Dの件が各学園艦に伝わって二日後。駒王学園二年生の京都で修学旅行6日目の朝―――。示し合わせたわけでもなく大洗学園艦にみほたちが通う学園に、大勢の少女たちが待っていた。
主に西住まほ、ダージリンとケイに西絹代とアンチョビ、カチューシャとミカが筆頭に―――。
「え、みなさん!?」
「お久しぶりですわみほさん。そちらから頂いた連絡の事実確認をしにきましたの」
「・・・・・本当にDさんが生きているのか」
「それに、どういうことなのかも教えてくれない?」
「本当よ! まさか・・・ゆ、幽霊じゃないでしょうね・・・・・?」
「ウチも同じくだ」
「・・・・・(テレーン♪)」
「僭越ならが我々も同じくであります!」
まさかの事態に困惑するが学園から三人の少女が一同のもとに近づいてきた。
「とりあえず、みんなを彼のところに案内してあげよう西住ちゃん。話はそこでね」
「西住、説明は頼んだぞ」
「よろしくお願いね」
「あ、はいわかりました」
移動は保有している各戦車に乗ってもらい大洗病院へ向かった。
「・・・私たちを打ち破ったⅣ号戦車D型に乗る日が来るとはな」
通信席に座っているまほの呟きを拾い、みほは複雑な顔を浮かべた。妹から感じる雰囲気を察して訂正する風にまほは話を続けた。
「いや、感慨深くなっただけだ。みほが乗っている戦車で一緒に乗れるとは思わなかったからな」
「・・・そうだね。こうしてお姉ちゃんと乗ることも子供の頃以来だね」
「ああ、そうだな」
遠い昔、群馬県の実家から離れ遊びがてらまほが小型の戦車を運転しみほが乗ることが多かった。二人は懐かしい記憶を思い出して顔を見合わせて小さく笑みを浮かべた。
―――大洗病院
病院に到着してDがいる病室にみほが案内する。ノックをしてから扉を開ければ、静寂に包まれながらもベッドの中で酸素マスクを付けて眠っているDの心音図の機械音が聞こえてくる。皆で囲うように立ちDの顔を見つめる。
「・・・・・Dさん」
「この目で見ても信じ難いですわね。本当に生きていたなんて驚きましたわ」
「クールな顔で何を言っているのよ」
「でもダージリンの言う通りよ。生きた死人をまた見ることになるなんてさ」
「それはゾンビって言っているようなもんだぞ」
「おいたわしいお姿です・・・・・」
「・・・・・綺麗な寝顔だね」
感想を述べた後、静まり返った病室の中でDの顔を見守る一同。そんな静寂を破ったのがベッドの下からひょこっと出てきた九桜だった。
「いきなり大人数で見舞いに来るとはな」
「あ、九桜さん。Dさんの傍にいたんだね」
「当然。妾とDは一心同体であるからな。麻子がおらぬ間は常にここにいるつもりだ」
ベッドの上に乗りみほと会話をする九本の尾を持つ狐。
「「「「「「・・・・・」」」」」」
九桜を知らぬ少女たちは時が停止したように喋る狐を見て硬直した。それに気付き彼女たちの気持ちはわかるし、二日前に経験したばかりのみほは苦笑いしつつ説明口調で紹介する。
「えっと、この狐さんの名前は九桜。Dさんの独立具現型の神器だよ」
「・・・・・みほ、いきなり情報処理に困る説明を言わないでほしい」
「え? ・・・あ、そうだね・・・・・それじゃあ、Dさんのことから順に説明するね?」
「妾も説明してやろう。耳を傾けてよく聞くがよい」
一人と一匹から長々と語られるDと神器の説明。たまに質問に受け答えることもあるが、最後まで話し終えればまほたちは納得した気持ちで頷いた。
「異常現象の光の原因はDさんだったのか。それからずっと海に漂い続けていたとは・・・」
「でも待ちなさいよ! じゃああの葬式は一体何だったのよ!」
「そうね。棺桶の中にいたDさんは別人だったの? 仮に別人だとして死亡扱いにする理由は一体なに?」
カチューシャとケイの疑問は最もだとみほも肯定する。その辺りの説明はみほもまだ省かれて聞いていないので教えるにも教えられない。
「九桜さん。教えてくれませんか?」
「むぅ、教えてもよいが聞いてあまり気分のいい話ではないぞ? とても信じられぬ話でもあるからな」
「信じるも信じないのも、皆の気持ち次第さ」
ミカの指摘に少しの間、沈黙した九桜は頷き返した。
「それもそうであるが・・・・・わかった、教えよう。信じようと信じまいがお前たち次第だ」
その異常現象の光の中でDの身に起きた事を九桜は告げた。当然ながら九桜の話を聞いて衝撃を覚え、信じられない話だと思いながらも、現にDはここにいるのだから真実と受け入れるしかなかった。
「身体が一度吹っ飛んで、再生した・・・か」
「神器ってそんなこともできるものなの? すごいわね」
「・・・しかし身体が一度爆散した際に首だけを見つけてしまれば、Dさんが死んだと思われても仕方がないのも確かです」
「そうね。身体を再生しきった本人が本土から離れるほど海に流されていたら、誰もがそう認識しても必然的でしょう」
「というか、Dさんの生命力も凄まじいな」
「まるでゴキブリ・・・うん? ヒッ!?」
失礼極まりない発言を漏らしてしまったカチューシャにまほが睨みを利かせ、九桜も牙を剥いて唸り声をあげて睨んだためカチューシャは恐れ戦いた。
「Dを侮辱するとは許さぬぞ小娘。その喉笛を噛み切ってやろうか、それとも燃やしてやろうか・・・!」
口からボッと火炎が漏れた。それに呼応して九本の尾が燃えていつでもカチューシャに放てる姿勢の九桜を見てノンナが警戒態勢に入った。
「・・・カチューシャ様、すぐに謝罪をするべきです」
「う、わ、解ってるわよ! ご、ごめんなさい・・・・・」
「・・・・・二度目は火達磨にしてくれる。よいな」
火炎を消して九桜は何度も頷くカチューシャの謝罪を受け入れる。一連の言動を見て九桜をただの狐ではないと認識を改めたみほたち。同時に穏便に済んでホッと胸を撫で下ろす。
「そ、それにしてもDさんはまだ目覚めないんだな? もう一週間以上も意識が戻っていないのだろう?」
アンチョビが話を切り出した。話題を元に戻そうとDのことを語ると九桜もDを見つめた。
「そうさな。これ以上このままであるならば、近い内にDを知る者に来てもらう必要がある」
「例えばどなたですか?」
西の問いかけに九桜は「身内」と答えた。
「身内とは・・・兵藤家?」
「いや、身内と言っても友人や仲間の意味合いの方が強い。そちらの方を呼ぶつもりである。絶縁した親共はややこしいどころか騒ぎだてるからの」
話を聞いた途端に複雑そうな表情を浮かべるみほをまほは見た。未だ、母のしほに対して若干の苦手意識があると窺える。碌に実家にも帰ってこないのもその表れでもあることを理解している。
「九桜さん。Dさんは自分のご両親をどう思っているのだろうか?」
「心配するだけ無駄な人間、であるな。そこまで嫌ってはおらぬが家族の縁、よりを戻したいわけでもない。よく言えば知人程度、悪く言えば赤の他人と言う程度にな」
「自分のご両親なのに?」
「Dが五歳以降から親の愛情を受けずに育った期間が長い故か、今更一緒に家族と暮らすのは面倒臭いの一言で言う男であるぞ。そのおかげで今のDがいるわけだがな」
尾を伸ばしてポムポムとDの顔を叩く。
「ま、親よりもお主らのようにDと交流しておる者との時間が好んでおるのは事実じゃ。これからも仲良くしてやってほしい」
「当然だ。Dさんには是非ともアンツィオ高校が優勝したところを見てほしいぞ」
「私はもうドイツへ留学するつもりでいたが、しばらくはDさんの面倒を見たいと思っている」
「え、お姉ちゃん?」
「私も負けないわよー?」
「ふふ、勝負は時の運。楽しみね」
「知波単学園も正々堂々と勝ち進んでいきます!」
「カチューシャたちが今度こそ勝つわよ!」
「さて、勝利の風はどちらに吹くのかな」
Dとの交流よりも好敵手への戦意を強めた少女たち。その中でまほがDの看護をすると言い出して目を丸くしたみほ。
「―――あなたたち、病室内では静かに!」
一瞬だけ賑やかになったところを看護師に注意され、少女たちは揃って謝罪した。看護師に見えないベッドの中に九桜が隠れた拍子に包帯だらけの腕が出てしまって、みほが布団の中に戻そうとDの手を取った。
その時、誰もが絶対零度のように冷たく深海のように深い目が薄っすらと開いたことを気付かなかった。
「「「「!!!」」」」
「どうしたD.D.?」
「・・・わからない、でも、なんか、変な感じがした」
「オーフィス・・・・・感じたか?」
「感じた・・・・」
『ヴァーリ』
「ああ・・・感じた。一瞬だったがハッキリとな」
「「「Dが生きている」」」