夜はまだ長いとばかり、息子の部屋に入り浸っているうら若き乙女たちと対峙するように座る一香。
「息子を心から信用と信頼をしているのはわかるけれど、夜遅くまで男の部屋で寛ぐのはダメよ。息子は仕事で疲れているかもしれないのに、遊び気分で接せられたら休むにも休めれないわ」
『ハイ・・・・・』
「一応質問するけれど、この部屋で一誠と一緒に寝たことがある娘はいる?」
『・・・・・』
「一誠、いないのね?」
「・・・・・ない」
なら、いいわ。と一区切りをつけたところで挙手をする一人のウマ娘。
「あの、トレーナー。どうしてお母さんをここに?」
「・・・・・元母親、実家暮らし、拒絶、今夜、宿泊、明日、理事長」
「家出したお母様をどうして理事長に?」
「・・・・・式森家、魔法使い、学園の警備」
「もしかして、Dさんのお母さんを警備員として働かせたいのですか? でも、Dさんだけで十分じゃ?」
疑問を口にした愛花の言葉は他の少女達もその通りだと頷いて同感の意を示した。が、当のDは首を横に振った。
「・・・・・不在の時、代任」
「うーん、確かにトレーナーは学園から離れる時はあるけれど、それだって分身体で警備させているから大丈夫なんじゃ?」
「・・・・・備えあれば患いなし、念には念を、・・・・・正直」
正直、なんだろう? とDの続きの言葉を待つ少女達。
「・・・・・残存、一抹、不安、主に、真の意味、俺の死亡」
『っ!?』
「・・・・・死亡後、性欲の獣、狂喜、歓喜、解放、分身体、消失、四年前、逆戻り、懸念」
だから母親を警備員として学園で働かせたいDの気持ちを知った一同は、驚きで停止しかけた思考を再起動させて問い質した。
「本気で言っているんですか。トレーナーが死ぬなんてそんな・・・・・」
「正直・・・Dさんは死んでも死なない感じはするんですけど、Dさんを殺せるヒトっているんですか?」
「・・・・・存在、大」
「い、いるんだ・・・・・トレーナーを殺せる人って。で、でも、トレーナーを殺す理由はないよね? いるとしても兵藤家の人達ぐらいだし・・・・・他にいないよね?」
理由がない以上、好きこのんでDを殺そうとするなんてあり得ないとトウカイテイオーは思うが。Dは首を横に振った。
「・・・・・存在、邪魔者、今後、未来、見据えて、脅威、恨み、憎悪、理由、多岐多様」
「そんな・・・・・!」
「・・・・・故、保険、二の次の話、可能性、本題、元母親、暮らしの改善」
「暮らしの改善って・・・・・厳しいの?」
式森家のことはあまり詳しいことが知られていない。兵藤家と同じ天皇一族でありながら何をしているのかも全然わからない。在籍している式森家の生徒達も代わり映えの無い学園生活を送っている。Dと一香以外の一同は不思議そうに一香を見た。数多の視線を一身に浴びる彼女は思い出しながら語り出す。
「そりゃあ、実家が嫌になるほど窮屈でかたっ苦しいのよ。魔法主義者であることを掲げていてね、四六時中ずっと家ン中に籠っては、やれ魔法の研究だ、やれ魔法の開発だ、やれ魔法の道具の作製だーってばかりでカビやキノコが生えそうなほど外に出ないのよ。いや、中には服にカビが生えても着替えようとしない無頓着な奴もいるし、飯を食べる時間が勿体ないと自分の体に自分の口代わりにした寄生させた虫で、年単位ぐらいの量を栽培したキノコだけ食わせて空腹を紛らしているとんでもない奴もいたわね」
なにそれ、一言で言ったらヤベェ人じゃないですか。
「中には世界中を旅して魔法の知識を探求しに行く式森家の人間もいるわ。そこまでする式森家の人間って、本当に魔法使いの人間として生まれてしまったら、一生魔法から離れられない生活を送るわ。奴隷のようにね」
「魔法の、奴隷・・・・・」
「まぁ、私もそんな感じで外から色んな魔法を集めつつ、家に閉じこもっているより自由奔放に行きたかった方が強いわ。だから当主の座と力を手に入れた瞬間に夫と一緒に外へ飛び出してやったわ」
「・・・・・力?」
それはDすら知り得ない情報。一香はニコリと笑みを浮かべた。
「兵藤家は不老不死に近い秘薬、式森家は代々の当主が過去から培った魔法と知識よ。その中には不老不死になる魔法の知識があるから私達はそれで人より長く生きていられる。その時の中であなた達四人を産んだのよ」
「・・・・・たった五年、ポイ捨て、放置」
「もう、それは本当にごめんなさいって! 最初は連れていけたけど、将来のことを考えて学校に通わせた方がいいって誠と話し合って決めた事なのよー!」
「・・・・・よりにもよって、兵藤家、一度、死んだ、心、壊れた」
「ううう・・・・・そう言うことになる未来が見えたなら、兵藤家じゃなくてリーラと生活をさせていたわよぉ・・・・・」
肩を落とし心底から申し訳ないと全身で訴える一香を見て、本当にDの母親なんだなと感じた女子一同。
「・・・あ、そうだ。忘れるところだった! 一誠、あなたどうして成長が早いのか、今までどこで何をしていたのか教えなさいよ!」
「・・・・・ちっ」
「舌打ちぃー!? まさか、話を紛らわせたまま教えないつもりだったんでしょう、そうでしょう!」
息子の肩を掴んで顔を近づける一香。あともう少しで唇がくっつきそうではあるが、本人達は気にもしない様子で見つめ合っている。
「・・・・・お爺ちゃん、アザゼル、多分、クソ親父、認知」
「くっ・・・誠、やっぱり私より先んじているんじゃないのよ。アザゼルもアザゼルでどうして私に教えなかったのっ。今度会った時、八つ当たりしてやる」
「・・・・・それは酷い」
うん、私もそう思うと思わずDの呟きを拾った女子達は頷いてしまった。
「まぁいいわ。後で寝る前に訊くとして、今はこっちの方が気になるわ。―――母親として」
「・・・・・元、母親」
「認めていない、認めていないわあんな一方的な絶縁! どうして私達と絶縁したがっているのかも聞くから! そこのあなた達!」
ビクッ!
「な、なんでしょうか?」
「単刀直入に聞くけど、一人の女の子として一誠を好きな娘はこの中にいる? いるなら手を挙げなさい。いないならいいけれど、今後一切、うちの息子との恋愛は許さないから覚悟しなさい」
何て横暴な母親なんだと思った矢先にDが一香の後頭部をハリセンで叩いた。しかも凄く痛そうな音もした。
「・・・・・一誠、母親に対して叩くのは本当にどうかと思うわよ・・・・・っ」
「・・・・・殴る」
「殴るのも蹴るのもダメよ! 私を何だと思っているのよ!」
「・・・・・、・・・・・、・・・・・わからない、覚えていない、赤の他人?」
育てられた覚えがないのであれば、母親の印象も不透明なまま。口にした通り最悪なことは赤の他人としか見出せない
「あ、赤の・・・・・他人・・・・・ぐすん」
あ、ガチで泣いた。これは慰めるべきか悩む女子達。
「Dさん、流石にお母さんに赤の他人は言い過ぎでは?」
「・・・・・十五年、親元、長期、離縁、生活、殆ど、記憶、欠片程度」
「もしかして、家族としての認識も情もないほど、ですか?」
「・・・・・うん」
そうですか、無いんですか・・・・・それでは赤の他人だと言うのも自然ですねー。
「・・・・・十五年前、記憶、根深く、兵藤家、悪辣、一部、優しさ、それのみ」
「トレーナー・・・・・」
「・・・・・今更、家族、不必要、不明、家族、名乗る、勝手、母の愛、理解不能」
憐れ兵藤一香。死に掛けるほど酷い環境の中で暮らし、並行世界で十年も過ごし四、五年も親の顏を見ず学園で働いていたらそうなるのも仕方がないと感じてしまったら、一香に同情を禁じ得ない。
「・・・・・就寝」
「あ、はい」
「遅くまで長居して申し訳ありませんでした」
「失礼しますね」
持参して来たものは全て持ち帰り、Dと一香を残して自室へ戻って行く女子達の後に施錠する。
「・・・・・あれ? この娘は?」
「・・・・・同棲、幽霊」
「へぇ、幽霊・・・幽霊!?」
「ハ、ハイ、貞塚玲子ト言イマス」
本人も認めればそれまでなので、一香は受け入れるしかない。物腰が柔らかく、そして可愛いし自分より大きい双丘の持ち主が幽霊とは思いもしないだろうが。
「息子とどういう関係?」
「カンケイ・・・・・」
赤い目をチラッとDに向けると目が合った玲子の頬が淡く朱に染まった。これだけで理解した一香はものすごーく複雑であった。異種族同士の結婚など珍しくないが、生者と死者が結婚など見聞したことない。むしろ不吉を呼び寄せるんじゃないかと心配の方が強い。
「・・・・・風呂」
「ア、ハイ。時間通リ温メテアリマス」
「・・・・・感謝」
二人揃って浴場へ足を運ぶ姿を他人事のように見つめて・・・・・。
「んーーーーー??? ちょっと待ちなさいあなた達」
「「?」」
待ったをかけた一香。足を止めて振り返る二人に真偽を確かめた。
「今、どこに行こうとしているの」
「・・・・・風呂」
「風呂、そうよね? もしかしてトイレと風呂は一緒のスペースになっているのかしら」
「エット、別々ニアリマスヨ?」
「じゃあ、どっちかトイレに行こうとしているのね?」
そうであってほしいと切に願う一香であったが、一香の想いはあっさりと否定させられた。
「・・・・・風呂、一緒」
「待ちなさい」
今度は何だと言いたげな目をするDは瞬時に予想した。この後絶対に話が長くなる面倒なことになると。それではいつ風呂に入ることも眠ることもできない。ならばどうする・・・・・簡単な事だ。
「・・・・・入る」
「・・・・・え、お母さんのこと言っているの?」
「・・・・・他、不在」
一香の手を掴み、立ち上がらせるとそのまま玲子と一緒に脱衣所へ入って扉を固く閉じた。
「―――って、本当に二人で入るの? 何時も入っているの!? ちょ、一誠、本気でお母さんと一緒にっ、あ、待って、服を脱がそうとしないで! あなたも人の下着を脱がそうとしな―――きゃあ!?」
「お、大きい・・・はっ、い、一誠! 裸の付き合いだからってお母さんの体を触らなくていいのっ、というか遠慮ひゃんっ!? 待って、お母さんのソコを―――やんっ! やぁ! 一誠の手が、息子の手が母親の身体を蹂躙するなんて・・・・・! ダメ、気持ち良すぎるぅー! ッッッ~~~~!!!」
(※マッサージを施している真っ最中です。決して大人R版ではありません)
―――数十分後。
いつにもまして肌がツルツルピカピカで潤いながらも体力を使い果たし、グロッキーでダウン中の一香はベッドの中でYシャツ一枚の体を丸めて羞恥に沈む。その隣にはDも寝転がっている。
「む、息子に体の隅々まで見られた上に触られた・・・・・気持ちよくさせられた・・・・・」
「・・・・・綺麗だった」
「あなた、一体いつの間にそんな技術を身につけたのよ・・・・・」
「・・・・・ウマ娘、トレーニング、マッサージ、身体、筋肉、触診、人気」
未成年の若い女の体を触るためではなく、トレーナーとしてウマ娘の体をマッサージして施すのは当然だろうと言いたいDであった。入浴後、玲子はテレビの映像の中に戻ってそこで一夜を過ごすらしい。親子の時間を邪魔したくない配慮であったが、そんなことは気にしなくていいと思うDだった。髪を完全に乾かし、身体も拭き終えれば、歯を磨いた後に一香とベッドの中に潜って今に至る。
「・・・・・寝る」
「・・・そうね。寝ましょうか」
明日は理事長に会う。早起きをしなくてはならないが一香はちょっぴりこの状況が嬉しくもあり楽しくもなって来た。
「ねぇ、一誠。昔のように抱きしめてあげましょうか」
「・・・・・」
「一誠・・・? ・・・・・はやっ、もう完全に寝ているし・・・・・もうっ」
つまらない、こうなったらふて寝してやると一香も早々に意識を落とし、眠りにつこうと瞼を落とした。