そんなこんなで始業式は終わってから何事もなく―――9月に突入したのだが、その間色々とあった。
一クラス分増やす形にした分家の兵藤家達が編入してきたのだ。その中には天王と迦楼羅も当然のようにいて、本家の兵藤家のクラスに誠輝達5人も加わった。
これには元々在籍している全校生徒は分家の者にすら凄く警戒して腫物扱いするが如く、避けて彼等の道を空け譲るほどだ。そんな態度を取られる彼等―――分家の兵藤家は心なしか辟易していた時期の放課後のことだった。警備員のもとにあの少年少女達が訪れた。
「おっす久しぶり。早速なんだけど、あそこまで俺達を怖がられるとは予想外だったぞ。可愛い女の子に話しかけようとしたら身体を縮めて泣かされそうになったし」
「・・・・・それ、厳禁。本家、被害者、恐怖の対象、兵藤家、分家、同一視」
兵藤天王、兵藤迦楼羅、兵藤楼羅、兵藤悠璃、兵藤聖華、兵藤香織が旅館以来の再会を果たした。が、再会を喜べる状況ではなかった。
「本家だろうと分家だろうと同一視されるのですか・・・・・兵藤家だからの理由で」
「実際に接してみると、本家の人達が仕出かしたことは兵藤家との間に修復できないまでの溝を作ったことがはっきり判りました。これはお父様と叔父様もどうすることもできません」
「最悪を通り越して居心地が悪すぎるよいっくん。いっくんと一緒に居られる時間が増えたのは良いことなんだけど、周りから見る目がさー」
「本当だよ、私達なんか食堂を利用すると近くに座っただけであからさまに離れて別の席に座られるのをされたよ?」
「私達が何かしたわけでもないのに・・・あーもうっ、好き勝手にした奴等がムカつく!! なんで私達がこんな思いをしなくちゃならないのよー!!」
荒ぶる香織を聖華が宥め、天王は警備員に尋ねた。
「短期的に且つ印象を変える方法はないか?」
「・・・・・ない、4年、性欲の獣、駆除、信頼と信用」
「長期的に皆の目の前で信用と信頼を得られることをしなければならないのですね」
「いや、それ無理だろー。本家の連中じゃない俺達まで同一視されてるなら、どうしようが何しようがさ」
客観的に他の分家の兵藤達も聞いていたら頷くだろう天王の感想に、警備員は首を横に振った。それは間違いであると。
「・・・・・小さい、慈善、積み重ね、積極的、兵藤家、語る」
「語るって、何を?」
「・・・・・コミュニケーション、本家、部活、不参加」
「部活動って・・・入ったら入ったで絶対に避けられて孤立するぞ」
「・・・・・同一視、受け入れ?」
「それも嫌だけどよー」
苦悩する天王。玄弥から何か言われた様子でどうにか在校生からの印象を変えたい強い意識が窺える。助言ぐらいなら吝かではないが、本気でどうにかしたいなら彼等彼女等に言動を示すしかない。
「・・・・・コミュニケーション、アピール、大切、以上」
「それしかないのですね」
「はい、私と楼羅がいっくんと仲がいい所をアピールしたらいいんじゃないかな」
「うーん・・・それ逆効果かも。お兄さんが嫌悪していた兵藤家の誰であろうと急に仲良くなるなんて信じられないでしょ」
「絶対に和解はあり得ないと周知されているだろうしね。お兄さんを手籠めた卑しい女と周囲から思われると思うよ」
聖華と香織の指摘でガーンッッ!! とショックを受ける悠璃であった。
「・・・・・一般生徒、顔見知り」
「え、誰の事?」
「ああ、あの6人ことですか?」
「・・・・・間接、仲介、それ」
楼羅と警備員しか分からない話し合いに判らないと悠璃以外の面々は首を傾げた。それでも楼羅は納得した面持ちで頷き、試してみようと彼女達を尋ねた。
「どこの教室にいます?」
「・・・・・。―――、―――、―――、―――、以上。前上涼子、福原愛花」
「わかりました。まずその二人から交流を初めて見ます」
頑張れ、という意味合いで頷いた警備員が不意に停止したのを楼羅と悠璃が気付いた。
「いっくん、どうしたの?」
「・・・・・不法侵入」
「不法侵入? まさか、兵藤家の者?」
「・・・・・否、悪魔」
席から立ち上がった警備員が分身体を一人作り、楼羅達が話しかける暇もなく転移用魔法陣でどこかへ行ってしまった。
駒王学園にあるオカルト研究部の部室、そこにはリアス・グレモリーとグレモリー眷属悪魔に顧問のアザゼルがレーティングゲームについて一堂に会していた。さらに聖剣問題で教会から派遣された教会の戦士ゼノヴィアとイリナ、ジャンヌまで同席していたところ、部屋の隅に見覚えのある紋様が光る転移用魔法陣が展開されていた。そして、一瞬の閃光の後、部屋の隅の片隅に現れたのはさわやかな笑顔を浮かべる優男だった。その男は開口一番に言う。
「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに―――」
その男から発する言葉は最後まで言いきれなかった。男の背後にまた別の魔方陣が展開され、一同の目がその魔方陣に向くと、警備員の制服で身に包んだ真紅の長髪の男が現れた途端。
「・・・・・不法侵入」
ダンッ!!
ディオドラ・アスタロトという男を片手だけで無造作に床に叩きつけるよう押さえつけた。
「イ、イッセー!?」
まさかの人物が突然現れては部室に現れた男を捕らえに来るなど思いもしなかったリアス・グレモリー。拘束するまでの鮮やかな動きは木場祐斗の目をしても見えず、アザゼルからは洗練された動きだと感心した。
「放してくれないかな。僕はアーシア・アルジェントに会いに来ただけなんだ」
「・・・・・学園、訪問、正規の手続き、否、転移用魔法陣、ダメ、反省文、書く、拒否権、無し」
「・・・リアスさん、彼はどうやら僕のことを知らないみたいだ。貴方からも退いてもらえるようお願いしてくれないか」
「ディオドラ。そう言う貴方も彼のことを何も知らないみたいね。彼は相手が誰であろうとこの学園を守る警備員として容赦しないのよ。彼の言う通り、アーシアに会うぐらいでも学園に入る正規の手続きをせず、急に侵入されたら誰だってそれは不法行為と判断されるわよ。だから今この場で悪いのはあなたなの」
ディオドラ・アスタロトを立ち上がらせ、部室のソファーに座らせる警備員。ドサリ、という音が聞こえるほどの束の紙が彼の前に置かれた。
「・・・・・反省文、書く」
「・・・僕はアスタロト家の次期当主だよ」
「・・・・・興味ない、書く」
「断ると言ったら? まさか、僕に手を出すつもりならやめた方がいいよ。赤龍帝と言えどたかがその程度の相手に―――」
「・・・・・
背中から金色の六対十二枚の翼が生えた警備員の頭上に同じ色の輪っかが浮かび、真紅の長髪が金色に染まり変わるように左眼が深い蒼色になった。
「・・・・・赤龍帝、打破、可能? 天使の力、勝てる?」
「っ・・・・・」
「・・・・・最後通告、書け、四度目、殺す」
鋭利な刃物状になった全ての翼がディオドラ・アスタロトに突き付けられる。彼が魔方陣を展開しようと、魔力をぶつけ領とその前に天使の翼が早く貫くだろう。そう思わさせる天使の力が帯びていて、さらに畳みかけるように魔方陣から取り出した聖剣エクスカリバーまでディオドラ・アスタロトの頬に沿えた。
「天使・・・・・ッ!!」
「「「アーメンッ」」」
何故か自分に向けて祈りをするように手を合わせる教会の戦士達がいるのか疑問に思ったが、今はどうでもいいと警備員の圧に負けたディオドラ・アスタロトが屈辱的に反省文を全て書き始める様子を最後まで見守ることにした。
「・・・・・気にせず」
「いや、そんな存在感を放って話しが出来るか。ま、この際それはちょうどいいか。ちょっくら近況報告を兼ねて話でもしようじゃないか」
「っ!」
アザゼルの提案にリアス・グレモリーが目を丸くして警備員を見やった。本当にそれが出来るなら、昔馴染みとして話し合ってみたかった思いが今叶う。
「・・・・・暇つぶし」
「決まりだな。そんじゃあ早速だがよ―――」
アザゼル、時々リアス・グレモリー達と話し合いをする警備員。教会の戦士達も交ざって会話の花を咲かせて30分以上経った頃にディオドラ・アスタロトが全ての反省文を書き終えた。
「・・・・・書いたよ」
「・・・・・最後」
回収した反省文から学園に一報を入れず直接入る際に記さなければならない手続きの書類。それを目の前に置かれたディオドラ・アスタロトは名前と住所、学園の訪問の理由と訪問した時間など書かされ最後は拇印を押されると警備員が書類を確認、納得して頷いて部室を後にした。
「やっと話ができるわね。それで、私に何か用なのディオドラ」
「いえ・・・今日はもういいです。ですがお願いがあります。グレモリー眷属と試合することになった時―――赤龍帝も参加させてください」
微笑む顔でとんでもないことを言い出すディオドラ・アスタロトに面を食らった後、リアス・グレモリーは首を横に振って否と返した。
「・・・・・それは無理だわ。彼に私達に力を貸す理由がないもの。それ以前に眷属ではない者をゲームに参加させれないわ。特例でもない限り。それにおそらくよほどの理由か事情がなければ学園から離れることはないでしょう」
「そうか・・・それは残念だよ」
そのあと、ディオドラ・アスタロトは転移魔方陣で去り残された面々はレーティングゲームの話の続きを再開した。リアス・グレモリーの心中は少しでも警備員と話せたことが嬉しく感じて喜びと更なる交流を望みたい願いが強くなっていた。
―――数日後。
「お兄さん、今日も見学お願いします」
「お願いしまーす!」
未来のトレーナーの兵藤聖華と兵藤香織が学園に編入されてから、毎日放課後になるとトレセン学園にやって来てはトレーナーの警備員に訪ね、トレーナーのイロハを伝授してもらっている。
「・・・・・いつも通り」
「うん、ウォーニングアップだね」
「皆、またよろしくねー」
「うん、今日もよろしく!」
「よろしくお願い致しますわ」
最初にウマ娘と交じってウォーニングアップをしたら、次にタイムを計るウマ娘達の走りを見ながらトレーナーから一般常識の知識を学び、トレーナーという職業の奥深さを知る。
「それにしても、今日も誰も走っていないわね」
そのあとは小休止を挟んでいるウマ娘達に飲料水を渡す最中、実寸大のコースが閑古鳥が鳴くほど無人となっていることを指摘する聖華。何時もなら大勢のチームのウマ娘や教官の指導を受けてるウマ娘がいるはずなのだが。今日もチームシリウスの貸切状態となっている。
「トレーナーが創ったあの魔法の道具が人気を集めているのだよ」
「ライス達がいつも使ってる魔法の道具の中よりかなり広かったよ?」
「実際、どれぐらい広いんだトレーナー」
「・・・・・中国、本土」
『広すぎっ!!』
ほぼ全員からツッコミの言葉が口から飛び出した。解せん・・・・・。
「そもそも、なんであれを創ったのです?」
ディープインパクトの問いにため息を吐きながら教えた。
「・・・・・兵藤家」
『納得した』
「え、それだけで?」
「本当にもう・・・・・」
片や拍子抜けするほど面食らって、片や理由を聞くまでもないと心底に呆れる聖華と香織。
「特にあれは酷かったな。コースで起きた事件で、どっちが被害者なのかと思うぐらいに」
「ああ、確かに見ていて憐れだと思ったな」
遠い目を浮かべるシンボリルドルフとナリタブライアン。当時、その現場にいたんだと察し、気になったナイスネイチャが問い掛ける。
「ぶっちゃけ、どんな感じでした?」
「簡単に言うと、兵藤家の彼等が大勢の暴走族を招いてはすべてのコースにバイクで走らせたり、油や汚水やたくさんのゴミを撒き散らし、柵も破壊してくれたんだ」
「しかも、早朝からだったからな。トレーナーも対応に遅れて駆けつけた頃にはすべてのコースは酷い有り様にされていた」
このコースがそんな有り様にされていたとは知らなかったウマ娘達は、意外そうに今いるコースを見た。
「まぁ、トレーナーがそのあとにすべてのバイクを燃やした炎で、暴走族を全員火炙りの処刑をする傍ら」
「自分の身体に紐で結んだ状態でトレーナーが兵藤家の連中を引き摺りながらコースを走っていたな。痛みで悲鳴をあげようが許しを乞おうが、チップのコースが赤く染まるまで延々とな」
え、普通に怖い話ですが。
「ねぇ、警察沙汰になる問題よね。そのあとはどうだったのよ?」
「・・・・・全員、何もなかった」
「何もなかった、って・・・嘘でしょ。大いに遇ってるんじゃない。学園側の先生とか理事長とか、警察に一切連絡しなかったの?」
「・・・・・全員、怪我、治療、暴走族、蹂躙、恐怖と絶望、口止め、コース、元通り、何もなかった」
だから警察沙汰になるほどの問題は物理的に起きていなかったことにしたトレーナーに、聖華と香織は軽く恐怖した。
「駒王トレセン学園はトレーナーさんがいないと平和と秩序が成り立たない。よって、学園で起きる事件や騒動は理事長も先生方も見て見ぬふりをすることにしている。地獄に仏のためにね」
「そこまで兵藤家の奴らに散々な目に遇わされているんだこの学園は。もうこの学園は兵藤家がどうなろうとそっぽ向いて、助けが必要な状況になっても手を伸ばさないと思うぞ。全員が全員ではないと思うがな」
聞かされる聖華と香織は味方は身内しかいないこの学園に絶望した。
「・・・・・話、終わり」
「え、あの道具を創った理由がまだ聞いてないよ」
「・・・・・ん、そのあと、コース、全部、夜中、燃やされた、コース、目茶苦茶、代わりのコース、用意、必要不可欠」
「痛い目に遇ったってのに、またやらかしたの? バ鹿でしょ!!」
「バ鹿だから同じ繰り返しをするんでしょ。でも、そんな理由だったら燃えない壊れないトレーニングコースが必要になると思うわね。まさか、あんな大きなものとなんて思わなかったけど」
宙に浮かぶ巨大なガラス玉。あの中でトレーニングを励んでいるウマ娘が大勢いる。汗を流して恐怖と絶望の兵藤家を気にせず必死に走っているウマ娘を応援するトレーナーも。
「あれって、壊れないの? 石を投げたら罅が入りそう」
「・・・・・バウムクーヘン、何重、層、本体、掌サイズ」
「壊される前提であの大きさなのね。だから外から中身が見えないんだ」
グゥウウウ・・・・・。
大きな音が聞こえた。音の発信源に振り返るとメジロマックイーンが顔を赤らめ羞恥で身体を小刻みに震わせていた。
「・・・・・トレーナーさんからお菓子の名前を聞いて、ここしばらく食べていないトレーナーさんの手作りお菓子を思わず食べたいと・・・・・くぅっ」
メジロマックイーンの告白から直ぐ彼女より大きい音がオグリキャプのお腹から鳴った。まるで同意するかのような音であったので、トレーナーは小さく頷いた。
「・・・・・今度、休日、食べ放題」
「本当ですの!?」
顔を歓喜で輝かしたメジロマックイーンの身体を見て、そこまで? と聖華と香織は思った。
「毎日食べても問題なさそうな華奢なのに」
「・・・・・太りやすい」
「それは、油断して食べているうちに気付いたら絶望してしまう他人事じゃない事情ね」
ウマ娘に限らず人類の全ての女性にも言える話だった。
「東京にあるスイーツ食べ放題の店でいつも?」
「いえ、トレーナーさんが極力カロリーを抑えたスイーツを作りますの」
「D兄さん、デザートも作れるんだ。凄すぎない?」
「・・・・・アップルパイ」
あ、自分の好物を作るためだったんだと理解した。
「・・・・・食べる?」
トレーナーからの提案に二人は揃って頷いた。
「そうね。じゃあ、興味湧いたからお願い」
「洋菓子って和菓子よりあんまり食べたことがないから楽しみ」
口約束を交わし、脳内でどんなスイーツを作ろうか、あるウマ娘と一緒に作ろうと考えたトレーナーは近日買い物に行く日を定めた。