使い捨てのレプリカのショッピングモールの屋上に転送されたDは、アザゼルからここへ送られる前に聞かされたルールに従い時を待つ。
『いいかD。お前に課すルールは誰も倒さず、一分間しか戦えない。魔法で作った分身体もそうだからな』
『・・・・・一分後』
『三分経つまでお前は絶対に手を出すな。グレモリー眷属とシトリー眷属の誰かと戦った後どっちもだぞ』
『皆さま、このたびはグレモリー家、シトリー家の「レーティングゲーム」
アナウンスがデパートの隅々まで聞こえる。まだ出会ったことがない女性、魔王フォーベシィの妻の声が。
『我が主、フォーベシィ様の名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアス様とソーナ様の通われる学び舎「トレセン駒王学園」の近隣存在するデパートをゲームのフィールドとして異空間にご用意いたしました』
『両陣営、転移された先が「本陣」でございます。リアスさまの本陣が二階の東側、ソーナさまの「本陣」は一階西側でございます。「
リアスたちとソーナたちの陣地はデパートの端。リアスたちは二階の一番東側。ソーナたちは一階の一番西側。リアスたちの陣地の周囲には様々なコーナーが存在している。一階も同様に様々なコーナーもあるが戦いが始まればお互いデパートの端を目指せばいいだけの単純明快な戦いとなるだろう。
『今回特別なルールが二つあります。一つは陣営に資料が送られていますので、ご確認ください。回復薬である「フェニックスの涙」は今回両チームに一つずつ支給されます。なお、作戦を練る時間は三十分です。この時間内での相手との接触は禁じられております。
もう一つは今回特別ゲストとして参加する兵藤一誠さまも出場しておりますがどちらも両家の正式な眷属出ない為、リアスさま率いる眷属とソーナさま率いる眷属を倒してはならないルールが課されております。倒した場合、リアスさまたちの敗北と見做されますのでご了承ください』
シトリー眷属side
「マジであの人が乱入してくるのか。すげー緊張して来たぜ。あの人と戦うのはこれが初めてだ」
「でも、私達を倒してはならないルールだから警戒せずグレモリー眷属と戦いに専念できるよね」
「そうとは限りません。ライザー・フェニックスとのレーティングゲームでは、倒さずとも無力化しました。その気になれば魔力だけ全て奪うことも可能です」
「ですが、Dさんが勝つ理由もなく勝ってはいけないのにどうして参戦したのかな」
「うーん・・・なんでだろう」
グレモリー眷属side
「今度は私達の敵に・・・なるのかしら」
「戦ってはいけないというルールはないのですから、その場にいるだけで私達の足を止めるだけの存在感があることは確かですわ」
「・・・・・厄介です」
「ある意味シトリー眷属より意識を向けてしまう相手なのは確かですね。強者の気配を感じさせるだけでそちらに警戒せずにはいられないです」
「こ、怖いですぅ~!!!」
「・・・・・」
VIPルーム
「さーてどんな風になるのか楽しみだな」
「縛りがあるとはいえ、贔屓目に彼の戦いぶりは興味あるよ」
「だな」
「ほっほっほっ、楽しみじゃ」
「うーん、ソーナちゃん頑張れー!」
―――定刻。
待っていた時が来る。
『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は三時間の
グレモリー眷属とシトリー眷属が動き出した。作戦時間内で決め合った役割を果たすため、デパート内を動き出す。
「・・・・・」
だがしかし、デパート内が突如として展開した広大な魔方陣の輝きで照らされ。両陣営にいたグレモリー眷属とシトリー眷属はどうすることもできず―――屋上にいるDの前に召喚された。
「ここは、屋上・・・? それにあなた・・・!」
「作戦の根本を覆すのですがあなたは」
屋上で呼び出し、互いを乱戦させる狙いかとリアスとソーナはDを警戒する。他の眷属たちもこの状況にどう動けばよいか戸惑い主の指示に従う姿勢でいた。
「・・・・・時間がない」
そう口から漏らしたDの姿が掻き消え、先頭にいたリアスとソーナの胸に手を触れた瞬間。
「「!?」」
Dの手から眩い閃光が迸り、二人はその光に視界が奪われた後に意識が落ちた。
「リアス!」
「会長!?」
傍にいた眷属たちからすれば主がビー玉ほどの小さなガラス玉と化して屋上に転がった。そんなことした原因の人物は更に止まらず、残りのグレモリー眷属とシトリー眷属たちも主のようにガラス玉と化されてDだけが残りVIPルームから観ていたアザゼル達は彼の行動に理解が苦しんだ。
「・・・・・う」
意識を取り戻したリアス。体を起こして周囲を見回すと真っ白な空間の中にいることぐらいは把握した。しかし、ここはどこでDに何をされたのかと戸惑う彼女の耳に声が聞こえた。
『目が覚めたようね』
「誰? 姿を見せなさい!!」
『まったく高圧的ね。わがまま姫と言われいた頃の自分を見ると複雑な気分だわ』
リアスの前に魔力が渦巻き人の形に形成していく。その姿は・・・・・。
「・・・・・私?」
赤より鮮やかなストロベリーブロンドの長髪を腰まで伸ばし、赤いナイトドレスでプロポーション抜群な身体に包む今のリアスより一回りも二回りも成長したようなリアス・グレモリーであった。
「初めまして、リアス・グレモリー。私はリアス・グレモリーよ」
「・・・・・幻影の魔法でも見せられているのかしら」
「ある意味正解でもハズレよ。この中にいる間は条件を達しないと外に出られない魔法の道具よ。この中に入る私は私自身の魔力と精神だけを閉じ込め、あなたと出会うためだけずっと眠っていたの」
「私と出会うため・・・・・?」
「それが出るための条件に繋がるわ。一つはこの中で私と一ヵ月間過ごしてもらうこと。二つ目は私の持ちうる全てをあなたに伝授すること。これだけよ」
一ヵ月!? そこまでこの魔法の道具の中に入られないと異を唱えるリアスの開きかけた唇にグレモリーが自然体で彼女に人差し指で押さえて閉ざした。
「安心しなさい。この中で一ヵ月過ごしても外はたったの一分しか経っていないわ。ここはそういう魔法の道具なのだから」
「・・・・・だとしても、他はそうでもないでしょう」
「ふふ、そう思うなら実際に自分の身で確かめなさい」
グレモリーが赤黒い魔力をいきなりリアスに放ち、リアスはそれを防ぐべく魔方陣を展開して応戦した。
「いきなり何するのよ!」
「言ったでしょう。私の全てを伝授すると。あなたは自分の力を理解して、相手を間違えて滅ぼしてしまったらという臆病風に吹かれているのよ」
「私が、臆病ですって?」
「そうよ。でなければライザーに負けはしなかったでしょう。グレモリー眷属の王として王に相応しい言動をしなければならない、そればかり気にしてその頃からちっとも自分の力と向き合わなかった。トレーニングも怠っていた。だから自分の力じゃなくて彼の力で、赤龍帝の力で婚約をなかったことになってしまった」
自分自身が故に自分の気持ちを誰よりも理解している相手の言い分に反論できない。軽々と流れ星のように、無数の星のように滅びの魔力を放つグレモリーに防戦一方なリアス。
「今のあなたはまだまだ甘い赤く実っていない林檎。この一ヵ月で熟してごらんなさい」
「どうして、そこまで・・・・・!」
「―――この世界でも同じ未来が待っているかもしれないの。だからそれを未然に対処できる力を今の内に身についてほしいと思うわがままな姫の願い。ただそれだけよ」
滅びの魔力を大きな異形の手にして防壁ごとリアスを殴り飛ばすグレモリー。彼女の魔力でリアスの胴体が消滅し、真っ白な空間に血で汚しながら倒れたものの、死に体だったリアスが膨大な魔力に包まれる。
「立ちなさい。一度で身体が消えない限り、首だけ残ってればすぐに再生できる場所よここは」
「・・・・・っ」
「ま、痛みはあるのだけれどね。とあり合えず、あと99回は死にましょうか」
ほぼ全裸で復活したリアスに地獄の宣告をするグレモリー。後にリアスは「ライザーもこんな気持ちだったのかしら」と何度も甦る体験を嫌というほど思い知った。
ソーナside
「魔法少女ソーナ! まばゆい魔法で凶悪魔人をたくさん消滅させちゃうもん☆」
水色を基調とした魔法少女の衣装を着たもう一人のソーナと邂逅。胸元の大きなリボン、クールなイメージとはかけ離れた可愛らしい衣装で決め台詞を言ったシトリーにソーナは絶望した。瓜二つと言ってもいい同じ顔の自分が心から恥かしい衣装で魔法少女を愛する姉のような言動をしている。もしも自分もやれと言われたら断固拒絶するほどに。
「・・・・・どなたでしょうか」
「ソーナ・シトリーだよソーナたん☆」
「・・・・・お姉様の願望を投影した魔法なのでしょうか」
「ううん☆ 私の精神をこの魔法の道具に投影した私なの☆ きっと他の眷属の子達も同じ魔法の道具の中で同じ自分と会っているはず☆」
「・・・・・何の目的なのですか」
「うん、それはねー☆」
シトリーが振るう星の杖からダイヤモンドを削る勢いの圧力が掛かった水の刃がソーナの腕を両断した。防御式魔方陣を展開するよりも、水を集めるよりも早く、相手の攻撃の方が早過ぎたのだ。
「っ!?」
「この世界のあなた達を鍛えることが目的なの☆」
両断されたはずの腕が断面に集束した魔力によって元に戻った。
「さーもう一人の私? あなたには私の全てを伝授してあげる☆ 目指せ、魔法少女! えいえいおー!」
「それは遠慮します!」
明らかに自分より格上で同じ水を使役する。そんな相手と初めて戦うソーナは死地に向かう兵士のように真剣な表情でシトリーと対峙した。
木場side
ゲームが開始してから数分。僕―――木場祐斗は大人の自分自身と神速で走りながら剣を振るい切り結んでいる。
ギィィイイイィィンッ!
ギィンッ! ギギンッ! ギィィィンッ!
ギャリィィィンッ!!
「「・・・・・」」
口で語らず剣で語る。この空間に閉じ込められてから僕はひたすら彼と斬り合い、時折師匠を彷彿させる動きをされ、彼と僕とでは筋力と速力の差が離れながらも必死に食らいつく。僕が一回振るたびに彼はその倍の数の斬撃を僕に当て、幾度も細切れにする。
「―――
彼が身体を再生中の僕から距離を置いて悪魔の翼を生やして宙に浮き、聖と魔の剣を天に衝いた矢先。本来なら地中から飛び出す数多の刀剣類が彼の背後の虚空から顔を出して矛先を僕に定める光景に脱帽した。
「キミもこういうことが出来る。頑張って習得してもらうよ」
「望むところだ」
雷の如く放たれた刀剣類の武器にたった一本の剣のみで立ち向かうしかない。だが、僕は逃げる選択肢はない。リアス・グレモリーの騎士としてこの窮地を乗り越える―――!!
塔城小猫side
「「にゃん♪」」
「・・・・・」
私の目の前に白い着物を着た成長した私かもしれない女性と黒髪に金色の瞳、黒い着物を着た・・・私の姉様が肩を並べて立っていた。なんですか、夢なんですか幻なんですか・・・・・。
「誰ですかあなた達は・・・・・」
「私は白音。黒歌姉様の妹」
「・・・・・もう一人の私、ですか?」
「と言っても私達は精神体だけの存在。膨大な魔力で肉体を得ているだけの疑似的な存在。私達はあなたに力を伝授するためにこの魔法の道具の中で眠っていた」
力の伝授・・・・・。
「でも、その前に一つ言わせて欲しいことがある。白音、不器用な黒歌姉様を許してあげて」
「っ・・・!?」
もう一人の私のとんでもない提案に目を大きく見開いた私の目の前に、黒歌姉様が寄って来て私と視線を合わせる為に跪いた。
「もう一人の私はねー? どうしてもああするしか方法が思いつかなかったの。本当は白音も連れて行きたかったけど、主を殺した眷属悪魔は追われる身となるからそんな生活を白音にさせたくなかった。私と逃げて白音まではぐれ悪魔にしたくなかったのよ」
「・・・・・」
「私の言葉を信じられないならそれでもいい。けれど、ちょっとでもいいからお姉ちゃんと真剣に向き合って? 聞いても私はきっと適当なこと言ってはぐらかすだろうけど、本当の気持ちを打ち明けてくれるはず」
私が知っている姉様ではないのに、どうしてわかるんだと訝しむ私の心を読んだように口にする黒歌姉様が私の頭に手を置いた。
「だって私だもん」
「・・・・・妙な説得力、があります」
「にゃははー、どういう意味なのかにゃーん?」
「もう一人の私の姉様も、姉様ということだと思います」
成長した私が白く燃える火車を展開した。あれは・・・仙術?
「白音。ここにいる間は死に物狂いで仙術を学んで、得て、そして自分の力でさらに強くなって。それが私と姉様がここにいる理由」
「ビシバシ鍛えてあげるわ。覚悟してね? 何度か実際に死ぬかもだけど、ここは絶対に死なないようにできている魔法の道具の中だから安心してちょうだい」
どこに安心できる要素があるのか分からない。でも、向こうは止めない止まらないので私も全力で死なないよう頑張るしか―――あ、一回死んじゃった。
と―――言った具合で他の面々も同じ魔法の道具の中で成長した自分と出会い鍛えられ幾度も殺されて死ぬ、その繰り返しを一ヵ月間もした。
屋上で佇むDが無数に転がるガラス玉を見下ろすこと一分後。全てのガラス玉が眩く輝き全員が何事もなかったかのように再び現れた。
「・・・・・アザゼル、感謝」
ルールに従い、彼女達の前から姿を消す。否、Dはレーティングゲームそのものから脱出した。異空間に次元の狭間へ続く裂け目を作ってその中に入って消えたのだ。取り残されたグレモリー眷属とシトリー眷属の一同は・・・・・。
「ソーナ、あなたもよね」
「リアス、あなたもですね」
片や片手に滅びの魔力を纏い、片や威力重視の水の刃を具現化する。
「Dのことをお礼参りもとい追求しなくちゃならないのだけれど」
「レーティングゲームに専念しましょう。あの地獄より生温い一ヵ月間を過ごして私は成長しました」
「私もよ。お互い、どこまで強く成長したのか試したい気持ちはわかるわ。・・・ふふ、何度自分と同じ魔力で死んだことかしら」
「私は水球の中で溺死されました。その上で凍結保存も経験しました」
不穏な話が聞こえ、こいつ等何が遭ったんだとVIPルームにいるアザゼル達が見ている最中、もはや作戦も関係なく屋上で乱戦を始め出す両眷属のチーム。結果はグレモリー眷属の勝利となったが、明らかに自分達が知っているグレモリー眷属とシトリー眷属の強さではなかった。
後に詳しく説明を聞けばあのガラス玉は魔法の道具で、一ヵ月間も成長した自分達と殺されながら鍛え上げられたという。その正体は詳しくは語ってくれなかったがアザゼルはおおよそ理解した。なので、敢えてDに問い詰めなかった。自分がしようがしまいが他の連中がするだろうからな、と。