ハイスクールD×D忌避されし存在   作:ダーク・シリウス

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七泊八日の宿泊(5)

その日の昼頃。先輩警備員の荻名は解雇する前にトレセン学園側の警備員室の「掃除」を厳命させられたのでDは魔法で多数の分身体を増やして警邏するしかなかった。

 

「・・・・・食堂、ウマ娘、いっぱい」

 

「おい家畜風情がご主人様をしっかり座らせることできねぇのか!?」

 

「相変わらずいいケツをしているなお前」

 

「こっちは巨乳ちゃんシリーズを集めたぞ。他にもまだまだいやがるし、集めて来るぜ」

 

「あ~気持ちいいぜ~!!」

 

想像していた光景と遥かに違っていた大食堂は、恐怖と絶望した顔で食事をとるウマ耳と尻尾を生やした少女達だけが多くの男子生徒達の手で支配されて悪逆非道、傍若無人、酒池肉林に尽くされていた。誰一人Dを見ず、嵐が過ぎるのを待つ身構えをするのが当たり前だと窺わされていた。

 

「・・・・・性欲の獣、いっぱい、これ、日常・・・・・?」

 

「あん? なんだてめぇ、何見ているんだ失せやがれよ!」

 

「・・・・・」

 

「おい、聞いてる―――」

 

「・・・・・うるさい」

 

ドガッ!!

 

いちゃもんを付けてくる男子生徒を蹴り飛ばし天井にぶつけたことで床に落ちた。その落下位置にいた男子生徒が巻き添えを食らって下敷きになった。

 

「ぐえっ!?」

 

「うわ、なんだ!?」

 

「誰かが落ちてきたぞ!?」

 

「あいつだ、あいつが吹っ飛ばしたのを俺は見たぞ!」

 

一人の男子生徒がDに指さすことで、他の男子生徒達もその声に反応して一誠に振り向いた。

 

「警備員? あのジジイ以外の警備員がいたのか。どちらにしろ、俺達兵藤家に攻撃したのが人生の終わりだ」

 

「よくも兵藤家に攻撃してくれたな! 泣いて謝っても許されないぞ!」

 

並行世界で過ごしている間、質の悪い兵藤家の人間ばかりが増えた様子に辟易する以外感情が浮かばなかった。

 

「・・・・・吠える、うるさい、性欲の獣、全員、潰す」

 

「はー? 俺達を潰すだって?」

 

「面白れぇ、兵藤家は人類最強の一族だってこと教えてやるよ!」

 

「殺しても問題はねぇな。天皇家の俺等はこの国を支配する法律そのものだ。故に俺達こそが法律―――!」

 

自慢げに語る男子生徒の前に音もなく、フッと傍に立った。食堂にいる一堂も気づいた頃には―――。

 

「は?」

 

「・・・・・遅い」

 

Dが蝿を払うように男子生徒を殴り飛ばした。きりもみしながら床に落ちた男子生徒は一撃でやられた事実はすぐに浸透しなかった。彼等彼女等がそれを受け止める時間はDにとって長かった。その間にDは別の男子生徒に拳で殴りかかっていた。

 

「な―――!」

 

頬を殴り、床に叩きつけ。腹部を深く抉り込んで殴った衝撃は胃の中の全てを吐き出させる。手刀で肩や腕の骨を叩き下り、蹴りで男子生徒の足を折るか股間を強く蹴り上げた。

 

数十人はいた兵藤家の男子が名も知らぬ警備員によってわずか3分で駆逐され死屍累々の光景を自分達で作り上げた。

 

「て、てめぇ! 動くんじゃねぇ!」

 

「・・・・・」

 

まだいた最後の一人に振り返れば、ウマ娘の首にナイフで突きつけている男子生徒がいた。

 

「何なんだ、てめぇは! 俺達は兵藤家、この国の支配者だぞ! その一族の人間である俺達にこんなことして許されると思っているのか!?」

 

「・・・・・興味、ない」

 

「は? あっ!?」

 

人質にしていたはずのウマ娘がいつの間にか助けられ、Dの腕の中に納まっていた。

 

「・・・・・兵藤家、式森家、興味、ない。兵藤家の力、親の力、必要な子供、恐れる理由、ない」

 

「なん・・・だとっ・・・・・!!」

 

「・・・・・現に」

 

男子生徒に悠然と近づき、近づいてくるDにナイフを突き出した。しかし、手の甲まで刺さっても平然としたDに恐れおののき距離を取る男子生徒は壁にぶつかって逃げ場を無くした―――。

 

「・・・・・一人、何もできない、捕食者から逃げる非捕食者」

 

「ま―――ぶはっ!!」

 

マシンガンの如く片足だけで何十、何百回もの蹴りを叩き込んだ。

 

「・・・・・弱すぎる。これ、今、兵藤家、基準?」

 

虚空から放たれる鎖に巻き付かれる男子生徒。他の兵藤家の男子生徒も数多の鎖によって縛り上げられ、一纏めに持つDは多くの男子生徒を引っ張りながら食堂を後にした。残されたウマ娘達は、何が何だか分からないまましばらく立ち尽くし硬直するが、あの兵藤家がもう今までのような振る舞いが出来なくなるかもしれないと予感を覚えた。

 

「・・・・・お爺ちゃん」

 

「なんじゃD」

 

「・・・・・多すぎる」

 

分身体も含め、ウマ娘や一般の女子生徒に対する暴虐を尽くしていた者達を駆逐して校庭に集めた。その数は一クラス分の人数が優に超えている。

 

「・・・・・荻名さん、一人、無理」

 

「募集をしていたんじゃが、どうしても集まりが悪いんじゃよ。来たら来たで兵藤の者達に脅迫されて辞めてしまう」

 

「・・・・・兵藤家、直談判」

 

「無理じゃ。源氏殿も普段は多忙で国外にいる方が多い。じゃから源氏殿が不在の兵藤家に何を言っても対処してくれんのじゃ。学園側で全て対処するべし、の一点張りじゃよ」

 

使えねーと思わない方がおかしい兵藤家の対応。野に離れたペットはやがて野生として生きるようになり、自由を得たことで思うが儘に行動するのが当たり前になる。それがグラウンドに放置されてる死屍累々の兵藤家の男子達だ。しかもまだ学園内に徘徊させている分身体が無力化した者共を連れてくる始末だ。

 

「しかし、今となってはそれがかえって好都合かもしれん。何度もこちらで対処しろと向こうが言ったんじゃ。好きなように対処しても文句は言わせん。じゃからDよ。おぬしには苦労を掛けるが学園の秩序と平和を取り戻してほしい」

 

「・・・・・わかった」

 

「うむ。では、この学園の理事長に会わせよう。彼女も諸手を挙げて大喜びしてくれること間違いなしじゃ」

 

その人物はトレセン学園側におり、川神鉄心の案内で導かれ理事長室に入れば机の上に突っ伏して虫が飛び交っている幻覚が見えるほど、彼女は疲弊しきっていた。

 

「やよいちゃんや。大丈夫かの」

 

「・・・・・どうしたら・・・・・ウマ娘が・・・・・学園・・・・・崩壊・・・・・・」

 

聞こえていない。呪詛の如くぶつぶつと呟いて二人の存在に気付いていない彼女にDは指して問うた。

 

「・・・・・この、子?」

 

「子供じゃが立派な大人じゃよ。秋川やよい、この学園の理事長じゃ」

 

本当に子供にしか見えない体形をしているので、何度見ても大人なのか疑わしいDの視界に顔を上げる理事長が映った。精神的にも疲弊しているようで頬が窪んで痩せこけている。食事も満足に摂っていないのが明らかである。

 

「・・・・・あれ、どうしてここに」

 

「やよいちゃん。吉報を持って来たぞぃ。この子がおれば兵藤家の生徒の問題が解決も時間の問題じゃ」

 

「・・・・・だれ」

 

「ふむ・・・Dよ。おぬしの出生を教えてもよいかの。無論、彼女だけと他言無用にと申す」

 

「・・・・・いい」

 

許可を出すD。

 

「この子は兵藤一誠、今はDと名乗っておるが兵藤家当主の源氏殿の孫じゃ。まだ未成年であるが今日から警備員としてこの学園の秩序と平和を取り戻す力の一役を買ってもらった」

 

「っ・・・・・!!?」

 

「じゃが、この事は他言無用で頼む。Dのことは同じ兵藤家にも秘密にせねばならぬ事情がある。それを守ってくれるならDも兵藤家に対する抑止力として学園を守ってくれる守護者となってくれるぞぃ」

 

どうじゃ? 川神鉄心の問いかけに首が千切れんばかりに肯定と振るう秋川やよい。

 

「許可ッ!! 大問題を解決してくれるならばすべて目を瞑る! 被害に遭っているウマ娘達のためになるなら!」

 

頷くDを見る秋川やよいの目は地獄に仏みたいであった。川神鉄心が虚言をする人物ではないことを知っている。もしも事実ならいつか必ず兵藤家の当主に直々学園の問題を進言してくれることを期待して―――。

 

「懇願ッ!! そんなキミに頼みたいことがある! 女子寮の寮長にも務めてもらいたい!!」

 

「・・・・・なんで?」

 

「悲哀ッ!! 女子寮に兵藤家の生徒達が侵入してウマ娘達にも被害が遭っている!! これを何とか阻止してほしい!!」

 

「・・・・・責任者」

 

「不在ッ!! だからこそ不在の寮長をやってもらいたい!! 部屋は寮長室にしていい!!」

 

「・・・・・頑張る、案内」

 

「ならば散歩ついでに儂が・・・・・」

 

「断固ッ!! 乙女の花園に近づいてはいけない!! たづなに案内する!」

 

知らない名前が出て誰だと思ったところで理事長室の扉が開かれ、中に緑色の帽子と制服を身に包んだ女性と分身体のDが入って来た。

 

「驚愕ッ!? 瓜二つの警備員が二人!?」

 

「・・・・・否、魔法」

 

もう一人のDが音もなく消失した。ますます目を丸くする秋川やよい。

 

「・・・・・魔法、分身体、増やす、これで、する」

 

「随分と便利な魔法じゃのー。分身体の強さは?」

 

「・・・・・同じ、魔法、可能」

 

「なるほどの、百人も増やせることができるならばもう募集せんでよいじゃろう。この子が一人いるだけで十分学園中を厳しく取り締まってくれる。儂らも強く出れんかった兵藤家の威光と権力、脅迫に恐喝に通用しない人材、この者こそがこの学園が待ち望んでいた、求めていた人間じゃ」

 

申し訳なさそうに言う川神鉄心と感涙を流してDに抱き着いた秋川やよい。

 

「感激ッ!! キミの一月の給料は年間分にするっ!! だから学園の秩序と平和を取り戻し、ウマ娘達の守護神となってくれっ!!」

 

「・・・・・寮、場所、案内」

 

「では、この私、理事長秘書の駿川たづなが案内しますね」

 

案内してくれる挙がった名前の人物がすぐ傍にいた。二人と別れ学園内にある女子寮に向かうと本校より一回り小さい施設に着いた。

 

「ここが女子寮です。中に入れば右が栗東、左が美浦と二つの寮に繋がる通路があります」

 

「・・・・・食事」

 

「駒王とトレセン学園内でそれぞれの大食堂があり皆さんはそこで食べますよ。家から通うウマ娘もヒトも利用することがあります」

 

説明しながら寮内を歩き回る駿川たづなに追従する。一部屋に二人が住み中等部と高等部の生徒が一緒に暮らすこともあり、トイレと風呂も完備している話も伺えた。

 

「こここが寮長室です」

 

「・・・・・」

 

最後に案内する駿川たづなが寮長室の鍵を開け何もない清楚で広い空間へDを招いた。

 

「以上で女子寮をご案内しましたが、いかがでしたか?」

 

「・・・・・女子寮、夜、時間」

 

「寮長に申請、許可が貰えれば夜間での外出やトレーニングが許され帰ってくるまでは扉は解放されています。宿泊の場合は閉じています。ですが・・・それが意味をなさないばかりと正面の扉のガラスを割って入るか、ベランダからガラスを割って部屋に侵入する彼等が後を絶たなく、今女子寮を利用するウマ娘はおりません」

 

「・・・・・ウマ娘、どこ?」

 

「理事長のポケットマネーで用意した高層マンションで住んでおられます。寮長が不在なのも同じマンションに住んでおられるからなんです。・・・・・そこでも似たような問題が多発しているようでしてどうしたらいいのか理事長は毎日苦悩に苛まれています」

 

・・・・・中々どうして、今時の若い兵藤家は本当に遠慮はいらないことが困らない人間に成り下がっている様だ。

 

「・・・・・徹底的、必要」

 

「あの・・・・・大丈夫なのですか? 仮にも生徒とは言え相手は兵藤家の方々です。もしもあなたまで大変な目に遭うようなことがあれば・・・・・」

 

己のより相手を心配する俊川たづなに、Dは帽子が被っていて頭を撫でられないことから抱きしめて安心させることにした。

 

「・・・・・大丈夫、問題ない、出来る限り、守る、俊川さん、も」

 

「Dさん・・・・・」

 

 

そして翌日・・・・・理事長が全校生徒に向かってSHL時に放送を始めた。

 

 

『謹聴ッ!! 理事長秋川やよいから報告がある!! そのまま聞くように!!』

 

「・・・・・なんだ?」

 

「突然放送が始まったね」

 

「とりあえず聞きましょう」

 

『歓喜ッ!! 昨日、新しく警備員がこの学園に就いた!! その警備員は学園内で問題を起こす生徒のみ厳しく取り締まるッ!! ウマ娘の皆も生徒の皆も、問題を起こす生徒を見かけたら直ぐ警備員に報告する厳守として今義務付ける!!』

 

「問題を起こすって・・・・・」

 

「嘘でしょ、そんな警備員今まで見たことないもん」

 

『言質ッ!! すでに警備員は昨日、問題を起こした生徒を見掛け次第取り締まった!!』

 

「・・・・・は? 嘘だろ?」

 

「本当に・・・?」

 

『希望ッ!! もう一度言う!! 問題を起こす生徒が見掛けたら、警備員に報告する厳守を全校生徒に義務付ける!! 警備員は相手が誰であろうと厳しく取り締まる!! その姿を見る時は必ずある!!』

 

 

 

「・・・・・必要?」

 

「希望を持たせたいやよいちゃんの心意気を酌んでほしい」

 

「・・・・・必要、ない。現実、見せつける、変わらない」

 

「ふぉっふぉっふぉ。学園も安泰になる日が近いのぉ」

 

 

 

「なんだ、この放送はぁっ!?」

 

「俺達兵藤家に対する宣戦布告かっ!!」

 

「ふざけんなあのクソガキが!!」

 

「あの警備員、絶対に殺してやる!!」

 

「ああ、俺達の手でぶっ潰すぞ!!」

 

 

利用者がいない女子寮の寮長の肩書を得たDが今日から兵藤家の生徒達との戦いを繰り広げるようになった。放送から直ぐ兵藤家と式森家、悪魔に天使に堕天使、一般生徒が集まっている駒王学園に分身体を配置して警邏を行うと、警備員が増えた理由に驚くも数で押せば勝てると考えている兵藤家の男子達が授業中にも拘わらず押し寄せてきた。

 

―――が。

 

「・・・・・授業中、教室、いろ、戻る」

 

『ぐああああああああああああああああっ!!?』

 

殴る蹴る、壁や床に強く叩きつける等、数で圧倒するつもりが少数の相手に一方的に蹂躙され教室に戻された。

 

『・・・・・( ゚д゚)ポカーン』

 

取り締まり=暴力で兵藤家の男子達を黙らし、更に教室の中でも圧倒的な暴力を振るい続けられる絶叫と悲鳴と音がしばらく聞こえた隣のクラスの生徒達は絶句と呆然とした。

 

それからも何度も襲い掛かり、返り討ちにされる彼等も頭を使うようになった。力でダメなら謀略だと警備員を濡れ衣を着させる企みを考えた。だが・・・・・。

 

「・・・・・こいつ、ら?」

 

「あ、ああ・・・・・お、お前をハメようとしてる。女を捕まえて犯人をお前に仕立てるつもりだ」

 

よもや、同じ身内から警備員に密告されるとは思いもしなかった彼等は「入念」に粛清され、密告した者には安泰を約束された。だが、自分の知らないところで計画を企てられるのは厄介だと判断したDは、更に分身体に虫や小動物に変身してもらい、学園の隅々、それも死角になっている場所や普段使われていない部屋にも監視用の魔方陣を張って四六時中監視をする事を思い付き実行した結果。

 

「・・・・・」

 

「待てよ!? 俺達はまだ何もしていないだろ!! いきなり何しやがる!!」

 

「・・・・・。――――、―――――、―――――。気付いてる」

 

「な、何でそれを、知って・・・・・あっ!?」

 

「・・・・・自白、元より、遠慮、なし」

 

「や、止めろ、も、もう悪さは―――うぎゃああああああああああ!!!」

 

実行される前に先に計画そのものを潰して未然に片づけた。それが功を制して・・・・・。

 

「・・・・・初めて、守れた」

 

「警備員、さん・・・・・」

 

まだ中学生だった前上涼子と初めて出会った。

 

「あ、警備員さん。おはようございます!」

 

「昨日助けてくれてありがとうございました!」

 

一ヵ月も経つ頃には徐々に警備員を信用する生徒が話しかけるまでになった境に『兵藤家の天敵』と二つ名が付けられた。その他にも女子寮にも変化が起きた。

 

「あなたが最近噂になっている『兵藤家の天敵』警備員さんだね。私はシンボリルドルフ」

 

「・・・・・」

 

「たづなさんからあなたの話を伺い、今なら女子寮に戻っても安全だと思っている。違うかな?」

 

「・・・・・女子寮、守る」

 

「その言葉が偽りではないことを期待している」

 

後の三冠ウマ娘となるシンボリルドルフと出会いを経てからも兵藤家の男子から女子寮に侵入を許さなかった警備員の働きで、徐々に戻って来るウマ娘達から付けられた二つ名『女子寮の守護神』と共に、彼女達から正式に寮長として受け入れられた。

 

だがしかし、シンボリルドルフが三冠ウマ娘と呼ばれる日が来た直後。問題が発生した。白昼堂々とシンボリルドルフのトレーナーに襲い掛かり、半身不随にするほどのダメージを与えて伝言を残してシンボリルドルフを拉致した。

 

後から駆け付けたDはトレーナーからその伝言を聞き、拉致した兵藤家の男子達を蹂躙するまで予定通りに行い、シンボリルドルフを救った。が、もはやトレーナーとして活動できない身体にされてしまった彼は担当ウマ娘と見舞いに言った時。

 

「お前は強いな・・・・・ルドルフを守れなかった私と違って」

 

「・・・・・抵抗、していた、他より、強い」

 

「守れないようでは弱いのと変わらない。それに私は車椅子を動かさないといけない生活をこれからしなくちゃならない。これじゃあ、また守るどころか余計にどうすることもできない」

 

「・・・・・トレーナー」

 

「・・・・・ごめん」

 

「・・・自分を責めるな。私よりも大切なウマ娘を助けてくれたお前に感謝している。でなければルドルフは二度と走れない身体にされていたかもしれないからなぁ」

 

力のない笑い、苦笑を浮かべるトレーナーにシンボリルドルフは暗い顔を浮かべる。

 

「・・・・・車いす、出来る」

 

「出来るだろうが私はもう、ルドルフに夢を叶えてもらって全てをやり切ったつもりなんだ。後はこれからもルドルフの走りを定年退職まで見届けてやるだけだった」

 

トレーナーはシンボリルドルフに問いを投げた。

 

「ルドルフ、お前はまだ走り続けたいか」

 

「トレーナー? 何を・・・・・」

 

「走りたいか聞いているんだ。どうなんだ」

 

「・・・・・それは、勿論走りたい」

 

それが本音で嘘ではない彼女の答えにトレーナーは一度深く頷いた。

 

「よし、言質は取ったぞ。おい警備員。お前、私のルドルフのトレーナーの後釜となれ」

 

「「・・・は?」」

 

「お前以外ルドルフを任せたいトレーナーはいない。自分のウマ娘を守れるトレーナーがいればウマ娘も安心できるだろう」

 

「・・・・・断る」

 

「ダメだ、断ることを許さない。トレーナーになれ。お前以外誰が私の大切なルドルフを任せられるんだ」

 

「ト、トレーナー! 彼は学園の警備員で女子寮の寮長として忙しいんだっ。その上、トレーナーまでなるなんて無茶が過ぎる!」

 

シンボリルドルフに激しく同意見だとDも何度も頷いたが、Dは知らなかった。シンボリルドルフのトレーナーは頑固者であることを。

 

「それじゃルドルフ。私以外のトレーナーに信じられるトレーナーはいるのか? 学園内の人間でもいい」

 

「それは・・・・・っ」

 

「お前が無敗の三冠ウマ娘となった翌日にこれだぞ。私と同じ無力なトレーナーのところに移籍していようと、結局は私のようになってしまいお前はまた攫われてしまうのがオチで繰り返される。だったらそうならないトレーナーのところにいれば問題ないだろう」

 

一理はあるし理屈は通っている。だが、だがしかしだ・・・・・。

 

「・・・・・トレーナー、じゃない」

 

「そうだ、彼はトレーナーではない。私が彼のトレーナーになれる筈がない」

 

「いーや、私は警備員にトレーナーでなければ困る。トレーナーじゃないなら私が直々にトレーナーに仕立て上げてやる。覚悟しろ警備員」

 

「・・・・・断固、拒否、拒絶」

 

「私を助けられなかった責任を取らないで大逃げする気か警備員」

 

「・・・・・っ!?」

 

「責任感がなければ構わないが、あるなら私の後釜となれ警備員。お前だけなんだ、ルドルフを託せるのは。誰もが絶望と恐怖で下を向くしかない、そんな元凶に屈さず覆す強い男がルドルフのトレーナーなら、私も笑って安心できる」

 

頭を垂らすトレーナー。本当にDに頼みたいとトレーナーの思いが伝わってもDの答えは変わらない。

 

「・・・・・無理、まだ、未成年」

 

「「未成年っ?」」

 

そもそもトレーナー試験を受ける年齢にもなっていないために、トレーナーになること自体まだ不可能なのだ。

 

「待ってくれ、警備員さんの年齢はいくつなんだ?」

 

「・・・・・今年、16」

 

「私よりずいぶん年下じゃないか! そもそも警備員だって試験のようなものがあるだろう。どうやって通過したんだ」

 

「・・・・・多分、大人、的、事情。いつの間にか、制服、用意、あった」

 

「それは・・・本人の与り知らぬところで不正的な作為が働いていたのかもしれないな」

 

「しかし、彼が学園に来なかったら今日まで救われた生徒は救われずにいた事実は変わらない」

 

「・・・これは、私達も内密にするべきか。それならば中央のトレーナー試験も受けれる」

 

まだ本気で言っている頑固なトレーナーにDは深く溜息を吐いた。

 

「・・・・・以上、なれない。諦める」

 

「いや、私はお前にルドルフのトレーナーなるまで諦めないぞ。退院した後でも口説くからな!」

 

「・・・・・帰る」

 

付き合いきれないと踵を返して先に病室を後にするDだったが。シンボリルドルフのトレーナーが退院後。

 

「命令!! D警備員、シンボリルドルフのトレーナーになってもらいたい!」

 

「・・・・・外堀、埋めてっ・・・・・断る」

 

早速トレーナーからのアプローチと言う名の追い込みが始まったことで、Dは何度断り、それでも諦めないトレーナーに勝負を仕掛けた。シンボリルドルフと走って負けたらトレーナーになると。

 

「警備員さん、本気か。ヒトとウマ娘では身体能力や脚力が違うことを知らないわけではないだろう」

 

「・・・・・そろそろ、怒りたい」

 

「・・・・・すまない。トレーナがここまで頑固だったとは知らなかった」

 

実寸大のトレーニングコースに並ぶ二人。合図はトレーナーが出すことになっているが。

 

「・・・・・ギャラリー」

 

「・・・・・トレーナーの仕業だろう。あの人はトレーナー同士の繋がりが海外にも及んでいるらしい」

 

「・・・・・」

 

コースの側には観覧席があり、多くのトレーナーやトレーナーのウマ娘が集まって皇帝と『兵藤家の天敵』の走りを見に来ていた。ほぼ十割がシンボリルドルフが勝つと決まっているも当然だが、片手で数える程度のウマ娘が応援の意味でDに声援を送っていた。

 

「・・・・・あなたに助けられたウマ娘が応援しているぞ」

 

「・・・・・期待、応じる」

 

雰囲気が変わった。隣にいるシンボリルドルフだから感じたDの気配。空気も本番のレースと似てきて、彼女はレースで走る皇帝の表情になるのも必然的だった。

 

「では・・・・・始めっ!!」

 

トレーナーの合図で二人は駆け出す。同時に疑問が沸くことになる。ヒトに合わせているのかとシンボリルドルフの走りに。ヒトの走りは遅い―――否、タイムを計っているあるトレーナーが愕然した。

 

「信じられない。200メートルでこんな・・・っ!?」

 

「トレーナー?」

 

「何者なんだ、あの警備員っ。ウマ娘の、皇帝の走りを完全についていっている!!」

 

ダダダダダダッ!!!

 

 

ドドドドドドッ!!!

 

 

「・・・・・まだ、余裕?」

 

「信じられない、警備員さん、あなた、どいうことなんだ。私と肩を並べて走れるなんてっ」

 

「・・・・・もっと、走る」

 

最終コーナーまでまだ距離があるにも拘わらず、さらに追い上げるDは一バ身、三バ身と瞠目するシンボリルドルフを置いて突き放し、余裕で皇帝を凌駕する走りで一周して戻った。

 

「なっ、な・・・・・っ!?」

 

「・・・・・これで、終わり、もう、誘い、禁止」

 

開いた口が塞がらないトレーナーとギャラリー達。まさかヒトが、ウマ娘に、皇帝に勝つなど誰が思ったことか。学園内に戻るDの背中を、息を整えながら見つめるシンボリルドルフは胸を高鳴らせた。

 

「同じウマ娘以外にも速いヒトがいるのかこの世界には」

 

作戦も駆け引きも一切なかった純粋な実力、速さ、スピード。それに自分は、皇帝は、シンボリルドルフは負けたのだと実感し、悔しい気持ち以上に心が高揚した。あんなヒトがトレーナーになったら、どんなレースの先の光景が見られるのだろうか。

 

「・・・・・トレーナー」

 

「・・・・・すまない、お前に賭けの真似事に加担させてしまった」

 

「いえ、今回の勝負であなたの気持ちを尊重したくなりました。あなた以外にトレーナーのチームに入るなら、私を越える最高のトレーナーがいい」

 

ハッキリと担当ウマ娘からの要望を聞けたトレーナーは信じられないと驚くも、破顔した。

 

「・・・・・そうか。私は約束通り、誘えなくなってしまったがお前ならまだ有効だろう。絶対に逃がさないようにな」

 

「はい」

 

その後、トレーナーの代わりにシンボリルドルフがDにトレーナーになってもらう説得の試みを始め出して三ヶ月も懸かった。その間、待ち伏せを始め、レースを走り、弁当を作ったり、一緒に買い物をしたり、警邏にも付き合い、色仕掛け以外のありとあらゆる方法と手段を駆使して・・・・・。

 

「・・・・・わかった」

 

「警備員さん・・・?」

 

「・・・・・ここまで、粘る、三ヶ月、粘られる・・・・・堪えた、根競べ、認める、負けた、もう、いい、お願い、止めて」

 

「―――!!!」

 

後日、ストーカーに付きまとわれたヒトの気持ちが嫌ってほど理解させられた、とDはバーで働いている狗の友人に愚痴を溢した程、精神的に疲れたらしい。

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