トレセン学園上空に魔方陣が浮かび上がり、そこから飛び出して来た一香がコースでウマ娘と走っているDを見るや否や・・・・・。
「いっせーい!!」
「っ・・・・・」
大声で叫びながら急降下してDを触れようとしたが、一香を取り囲む魔方陣と共に魔法使いが着るようなローブの多くの人間が現れた。
「当主の予想通りここに現れたな!」
「ちっ、和真の入れ知恵ね。まぁ、私の行動なんてわかり切ったことだしこの程度で分からないんじゃあアレよね」
コースに降り立って達観した風に言う一香に対し、一人の魔法使いが見せつけるように縄を持ち出した。
「式森、いや・・・兵藤一香、大人しく神妙にお縄につけ!」
「何時の時代の言い方よ! もうそんな古い言葉とあなた達程度が私に通用すると思わないで、私の邪魔をするな!」
「・・・・・どっちも、仕事、トレーナー、邪魔!!!」
―――闇が迫る。
全員、闇から緊急回避しながら警戒する。闇が襲って来た方には紋様状の二対四枚の翼と黒い紋様を顔に浮かべ、異形の姿になったDが双方を睥睨していた。
「・・・・・学園、事を起こす、不許可、対処」
「一誠、ようやく会えたわね。ずっとあなたと話をしたかったわ。でもね、私がいない間にお義父さんたちと会っていたなんてズルいわっ」
「・・・・・クソ親父、同伴、手料理、ごちそう」
「は? 誠にも会っていたの? しかも、一誠の料理を食べてた?」
「・・・・・何度、宿泊、無知?」
「・・・フ、フフフ。私がOLみたいな事されている間に、誠は随分と幸せな暮らしをしていたのね」
本人がここにいたら激しく全力で否定して、寧ろ一香と似たような環境下で暮らしていたと弁解していただろうが生憎ここにいないので、訂正する者もいなければ勝手に勘違いのままになる一方だ。
「あとで誠とお話をする必要ができたけれど、今はあなたよ一誠。絶縁の話とかあなた自身のこととか、色々と全部教えてもらうわよ!」
「・・・・・却下、拒絶」
「「お母さん!?」」
「義姉さま!?」
「義姉さん、どうしてここに?」
Dの背後から香織と聖華、楼羅に悠璃が吃驚した表情を顔に出しながら近づいてきた。
「あら、久しぶりじゃない私の娘たちと義妹たち! 誠輝は?」
「兄さんはここにいないよ。というかここはトレセン学園だから男子はこれないわよ」
「女子高校生みたいな学園だから」
「ああ、そうだったわね。トレーナーは別か。そうだ、四人共。一誠を逃げないように捕まえておいてくれないかしら。母親として話をしたいことがたくさんあるの」
まさかの頼みに四人は困惑と当惑してしまう。迷いの色がありありと浮かべる楼羅達を気にせず、事実を打ち明ける。
「・・・・・兵藤一誠、死亡扱い」
「式森家と兵藤家の力で復活させてやるわよそのぐらい」
「・・・・・自分、力、否、無理、ニート」
「ニートじゃないわよ! ちゃんと仕事してるわ!」
「・・・・・公表」
「え、公表・・・教えろってこと? 私の知識を本に模写すること―――よっ!」
話し込んでいる内に捕縛しようとしていた魔法使いの動きを察知して、魔法で撃退すると他の魔法使いたちも次々に一香へ魔法で応戦する。
「・・・・・依頼、終了?」
「依頼・・・? 何の話かしら?」
「・・・・・? この学園、防犯、術式結界、兵藤一香、依頼、式森和真、経由、願望」
確かにお願いしたはずだと言うDを、何も知らないと風な一香は、はて? と魔法使いたちからの魔法を片手で展開した魔法陣で防ぎながら小首を傾げた。
「和真から何も聞いていないわよ。私は私でさっき言ったように魔法の知識を本に摸写していたから」
つまり優先順位が下にされて一香の仕事が終わるまで、一切Dからの依頼は遂行される日は無かった。Dは和真に対しフツフツと怒りが沸いた。
「・・・・・提案」
「何かしら」
「・・・・・そっち、要求、一部、許可、対価、学園、防犯、結界」
「私の話を聞いてくれるならなんだっていいわよ」
言質は取った。ならばDの優先事項、優先順位は変わった瞬間だった。
「―――な、にっ」
「か、身体が・・・!」
「な、んだ、これはっ」
一香を抑え込もうとする魔法使いたちを肉薄し、体力と魔力を奪いにかかった。倒れる味方を見て他の魔法使いたちは目をひん剥いた。
「お前、何をする!? 我々はお前の敵ではないし、むしろ味方側だぞ! 兵藤一香を捕まえるのが我々の役目なのだ!」
「・・・・・関係なし、元々、学園、騒動、拒絶、元凶、鎮圧、仕事、兵藤家、式森家、関係なし」
翼を広げて別の魔法使いにも襲い無力化していく。
「くっ・・・融通の利かないのは親も親なら子も子か!」
「いや、あの男は元々異質、イレギュラーな存在だと聞いているぞ。兵藤家の子供達もそのせいで酷い目に遭っているとか」
「だからって、私達に攻撃することある!? 式森家にまで敵を回すつもりなの、あの愚か者は!」
「―――言った、関係なし」
闇が全ての式森家の魔法使いたちから力を奪い、騒動は鎮圧されて収拾した。ウマ娘に被害はないがコースにいくつか戦闘の痕跡が出来ていて・・・・・。
「・・・・・修復」
「私が? って、そんな怖い顔で睨まないでよ。私が壊したわけじゃないのに・・・・・」
「・・・・・誰のせい」
「うっ、わ、わかったわよ・・・・・だけど後で話を聞くから逃げないでよね」
コースの隅にゴミのように置かれた式森家の魔法使いたち。修繕しない限り使え物にならないコース。Dの監視下でコースを直される一香は終始渋々だった。
「・・・これはどういうことだ?」
遅れて現れた源氏と誠、和真がD達の様子を見て目を疑う。派遣した魔法使いたちは全滅したみたいだが、大人しく壊れたコースを直している一香とそれを監視しているDが信じられないようだった。
「孫よ。出来れば説明してくれまいか」
「・・・・・騒動、元凶、鎮圧、以上」
「姉上が今回の騒がせた元凶だと思うのだが、なぜ式森家の者達が倒れているのか訊かせてくれ」
「・・・・・鎮圧、対象、含む、兵藤家、式森家、関係ない、学園、平和と秩序、守護、仕事」
学園で騒動を起こすなら天皇家だろうと許しはしない。そう言ってはばからないDを和真は目を細めた。
「敵意が無く味方であってもか」
「・・・・・味方面、勝手、関係ない、仕事、遂行、それより」
和真へ向ける瞳の奥に瞋恚の炎が灯った。
「・・・・・どういうこと」
「どういうこと? なんのことだ」
「・・・・・学園、防犯、魔法、件、知らない」
一香へ指しながら言うDの言葉を聞いた和真はこう返答した。
「姉上は手が離せない状態だ。他のことに手を回せないしさせるつもりはなかった。今やってもらっている仕事が終わるまでは伝えるつもりはなかった」
刹那。殺意、殺気、威圧が和真の肌に突き刺さり身体も重くなる。いや、和真が立っている場所だけ重力の影響を受けて凹み、和真を地に平伏させた。
「(なんだ、これは・・・魔力を感じない・・・? 魔法なのか、これは・・・・・!?)」
「つまり学園で起きる事件や騒動は二の次だと、新しい魔法の方が傷つく生徒の心と身体より大切だと、そういうことか式森家は」
「っ!?」
「事情は理解した。理解したが、俺のお願いを話してくれた上で後回しにしたのならば仕事が終わるまで待つつもりだったけど、黙っていたのは頂けない。この学園の事情を知らないとは言わせないぞ。学園に在籍している式森家の生徒も、同じ天皇家のくせにちっとも兵藤家の問題を改善する動きをしないどころか、知っていても赤の他人だと決め込んで無視する始末―――本当に無能しかいないなお前らは」
怒りを抱いた時のみスラスラと言葉を言うD。源氏は目を細め、誠は目を丸くし、魔法として認識できない重力の圧に苦しみ歯を食いしばる和真。
「一誠、もうその辺に・・・・・」
「部外者は黙れ」
「・・・・・部外者」
父親としての貫禄が欠片もなく、膝を突いて四つん這いとなって全身で落ち込む父親、兄を見ても慰めない楼羅たちもまた冷たかったので、それ込みで涙を流す誠。
「・・・孫よ。解放してやれ」
「・・・・・ん」
源氏の鶴の一声で重圧が消え去った。ようやく立ち上がれた和真に倒れている魔法使いたちへDは指した。
「・・・・・邪魔、送還」
「魔力を感じないが殺してはいないだろうな」
無言で頷くDから離れ、魔法使い達の方へ向かう和真とすれ違って戻って来た一香。
「終わったわよ」
「・・・・・ついで」
「そこはあなたが作った「・・・・・お母さん、お願い」・・・・・しょうがないわね」
ちょろ、とDも含め楼羅達も源氏も思っても口には出さなかった。ろくに“お父さん”と呼ばれないでいる誠は静かに血の涙を流していたが誰も気づかない。パパっと修復を終わらすとさっそくとDに詰め寄った。
「さぁ、約束通り話をするわよ一誠」
「・・・・・却下、仕事中、式森家、邪魔、再開」
「じゃあ、その後ならいいのね。それなら待つわ」
やっぱり帰ってくれないかとあからさまに溜息を吐き、避難した自分のチームのウマ娘達のところへ足を運ぶ。
「ねぇ、あなた達」
騒動が落ち着きを取り戻し、トレーニングを再開するチームシリウスの様子を見ながら話しかけられた楼羅達は一香の言葉を耳にする。
「あの子はいつもあんな感じなの?」
「あんな感じとは具体的にどんな?」
「言動よ。それに何だか口が悪いしもしかして暴力的な子に育っているの?」
四人は顔を見合わせ、それはまぁ・・・・・。
「「「「兵藤家だから」」」」
「シンクロして言うほど? お義父さん、実際どうなんですか」
「・・・・・今の孫がいるのは我々が作ったようなものであることは間違いない」
当主も認めてしまえば絶句して心に凄まじい衝撃を受けた一香は悲観した。
「そ、そんな・・・・・あんな愛嬌があって天使のように可愛かった子共が、私達の手から離れてしまったばかりにとんでもない悪い子に育ってしまっただなんて・・・・・!」
「えっと、お母さん。D兄さんが悪いんじゃなくて寧ろ兵藤家の方だから」
「兵藤家の最悪な環境に育ったら悪い方面で育つのも仕方がないと思うよ」
「はい。Dさんはその環境に適した言動をしているだけで、普段は仕事も真面目で学園の生徒から男女問わず人気者ですよ」
「なんならいっくんのファンクラブまであるしね! しかも公式的に!」
以下四人からのDを擁護する発言に一香はキョトンとした。
「後者はともかく前者の方はどういうことなの?」
「実は―――」
かくかくしかじか・・・・・。
「・・・・・は?」
なにそれ、白昼堂々と性的に襲う兵藤家の若者達。一度学園崩壊の原因になったにも拘らず兵藤家の権力を我が物顔で悪用と乱用し尽くして暴力と酒池肉林の無法地帯もとい無法学園を築き上げ、支配していた?
「いっくんが四年前に警備員として学園で働きだした時からも最悪だったことも教えてくれたよ」
「今年・・・・・私達が編入する前までも度々問題を起こしています。先日、とうとうそれが明るみになってお父様と大統領がお怒りに」
「・・・まって、どうしてそこで大統領が出てくるの? 大統領も兵藤家の人間なのは名前でわかるとしても」
「あ、お父さんも知らないならやっぱりお母さんも知らなかったんだ。大統領、お爺ちゃんの弟なんだって」
「え、弟!?」
誠同様に一香も知り得なかった新事実。思わず源氏を見てしまうが、式森家出身の自分では知らないのも無理はあるかとすぐに納得もした。
「うん、本当に兄弟なんだなって思わされた」
「あんなお父様は初めて見ましたしね。仲の悪さも血筋だからなのかとDさんも感想を言うほどです」
「D兄さんもお父さんと兄さんも嫌っているからあながち間違いじゃないかもね」
「大統領の家族の方は悪くはないみたいだけど」
自分が知らないことがどんどん少女達の口から出てくる出てくる。完全に仲間外れ、ハブられた感が強くなりそれが悔しくもあり羨ましくもあり、何が何でも家族と暮らす夢を実現して見せるとやる気を漲らせる一香であった。