アザゼルside
京都に来てからたくさんの舞妓と遊び尽くした。いやー、綺麗で美人な女の着物の帯をくるくる回す遊びは何度やっても楽しいなー! オーディンのジジイもこの遊びの味を占めて、二十人の舞妓の帯を一気に引っ張って回して楽しんだほどだからな! 北欧に戻ってこの風習を―――と意気込んでいたがはたして思い通りになったのか知らないが、頑張ってくれや。
「さーて、次は京料理だ。たらふく食うぞー!」
当然、舞妓がいる料亭で食うがな! と俺も意気込んで京都の中で有名な店に顔を出した所で―――。
「「あっはっはっはっ♪」」
・・・・・なーんで、こいつらがここにいやがるんだよおい・・・・・。楽しい気分が下がり、額に手をやって息を吐いて無視したくても出来ない盛り上がっている座敷のテーブルに寄った。
「お前ら、随分と楽しんでいるじゃねぇか」
「うん? おや、奇遇じゃないかアザゼルちゃん!」
「おー、アザ坊じゃないか! こっちに来いって、一緒に食おうぜ、飲もうぜ!」
前者は唯一の魔王フォーベシィ。後者は天界の神王ユーストマ。どっちも人間界、それも京都で遊び呆けているほど暇じゃない筈なんだがな。しかもおまけにどっちも家族連れとは・・・・・。
「家族旅行とは思い切ったことするじゃねぇか。テロリスト集団のせいで大変な時期だってのに」
「だからこそ、兵藤家に顔を出すつもりなのさ」
「おうそうだとも。これから話し合いをするのさ」
話し合いだと?天界と冥界のトップが雁首揃えて一体どんなだ? 気になってしまい二人の間に座る俺の前にコップが置かれ酒が注がれる。昼酒を飲むつもりでいたがあまりにも自然に用意されると、魔王と神王のくせに息ピッタリすぎるだろうと思わなくもない。これが三大勢力が和平を結んで齎した結果のひとつなのか?
「よく話し合いの場が設けられたな。当主と会うのは簡単じゃ無かったろうに」
「ああ、源氏殿ではなく大統領の方だよ。大統領の彼ならば割と会ってくれるし、今回神ちゃんと会いに行こうとしているのは、駒王学園にそろそろ娘たちを編入しても問題ないだろうと思って」
「そのことを一報入れるためなのさ」
そういうことかよ。この二人にも兵藤家の悪ガキ共の傍若無人っぷりを知っているから、今の今まで大事な娘を人間界で学園生活を送らせなかった。しかし今ならどうだ? 牙を抜かれ今まで非捕食者だったネズミがネコの鼻を噛む程度に抵抗を見せた。ある意味、これがあるべき生徒たちの姿じゃないかD? お前が死んでしまっても無抵抗ばかりだろうと思った弱者が初めて自分の意志で抵抗したんだぞ。もうあいつ等は守られるだけの弱っちい自分から卒業した。だから胸張って安らかに眠れD。
「アザ坊はどうしてこの時間帯でここに来たんだ? お前の方こそ源氏殿と会いに来たのか?」
「いまその学園の修学旅行シーズンに入っているんだよ。俺が担当している二年の生徒たちが京都で旅行をしに来ているんだ」
「ほう、そうだったのかい。それなのに抜け出して私たちと同じ京料理をたらふく食べに来たと」
そう言うお前らもそのつもりでこの店にいたんだろ、的な視線をフォーベシィとユーストマに向けた後に酒が満たされたコップを持って乾杯した。ああ、こういう和平も悪くはねぇ。何時までも謳歌したいもんだぜ・・・・・。
プルルルル!
―――しばらく京料理を思うがままにたらふく食べている最中に携帯が鳴り出した。ロスヴァイセだったら電源も切っておくかと思うが、水面下で京都に起きている事件の関連性の話を聞かされるかもしれないからしょうがなく通信を繋げるつもりだったが、ロスヴァイセじゃなくて木場の方だった。
「おう、どうした?」
『―――、―――! ―――!!!』
「・・・・・は? なんだと・・・・・? 何の冗談だ、それは!」
『―――! ―――ッ!! ―――!』
「わかった、俺もこの目で確かめてやるから絶対に見離すな!」
聞かされた話の内容に酔いもすっかり醒めてしまった。それほど衝撃だったんだ、当然だろうが!
「どうしたアザゼル? 問題事が起きたのか?」
「私たちも協力するよ」
そんな酒を飲み過ぎて赤くした顔で言われても頼もしくねぇ! だが、一応言っておくか。
「リアスの眷属の一人がDと同じ顔をした子供と遭遇したらしい。それだけなら問題ないが、魔力もあるらしいんだ」
「「・・・・・」」
「んで、現在進行形で保護している。だから確かめるために待ち合わせ場所に向かう」
釣りはいらねぇと多めの代金をテーブルに置いて、魔王と神王ファミリーを置いて現場へ急いで駆け出した。
木場side
本当に偶然だった。クラスメイトと観光スポットへ歩いて向かっていたら、幼くとも面影があるDさんと瓜二つな子供が周囲に興味深々な眼差しで見ていたんだ。しかも、魔力も感じるんだからまさかと思うのも仕方がない。
「Dさん・・・・・?」
「うん?」
僕の呟きに反応した子供は首を傾げた。
「Dさん、なんですか?」
「僕はD.D.だよ」
「ディーツー?」
紙に書いてもらったらどんな文字に表すのだろう。でも、名前が違くても髪の色や瞳、顔が同じで魔力もある。これはただの偶然なのか・・・?
「ひとりかい?」
「うん、冒険してる。・・・・・けど」
お腹を押さえたD.D.から盛大に音が聞こえた。
「いまお腹空いた。だから帰る」
帰る、どこに―――? 僕の中で湧いた疑問よりも先にD.D.へ手を伸ばして片を掴んでいた。いま見逃したら二度と再会できなくなる、そんな気がしてならなかったんだ。
「それなら僕とご飯を食べないかな?」
「え、いいの? たくさん食べていい?」
「勿論いいよ。きみに紹介したい人もいるから」
クラスメイトには申し訳なく嘘の事情を説明して僕たちと別れてもらった。京料理が食べられる所に案内して事情を説明してやってくるアザゼル先生が到着するまで、D.D.には好きなだけ料理を食べてもらう。だけど・・・・・。
「まだ、食べられるのかい?」
「たくさん食べていいと言ったから満足するまで食べたい」
軽く八人前は食べてるD.D.はドラゴンであることを忘れていたわけではないけど、遠慮という気持ちは持ち合わせていないようだ。
「(でも、本当にこの子はDさんなのか? 別人ではないかと疑ってしまう元気さだ)」
本人も名前は違うと断言したから他人の空似であろうと、一応確かめないといけない。その役目は僕ではなくて・・・・・。
「木場、そいつか」
お店に入ってきた・・・何故か心底疲れた顔をしてるアザゼル先生に任せよう・・・・・え、何で魔王さまと神王さままでいるんだ!?
「い、一誠ちゃん!」
「坊主ぅー!!」
「ぴぃっ!?」
狂喜のあまりD.D.に飛び掛かってしまい、お二人からかわして逃げ出して外へ―――まずいっ!? 逃げてしまう! ああ、外へ!
「わっ―――わわっ!」
出入り口前に堕天使式の魔方陣が浮かび上がり、D.D.がその上を跨がろうとした瞬間に発動した様子で彼が床から浮いた。
「こーなるだろうと思って先に仕掛けておいてよかったぜ。どこかの誰かさんのせいで逃げられるところだったまったく」
アザゼル先生の先読みが逃げてしまった彼を捕らえることに成功した。宙に浮いたままじたばたと暴れる彼を見てますます不思議に思った。魔法を使わないのか? って。
「坊主、食べてる途中で逃げるのは行儀が悪いぞ。まだ食べ残っているじゃないか」
「だ、だって怖くて変態さんみたいな顔をした知らないおじさんが捕まえようとしてくるから!」
「「ぐはっ!?」」
「あー・・・・・それについてはこのふたりが悪いと俺も思う」
純粋無垢な子供の言葉に魔王さまと神王さまがその場で崩れ落ち、あ・・・・・奥方さまらしき女性たちに殴られて蹴られての折檻を受け始めた。
「取り敢えず残りのもんを食べろ」
「・・・知らないおじさん、誰なの?」
アザゼル先生を知らない? 本当に別人だったりするのか?
「・・・・・覚えてないのか? アザゼルって名前だ。おじさんではないからな」
「え、見た目より若いお兄さんだったの? 老けてるからおじさんかと思った」
「堪えて、堪えてくださいアザゼル先生! きっと言葉のあやですから握った拳を下げてください!」
真顔で言っている分、本当に思っているらしいから質が悪い! Dさんでも言いそうなものだから判断が鈍ってしまうよ! 振り上げた拳を下ろすようアザゼル先生に説得していると。
「・・・・・あんたら、騒ぐんなら出てってもらえねぇかね?」
「す、すみません。D.D.違うお店で他の料理を食べないかい?」
「えー? じゃあ、これ食べたらで」
店長さんに睨まれて慌てて場所を移動しようと提案した僕にそう言って、残りの料理を食べ出すマイペースさを見せつけられる。アザゼル先生もまじまじとその様子を見る。
「あなたから見てどう思いますか」
「瓜二つ・・・いや、同一視しても不思議じゃない。魔力もDそのものだ。本人だと言っても誰も疑わないぞ。昔から知ってる俺や他の奴らもだって同じ認識すると賭けてもいい」
そこまで断言するアザゼル先生。ならやはりこの子は―――。
「だが、D本人だと決めつけるのは早計だ。神器と邪龍共の有無とDNAの調査をしたい。結果はそれから出せばいい」
「わかりました。でも、D.D.はどうします? どこに預けますか?」
「D.D.? それがこの坊主の名前か。そうだな・・・・・」
その時、食べ終えたD.D.が合掌して次の店に行きたい催促をして来る。本当にまだ食べられるのかこの子は。
「おい坊主。名前は何て言う」
「D.D.だよ」
「そうかD.D.だな。んじゃあ、質問をするがお前はどこから来たんだ?」
「わかんない」
「誰かと一緒に来たんじゃないのか?」
「おとーさんとおかーさん、あと、お兄ちゃんたちとお姉ちゃんたちとなら一緒に来たよ」
複数人、しかも両親? 誠さんと一香さん・・・・・の事じゃなさそうだね。別の人たちと一緒にこの京都へ?
「今からお前の家族と会えるか?」
「ううん、会えないよ。でも、ここにいることは知っていると思う・・・・・から」
不意に倒れたD.D.に目を丸くして安否確認をした。小さく寝息を立てているだけ・・・眠っているのか。まだ食べられると言ったが、睡魔には勝てなかったみたいだね。
「寝やがったか。肝心なことを訊いていないのに。しょうがねぇから先に調べるとしよう」
両手で担ごうとしたアザゼル先生が不自然に停まった。どうしたんだと思ったが直ぐに横抱きに持ち上げ、僕の代わりに代金を払ってくれて外に出るとまた不自然に足を停めた。
「これはこれは、嗅ぎ付けてくるのが早いじゃないか当主殿?」
「―――っ!」
アザゼル先生の後ろから出ると、僕たちの目の前に腕を組んでいるこの京都のみならず日本全土を統治している兵藤源氏さまがたった一人で立っていた。
「奇妙な赤髪の子供が京都に徘徊している報告が挙がっていた。その後、貴殿等が雁首揃えて同じ料亭に入ったとならば何かあると思わない方がおかしいだろう」
「雁首揃えて、か。言っておくがあそこにいる魔王と神王とは一切無関係だと言っておくぞ。貴殿ではなく、この国の大統領に用があるようでな。その前に京料理を食っていたんだ」
だから二人揃っておられたのか。納得できたけどアザゼル先生と似ている部分があるような気がしてならない。源氏殿がD.D.を見た。その瞳は何か衝動的なものを押し殺している風に感じる。
「・・・・・その子供は、あの子なのか」
「見た目だけ判断させてもらえばほぼ100%だ。しかし、どうやら記憶が無くなっている上に誠や一香以外の両親がいる様子だ。外面だけじゃ埒が明かねぇから内面、内側の部分をこれから堕天使の研究所で調べる所だ」
「・・・・・バカ息子が騒ぐだろうな」
踵を返して僕たちから離れる源氏殿背中を見送る。アザゼル先生も神妙な顔でしばらく見つめてから転移式魔方陣で堕天使領の研究所へ。残された僕はクラスメイトと合流するべく行動を開始した。