ち上げてみせた事実にウマ娘達もこれには驚いた。

 

「・・・・・革の手袋、触れた物、無重力にする」

 

「無重力・・・えっと、重さが無くなるってことですか?」

 

「・・・・・そういうこと」

 

静かにP40を置いてトレーナーは自分の体に触れると、身体が地面から浮いて宙に浮く姿を見せられてアンチョビ達はまた愕然とする。身体から手を離せば無重力は解除され、高い所から受け身を取らず落ちて危険性を体張って伝えた。

 

「・・・・・扱い注意」

 

「わ、わかった。自分や相手の身体に触れなければいいんだな」

 

「・・・・・あと、絶対に投げない」

 

P40をまた持って思いっきり投げると重戦車が壁に向かって凄い勢いで飛んで行って―――トレーナーが壁にぶつかりそうになった戦車を一瞬で壁際に移動して受け止めた。トレーナーの実演を目の当たりにしたアンチョビ達は絶対に者や戦車を投げないことを固く決意した。投げたら絶対に死人が出ることを言われずとも悟った故に。

 

その手袋は全員分あるので、アンチョビ達は受け取って早速自分達も超人的な怪力を手に入れた気分を味わいたいがために、戦車を持ち上げてアピールする遊びを始め出した。

 

「お前たち! 燃料を邪魔にならないところに動かすんだ! あと大事な戦車で遊んでいるんじゃなーい!」

 

すぐにアンチョビの叱咤を受けて作業する後輩たち。

 

「・・・・・アンチョビ」

 

「な、なんだDさん」

 

「・・・・・戦車、動かしてみたい」

 

「戦車を? 男が戦車を乗るなんておかしな話だけど・・・ここまでしてくれたDさんの望みを叶えなくちゃアンツィオの恥だ。どれに乗ってみたい?」

 

了承を得たことで乗ってみたい戦車・・・・・CV33に近づいて触れた。

 

「おお、それなら運転は簡単だ。軽いし速度もそれなりに速いぞ」

 

トレーナーは早速アンチョビから操作方法を教えてもらい、慣れようとすると実際に動かす。

 

「・・・・・わかった」

 

「早いなっ!?」

 

それが嘘ではないという操縦をしてみせたトレーナーに履修者達は拍手を送った。それからトレーナー達がアンツィオ学園艦から立ち去った後。アンツィオ戦車道は新しく戦車を購入し戦力増強、大量の燃料を得た今なら思う存分練習が可能になりアンツィオのノリと勢いがさらに上がったそうだ。

初めて異性の電話番号とアドレスを手に入れたアンチョビ達は、不思議と心が弾み次に会う日が楽しみまでメールで交流をやり取りするようになった。

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