実寸大のレース会場、そこで木バと走る他のウマ娘達を見に来た一行は感嘆の念を抱いた。
「凄い、ここも兄さんの手作り?」
「・・・・・実在、モデル、コピー」
「実物をそのまま真似てこのガラス玉の中に作ったんだ」
どれもこれも本物のように作られた場所。いったいどれだけの時間と手間、労力や費用を費やして作ったのだろうかこのトレーナーは。
「お爺ちゃん、あいつがその気になったら都市も作れてしまうんじゃないのか? しかもこの中なら色々とできると思うぞ」
「それが本当にできてしまうのであれば、日本が沈没の危機に陥る際に多くの国民を避難生活が可能にするな。食糧不足、家畜の感染問題もこの中でならば・・・クソ兄貴め、あれほど有能な者を野放しにするとは」
トレーナーの真価を定める玄弥。いちトレーナーにしておくのが勿体ない過ぎる彼がその昔、自分と同じく弱者で才能がなかったとは信じがたい。
「・・・・・―――――、―――――」
担当するウマ娘にトレーナーがコースを走る際の体力配分と走る位置について語っていた。聖華と香織、真摯にウマ耳を傾ける彼女達の中でシンボリルドルフが何だか嬉しそうだった。語り終えると実践だと彼女達はそのレースで走り一着をした歴代のウマ娘の記録で走る木バと競争を始めた中、聖華と香織までも交じって走り出した。
「ほー速い速い。車より速く走れるって本当なんだな。もう車なんて捨ててウマ娘に運んでもらった方が環境的にいいんじゃね?」
「バカですか、人権問題に関わりますよ。日本全土のウマ娘から恨まれたいのですか天王」
「人力車なんて古い乗り物が京都にまだ現役しているんだぜ? 走るのが存在意義のウマ娘にとっちゃあ嬉しいこの上にないと思うんだけどな。交通の渋滞だって解消するし事故だってなくなるんだぜ? 車のように壊れてしまうのはウマ娘に代わるだろうけどな」
「次期大統領が鬼畜外道な考えを持った身内とは最悪です。本当にこれでいいんですか?」
天王を指す迦楼羅から投げられた指摘に玄弥は硬い表情を浮かべた。
「お前が大統領になるなら替えてもいい」
「イヤです」
きっぱり断る迦楼羅に眉根を寄せた玄弥。隣で残念と肩を竦める天王。
「迦楼羅が大統領になってくれたら、大勢の可愛い女の子達と毎日遊んで豪遊し放題なのに」
「コレだからですよ。いいんですか?」
「・・・・・今世代の兵藤家の質が悪いのは分家も同じか」
兄の源氏もこの苦労をしているのかと嘆き、木バに後れを取ってゴールをしたウマ娘を見ながら、いつか教育について語り合うべきかもしれない思いを抱く玄弥であった。
「つ、疲れた・・・体力には自信はある方だったのに・・・・・」
「好奇心に負けて一緒に走ってみたけど、普通に負けたね私達・・・・・」
木バとウマ娘と走って負けた聖華と香織の2人に天王が近づいて話しかけた。
「お疲れさーん。見事な負けっぷりだったぜ。兵藤家の人間と言えどウマ娘に劣るところもあるよな」
「別に私と香織は兵藤家としての誇り何て持ち合わせちゃいないわよ」
「寧ろ、悪い意味でとんでもない家の人間として生まれたのが最悪だわ。あなたも同類みたいだし」
「おいおい、そいつは心外だ。本家の下品極まりない連中と一緒にしないでくれよ。俺は礼儀正しく可愛い女の子達を侍らせて楽しく生きているつもりなんだぜ?」
女好きに関しては一緒でしょ、と胡散臭げや胡乱気に天王をジト目で見る聖華と香織に同意の声が上がった。
「いくら礼儀が正しくとも、未成年が不純異性交遊するなど言語道断ですよ」
「真顔で男の下半身が好きだと断言した変態女に諭される筋合いはありませーん」
「好奇心旺盛、と言ってくれます? この変態」
「お前も変態じゃーん」
どっちもどっちでしょ、と天王と迦楼羅の言い合いに喉の奥から出掛けた言葉を呑み込んだ聖華と香織だったが、昼食前になったので旅館に戻ると言いに来たトレーナーが。
「・・・・・分家、性欲の獣、駆除?」
話しが聞こえていたようで、目が本気で拳を燃やすトレーナーに天王は冷や汗を浮かべる。
「一応、大統領の孫相手に攻撃しちゃ立場的に悪くなると思うぞ? 大統領がいる目の前で暴力沙汰は止めた方がいいぞ」
「・・・・・命乞い、言い訳、脅迫、聞き飽きた」
「あ、この手の延長線は通じない相手だったのか! しかも権力のトップがいようとお構いなしなのね!」
「忘れたのですか。4年間も悪逆非道を尽くす学園に通う本家の者達を蹂躙した者ですよ。相手が誰であろうと容赦したら、本家の最悪すぎる汚物達による被害者はさらに増えることもわからないのですか」
ジーと天王を見つめるトレーナーの視線はロックされたまま。完全に駆除対象として見ている目だとウマ娘達が、このまま平行線になることも察して動いた。
「トレーナー、旅館に戻ろう」
「料理を作って待ってくれているリーラさん達が心配するよ?」
「ほらほら、トレーナー。行こうねー」
各々口々に言いながらウマ娘等がトレーナーの背中を押して外へ出る転移魔法陣に向かう。彼女達に助けられた形の天王は安堵のため息を零す。
「はぁ、助かったぜ・・・。アイツ、俺を見る目が人間以外の何かを見る目をしていたぞ」
「本家の下賎な者達と同類と認定されたのですから当然でしょう」
「・・・・・4年前か。話を聞くよりも4年以上前から相当醜悪な環境だったようだな。クソ兄貴と兵藤家を見直しするためにまた本家に顔を出す必要があるか」
それは今日の夕方にすることを定めた玄弥は、聖華と香織を兵藤家に送るトレーナーに便乗して再び兵藤家に足を踏み込むのだった。
「・・・・・また来たのか」
「今しかお前と話す時間がないからな。今後の兵藤家の在り方の話し合いをだ」
「・・・それは本家が―――」
「その本家から駒王トレセン学園に通う兵藤家の者達に対して“性欲の獣”と呼称付けされるほど醜悪な環境を作った。その問題は分家の私達も他人事ではないことを私は深く問題視している」
「・・・・・」
「お前の孫に私の孫すら“性欲の獣”として駆除対象に認定された。兵藤家の本家と分家が”性欲の獣”だらけしかいない場合、たった一人者に悪鬼羅刹の如く滅ぼされかけない。私はお前の孫の目を見て心から危惧した」
私の孫に対して人間を見る目を一切していなかったのだ。と玄弥からの指摘は源氏を硬い表情をさせた。
「本家の若輩達が4年間、いや4年以上前から“性欲の獣”として学園で酒池肉林をしていたのならば、後から続く何も知らぬ純粋な者達まで私達の目の届かぬ耳も届かぬ管轄外で同じ過ちを教えられ、同じ過ちを繰り返していた。あの学園で起きた問題は学園側で対処することを決めた私の責任だ」
肩を落として顔に陰を落とす玄弥。
「故に学園内で起きた事実、私にはその情報は一切ない。・・・・・兄者、手元にあるなら見せてくれまいか」
「玄弥・・・・・」
「頼む・・・無知は罪だと言うなら既知にして現実と向き合いたい。分家からもあの子が呼称する“性欲の獣”を世に出したくないのだ。遅いかどうかわからないが今だからこそできることをしたい」
毛嫌いしていた実の兄に頭を下げる弟に源氏はしばし見つめた後、控えていた靖に孫が4年間も集め続けた情報の書類の束を用意してもらい玄弥の前に置いた。
「これだ」
「・・・・・随分と、あるのだな」
「それだけのことをしていたのだ。あの者共は」
最初の1枚を手に取り、他の書類にも目を通し内容を読む次第にトレーナーがどんな気持ちで情報に残したのかと思いを抱くようになるのも必然的だった。
「・・・・・人間を見る目ではなくなるのも頷けることばかりだな。4年間もこのような出来事ばかり起こし、対処していたならば・・・・・この者達は今どうしている。まさか、お咎め無しにしているわけではあるまい」
「卒業後、兵藤家の名を剥奪、追放するつもりだ。その際、奴らの脳に直接式森家の監視魔法と悪事を働いたら脳が爆発する魔法を掛けてもらう」
「随分と乱暴な事をするのだな。とても当主とは思えん発想だ」
「・・・本当の意味で最後のチャンスを与えているに過ぎない」
その頃Dは玄弥の用事が終わるまで楼羅と悠璃に捕まり、手料理を作って欲しいと強請られて人数分の料理を調理する羽目になっていた。
「また息子の手作り料理を食べられるなんて・・・お父さんも手伝うぞ一誠!!」
「・・・・・死ね」
「ぐはーッ!?」
邪魔ではなく死ねという辛辣すぎる言葉を受け誠は床に崩れ落ち意気消沈した間に料理を作り上げていく。
「はいはい、お父さん。そんなところで寝転がってないでよ」
「D兄さんの邪魔になるからこっちで勝手に落ち込んで」
「ぐす・・・娘達よ、慰めてくれないのか・・・・・」
「「面倒くさ」」
「うおおおおおん・・・・・っ」
どうせ料理を食べたら元気になる現金な父親なのだ。放っておいてもいい姉妹の考えに、流石に哀れすぎると誠輝が父親の誠の手にポンと手を置いて慰める。
「・・・・・要望、完成」
「わーい!」
「見たことのない料理の数々ですが、食欲をそそる良い香りが漂ってます」
「確かに・・・・・」
「これは絶対に美味しいでしょう。匂いを嗅ぐだけでお腹がいっぱいになりそうだわ」
食卓に運ばれ置かれる夜食。傍で見て味見役もしていた羅姫から優しい眼差しで見られていることに気付くDは不思議そうに首を傾げる。
「・・・・・?」
「とても・・・とても優しい味を作れるのですね。兵藤家に憎悪や恨みを抱いている子供とは思えないほどに」
「・・・・・別問題、料理、相手の為、喜ぶ顔、大切、教わった」
「そうですか。あなたにそう教えた方々に何時か会えた時に感謝をしなければなりませんね」
嫌な相手、嫌いな相手でも料理は真摯に作り食べさせるDの考えに羅姫は微笑んだ後、源氏達を呼びに向かった。
「いっくん、今夜も一緒に食べてくれるよね?」
「・・・・・大統領、付き添い、帰る、一緒」
「悠璃、これ以上のお願いは我儘ですよ。また次の機会にしましょう」
「うー・・・・・」
凄く残念がる悠璃をDもまた今度という気持ちで彼女の頭を撫でる。呼びに行った羅姫が二人を連れで戻ったら玄弥に問う。
「・・・・・用事、旅館」
「ああ、待たせてすまないな。旅館に戻ろう・・・・・その料理は?」
出来立ての料理から発する匂いに鼻が刺激されて興味を持った玄弥の質問には悠璃が答えた。
「いっくんが作ったんだよ」
「クソ兄貴の孫が・・・・・クソ兄貴、今夜も構わないか」
「好きにしろ」
あれ、帰らない? 目をパチクリするDの隣で一緒に食べられることになって歓喜になった悠璃の手で隣に座らされてお代わりをできるよう多めに作ったのが幸いに、2人が食べられる料理の分も追加して一緒に卓を囲んだ。
「それでは、いただきましょう。いただきます」
羅姫に呼応して合掌する一同。そして一斉に箸を取り料理を口に運んだ。見たことのない料理の味は不味い筈がなく、太鼓判を打つほどの美味しさであり食卓は和気藹々と賑やかな夕餉となった。
※なお誠が一番うるさかった。
そして旅館へ戻った際には玄弥が書類の束を持って帰る様子にDは問うた。
「・・・・・用途、不明」
「分家の若者たちの戒めに見せる。本家の二の舞になってほしくはないからな」
「・・・・・同じ」
「その印象を変えるため、兵藤家は変わる必要があると判断した。新しい時代に生きる若者達に最悪の事実を教え込み、これからも兵藤家の人間として生まれた者達に正しく強い生き様を見せつける先人を増やすために」
大統領の中で定めた未来に向けての方針。Dは否定の言葉を掛けないが、彼の言葉に過去の自分を思い出した。弱いという理由で凄惨な虐めと暴力の記憶を。
「・・・・・いなかった」
「・・・そうか、私もだ。弱さを理由にな」
自分も似たようなものだと同感と同調する玄弥。
「・・・・・でも、優しさ、あった」
「・・・そうか。なら、その受けた優しさを他の者にも与えることだ」
「・・・・・ん」
夜空を見上げれば大きな三日月が浮かんでいた。欠けた月はまるで大切な何かを無くし失って欠けた自分のようだと思いながら見上げていた視線を、踵を返しながら旅館へ変えて玄弥と戻る。
「お、お爺ちゃん。お帰り・・・何そのぶ厚い束の紙は」
「天王、お前も目を通すものだ。迦楼羅もだ」
「これは・・・1枚目で嫌な情報なのですが・・・・・まさか全部同じか似た内容なので?」
「迦楼羅、どうやらその通りのようだぞ。本家の連中、本当に好き勝手に過ごしていたみたいだ。俺、こんな奴らと同類扱いされたのかよ・・・・・一体どれだけ書き込んだんだ?」
「クソ兄貴の孫が実際の現場で起きた事を4年間も書き溜め込んだ物だ。本家の若輩達がこれだけの罪を犯したという事実でもある。これを分家の者達に見せるつもりだ」
「うげ・・・・・本家に対する騒動を起こすんじゃねーの?」
「愚か者が。たった一人の人間が出来て私達が出来ぬなど恥でしかない。本家と分家という理由で情報まで分断したらどうなるか、これで嫌というほど判らされた。故に天王と迦楼羅。分家はこれから本家と交流を図る。大統領の親族の者として恥ずかしい姿を見せてはならぬぞ」
「交流ってことは、武闘大会もするのか? だったら負けられないぜ」
「楽しみが増えるなら私も勿論です」
「その意気やよし。手始めに分家の若い者たちの中から駒王トレセン学園に編入させる。本家の者とは違うことを証明してやるのだ」
「お爺ちゃん、なーんか活き活きしていないか?」
「意外と負けず嫌いな面もあったのですね」
「楼羅、悠璃、誠輝。話がある」
「お父様、なんでしょうか?」
「弟の玄弥と話し合った結果、兵藤家の分家の者達が駒王学園に編入することとなった」
「分家の人達も通うって大丈夫なの? 兵藤家の人間には変わりないし、兵藤家の人間に恨んでいるかなりの人達が分家の人達に怒りを向けられるよ?」
「承知の上だ。理事長にも話を通す。今はそうでも長い時間をかけて兵藤家に対する印象を変えなければいけない。そうしなければ孫を筆頭に兵藤家は悪だと認識する学生達が絶えない」
「事情は分かりますが、私達に関係ないのでは?」
「いや、お前達にも兵藤家の本家の代表として駒王学園に編入してもらいたい。学園艦から離れてもらうことになるが意思を聞きたい」
「え、私達がいっくんと同じ学園に!?」
「思い切った考えを決行するつもりですね」
「ああ・・・私達も教育の方針と心構えを見直す必要がある。兵藤家の教訓の『弱さは罪』『強者は正義』・・・・・これも破棄するべきだろう。間違った考えをしたまま成長してしまった者達が著しく増えてしまった原因の一つでもある」
「お父様・・・・・」
「もう2度と一誠のような子供を生み出してはならない。それを新たな教訓とする。だからお前達にも協力をしてもらいたい」
そんな話が挙がっていることを知らない一行は、その日の夜の内にたくさん購入した花火を最後の夏の思い出を作った。何故か旅館側が所持していた着物を借りることができて少女達は身体に着物で包み、砂浜で花火をした。
「お兄様、綺麗だね」
「・・・・・わからない」
「もートレーナー。そういう時は綺麗って返すんだよ?」
「・・・・・?」
「この人、本当に判らないみたいだね」
心底、なんで? といった風にトウカイテイオーに不思議そうな顔を向けたトレーナーにディープインパクトが呆れ質問をした。
「花火の綺麗さが判らないなら、トレーナーは他に綺麗なモノってわかりますか?」
「・・・・・綺麗、綺麗・・・・・」
「美しいモノでもいいですよ」
「・・・・・」
今まで綺麗や美しいと何となくでも感じたことがあるモノを思い出すトレーナーはそれを口にした。
「・・・・・レースを走る、何万人の人、声援を受ける、ウマ娘、ディープインパクト、その一人」
「っ・・・・・」
当然と言えば当然の返しだろう。しかし、真正面からそう言われたディープインパクトは面を食らい、思わず照れて熱くなった顔を見られたくないとそっぽ向いた。
「・・・・・これからも、見る、勝敗、関係無し、見たい」
「・・・なら、特等席でこれからも私達を見てくださいよ」
「・・・・・うん」
「ラ、ライスも頑張るよお兄様っ・・・!」
「・・・・・うん」
3人の話を聞いていたトウカイテイオーも負けじと主張してくっつくものだからメジロマックイーンが嫉妬してトレーナーに抱き着いた。それから始まる騒がしさはチームシリウスの見慣れた日常なので皆スルーした。
そして7泊8日の宿泊もあっという間に最終日となった。思ったより早く先に東京へ帰る大統領一行をDは送るため顔を出したら玄弥に頼まれた。
「帰る前に少しだけ天王と戦ってくれまいか。格上との戦いの経験を積ませたい」
「えー、俺、怪我だけで済まないだろ絶対。やだぞやる気が―――」
「兵藤家から追放するぞ」
「うわ、嫌な脅しをする!? なぁ、お前もそう思うだろ?」
「・・・・・心底、どうでもいい」
「骨は犬に食べますので安心してください」
「拾ってくれないの!? 俺の身内は何て優しくないんだ! 泣くよ、泣くよ?」
早くやれと目で訴える玄弥と迦楼羅。優しさなど持ち合わせていない身内に嘆き嘆息する天王は無人の砂浜でDと対峙した。
「「・・・・・」」
ただし、どちらも座禅して動くことはなく相手を見続けるのが判らないと武術を学んでいない者達は疑問を抱いた。
「どうしてどっちも座って動かないのですか?」
「一体何をしているのかな・・・?」
一方、裏の世界で活動している夏梅とラヴィニアは。
「あれって、戦っているラヴィニア?」
「そうなのです。目には見えない戦い、瞑想して心の中で相手と戦っているのです」
玄弥と迦楼羅
「お爺様、十中八九・・・・・」
「天王が負けるだろうな。だが、その糧を得るのと得られない差は確実に大きい」
2人が座禅をして5分程で天王が不意に背中から倒れて大の字になった。
「あー、やっぱり強ぇー!! ちっとも歯牙にもかけられない!!」
「・・・・・意外、今まで、兵藤家、強い、分家、これ?」
「あ、そうなの? それが本当にそうだったら嬉しいな。俺ぐらい強い奴は分家に何人かいると思うけど、やっぱお前の方が強いわ」
「・・・・・分家、強さ、印象、変更」
「そうしてくれ。本家の連中と一緒にされたくないって気持ちがお爺ちゃんが持って来た書類を見て強くなったから」
天王を起こそうDが伸ばした手。その手を掴んだ矢先、天王を思いっきり旅館の方へ放り投げられ自由落下中に体勢を整え綺麗に着地、兵藤家の者として身体能力の高さは本物であることを示した。
「どうでしたか天王」
「ムリムリ、かないっこねぇ。どう足掻いても勝てるビジョンが浮かばなかった」
そんな感想を漏らす天王の背後に砂浜から戻ったDも感想を口にする。
「・・・・・強かった。性欲の獣、全員、強い。分家、質、高い」
「そうか・・・少なくとも分家の鍛練は間違いないと分かっただけでも安堵ものだ」
「・・・・・もっと、鍛える、もっと強い、素質、大」
「だそうだ天王。力の大会の優勝者からのお墨付きを得たからには更なる鍛練をしてもらうぞ」
「えええ・・・・・勘弁してくれよ。脳筋になるのだけは嫌だよ俺」
先に高級車に乗り込む天王に呆れ顔で続いて乗り込む迦楼羅。玄弥も妻と乗り込む前にDへ懐から取り出した紙を渡した。
「私のプライベートの電話番号とアドレスだ。困ったことがあった時は遠慮なく頼っていい」
「・・・・・ん」
紙を受け取ったDから視線を外し車に乗り込んだ。一行を乗せる車は動き出して旅館を後に走って去った。
「珍しいわね。Dが兵藤家の人を褒めるなんて」
「・・・・・事実、新鮮」
「今まで見たことがないタイプの兵藤家の人だったから?」
「・・・・・ん」
「そうなのです? それならまた会う機会が楽しみなのですね」
その日が近いのをD達はまだ知らず、今後どうなるか神も知らない。