トレーナーの仕事を終え、先にウマ娘達を解散させた。さぁ今度こそとずっと待っていた一香は話し合いをしたいと言った矢先にDは首を横に振った。
「・・・・・警備員、仕事」
「本当に警備員の仕事をしているの? てっきりコスプレをしているだけかと思った」
「・・・・・性欲の獣、元凶」
「性欲の獣?」
素朴な疑問として鸚鵡返しをした一香を香織が教えた。
「駒王学園にいる高等部の兵藤家の奴らの事だよ。時間も場所も関係なく女子や女教師、しかもウマ娘まで強姦すること教えたでしょ。四年前からもそれ以前でも酷かったってことも」
「・・・・・本当にそこまでなの? 実際に見ないと信じられない話だわ」
ならば特と見せようではないか。Dの記憶を一香にも見せることにした結果。
「疑った訳じゃないけど、信じられない母親でごめんなさい!」
「・・・・・事実、母親、失格」
「いや、言わないで!」
悪事を知った一香は泣きそうになり気持ちは痛いほどわかるぞと静かに頷く誠の姿があった。
「ところで、その性欲の獣って子達はいまどうしてるの?」
「・・・・・死刑宣告、生殺与奪、権利、確保、死刑続行中」
「なっ!?」
まだ若くして人の命を奪う経験をさせているとは! 義父を許さないと睨みを効かせるがお門違いだといつの間にか持っていたハリセンで一香の頭を叩いた。
「いたっ!? いきなり何するの、一誠!」
「・・・・・睨むな、願望」
「願望って、あなたが望んで殺したっていうの?」
「・・・・・」
違うと一香の脛を思いっきり蹴り飛ばした。
「いったー!?」
「・・・・・続行中、記憶なし? 死刑囚、生存・・・・・聞いてる?」
足を抱えて痛みにプルプルと震える一香を呆れながら見下ろすDの所業に誰も指摘しなかった。
「一香、死刑宣告した元兵藤家の塵芥共は孫の、黒いドラゴンの呪印を刻まれている。痛覚が共有され一人でも死ねば他の者共も死ぬものだ。悪事を働いた時でも激痛が襲うようだ」
源氏の説明の話し声が聞こえて続行中という意味を理解できた。魔法で痛みを消しながらある疑問をぶつけた。
「兵藤家はそれに関して何かしたの? 他の人達に多大な迷惑をかけておいて放置なんてしていないわよね?」
「・・・・・今は被害者を選抜している。奴らは好き放題してくれた為に被害者は想定したものより多いのだ」
「というか、どうして学園側は警察にも兵藤家にも言わなかったのよ」
「・・・・・権力、叛逆? 兵藤家、事件、闇に葬る、揉み消す、当たり前」
「ああ・・・泣き寝入りするしかないわね。それじゃあ被害者が多いのも頷けるわ。権力者ってこういう時だけ厄介になるから嫌よねー」
どの口が言うんだとDと源氏が気持ちを一致したのは露知らず、Dは学園内に行こうとする。
「あ、待ちなさい。あなたの仕事ぶりを近くで見させてもらうわ」
「・・・・・学園、関係者、否、早急、退校」
「私の子供だから関係あるでしょ!」
「・・・・・不法侵入、器物破損、犯罪、親、存在、皆無」
ジト目で睨むDからの視線を逃れるように顔を反らす一香の弟、和真を。
「・・・・・権力者、好き放題やりたい放題、罪の意識、軽薄、式森家、傍若無人、慣れ?」
「ふざけるな、式森家がそんな野蛮な存在ではない!」
「・・・・・姉、は?」
「・・・・・否定、できない」
ちょっと!? と弟を非難する姉の今までの言動を顧みれば本当に否定できないのだから仕方ない和真の気持ちだった。しかし仕事にまで首を突っ込まれては敵わないDは、一つの手の平サイズのガラス玉を召喚した。
「なにそれ?」
「・・・・・入ってる」
「は?」
ガラス玉から一つ筋の閃光を放ち、真っ直ぐ当たった一香の体が光に包まれてガラス玉の中に戻った。
「・・・・・ついで」
「お、俺もー!?」
誠も同じようにしてガラス玉の中へ消えていったので源氏と和真は気にならない筈がない。
「孫よ。それはなんだ?」
「・・・・・時と空間、魔法、捕獲用、道具」
「姉上を簡単に捕らえられたのはその二つの魔法の力か。ウマ娘用の魔法の道具、トレーニングの場所もその魔法で作ったのか」
「・・・・・ん、宇宙空間、生活、可能」
宇宙進出が目標の人類にとってそれは便利な道具である。否、きっとそれだけではない筈だと思考の海に潜った和真は真剣な表情でブツブツ呟いた。小首を傾げ和真の前で手を振っても反応しない辺り、集中している様子だ。
「・・・・・放置、同伴?」
「邪魔でなければ」
「・・・・・駒王学園、川神鉄心、お爺ちゃん、話し合い」
「そうだな。そうさせてもらおう」
積もる話もあると思いDからの提案に乗って移動した。その後、警備員の仕事を終えた頃には夜も更けた。一香を放っておけない和真も、誠を放っておくことはできない源氏も仕事から帰ったDと合流して、夜食は外で食べようというDの発言でBARへ案内した。
「ここはどこだ」
「・・・・・堕天使陣営、経営、BAR、友人、働いている」
「BAR・・・」
入る前に外に解放された二人は現在の場所が判らず、夜食をここでする事だけ伝えて中に入った。
「・・・・・連れてきた」
「連れてきたっていきなり言われても・・・・・ええ~」
とんでもないお偉い人たちを連れてきた友人に幾瀬鳶雄は頬を引き攣った。兵藤家と式森家の当主とその息子と姉がBARに来るなどあり得ないことだから。人数分座れる円卓の席に座る一行、源氏は鳶雄に話しかける。
「久しいな」
「あ、はい。当主もお変わりなくお過ごしのようで・・・Dに無理矢理来させられましたか?」
「いや、孫とBARなど訪れる機会はこれで最後だろうと思いで誘いに乗った」
「そうですか。それでは、当主に当店の料理を振る舞いましょう」
「・・・・・アップルパイ」
「ないよ」
露骨に、あからさまに残念がるD。その背後からいつものように胸の中で抱きしめるラヴィニア。その間鳶雄は皆から注文を受け取る。
「また会ったのですD。今年はよく会いますね? ヴァーちゃんも会いに来てくれたら嬉しいのです」
「彼女は任務中だからここには滅多に来れないですよ」
「・・・・・何の話だ?」
「・・・・・知らなくていい、気にしなくていい」
「そう言われたらますます気になるのだけれど・・・あなた、高位の魔女ね? 所属している協会は?」
同じ魔法使いとして相手の力量を瞬時に理解して興味を抱く一香にラヴィニアは打ち明けると、共通の人物を知っている者同士が次第に会話の花を咲かせるようになった。
「・・・・・」
「おい義弟。興味あるからって話に割り込むなよ。空気を読めKYくん」
「貴様に義弟呼ばりされる筋合いはない」
「おーおー、義弟に嫌われちまって兄ちゃんは悲しいやー」
「・・・・・俺も嫌い」
「・・・・・(泣)」
うるさいので口で黙らしたDに鳶雄は苦笑いする。
「D、あんまり自分の父親を傷つけちゃいけないよ。家族なんだから」
「・・・・・? 家族、お爺ちゃんだけ」
「・・・・・」
顔には出さないが口元が吊り上がった源氏を見てしまった鳶雄。内心、孫にそう言われて嬉しいんだろうなーと思いながら、テーブルに突っ伏して涙の池が溜まる勢いで流す不憫な誠を見て憐れとも思った。
「・・・・・母親、皆無、おばあちゃん」
「さりげなく私も否定しないでよ一誠! もういい加減に泣くわよお母さん!」
「・・・・・一生、勝手、流してろ」
わざわざ一香にまで泣かせる始末。子供に泣かされた二人は抱きしめ合い、慰め合う。本当に家族としての情が無くしているDへ鳶雄は問うた。
「どうしてそこまで、嫌う理由は?」
「・・・・・一言、能天気、どうせ、同類」
たったそれだけの理由で・・・・・だがしかし、同類と言うのは同感だと納得した和真の前にカクテルが置かれた。それを一口飲むとのど越しがよく、味もまたあっさりして美味だった。
「まだ若いというのに美味いではないか」
「学校を卒業してからもう長いこと働かせてもらっておりますからね」
「では、彼も?」
「彼はある事情で学校に行かなくなりました。D、仕事の方は?」
Dは頷いた。
「・・・・・当主、大統領、感謝、楽になった」
「何で大統領・・・・・ああ、兵藤家の人だったっけ?」
「・・・・・お爺ちゃん、弟」
教えてもらった家族関係に思わず源氏を見てしまった鳶雄。この二人が後ろ盾となればこれ以上の無い最強の二枚の盾となるのは間違いない。だから若い兵藤家の者達は権力を悪用して留まることを知らない暴走をし続けたのだろう。
「はいDのだよ」
「・・・・・ん」
リンゴジュースにコップの縁にカットした林檎を刺した飲み物を受け取り、シャリシャリと食べながら飲むDの他の者達にも飲み物を提供する鳶雄の働きぶりはまだまだ止まらない。次は料理に手を出す鳶雄が完成するまで待つ。
「D、学園の問題以外にも何か問題は起きているか」
「・・・・・問題、・・・・・問題?」
「問題かどうかわからないみたいなのですが、何か心当たりがあるようなのです」
ラヴィニアの指摘にまぁ、そんな感じ的に肯定した。それは何だと源氏が尋ねれば。
「・・・・・北欧の主神、オーディン、オー爺ちゃん、来訪」
「「何っ?」」
「「えっ?」」
「あら、会っていたのです? トビー、Dもオーディン様とお会いしていたようなのですよ」
やはり知っていたかと堕天使側の鳶雄とラヴィニアは案の定関わっていた。調理中の鳶雄は苦笑を浮かべた。まったくの偶然で会ったのだろう。堕天使のエージェントである自分達も密かに遠くから、陰から護衛に徹する任務を最近アザゼルから与えられたばかりなのだ。それを知らない筈のDが北欧の主神と出会うのはやはり伝説の龍を宿す者の運命だろう、と。
「え、オーディンがこの国にいるの? 今どこにいるのか教えてよ」
「・・・・・不明、アザゼル、把握、護衛、バラキエル」
「バラキエルか。マジでいるみたいだな。オーディンがこの国に来た目的は・・・恐らく日本の神々と接触するためか。もしかすっと他の神話体系の連中もこの国にやってくるかもしれないな」
急に真剣な表情になる誠。他の三人もうーんと唸って考える。そんな天皇家たちに一報も届かされていないと言う事は・・・・・。
「・・・・・アザゼル、期待、軽薄?」
「何に対してなのです?」
「・・・・・天皇家」
「それは大事を避けるためか、秘密裏に行いたいからだと思うのですよ。それに天皇家の力を借りるなどできないのです」
どっちもその通りかもしれないが、結局のところ人類最強の一族と世界最高の魔法使いの一族の協力が不要とは嘆かわしいと思わなくもないところ。日本神話の神々と接触するなら自分達も関係なくはないだろうと。
「因みに聞くけど、Dもオーディン様の護衛をしてくれって頼まれたら?」
「・・・・・拒絶、学園、守護、優先、他の神話体系、厄介事、興味、無し」
「学園にも被害が被るだろう世界的な問題が発生したら? もちろん、君が担当しているウマ娘達にもだ」
「・・・・・、・・・・・、・・・・・一時的、協力、止む無し、巻き込むな、面倒臭い」
本当に面倒臭いと顔にも出して溜息を吐くDに鳶雄は苦笑する。
「うん、アザゼルさんの言う通りだ」
「・・・・・?」
「はいこれ。もしも来たら渡してくれってアザゼルさんが」
ソレをラヴィニアを経由して受け取った。封筒から紙に指令書のように書かれている文字を読み、眉間に皺を寄せた。
「・・・・・メンドい」
「何を書いてあるの? 見せてちょうだい」
「俺にも見せてくれ」
両親から催促されようと源氏と目が合い、興味がありそうな目をしていたので紙を渡した。受け取った源氏は目を通して頷いた。
「お前も見てみろ和真」
「拝見します。・・・・・北欧の神界で厄介な神に事を起こされる前に来日したとは。これは完璧にこの国で神同士の戦いが始まるのではないですか?」
「孫の言葉を借りるならば、真に巻き込むなと思うところだ。こちらにも話を通してもらわないと困る国家レベルに等しいことであるぞこれは」
「・・・・・天皇家、閉鎖的」
自分から門を締め切ったままだから伝えたくとも伝えない、もしくは伝わってこないからだろうと指摘するDに誠も便乗する。
「俺だったら堅苦しい掟や仕来りなんて取っ払って、フルオープンして何でも受け入れてやるのになぁ?」
「・・・・・ほう、その言い分は当主になると言う事なのだな? だったらこれまで真面目に集中しなかったお前が、これからは俺の教鞭を喜んで受け入れるというのだな? 初めてお前に感心したぞ誠。今後は再教育に熱と力が入れられるというものだ」
「誰が当主なんかになるかってんだクソ親父! 絶対に家から逃げ出してやるからな!」
「その時はお前に一切の援助はしないと覚えているだろうな。一香、お前もそうであると心得ておけ。孫に頼ろうなど思うなよ。逆にお前達を捕縛してもらうつもりだ」
「酷いわお義父さん! 一誠はお母さんたちを見捨てないわよね?」
「・・・・・? 野垂れ死、興味ない」
再び悲しみに暮れる親達。源氏と和真も野垂れ死になってもはと少し憐れみを感じた。
「・・・一片でもいいから、思いやる心を持ってやってくれ。使い物にならなくなる」
「・・・・・? 強者、心配無用、要素、皆無」
「この二人に心配しても無駄、ってことならば私も同意見だ。野垂れ死にするほどの二人ではないのは知っているからか」
「・・・家族の情を捨てていても、少なくとも受け入れている程度か」
本気で拒絶しているならそもそも二人とも一緒に食事などしないだろう。付け加えていった源氏の言葉に、誠と一香が神速で動き横からDを抱きしめた。
「「一誠ぃ~!!!」」
「あの~店内では静かにお願いします・・・・・」
「・・・・・お爺ちゃん、責任・・・・・これ、ウザい」
「・・・・・すまなかった」
「姉上がどうも申し訳ない」
うお~んと大泣きする大の大人二人を引き剥がす苦労がこれからするが、鳶雄の手作り料理を何とか食べれた。そして帰る時となると案の定、一香だけは拒んだ。誠は秘術の効果によって強制的に動きを縛られているため、源氏に逆らえないからだが一香に拘束する術はないので逃走が出来る。
「姉上、家に戻ってきてください。やることはまだ山積みで残っております」
「嫌に決まっているでしょうあんな堅苦しくて息が詰まる家なんかに。私は一誠と暮らすの!」
「おい一香、俺も暮らしたいから助けてくれ!」
「今回だけは私も嬉しい思いをしたいから誠はダメよ! 仕方がないとは言えど、息子の手料理をたくさん食べれた上に私より交流していたなんて羨ましいほどにもあるわ!」
「それは偶然の産物だ! それよりも俺も一誠や誠輝たちと家族団欒に生活したいー!」
「・・・・・それより、も? 俺の料理、それより、も?」
「はぅあ!? 一誠、今のは言葉の綾だから決して悪く言ったわけじゃないから怒らないでくれ!?」
怒髪冠を衝く長髪がDの心情を表した。口は禍の元とはよく言ったものだと源氏は目を瞑って静かに思った。その隣で和真はこのまままた逃すことになる結果は良しとせず、Dの協力を求めた。
「・・・虫のいい頼みだと思うが、姉上を説得してくれないか。可能にしたらこちらの可能な限りの礼を尽くす」
「・・・・・信用、信頼、否」
ジト目で逆に睨みつけるD。原因はおおよそ頼みごとを無碍にしたことだろう。学園がどんな状況なのか知っているのに、話さえ伝えてもらっていないのだから。未だ和真に対して好い感情を抱いていない様子のDの言動に源氏は敢えて助け舟を出さない。二人の様子を見守る三人の前で次の行動を最初に起こしたのが・・・。
「すまなかった」
腰まで深々とDに頭を垂らす和真だった。
「当主として魔法やそれに類する道具の開発はどんな時でも一番に考えなくてはならない。式森家は代々そうやって世界中からも魔法の知識を集めることもあるが、姉上ほどの行動力は無い。だから国内の問題は兵藤家が一任する代わりに式森家は魔法の研究と探求、外部からの問題を任されている」
「・・・・・」
「学園に関する問題は式森家のお門違い、と言ったらキミは怒るだろうが姉上を頼った子供の気持ちを軽視した私が悪かったのは事実その通りだ。しかし―――」
「・・・・・話、建前、長い、省略」
身も蓋もない一刀両断で斬り捨てたD。それに対して指摘された方の和真は口をいったん閉じて、頭を下げたまま改めて言った。
「今後も姉上を頼る時が来て、もしも私に伝言を頼むことがあるならキミの言葉を最優先に伝えると約束する。だからこそあの時のことは本当に申し訳なかった。どうか、姉上の説得をキミからもしてほしい」
「・・・・・」
「頼む、お願いする」
無言を貫くDに切に頼み込む和真。そこまで一香は家に居たがってくれない奔放なのかと母親を見ながら呆れた。
「・・・・・仕事、新しい魔法、本、摸写?」
自分に向けて言われた質問だと察し頭を上げ和真はこう答えた。
「ああ。朝に教えた通りだ。いまそれが姉上の一番の仕事で急務だ」
「・・・・・それ、終わる?」
一香に振り返り尋ねる。
「ええーと、全部となると思い出さないといけない魔法もあるし、忘れても間隔的に使っている魔法もあるから、それを本に書き写すのもまだまだ時間は掛かるわ。少なくとも一年は。・・・でもだからって実家に戻るつもりはないわよ! 一誠の説得でもこれだけは!」
「姉上ぇ・・・・・!!」
困り果てる和真が頭を抱える他所に異を唱える誠。
「けど、一誠が式森家に住んでくれるなら吝かではないけれどね」
「おい一香、それはズルい! 兵藤家にも居てくれるなら俺だってちょっとは頑張るぞ!」
「無理難題な便乗するな。ちょっとではなく全力で努めろバカ息子が」
「・・・・・両方、拒絶」
親子して実家で住みたくない想いがここで一つになった。しかし、一香の一件は未だ解決ならず。
「・・・・・仕事、場所問わず、特別、場所、必要?」
「え、別にそんなことはないわよ」
「私は家に姉上が居てもらえばそれでいい。他の者達もそれが総意なのだ」
「・・・・・そう」
興味なさげに反応をするD。しかし目線は一香に向けられている。息子の説得すら受け付けないと断言した一香を見て何を思って考えているのか本人しか知らない。
「・・・・・、・・・・・、・・・・・、・・・・・元、お母さん」
「元じゃない、元じゃないわよ一誠。今でも現役のあなたのお母さんよ!」
「・・・・・どうでもいい、提案」
「どうでもよくはなーい!! ・・・・・提案? 説得しないんだ?」
頷くDは提案を述べる。何時ぞやのコカビエルのように。
「・・・・・朝、仕事、魔法、学園、警備、夜、式森家、帰宅」
「私が学園の警備? 夜は家に帰れって・・・・・」
「・・・・・週に二日、兵藤家、元お父さん、ちょっと頑張らせる、合間、仕事」
「俺も元じゃないぞ一誠! 今でも現役のお前の父親だぞー!」
同じ反応をする両親を鬱陶しいとばかり眉間に皺を寄せるDの提案を、頭の中で咀嚼して答えを出した。
「四六時中ずっと家に閉じ込められて、今の仕事を無理強いさせられるより息子の提案の方が千倍マシね。たまに誠と、その過程で誠輝達とも会えるし。それなら家に帰ってもいいわよ頭でっかち」
「さすがは俺の息子! 一香の気持ちを酌んだ提案だな。式森家はこーいうことできない頭でっかちな奴ばかりだから困るんだよなぁー。だから家族の気持ちも考えてやれないお前らに一香が反発するんだよ義弟。これからはもっと一香を敬って言動するんだな」
俺なら理解できるぞ、と優越感に浸る誠の言葉は怒りで眦を裂くDから非難を受ける結果になった。
「・・・・・お前が言うな、クソ親父が!」
「自分の息子のことを棚に上げるな! 貴様も人のことが言えん立場だろうが!」
和真もこれには同感と叫び―――なぜかとっさの反応すらできないまま、最初にDに殴られた後、和真にも殴られ、また思いっきり踏まれ蹴られる誠を「・・・・・馬鹿者が」と呟く源氏も一度だけ加わって蹴りを入れた。
・・・・・一分後。
「・・・・・一日、元お母さん、学園、預かる」
「では明日の夕方あたりに迎えに行く。それでいいか」
「・・・・・正門、待機」
「わかった。今夜は姉上をよろしく頼む。それではな」
誠を存分に殴って蹴ることができたからか、それともこれまで溜まった鬱憤をぶつけることができたせいか、満足しきった顔になっていた。逆に誠はボロボロであちこち痛めつけられていた。これから和真の転移魔法で兵藤家に戻ろうとしていた。
「て、てめぇ・・・いつか覚えていろよ」
「今日の私は良い気分だ。何時か貴様を殴りたいと思っていた願望が叶ったからか心も軽くなった。初めて感謝するぞ義兄殿? ああいや、貴様の元息子に礼を言うべきだったな」
「ムッカー!? お前、絶対に仕返ししてやるから怯えて待っていやがれ!」
「またね誠ー。お義父さんも元気で」
消えていく三人を見送り、残されたDは一香を女子寮へ案内した。
「一誠、ここに住んでいるの?」
「・・・・・女子寮、寮長」
「警備員にトレーナーに寮長・・・仕事多すぎない?」
ちょっぴり心配な一香の気持ちなど露知らず、そうすることになった経緯を打ち明けた。
「・・・・・全部、兵藤家、性欲の獣、クズ共、女子寮、不法侵入、性的暴力」
「あなたがここに住めばその子達はいつか侵入しなくなることを見越して、寮長を任せたのね。一応聞くけれど、女の子達とは仲良くしてる?」
「・・・・・百聞は一見に如かず」
受けつけの部屋に待機させていた分身体から、報告を聞き女子寮の出入り口の扉の鍵を閉めては女子寮全体に防壁魔方陣を設置した。それから一番奥にある寮長室を開け一香を招いたら・・・・・。
「あ、Dさんお帰りなさーい!」
「トレーナーさん、お邪魔してまーす!」
片手では数えきれないウマ娘や女子生徒が幽霊の貞塚玲子を交えてパジャマパーティーを始めていた。その光景に一香はすぐに受け止めきれず目を瞬きする。
「・・・・・この感じ」
「そ、そう・・・・・仲がよさそうで」
唖然とする見知らぬ女性の存在に当然ながら彼女達は質問をした。サイレンススズカが代表に問うた。
「トレーナーさん、彼女はどなたですか?」
「・・・・・兵藤一香、旧姓、式森一香、天皇家、式森家、当主、姉、俺の元母親、お母さん」
「・・・え?」
『え?』
聞き耳を立てていた少女達もサイレンススズカと一緒に耳を疑い、十数秒後。女子寮が震えるほどの絶叫が寮長室から轟いた。