体育祭兼文化祭が終わりを迎え、戦車道の少女達も各学園艦へ撤退。死刑判決を下された兵藤家の高等部の生徒達も後日自由を取り戻した。だが、額の呪印が自分に死を至らしめるモノだと知らなかった者は呪印を施されることになった元凶の同胞に対して怒り狂い、逆ギレして互いに罵声と暴力をぶつける。が、その反動で自分にも激痛が、他の者にも殴られた衝撃とダメージ襲った。
「いでっ!?」
「ぐっ、く、くそ・・・これが呪いかよ!」
「おい止めろ! お前らのせいで俺達にまで呪いの影響を受けるだろうが!」
呪いの影響力を改めて知り、巻き込まれるのはごめんだと喧嘩する同胞を止めに掛かる世にも珍しいことが起きた。ならば、呪印を施した元凶の警備員にどんな方法でも解除させると息巻く者もいたが―――。
「・・・・・死、願望? 生殺与奪、権利、得とく、生かすも殺すも、俺次第」
今まで見たことがない禍々しい大きな鎌を持って構える警備員の目はマジと書いて本気だった。
それでも兵藤家の生徒達は。
「学園で俺達を殺したら大問題になるぞ、それでもいいのか!?」
と異を唱えると、今まで見たことが無い警備員の邪な笑みが浮かんだ。背筋がゾッと凍るような恐ろしい笑みだった。
「・・・・・今まで、この学園で起きた問題は表に明るみになったことは?」
「は・・・・・? それは・・・・・っ」
「・・・・・ない、だろ? なら、この学園でこれからも起きる問題は、一切合切、表に明るになることはない。お前らの不都合なことはを藤家が揉みつぶしてくれるのは、お前らだけの特権じゃない」
「「「「「っ!?」」」」」
「・・・・・その逆、また然り、故に、お前らを殺しても、誰も口を閉ざす、誰か言ったところで信じない、誰が天皇の兵藤家の人間を殺すと思う? それ以前に兵藤家はこの学園と絶対に干渉しない。知っているだろう?」
だからこそだ。
「・・・・・誰にもお前らを助ける存在、助かることは絶対にない。当主から死刑判決を下された以上、親からにも見放されたお前らはこれから死ぬまで生き地獄をみる人生を送る」
「な、なんだと・・・・・っ」
「・・・・・卒業するまで、この学園から逃げるなよ。逃げられると思うなよ性欲の獣共。逃げた瞬間、その足を俺がこの鎌で切り落とす。―――教室にいる連中も同様だから覚えておけよ」
どす黒く禍々しいオーラを纏い出す彼に兵藤家の生徒達は、心底から恐怖を抱いた。どう足掻いたところでこの警備員に勝てやしないし、この学園が警備員の味方になるし、兵藤家の当主の孫であるから、連絡一つで何でも思い通りに叶うこと間違いなし。元とは言えど、同じ兵藤家というステータスが同じでも力、人徳、人望、影響力、戦闘力はどれを以てしても天と地の差は比べるまでもなく歴然である。
―――後の祭り。
好き放題やりたい放題してきた結果の罰が何十倍も返って死刑判決を下された。先輩達を見倣い、自分達もそうするべきだ、兵藤家なんだから何でも許されると思い上がった日から今日まで楽しんだ結果が、因果応報として追放より嫌すぎる死刑を課せられた彼等は、それから魂が無い抜け殻のようになった。
「・・・・・もう死んでいろ。それがこの学園が初めてお前らに感謝する事だ」
つまらないものを見る目でそう言い下す警備員は彼等から立ち去る。
「・・・・・何用」
警備室兼トレーナー室に入って来た兵藤天王達。今回は誠輝もいるから警備員は目を細めた。
「あー単刀直入に言うけど。本家の奴らに殺す呪いを施したのってマジで? 大丈夫なのか?」
「・・・・・兵藤家当主、大統領、体育祭兼文化祭、来訪、不参加、学園外、傍若無人、他、親族共々、見聞、二人、激怒、死刑宣告」
「あの時、私達の知らない場所でそんなことが・・・・・」
「でも納得かな。死んでも誰も困らない連中だし」
そっけなく言う悠璃の言葉に誰も注意しない。同じ気持ちかあるいは、そうなってもおかしくないという気持ちを抱いているからか。
「それに、なんだかいっくんは嬉しそうだしね」
「・・・・・喜々?」
「うん、清々しているというか・・・やっとやりたかったことができて嬉しいような感じかな?」
微笑みながら警備員の目を覗き込むように言う悠璃に天王は頬を引き攣った。
「おいおい、本家の連中を殺したかったのを今までやりたかったみたいなことを言っちゃダメだろ」
「え、ダメなの? 殺したいまではないけど、これから殴ってもいいって許されたら遠慮なく殴るよ私は」
「聖華に同意見ね」
「怖っ、この姉妹怖いなっ!? 誠輝、お前の姉妹が淑女からかけ離れているぞこのままでいいのかよ!」
「・・・・・どっちも両親の血と性格が遺伝しているから無理だ」
そもそも淑女とは何だと感じな姉妹なので、天皇家の一族だろうと大和撫子と無縁な人生を送るだろう。警備員のように違う道に進んで生きているように。
「そう言えばDさん。体育祭の時にサンダース大学付属高校と知波単学園の戦車道の方々がおりましたが、トレセン学園にも他の戦車道の方々もいるとお聞きしました。何故いたのですか?」
「・・・・・出店、参加、詳細、不明」
「そうでしたか。出来れば他の方々ともお会いしたかったです」
「・・・・・戦車道ってなんだ?」
「地上の学園で通っている人は知らないととことん知らないよね。戦車道って―――」
楼羅の口から出た単語に興味を持ち出した天王を悠璃が説明口調で語り、最後まで聞いた感想は「女の子が戦車を動かすって変だな」だった。
「・・・・・人を殺す呪いを与えるだけ放置をするのか」
「・・・・・罰、決定、不満?」
「・・・殺すならさっさと殺した方が楽じゃないかってことだよ」
「・・・・・はぁ」
あからさまに溜息を吐く警備員の態度が場の雰囲気が重くなった気がする。それを肌で感じ取った少年少女達に緊張が走った。
「・・・・・痛みを知らない奴の口から出る言葉は薄っぺらい」
「っ・・・・・」
「・・・・・一瞬で終わらせたら、全然苦痛を感じてもらえないだろ。恐怖も絶望も・・・何もかも」
誠輝を睥睨するその片目から何も感情が宿っていない。生気がないハイライトの奥からドロドロとした闇が渦巻いていて、誠輝は金縛りがあったように動けなくなった。
「・・・・・奴らはやり過ぎた。兵藤家の人間とは思えない犯罪を数えきれないほどした。四年前から、四年以上前からずっと。その犠牲者だって総勢100人以上だ。なら、それ相応の苦痛と絶望、恐怖を時間かけて与えるのは当然だろう。手間暇かけてじっくりと、俺のように心が壊れるまでな」
「・・・・・警備員というより処刑人の間違いじゃないか?」
「・・・・・自覚している」
「あ、そうっすか」
徐に立ち上がりながらふぅ、とまた溜息を吐く警備員は何時もの口調に戻った。同時に雰囲気も重苦しくなくなり、いつもの存在感が希薄な感じになった。
「・・・・・仕事、再開、時間」
「じゃあ、私達もお暇しなくちゃね。また、見学しに行くからよろしくね」
「よろしくお願いしまーす」
「・・・・・ん」
トレーナーを目指す姉妹の発言に短く返す。それが羨ましいとばかり悠璃は主張する。
「なら私はいっくんの部屋に行く!」
「・・・・・ほぼ、毎日」
「毎日かい! え、もしかして迦楼羅も行ってたり?」
「さすがに毎日ではありませんよ」
「行っていないとは言わないんだな・・・・・。あーあー、いいな女子寮の寮長って。何時でも可愛い女の子と朝から晩まで交流できるんだからさ。それに夜中に隠れて寮長室に誘って寝ることだって出来るだろうし」
男として夢のような羨ましいことだとボヤく天王。警備員は誰かと寝ていることを羨ましいことかと不思議そうに言い返した。
「・・・・・寝る? 添い寝? してる」
「いや、添い寝じゃなくて・・・え、添い寝してるの?」
「・・・・・幽霊」
「幽霊とかい!! 怖いわお前の部屋!! まさか、本家の奴らに恨みを抱いたまま死んだ女の悪霊とか怨霊とかじゃないよな?」
どちらかというと、自分の胸の重みで転落死した方の霊・・・・・と思い返しても言おうとしなかった。
「それどころか、あなた好みの年上の女性の霊ですよ。しかもかなり大きいです」
「え・・・? マジで? その話を詳しく。できるなら直接会ってみたいんだが?」
期待に満ちた目をして迦楼羅から訊こうとする天王にゴミを見る目となった警備員。
「・・・・・性欲の獣、駆除?」
「手出ししたらいいと思います」
「うん、やっちゃっていいと私も思うかな」
「「同感」」
「従姉妹が辛辣ゥー!!」
相変わらずうるさい奴、と思うところであることを思い出した。
「・・・・・天王、迦楼羅、認知?」
「何をですか?」
「何のことだよ」
「・・・・・大統領、辞任、次期総理大臣、兵藤家以外」
大統領の孫である2人は、その話を教えられていなかったようで酷く驚き目を大きく見開いた。楼羅達も少なからず驚き、警備員から事の詳細を求め、経緯を知ると納得することがあったので受け入れた。それに一番喜んだのは天王だった。
「―――いやったー! 俺、政治の道に進まずに済んだぁー!」
「よかったですね。これで晴れてあなたは自由の身となって、いつか彼に性欲の獣として駆除されるでしょう。ですが、今まで日本を統治していた兵藤家の一つがそれを手放すとなると、これからの日本はどうなるのか少々不安ですね」
「・・・・・兵藤家、性欲の獣、野放し、極めて不安」
「死刑宣告をされるほどのことをしている者が身内にいますからね。きっと先に学園を卒業した多くの者も同じぐらいの犯罪を犯しているでしょう」
「子供の頃からの教育が悪かったんだよ。いっくんを寄ってたかってイジメる奴らも、それを注意しない大人達も悪い」
「一般家庭に生まれたかったかなー。同じ一族だからって同一視されるのは嫌だし」
「赤の他人でいたかった・・・」
「・・・・・」
日本のツートップの娘と孫が集って今後の日本を思いやることがあっても、どうこうする気は全くない。政治に関わりたいならば勝手に関わればいいと考えであるゆえに。