ハイスクールD×D忌避されし存在   作:ダーク・シリウス

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第4話

鳶雄たちが都市部から離れた山間の村まで向かっている最中。

 

西欧人を思わせる顔立ちに暗めの色合いであるブロンド(長い髪を一部編み込みしていた)。彼女の特徴的な―――右目が青く、左目が黒とオッドアイが特徴の眉目麗しい少女は、七滝詩求子だった。彼らの陵空高校のなかでも一番の美少女とされた、日本人と西洋人のハーフの女の子だ。仲のいい女子からは「シグネ」と呼ばれていた。詩求子は、転校先の学生服を着ており、山の中で周囲を警戒するDから飲み物と菓子パンを与えられて小休止中のようで飲食していた。そしてもう一人、少年もいた。少年はボサボサ気味の黒髪にところどころ金のメッシュを入れており、陵空高校から転校した先の制服を着ていた。・・・・・右腕に籠手らしきものを装着している少年の名は古閑雹介。

 

さらに詩求子の膝の上に―――仮面のようなものを顔につけた小型の四肢動物がいた。頭部には二本の角が生えている。仮面の方は文字のような文様・・・・・。それは―――饕餮文という四凶の饕餮について表した文様だ。つまり、詩求子が抱えている謎の生物は―――セイクリッド・ギアであり、四凶の一体、饕餮ということなのだろう。その饕餮は主と一緒に菓子パンを食べていた。

 

・・・・・独立具現型のセイクリッド・ギアは夏梅の鷹や鮫島の猫、Dの子狐のように、日常にいる生物を顕現することもあれば、あのような見た目から不思議な物も具現化できるようだ。次に古閑の傍らには―――黒々とした毛の塊のような物体が存在していた。よく見れば毛の長い犬のようにも思える。犬のような付きでだ口に、爪が生えた四肢、犬の特徴が現れた生物のようだが・・・・・長い毛に目元は覆われており、顔はよくわからない。毛の長い品種―――というわけでもないだろう。その生物が纏うオーラは、不安を感じさせるほどに黒く淀んでいる。

 

その生物たちが詩求子と古閑のセイクリッド・ギアであり、四凶の最後の一角―――『饕餮』と『混沌』のようだ。

 

「敵が急に襲ってこなくなったけど、こんなにのんびりと寛いでていいもんかねぇー」

 

「襲われない方がいいんだよ。それに九桜ちゃんの話だと救援が来るんだし」

 

「数時間後にな。その間この状況がいつまでも続くとは限らないし」

 

遠くの山から爆発音が聞こえた。追手の者たちが未だいるという認識をさせられ古閑は肩をすくめる。

 

「まだまだ敵さんは諦めていないようだし、やられるわけにはいかないだろ」

 

「それはそうだけど、とにかく人が居そうな場所を探して助けを求めなきゃ」

 

「いや、この山の中に人が住んでいても助けを求めるなんて無理だろ。俺たちのようにセイクリッド・ギアがないんだし、逆に巻き込んでしまうのがオチだって」

 

「妾もそう思うのじゃ。ならば、救援が来るまでの間、妾等だけで戦う他あるまい」

 

二人の間に居座る九桜も古閑を賛同する。詩求子の腕に抱えられている饕餮を見ながら。

 

「四凶最強の饕餮の能力を考慮しても十分逆に返り討ちができると思うのじゃがな」

 

「こう言うのってチートって奴だよな。敵の攻撃や操るものだって全部『食べる』んだから、案外七滝だけでも生き残れそうだ」

 

「そうじゃのぉ。放出系の攻撃や使役する無機物なら何でもじゃ。D、魔力の塊を作ってほしいのじゃ」

 

「・・・・・」

 

大きさはバスケットボールほどの魔力の塊を作り、それを饕餮の前に置くと饕餮が、口を大きく開けて、吸い込む姿勢となった。そして、魔力の塊が、饕餮の口に吸い込まれていって、あっという間になくなくなる。

 

「シンプルに厄介じゃの。魔力をも喰らうとは」

 

「えっと、ポッくんは怖い子じゃないと思うよ?」

 

「そう思うのは自分だけじゃ。他の人間は知ろうともせず、外見や異質な力を目の当たりにするとすべてを忌避してしまう。例え実の家族であろうと一族であろうと、他者からでも恐怖心を払拭し安心したいがために迫害することも珍しくない。Dもまたそのような目に遭った一人じゃ。故に心を閉ざし、喋れるが喋ろうとはしない」

 

「それはキミのせいでかな?」

 

無遠慮な古閑の指摘に対して九桜は怒らず当然のように肯定した。

 

「有り得て言うならそうじゃの。それ以前でもDは一族から凄惨な悪意ある暴虐を受けておった。ただ弱いという理由での」

 

「・・・・・酷い」

 

「仕方のないことじゃ。弱い者いじめなど大して珍しくない話じゃ」

 

と述べられてしまえばそれまでで詩求子は口を閉ざしてしまう。確かにその通りなのかもしれないが、そう簡単に終わらせていいものではないんじゃないかと明後日の方へ顔を向けるDを見つめながら思慮する。

 

「では行くかの。この場に留まっても仕方がない」

 

「そうだな。大方こっちの居場所も把握されてるだろうから移動したほうがいいか」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・うん」

 

饕餮を抱えながら立ち上がり、先行こうとする二人と二匹を追いかける詩求子だったが。その直後に追手の姿―――『虚蝉機関』の残党たちが掛けてきた。

 

「・・・・・」

 

追放されたとはいえ五大宗家の人間にDは容赦なく葬る。一人残らず魔法で発火現象を起こし、彼等が悲鳴を上げる暇も痛みを感じる間もなく焼失させてゆく。

 

「はは、強いな。あっさりと倒しちまうとはな」

 

「あの程度の者たちならばDだけで十分じゃ」

 

「俺たちの出番がないなぁー」

 

後続から現れる追手らを相手にしながら当てのない逃避行を続ける。

 

 

深い山中の奥にて逃げ惑う者たちの情報が届けられる。そこは山間の村で祀っているであろう神社だった。その鳥居の前で佇み、機関員から精悍な顔つきにブラウンの髪、瞳は銀色で堕天使用のバトルスーツを着た長身の男性は受けていた。

 

「わかった。下がっていい」

 

『虚蝉機関』の者は男の前からいなくなった途端に巨木の影から紫色のローブという魔法使いの格好をした初老の女性外国人が現れた。

 

「どうやら『虚蝉機関』の連中は苦戦しておるようだね」

 

「『四凶』と狗、アザゼルの秘蔵っ子に『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』からの送り込まれた『氷姫』以外の者が手引きしているようだ。その者の詳細は殆ど不明だが、狐の独立具現型のセイクリッド・ギアの所有者であり魔法を使うようだ」

 

「グリンダの弟子ではない者か・・・・・探ってみようかねぇ」

 

「『アビス・チーム』で探らせるつもりだが、自ら行くのか」

 

「相手が魔法を使ってくるなら私の方が適任だよ。なに、直ぐに戻ってくるさ」

 

そう言って踵を返して巨木の奥へ行く彼女から目を向けることもなくDたちの―――Dのオーラを感じる方へ注視する。

 

 

 

「お、美味しいっ・・・・・」

 

目を輝かせ感想を述べる詩求子。空は朱色に染まり太陽が沈みかけようとしている時刻。三人は岩肌の川の傍で川魚を食していた。追われている身でありながらのんびりと食事をする暇もないが、詩求子と饕餮が盛大に腹の虫を鳴かせたため、偶然的に川が流れている場所へ出て、Dが熊のように川魚を手で取る様は古閑を笑わせ、詩求子を感嘆させた。一人数匹の量の川魚を亜空間から取り出した調理道具に調味料と野菜などで調理し、魚の料理を振舞った。

 

「こんな状況に焼き魚はともかく、川魚のムニエルとかホイル焼きって・・・・・美味い」

 

唖然としながらもDの手料理に舌鼓、なんだかキャンプに来ているみたいな雰囲気に包まれ本来の現状を忘れてしまいそうになる。三人の独立具現型セイクリッド・ギアも焼き魚をバリバリムシャムシャと咀嚼音を鳴らして食べてる。

 

「Dくんのお料理男子力が半端じゃないわ」

 

「絶対料理ができない女の子にとって重宝されそうだな。Dが主夫で女は出稼ぎで家庭が成り立つ。てか、お前は菓子パンなのね。何でそんな姿になるのか不思議でしょうがない」

 

古閑の指摘を受けた九尾の小さな妖狐となってアップルパイを食べるDだけは川魚を食べないでいて、「Dくんの可愛さも半端じゃないわ」と呟く詩求子は殆どの魚料理を平らげてた。その次に古閑で独立具現型のセイクリッド・ギアの九桜たちも食べ終え、食後の小休止をしていた時だった。Dの狐耳がピクリと反応して九桜も何かを察知した。

 

「来たようじゃの」

 

九桜の一言を聞き、古閑と詩求子は警戒した。森の奥より紫色のローブを着こみ魔法使いの格好をした初老の外国人女性が現れた。彼女は、ゴシック調の服を着た少女や複数人のローブを着て魔法使いの格好をしてる複数人の者たちを引き連れて現れていた。

 

「か、囲まれてる」

 

詩求子が言うように、ローブを着た女性たちが、いつの間にか、Dたちを囲んでいた。初老の女性が目を細めながらDたちの面々を据える。

 

「こんなところで呑気に食事をしているとはね。よっぽど自分の実力に自信があるのか、それともただの能天気かね」

 

「少なくとも俺たちは前者の方だぜ紫の婆さん」

 

「そうかい。・・・・・で、お前さんが正体不明の子か。・・・・・確かに、見覚えがない顔だね。それにその異様な力と異質なオーラ・・・・・人間じゃないね?」

 

無言を貫くDを、沈黙を是と受け取って初老の女性は口端を薄く吊り上げた。

 

「じゃあ、軽く遊んでもらうよ」

 

三人を取り囲むローブを着た女性たちが魔方陣を一斉に展開して、炎の塊を打ち出してきた。迎撃しようとする古閑と饕餮を抱きしめる詩求子に九桜が一言言う。

 

「Dに任せるのじゃ」

 

「・・・・・」

 

真紅色の魔力がDの全身からこの場一帯にまで溢れ出し、火球とDの魔力が触れた瞬間に停止して―――映像が巻き戻されるように放ったローブの女性たちへ逆戻りした。それだけじゃなく、火球が何倍にも膨張、威力も増強して直撃した。その一連を見て初老の女性は鋭い眼差しで把握した。

 

「・・・・・とんでもない方法をするね。―――ヴァルブルガ、この中で魔法を放つんじゃないよ。既に私たちはあの子の領域に入っている」

 

「ん~?どういうことなんですか?」

 

「この膨大な魔力の領域内で魔法を放てば、あの子の魔力で思いのまま操られるのさ。さっき見たようにね」

 

「わーお!じゃあ、もう打つ手なしって事なのですかお師さま?」

 

「ああ、純粋な大魔法使いでも簡単には突破口は開けないだろう。魔法使いの者がこの状態でできるとすれば。あの子以上の魔力量で押し返すしかない。本来、魔力はこういうことをしたらそれだけ早く魔力が枯渇するもんだから、魔法使いや魔術師でもこんなことする馬鹿はいないんだよ。というよりこんな発想をすら浮かばべないね」

 

「なら、あの子はお馬鹿なんですね♪」と笑うヴァルブルガという少女の足元の地面が深くえぐれ出した。

 

「その代わり、こういう馬鹿なことするあの子にとってここは絶対領域だよ。全方位から魔力で攻撃することができるからね。魔方陣で身を固めて防いでも空気のように隙間から攻撃してくる」

 

「じゃあ、お師さまでも抵抗できないんですか?」

 

ヴァルブルガからそう尋ねられた初老の女性は薄く笑った。

 

「純粋な大魔法使いでも簡単には突破口は開けないっと言っただろう。私は純粋な大魔法使いじゃあないよ。―――『紫炎』のアウグスタだ」

 

老女の背後で突然紫色の炎の柱が巻き起こる。火力と熱量はどんどん上がっていき、Dの魔力を押し返そうとしていた。

 

《―――膏つけられしものをくくりつけるは十字の呪具よ。紫炎の祭主にて、贄を咎めよ》

 

アウグスタが力ある呪詛を口にする。紫色の炎が形を変えていく。巨大な十字架を一度形作ったあとに、新たに炎の巨人がアウグスタの横合いに生じた。その炎の巨人は同じく炎で作られた十字架を豪快に片手で担ぎ出した。見事な体躯であり、大きさも四メートルに達しているだろう。

 

その炎の巨人を駆使する彼女は十字架でDの魔力ゾーンを横殴りに豪快に振るい、消し飛ばす力技で突破した。

Dたち諸共に薙ぎ払ったかと思われたが、振るわれる直前にDの背後から『紫炎』の腕の一部が巨人のような大きな異形の腕にすると十字架を片手で受け止めていた。

 

「―――どういうことだいそれは」

 

腕から形成される四肢の獣。九つの尾を持つ山より大きさを越えてる狐が紫炎で具現化した。アウグスタは信じられないものを見る目で紫炎の巨大な獣を見つめたあと、Dに問い質した。

 

「何の冗談なんだい。それは―――その炎の色は、『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』じゃないかいっ」

 

「・・・・・」

 

「この世には同じ神滅具(ロンギヌス)が二つも存在しないはずだよ。なのに何故、私と同じ紫炎を持っているんだいっ!?答えなっ!」

 

返答は無し。代わりに身を以って知ればいいと獣の口から濁流の紫炎を吐かせる。アウグスタは紫炎の巨人で盾にして迫りくる紫炎を防ぐ。炎の嵐に閉じ込められる炎の巨人。同じ炎同士が攻防を繰り広げるが、同じ炎故に勢いある炎に逆らえず紫炎で形作られた巨人の体躯が崩れていき流れる川の如く呑み込まれた。

 

「七滝詩求子。あの炎を饕餮に!」

 

「う、うん!ポッくん、食べちゃって!」

 

「ポォォォッ!」

 

腕の中から饕餮が口を開けて迫ってくる魔法を吸い込み始めた。周囲の森にまで飛び散って燃え移らないよう九桜の采配で炎の嵐が激しく揺らぎ徐々に小さくなっていくにつれ、ついに炎は吸い尽くされてしまった。詩求子のセイクリッド・ギアの仕業にアウグスタも目元をひくつかさせていた。

 

「―――バカな!紫炎がっ!饕餮は神滅具(ロンギヌス)の炎をも食らうというのかい!?」

 

「よもや、饕餮に喰らえないものはこの世にあると思っておったのかの。さぁ、どうする?もはやお主等には詰んでおる立場じゃぞ」

 

「まだだよ、すべてが決したと思うのはまだ早いよっ!オズの魔法をみせてやろうっ!」

 

両手を広げて無数とも思えるほどの魔方陣が、一体を埋め尽くす規模で展開していった。そこより、各種様々な属性の魔法がDだけじゃなく、後ろにいる者たちに向けて撃ち放たれていく。―――が。Dの背中辺りから三つの鎌首を持った生物が顔を出して、嘲笑う。

 

『それっぽっちか、オズの魔法使いとやら』

 

『少ない少ない!』

 

『俺の方がもっとたくさん出せるぜ?―――千桁もだ!』

 

「なっ―――!?」

 

放たれた魔法を同じ数の魔法で相殺し、残り数百の魔方陣を展開した三頭龍がアウグスタに向けて撃ち放った。

 

ドドドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォン・・・・・・ッ!

 

勝敗を確認するまでもないだろう。アウグスタがいたところ大爆発が起きて、森が消し飛び大地が穿ちこの一帯の景色が破壊し尽くされた。紫炎の獣を消して状況を把握するDに古閑たちが声を掛けてきた。

 

「・・・・・死んだよな。流石に」

 

「・・・・・(フルフル)」

 

「え、死んで、ないの・・・・・?」

 

信じられないと吐露する詩求子。Dの視線が上に向いているので古閑と一緒に目線をあげると、魔方陣の上に立つブラウンの髪の長身の男がアウグスタを腕で抱えて見下ろしていた。

 

「紫炎の巨大な獣を見えたので来てみたが、アウグスタを追い詰めるとは・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「自己紹介が遅れたな。私はサタナエルだ」

 

男の名乗りにDは興味津々で見つめる。眼前の男が、一連の事件の黒幕の一人だと認識したからだ。そして、アザゼルの組織を裏切った幹部でもある。

 

「・・・・・」

 

視線を落とすと地面に灯っている紫炎が残っていた。それが意思を持っているかのようにこっちに近づいてきてはDの手元に乗ってきた。どうしよう、とこの紫炎の処遇に困ったところで視界にゴシック調の衣装を着た少女が入り、目と目が合った。

 

「・・・・・(スッ)」

 

「へ?」

 

紫炎を突き出すDに呆けるヴァルブルガ。その意味が最初分からず意図も読めないことに当惑する。

 

「えっとぉ・・・・・、私にくれるのかしらん?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

その条件にと、サタナエルへ指すDの心意を汲んだ三頭龍の眼が妖しく輝き、アウグスタが光となって消えてDの目の前に再び現れた。のちに鎖で縛り上げるところでヴァルブルガは察して、恐る恐ると近づいて紫炎を受け取った。

 

「変な人ねん。お師さまを捕まえて情報を吐き出させる方が一番だなんて」

 

「妾等に必要なのは情報なのでな。この者が一番有力な情報を持っていると確信しておる。ロンギヌスなぞ、いつかまた相まみえた時にでも手にいればよいだけじゃ」

 

「あらやだん。そう言われるとまた近い内に会いそうな言い方じゃない。ま、もしもまた会った時は燃え萌えにしちゃうわよん♪」

 

その言葉を言い残して森の奥へと姿を消したヴァルブルガ。残すは未だ宙にいるサタナエルだけだ。

 

「まだおったのか」

 

「狐の独立具現型のセイクリッド・ギアか。意思疎通ができるならば話が早いな。何故ドラゴンがセイクリッド・ギアを扱えるか教えてもらえるかな」

 

「Dは元人間であったからじゃ。並行世界で十年も過ごすことになっての。その際、グレートレッドの肉体とオーフィスの力で作り上げた肉体に換える機会があったのじゃよ」

 

「・・・・・並行世界だと?異世界に行ったと言うのか」

 

「さよう。そなたは人工のロンギヌスを作り上げることが目的であるそうじゃが、並行世界の者たちは既にその完成に至っておったぞ」

 

アザゼルがこの場にいたら「サタナエルに余計な情報を言うんじゃねぇっ!」と怒っていただろうが、現在はおらずサタナエルの銀色の瞳が細まった。

 

「証明できる物はあるのか」

 

「あるとも。のぅ、Dよ」

 

「・・・・・」

 

亜空間から白い籠手を取り出し、それを装着して膨大な魔力を込めだした途端。籠手から白いオーラが迸りD自身を包み込んで―――。

 

「―――鬼手化(バランス・アジャスト)

 

white Dragon counter Balance(ホワイト ドラゴン カウンター バランス)!!!!』

 

かけ声と音声と共に一気に弾けた。そこに出現したのは。白い龍を模した全身型鎧を装着したDだった。背中に四枚の青いドラゴンの光翼が生えており、頭部には鋭利な一本の角が伸びていた。白い極光の極大なドラゴンのオーラを身に纏うDに目を見張るサタナエル。

 

「その姿は白い龍(バニシング・ドラゴン)の鎧・・・・・今の籠手は二天龍の力を再現できるように作られた人工の神滅具(ロンギヌス)だとは・・・・・っ!」

 

「アザゼルも大層驚いておった。そなたはどうやら、高揚感を覚えておるようじゃが、戦うかの?」

 

訊ねられた彼は光の槍を具現化して背中に十枚の漆黒の翼を生やしだした。訊くまでもなく瞳に戦意の光が宿り、戦う気満々だ。

 

「―――私が勝った暁には、その人工の神滅具(ロンギヌス)を貰い受けるぞ」

 

「勝てたらの」

 

Dとサタナエル。どちらからでもなく高速で近づき衝突した。

 

 

 

数時間後―――。

 

鳶雄たちも遅れて現地にやってきた。車内の時計は、午後二十一時を示していた。ワゴン車が放つハイビームで暗闇の道を照らすが、少し先は暗黒の世界だ。辺りに木々が増え、林となって、ついには森の道となる。擦れ違う車も、後方から走ってくる車両は一台もいなくなった。

 

刹那。バラキエルたちの間に強い緊張感が走った。言い知れない不気味な悪寒が全身を駆け巡る感覚を覚えた。得体の知れない強力な何かが、鳶雄たちに襲ったのだ。ヴァーリが言う。

 

「サタナエルのオーラだ。へぇ、彼直々にいるんだな。―――しかも誰かと戦っている真っ最中のようだね」

 

「誰かと戦っているって、もしかしてD?」

 

「彼以外でこれほどまでサタナエルのオーラを乱せるなんて私は知らないよ。ま、残りの四凶の線もありそうだけどね」

 

ヴァーリの一言にバラキエルは難しい表情となった。サタナエル―――。グリゴリの元幹部で、今回の事件の黒幕とされる堕天使。グリゴリから離反した幹部・・・・・。

 

「・・・・・飛ばすぞ、しっかり掴まれ」

 

アクセルを全開で踏むバラキエルの運転に、鳶雄たちは必死にシートベルトを掴んで先行した車を追いかける。

 

あれから追いかけ続け警戒しながら進み、目的地でもある村の入り口らしきところへ出た。家屋が点々と建っている。・・・・・人の気配はない。外から見る分では、家の中に明かりも見かけれなかった。周りは田んぼと山だけの風景だ。そして、夜の闇しかない。一定の間隔で点々と建っている電柱の灯りが、頼りない光を生んでいた。暗黒に包まれている村を照らすには圧倒的に光が足りない。入り口まで来たところで車を停めて全員が外に出る。

 

「ここまで来ると、誰が誰と戦っているのかわかるな。見ろ」

 

ヴァーリが夜空へ指すと、遠いが空中に光の軌跡を残しながら飛び回る何かと白と対なる黒が見受けれ、何度も衝突を繰り返しながら絡み合い戦っていた。

 

「あれが、Dなのか?」

 

疑問を口にしたとき、ゴォォォォォンッ!と、山の方から轟音が鳴り響いてくる。全員の視線がそちらに一斉に向く。・・・・・いまの音は尋常ではなかった。そして山から感じ取れる異能の波動―――オーラは、尋常ではないものを鳶雄の心身に伝えてくる。一行は頷き合うと、オーラが発生している場所へと駆け出していく。すると白い光も山の方へと降りたって行った。それを追いかける黒を見ながらヴァーリが独り言をつぶやいていた。

 

「何、どうした?・・・・・何だと?それは本当なのか?」

 

自身の内側にいるモノ―――身に宿っているドラゴンと会話をしているのだろう。

 

「ヴァーリ、あれ何かわかるの?」

 

夏梅がヴァーリにそう訊くが―――。

 

『どうやら、ここにいる者たち全員に聞こえるよう話したほうがいいかもしれないな』

 

という聞き覚えのない声がヴァーリの方から聞こえて来たのだった。

 

『皆と話すのは初めてだったか』

 

見れば彼女が肩に乗っけているドラゴンのぬいぐるみの口が動き、声を発しているではないか!

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・・ッッ」

 

これに鳶雄たち陵空高校の生徒たちは足を止めて、度肝を抜かれていた。夏梅と鮫島がヴァーリの肩にあるぬいぐるみを指して声をあげる。

 

「「だ、誰だ!?」」

 

鳶雄も二人のような声はあげなかったが、内心で驚いている。まさか、そのぬいぐるみがアザゼル以外の声を出すとは・・・・・。夏梅曰く、ヴァーリの肩に乗せているドラゴンはアザゼルとの緊急連絡用とのことだった。

そこから聞き覚えのない声がすれば驚きもする。走るのを再開しながら、夏梅がぬいぐるみに訊く。

 

「・・・・・じゃ、じゃあ、あなたがヴァーリに宿るドラゴンさんなのね。前、オーフィスちゃんが言ってたアルビオンって名前の・・・・・」

 

『うむ。私は二天龍の一角、「白い龍(バニシング・ドラゴン)」こと白龍皇アルビオンという。あいさつが遅れていたことに関して詫びよう』 

 

鮫島が目を細めつつ、ぼそりとつぶやく。

 

「・・・・・ただのぬいぐるみじゃなかったのか」

 

これにラヴィニアが、にこやかに言った。

 

「私やアザゼル総督はたまにアルくんとお話ししていたのですよ」

 

『ラヴィニア嬢とアザゼル総督にはヴァーリの件で色々と相談をしていたからな』

 

ラヴィニアやアザゼルの前では、既に喋っていたようだ。というよりも、口調から察するに付き合いもそれなりにあるように思える。ぬいぐるみのドラゴン―――アルビオンが言う。

 

『ヴァーリはまだ未熟なところも多いため、私の声を淀みなく外に発するときにこのデバイスを活用させてもらっているのだ』

 

これに不満の表情を浮かべながらヴァーリが言う。

 

「アルビオン、余計なことは言わなくていい」

 

『ふっ、そうだな。済まなかった』

 

ヴァーリとアルビオンのそんなやり取りがありつつも、鳶雄が改めてドラゴンに問う。

 

「それで、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』に改めて訊きたいんだけど、、何がわかったんだい?」

 

『先ほど、前方の山からあがった巨大なオーラだが、あれはとある現象に非常に似ているのだ。』

 

「・・・・・とある現象?」

 

問い返す鳶雄にアルビオンは続ける。

 

『セイクリッド・ギアは、所有者の力量、または体と心に劇的な変化が訪れたとき、別の領域に至ることがある』

 

「・・・・・禁手(バランス・ブレイカー)

 

禁手(バランス・ブレイカー)―――セイクリッド・ギアの力がある領域に達したとき発現するという、セイクリッド・ギアの最終到達点とされる現象だ。基本的にあり得ないほどのパワーアップが起こるとされているが、所有者次第で、その現象は異例な力の形になることもあるという。鳶雄が口にしたものに対して、アルビオンが肯定する。

 

『その通り。かのオーラの波動はその現象に似ていた。お前たちも直接その目で見た、Dがその現象を至らせたあれとな』

 

つまり、アルビオンの言葉が本当ならば、山から感じ取れたあの異様なオーラは禁手(バランス・ブレイカー)の現象によるもの・・・・・?と思慮した鳶雄の目に山から巨大な紫炎の獣が現れ、山の一部を薙ぎ払いだした。

 

「あれは―――ッ。いえ、ですが、でも・・・・・」

 

ラヴィニアが反応した矢先に困惑する。まるで自分が知っているものと異なるものを見たような感じだった。

 

『・・・・・あれも、なんだ・・・・・?解せない・・・・・』

 

アルビオンもラヴィニアと同じ心情なのか困惑する。鳶雄や夏梅たちがわかる筈もなく駆け続けたことでついに鳶雄たちはオーラが発せられた場所、紫炎の獣がいる場所にまでたどり着く。紫炎のおかげで周囲は紫色だが辺りが照らされて目の前の光景が見渡される。そこには―――。幾つものの紫炎が灯していて何かを燃やしている光景だった。燃えているものは黒くて何かなのはわからないが―――原型が人型であったのは認知した。

 

紫色の世界の中で三人だけが佇んでいた。一人は白い龍を模した全身型鎧を着こんでいる者、もう一人は少年だった。ボサボサ気味の黒髪にところどころ金のメッシュを入れており、全身に言い知れない妖しいものを纏わせている。

 

―――古閑雹介だ。

 

陵空高校から転校した先の制服を着ていた。・・・・・右腕に籠手らしきものを装着しているのが、鳶雄は気になったが・・・・・。見ればラヴィニアやヴァーリも白い鎧と少年の右腕を気にしているようだった。少年は、こちらに一瞥すると森の方へ声を掛けた。

 

「七滝、もう出てきていいぞ」

 

「「えっ?」」

 

紗枝と夏梅が声を漏らすと、森に隠れていたのか西欧人を思わせる顔立ちに暗めの色合いであるブロンド(長い髪を一部編み込みしていた)。彼女の特徴的な―――右目が青く、左目が黒とオッドアイが特徴の眉目麗しい少女は、七滝詩求子だった。彼らの陵空高校のなかでも一番の美少女とされた、日本人と西洋人のハーフの女の子だ。―――仮面のようなものを顔につけ、頭部には二本の角が生えている小型の四肢動物を抱えてこちらに向くと鳶雄たちの存在に気付いた。

 

「あ、皆川さんと東城さん?」

 

「「七滝さん!?」」

 

互いの存在を認識し合った彼女たちを他所にバラキエルは最後の一人、精悍な顔つきにブラウンの髪、瞳は銀色で堕天使用のバトルスーツを着た長身の男性―――サタナエルと相まみえた。サタナエルの身体は幾つも怪我を負っていて服も所々破れていた。

 

「サタナエル」

 

「お前がここにいるということは、この者はお前たちと組みしているようだな」

 

「Dに興味を抱いているようだな」

 

「ああ、できれば私のところに引き抜いて詳しく知りたいところだ。が、それは叶わぬ願いだと悟っていたところだ。同時に人工の神滅具(ロンギヌス)の性能は本物と遜色がないことを知れたがね」

 

白い鎧を解除したD。白い籠手を外して紫炎の獣も消すとその場に座り込み亜空間からアップルパイを小さな九本の尾を生やす妖狐となって食べ始める。こんな状況なのによく食べられると呆気に取れられるが誰一人Dに声を掛けることはなかった。

 

「―――サタナエルよ。どうして、グリゴリを抜けた?」

 

ストレートなバラキエルの言葉に―――サタナエルは愉快そうにしていた。

 

「相変わらず、真っ直ぐに訊いてくる。・・・・・まあ、おまえに起きた事件をここで蒸し返したところで、私に得があるわけでもないが・・・・・」

 

サタナエルが言う。

 

「私は他の研究者同様にセイクリッド・ギアの可能性を求めるだけだ。ただし、アザゼルほどの検証を緩やかにするつもりない」

 

「ゆえに組織を抜け出し、他の勢力と手を組んだというのか?五大宗家と関係する機関にグリゴリの技術を提供するなどと・・・・・それがどれだけの混乱をもたらすかわからないおまえでもあるまい?」

 

「・・・・・」

 

バラキエルの言葉に複雑な表情を作るサタナエル。・・・・・バラキエルが、いまの言葉を口にする資格がないことぐらい、本人がよく分かっているが・・・・・それでも仲間に同じ思いをしてほしくないからの忠言だった。サタナエルのほうもあえてその辺りを返さず、こう答える。

 

「『虚蟬機関』とオズの利害が一致しただけのことだ」

 

バラキエルが、先ほど感じた不穏で巨大なオーラ、古閑雹介を一瞥する。

 

「・・・・・あれもおまえの仕業か」

 

「私とアザゼルの理論をいち早く形にしてみせただけのことだ。・・・・・かなり強引な方法だったことは否定しないがね。一応、成功のようだ。アザゼルの理論は見事だった」

 

「・・・・・世界に混乱を招くようなことだけはするな」

 

「それはアザゼルの言葉だろう?お前の言葉を私に聞かせてくれ。―――いや、もう世界に混乱を招く存在がそこにいる」

 

サタナエルの視線はDに向かう。

 

「並行世界から持ってきた人工の神滅具(ロンギヌス)を所有し且つ、同じ神滅具(ロンギヌス)を使役する存在がいるではないか」

 

「・・・・・」

 

「存在自体もまた稀有な事に、並行世界でグレートレッドの肉体とオーフィスの力の恩恵を受けて第二のグレートレッドとして生きている。これを各神話の神々に教えたらどのような反応を示すか想像できるか?」

 

サタナエルの問いにバラキエルは全身から放電現象を起こし始める。彼の全身に電気が走りだした。バラキエルの戦意にサタナエルは嬉々としていた。

 

「そうだ、そのほうがわかりやすくていい。強引に私を本部に連れ戻す。それが『雷光』の意志でいいではないか。―――だが、こうも大勢で邪魔立てされる状況では私の目的が叶えられそうにない」

 

サタナエルが足元に魔方陣を展開させる。「逃がすか」とバラキエルが雷光を放つもサタナエルは手を前に突き出し、防壁となる魔方陣を作り出して、バラキエルの雷光を防いだ。サタナエルが魔方陣から発生する光に包まれていく。

 

「また会おう、諸君」

 

その言葉を最後に、光が止むと―――そこにはサタナエルの姿が無くなっていた。転移型の魔方陣で、いずこかにジャンプしたのだろう。

 

「逃げた、のですか?」

 

「・・・・・この周辺にアビス・チームもいないようだ」

 

「ああ、制服を着た連中なら『虚蟬機関』の残党と襲ってきたから倒したのじゃ。もう燃やしてしまったがの」

 

九桜の発言で鳶雄たちの間で重苦しい空気が漂った。その中、「あっ」と詩求子が思い出したように声をあげた。

 

「紫色の服を着た人を置いてきちゃった」

 

「え、それって・・・・・」

 

「・・・・・」

 

菓子パンを食べ終えたDが亜空間から放つ鎖で森の方へ飛ばし、何かを引っ張り出した。それが人で紫色のロープを着た鎖に縛られている初老の女性を一目見てラヴィニアは目を見張った。鳶雄は捕まってる女性を見やりながら訊く。

 

「ラヴィニアさん、この人って・・・・・」

 

「紫炎のアウグスタ・・・・・本人で間違いないのです。D、捕まえてくれたんですね」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

「ただし、ロンギヌスは敵に渡したから持っておらんがの」

 

「じゃあ、あの紫炎の獣はD、あなたなのです?」

 

首肯するD。だとするとおかしな話となってしまうが、ラヴィニアは捕虜となったアウグスタを細めた目で睨み付け、情報を得ることに優先する方針で浮かんだ疑問を後回しにすることにした。

 

「D、ありがとうございます。これで彼女からお師匠さまのことを訊き出せれます」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

頑張れ、と伝えたいのか狐の尾でラヴィニアの肩にポンポンと触れる。それがくすぐったそうに微笑む彼女はDの頭を撫でる。それからバラキエルが撤収の呼びかけをする中、一人この場を去ろうとする者がいた。―――古閑だった。鳶雄達が目指す方向とは全く異なる方に歩き出そうとしていた。鮫島が言う。

 

「古閑。お前も来いよ。黒い翼のおっさんどもが、とりあえず生活は保障してくれるぜ?」

 

古閑は肩を竦め、こう答える。

 

「―――いや、俺は俺で当分やらせてもらう。ま、四凶ってのは自然と集うようだから、そのうち会えるっしょ」

 

彼はそう言うと、セイクリッド・ギアのブリッツと共に森の奥へと消えていく。

 

「おい、古閑ァッ!」

 

名を呼ぶ鮫島だったが―――。

 

「じゃあ、鮫ちゃん、皆」

 

それだけを言い残して、彼は早足に去って―――。

 

ジャラッ

 

それ以上の速さでDの周囲の空間から飛び出す鎖によって、古閑とブリッツの身体を縛り上げ拘束されたのだった。

 

「・・・・・」

 

こちらに一人と一体を強制的で引きずって連れ戻しながらジィーと鮫島を見つめるD。

 

「これでいいのだろう?とDは言っておる。ほれ、鎖を持てぃ」

 

「お、おう・・・・・」

 

Dの言葉を代弁する九桜に古閑の強制連行を対して鮫島は何とも言えない気持ちで、神妙な面持ちの古閑を縛る鎖を握らされる。

 

「・・・・・鮫ちゃん」

 

「・・・・・Dに目を付けられた時点でこうなる運命だったかもな」

 

古閑の後ろに回り詩求子のセイクリッド・ギアのポッくんを突き付けるD。逃げたらこいつで喰わせるぞと脅―――プレッシャーを与えるDに逆らうのはヤバいと古閑は悟った。

 

 

 

村の入り口―――。

 

戦い終えたDたちが、バラキエルが乗ってきた車でここを離れて行く様を物陰より遠めに見送る姫島朱雀と、櫛橋青龍。朱雀が言う。

 

「サタナエルにに逃げられたようだけど、合流自体はどうにかなったようね」

 

青龍が息を吐きながら言った。

 

「『虚蟬機関』は彼等に捨てられたようだ。そそのかされた機関の連中もどうかしているが、僕ら五大宗家を巻き込んだサタナエルとオズの魔女たちも度し難いね」

 

「・・・・・さて、各家の当主さま方は、このあとにどんな采配を振られるかしらね」

 

青龍が朱雀に忠言を口にする。

 

「しかし、朱雀、御家に黙ってここまですると、あとで何を言われるか分からない。その覚悟はあるんだろうね?―――って、僕も同罪か」

 

彼が言うように、今回の戦いでは被害を最小限に抑えるため、五大宗家の術者を使い、大規模な人払いの術を行使していた。それに、『虚蟬機関』の残党と、オズの魔法使いたちの妨害もしていたのだった。そのせいもあり、いや、そんなことする必要がないぐらいあっさりと戦いをDが終わらさせてしまったのだ。また青龍が言う。

 

「あの狐憑き、僕との戦いのときは本気ですらなかったのかな。いや、僕も本気を出していなかったけれど」

 

「言い訳?お互い本気でもない戦いで討伐するべき相手に負けたことに」

 

「そういうわけじゃないよ。まだあの狐憑きのことを各家の当主さまたちに報告すらしていないんだろう?どうするのさ。・・・・・一応、僕もそうだけどさ」

 

「あなたの分は弁明するわ。私は・・・・・無理矢理当主を納得させるしかないわね」

 

さて、どんな言い訳をしようかと思慮しているときだった。

 

「―――では、こちらを納得させる理由を聞かせてもらおうか」

 

第三者からのその言葉と共に強大な気を近くに感じ取れてしまう。朱雀と青龍がそちらに振り向けば、そこには軍服を着た長身の男性が立っていた。見た目は二十代前半ほどで、鋭い目つきの美丈夫だ。自衛隊の軍服ではなく、その家の術者が着こむ特別な物だった。朱雀は声をかけられるまで、気の気配すら感じ取れなかった。それだけ見事にこの男は気を感じ取らせなかったのだ。朱雀が言う。

 

「・・・・・あなたが来るなんて。―――百鬼家現当主、百鬼中神黄龍」

 

そう、軍服の男性は五大宗家の筆頭―――百鬼家の現当主、百鬼中神黄龍その人だ。霊獣最強とされる黄龍と契約した者―――。黄龍が朱雀と青龍に言う。

 

「近く、幾瀬鳶雄をはじめとした『虚蟬機関』の事件に関与した者たちを『奥の院』にて質したいと他の当主にも進言するつもりだ。大方、叶う話となるだろう」

 

その言葉に青龍は苦笑する。

 

「・・・・・『奥の院』、黄龍は本気のようだ」

 

朱雀は目を細めて、問いかける。

 

「・・・・・彼らをどうするつもり?」

 

黄龍は簡潔に応えた。

 

「それは―――彼らの答え次第だ」

 

その黄龍が、二台の車が去った方向に視線を送った。

 

「・・・・・狗と狐か。さて、どう出る」

 

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