「・・・・・お願い」
「はい、何なりとお申し付けください」
「・・・・・砂浜、トレーニング中、接近、禁止」
「かしこまりました。ご主人様の障害となり得るモノは全てそう致します」
大広間で朝食中にリーラに頼んだ翌朝。兵藤源氏達が朝食を済ませてから本邸に戻った後、ジャージで身に包んだウマ娘達が砂浜に集まった。彼女達の目の前にはチームシリウスが利用している魔法の道具である大きな魔法のガラス玉が置かれて、チームシリウスのウマ娘達から最初に入ると他のウマ娘やトレーナー達も続いてガラス玉の中に飛び込んだ。初めて利用するウマ娘達は驚嘆と感嘆の念をトレーナーと共に漏らし、多種多様なコースの説明で自由に利用していいことでスピカとリギルのウマ娘達と一緒にトレーナー沖田のウマ娘のナリタトップロード、トレーナー黒沼のドュラメンテ、南坂が率いるチームカノープスのウマ娘達、他数名のウマ娘がトレーナーから離れ、コースを利用しに向かった。
「チームシリウスの強さの秘訣がこの中にあるとはな」
「凄いですね。各レースの実寸大も一つ一つあるとは」
「確かにそう言う道具があるなら本番と変わらない練習や特訓が出来る」
初めて知った3人のトレーナー達もどんなレースが実際にあるのか確かめに歩き出すが、Dトレーナーはまだシンボリルドルフ達を留めさせていた。
「・・・・・全員、取っていい」
首に軽くれるその仕草を窺わせるDにディープインパクトが訊き返す。
「いいの? まだ外していい時期じゃないんじゃ?」
「・・・・・外してすぐ、走る、身体が慣れない、慣れる為、早め」
「ふむ、道理が適っているな。トレーナーさんがそう言うのであれば外そう」
最初にシンボリルドルフが今や初めて付ける前とは変わらない動きや走りができるようになってから、初めて取った。
「じゃあボクもーっと」
「いざ外すとなると寂しさが感じてきますわね」
「ずっとつけて過ごしていたから愛着が湧いたかもねー」
トウカイテイオー達も首に触れて外した。
「・・・・・いつも通り、体操、ウォーニングアップ」
「みんな、整列!」
横一列に並び体操を始めるチームシリウス。それが終わるとウォーニングアップをするウマ娘達だった。
「あれ、身体がなんか軽い?」
「己の体重の2倍が重みとなって全身に負荷を掛けていたのだ。それが無くなったこと普段より軽く感じるのも当然なのだろう」
「では、体重も減っているのではありますの?」
「それは断じてありません」
「ブ、ブルボンさん・・・・・」
「珍しいですね。タキオンさんも参加するなんて」
「なに、皆の実験の結果が見れるいい機会だと教えられたからね。直接彼の成果を見たくなったまでだよ。来なかったら弁当はもう作らないと言われたからではないよ」
アップが終わるといつも通りならトレーナーとマンツーマンで走るのだが、今回は違った。慣らしの為にプールでひたすら歩かされ、急な斜面の山を登り坂を上り、超巨大なタイヤを引きつつトラックを押しながら歩かされ・・・・・今はうさぎ跳びだけで3kmも走らされる。
「今日は一段と地味なのに一段とキッツーイ!?」
「一緒にやっているトレーナーが汗一つ掻いていない・・・!!」
「おい、アグネスタキオンがへばったぞ」
「普段トレーニングしていない弊害が出ただけですので気にしないでください」
「カフェ・・・心なしか辛辣じゃないかい?」
その他諸々もトレーナーと一緒に行い、最後は全員地面に横たわるほど疲労困憊になった。
「し、死ぬぅ・・・!!」
「あ、足が震えて辛い・・・・・!」
「体が重い・・・・・っ」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「も、もう、う、うごけ、ない・・・・・」
そんな彼女達に死体に鞭を打つような鬼畜な事はしないトレーナーは、一緒に同じことをしてもピンピンとした動きでスポーツドリンクを入れた箱を亜空間から取り出してみんなの横に置いて配り出す。
「・・・・・ん」
「い、今疲れて飲めない・・・」
「・・・・・飲む、手伝う」
サイレンススズカの身体を持ち、片腕で彼女の身体を抱き留め、ドリンクを近づける。
「・・・・・ん、飲む」
「―――――」
顔が近い。そして体を抱きしめるトレーナーの体臭がする状態で、ペットボトルに入れたストローを近づけられる少女の顏はたちまち真っ赤に染まり、恥ずかしさと嬉しさのあまりに味が判らなくなったドリンクを飲むしかなかった。
「ス、スズカぁ・・・・・羨ましいよぉ~・・・・・」
「トレーナーさん、次、私にも・・・・・」
「・・・・・飲めない?」
それならそうする、と言外なトレーナーにミホノブルボンが言い出した。
「私は、飲む力もありませんので、口移しを・・・・・」
『おいっ』
疲労困憊とは思えないウマ娘達から凄まじいプレッシャーが。特に皇帝と帝王が一番放っていたのをトレーナーは口に出さなかった。補助して全員にドリンクを飲ませてからも仙術で疲労を消して休息を取らせ、30分程で再開する。
「・・・・・次、走る」
「ようやく、か」
「今の私がどこまで走れるか・・・・・」
「ラ、ライス・・・頑張るっ」
場所を移して実寸大コースの会場へ足を運ぶ。
「・・・・・芝、3200、メジロマックイーン」
「わかりましたわ」
「頑張れ、マックイーン!!」
一人離れコース内のスタート位置にあるゲートの中に入ると、木人形がゲート内に出てきて扉が開き出したら一斉に走り出した。
「―――ここね」
魔法のガラス玉が鎮座している砂浜付近に2つの魔方陣が出現し、何人も現れた。
「部長、あれを」
「・・・・・魔力を感じるわね。魔法の道具と言ったところかしら」
「間違いないでしょう。おそらくはあの中に彼がいると思います」
前を歩きながら砂を踏みしめ、大きなガラス玉に近づきあと一歩のところで一行を止める人物が音もなく現れた。メイド服で身に包み一つに編んだ長い銀髪の女性が真っ直ぐ琥珀の瞳を目前にいる少年少女達を見据える。
「申し訳ございませんが、ただいまこの道具に何人たりと近づくことを禁じております」
「急に現れて納得させられるとでも?」
「納得の有無ではありません。我が主からの命に従っているだけです」
「主・・・ね。つまりあなたは兵藤家の関係者ということなのね」
リーラはメイド服の裾を摘まんで優雅にお辞儀をした。
「自己紹介が遅れました。私は兵藤家従者兼従者教育係代表にしてMMM第五装甲猟兵侍女中隊長リーラ・シャルンホルストでございます」
「・・・・・MMM?」
前者はともかく後者は意味が判らない紹介を聞いたと訝しむ少女達。しかし、名前からしてただのメイドではないのは理解だけは出来た。
「彼は兵藤家を嫌っているはずなのに、兵藤家の関係者がどうして彼と接しているの」
「ご主人様は兵藤家が保有する高級宿泊施設に無料で7泊8日もご利用なさられる権利を得て、担当のウマ娘を始め、ご友人、同僚、他のウマ娘の方々と昨日から楽しんでもらっております。その他にも私達はご主人様以外、当旅館にお越しいただいておられますお客様達へのご奉仕をするため、兵藤源氏様よりここに配置をされました」
「・・・・・」
「ですので、ご主人様のお頼みはご奉仕の義務に抵触しておられます。砂浜、トレーニング中、接近、禁止。ご主人様はそう私にお頼みました。私を含め他の皆様方も理由があろうがなかろうがご主人様達が出て来られるまでは接近を許されません」
彼女が自分達を阻む理由を告げ、これ以上更に問答を繰り返しても引き下がらないだろう。そう察した少女は尋ねた。
「いつ出てくるのかしら」
「昼食頃には」
「そう、ならそれまで待つとしましょう。彼には色々と訊き出さないといけないことがあるから。彼はどこに泊まっているのか教えてもらえる?」
「誠に申し訳ございませんが、兵藤家が保有している宿泊施設は兵藤家の者の以外は立ち入ることは許されない領域です。―――悪魔の皆様が入れる道理はございません。お引き取りを願いましょう」
また―――リーラは付け加える。
「後日、無断で侵入するとならばグレモリー家やシトリー家に迷惑行為をなさられた御息女のことで少々お話を持ち掛けに参ります。悪魔の部外者が営業妨害をなさったことについてです」
「な・・・営業妨害って!」
そんなことするつもりはない甚だしい言いがかりだと思わず反論しかけた時。ガラス玉の前に魔方陣が展開して中でトレーニングしていたウマ娘達や付き添いで入ったトレーナーが出てきた。そして気付く。
「・・・・・?」
何でここに悪魔とリーラがいる? 的な不思議そうに視線を送るトレーナーにリーラは口を開いた。
「まだ昼食前ですがよろしいのですか?」
「・・・・・小休止」
疲れた状態で食べさせるのはよくない。言外するトレーナーの目は悪魔の少女達に向けられる。
「・・・・・理由」
「ご主人様にご用があるようです」
「・・・・・アレ、秘密、教えられない」
用件とはきっとアレのことだろう。自分自身と時間の流れが違う異空間の中でさせられた猛特訓。トレーナーはそう思って言うが、当然だが納得できないと不満な顔をされた。
「ダメよ、教えなさい。どうして私達にあんなことをしたの」
「・・・・・今、強くする、それだけ」
「私達を強くして、あなたに何の得があるというの。強くなってもらわないと困ることでもあるわけ?」
「・・・・・損得、否、約束、頼まれごと」
「誰にあなたにそうさせたの」
「・・・・・秘密」
煮え切れない。彼女達が知りたいことを一切教えようとしないトレーナーは旅館へ戻ろうと視線を外し、歩き出した。兵藤家専用の施設に入られては、悪魔の自分達が許可なく入ることを許されないので外にいる居間でしか聞き出せれない故に待ったをかけた。
「待ちなさい、まだ話―――」
トン―――ドサッ。
「きゃっ」
「部長―――っ!?」
砂浜に倒された上にトレーナーに乗っかられ首を鷲掴みされた。主が倒された次の行動に出ようとしたグレモリー眷属の悪魔達やシトリー眷属に刃と化した天使の翼の切っ先が突き付けられた。
「・・・・・常に警戒、まだ、全員、弱い」
「・・・・・っ」
「・・・・・教えない、絶対、知らなくていい」
トレーナーの目を見て、確固たる意志を感じ取れる。仲間や親友達の命も脅かされている現状、これ以上の追究は危険だと判断し諦める他なかった。
「・・・・・わかったわ。もう今後、訊かない。これでいいでしょう」
「・・・・・」
グレモリーから退き、刃と化した翼も遠ざけて消失した。トレーナーはグレモリーの手を掴むと引っ張って起き上がらせると、腰から生えた狐の尻尾でグレモリーの紅髪や制服に付いた砂を払って落としてから旅館へと足を運んだ。
「・・・・・意外と、紳士的な事をするのね彼って」
「心底から嫌っていなければしなかったですよリアス」
「そう・・・嫌われていないなら安心したわ」
まだ出している尻尾に触れ、取り合いをしているウマ娘を見ながら掴まれた首を触れる。
「それに・・・本気で脅したわけじゃないみたいだし」
「首を掴まれたのにかかわらず?」
「掴まれたのは確かだけど、力が一切なかったのよ。手を添えた風に」
だが、もう一つの方は本気であった。
「それでも、私達に隠し事を明かさない強い気持ちは本物だった。彼には人には言えない秘密を抱えている」
「秘密・・・・・また、アザゼルが知っているならお父様もそうですのね」
意味深に微笑む大和撫子風の黒髪の美少女をあえて見ないグレモリー。彼女の父親の堕天使は災難な目しか遭っていないか、少々ご愁傷様程度で心配しない。一度、学園へ戻るべく全員、転移魔法でこの場から跳躍した。