「アザゼル、隠していることがあるわよね」
「急に来るなり拘束しやがって。しかもプライバシーの侵害だろ。人の隠し事を強引に聞き出そうとするこの時点で」
放課後、オカルト研究部にてグレモリー眷属が集まっているところ、拘束したアザゼルを連れて一香が突然やってきて訪問の理由を訊こうとする前に二人の会話が始まった。
「どういうことですか? またアザゼルが隠し事を?」
「どうやらそうみたいよ。トレセン学園の方で兵藤家の連中がまた侵入してウマ娘たちに酷いことをしようとしたみたいなの」
「じゃあ・・・・・」
「私が気付く前に何かが彼女たちを守った。で、現場にいたウマ娘たちはこう言うのよ。『Dトレーナーが助けてくれた』って」
信じられない風に目を張るリアス。そんなはずはない。死体はないが兵藤家とアザゼルが死亡扱いしたのだからDが生きているとは思えない。なによりあの暴走した莫大なエネルギーの奔流の中に呑まれては、魔王や神でも無事では済まされないはずなのだ。ましてやドラゴンの命を脅かす猛毒に侵されている状態ならばなおさら―――!
「私もそんなはずはないと思いたいけど、魔方陣の痕跡が僅かに残っていて調べたら・・・・・オーフィスの魔力だったの」
「オーフィスの魔力・・・・・!」
「もう察したでしょ。もしオーフィス本人だったら黒髪の小さい女の子って言うはずなのに、彼女達は『綺麗な金色の翼が兵藤家の男たちを倒した』って言うだもの。だから、ねぇアザゼル?」
高圧的に見下ろす一香は最後の通告をした。
「今すぐ白状するか、絶対に言い逃れない状態の後で折檻されたいのか選びなさい」
「はっ、どうせ白状しても折檻するだろうが。だがな、仮にあいつは生きていると白状してもどうするつもりだ一香」
「もちろん、迎えに行くわ」
親として当たり前な事だと断言する一香の態度に凄く呆れた顔で溜息を吐いた。
「そいつは、難しいと思うぞ」
「理由を聞きましょうか」
アザゼルは淡々と語る。
「元々二十歳まで生きられない兵藤家と式森家の間で生まれた異端児。前にも言ったがグレートレッドの肉体の恩恵で生き長らえていた。本人が相反する力をコントロールできていたのも、むかし死んだことになっていたから天皇家にバレずに済んで生活できていたのも生き長らえた要因の一つ」
「・・・・・」
「前回は武の総本山の川神院が丸ごと消滅した。だが今回は東京都が丸ごと消滅させてしまう爆弾になっていた。そんな危なっかしい奴を天皇家は野放しにすると思っているのか?」
「そんなの、また魔力か闘気を封印してしまえば―――!」
一香の言い分に無言で首を横に振るアザゼル。そんな単純な話で終わるはずがないと。
「それで何事もなく病死か寿命で死ぬまで生きていけるなら、Dは苦労していない」
「っ・・・・・」
幼少の頃、それが原因で誰よりも弱かったDと名乗る前の一誠だった時、大人と子供たちに凄惨な虐待を受けた。Dの過去を知るアザゼルはそう一香に現実を突き付けた。
「その上、その程度で天皇家のお堅い連中が納得できると思っているのか? 奴らも海の彼方で起きた相反する二つの力が暴走した瞬間を見てしまったんだ。殺すことができずとも、封印対象として躍起になって動くぞ」
「・・・・・」
「Dは天皇家を滅ぼしても心を痛まない奴だから、宿した邪龍を解放してまで徹底抗戦をするぞ」
リアスたちもそう想像を浮かべて緊張の糸を張り詰めた。伝説の邪龍を含め、Dを抑えることができるのは魔王と神、神滅具の所有者だけだと。
「いいか一香。Dの奴が生きていたとしても、今は世に出しちゃいけない。天皇家がDに対するイメージが危なさすぎるからだ」
「じゃあ、このまま放置しろって言うの? 可能性が出てきたのにっ」
「だからあいつの死後は、この学園をお前に任せたかったんだろうが。こうなることを懸念して最悪なことになる対処用に」
用意周到すぎるDにぐうの音も出ない。
「もう一度言うぞ。生きていたとしても会いに行くな。可能性があっても向こうから現れるまで絶対にだ。愛する息子を更なる苦労と不幸にしたいなら、もう勝手にしろ俺は知らん。もっと嫌われてろって」
「うっ!?」
「リアスたちもだ。同じ理由でいいな」
「・・・・・わかったわ」
「はい・・・・・」
微妙に納得していないリアスと朱乃は頷く。木場たちも同意する風に従う姿勢だ。一香はすごーくアザゼルに対して言いたいことがありそうな表情を浮かべていたが、Dに不幸も苦労も掛けたくない想いから追及しなかった。
一方のトレセン学園では、元チームシリウスのウマ娘がコースに集まって光の出現まで走っていた彼女達をじっと見つめるジャージ姿のセキトや鹿毛を2つに分けた三つ編みにし、顔の横でリング状にしているウマ娘と金髪に近い栗毛のロングヘアと、真ん中で分けた白い前髪が特徴のウマ娘がいた。
そしていよいよ夜の位帳が降りた。
「・・・・・そろそろだ」
そう言って唇を笑みで吊り上げるアグネスタキオン。彼女はいったん、全員をコースから離れてもらい時を待った。今まで走っていたウマ娘の背後から現れたのならば無人のコースだった場合はどうなるか実験をしたかった。彼女の考えに答えるかどうか定かではないが、待ちに待った時が来た。
月光がコースの闇を照らす中、皆が見守る目の前で淡い人型の光が姿を現した。深い笑みを浮かべるタキオンはセキトを嗾けた。
「それじゃあ、頼むよ」
「・・・・・」
無言でスタート位置に移動するセキト。事前に全ての重りを外した状態から最初から全力で光と並走する気でいた。
「・・・・・お前が私の望む者であるかどうか、今はどうでもいい。私はお前を負かす」
「位置について!」
シンボリルドルフが合図を出す。セキトが走る姿勢に入れば光も意思を持っているかのような動きで走るか前に入った。不思議な怪奇現象と走る経験を得ることになる今夜、セキトは光に勝つことができるのか―――。
「よーい・・・スタート!」
始まった摩訶不思議のレース。セキトが合図と同時に芝を踏み抜いた。
「ふんっ!!!!!」
全力のセキトの走りは、一歩で数バ以上の距離までウサギのように跳び走った。芝は爆発したかのように大きく穴が出来て、強さこそが正義と称するジェンティルドンナは重りを付けたままのセキトに挑まれ、敗北した記憶を思い出した。
「・・・・・いずれ、必ず」
上には上がいる。力で負かされた経験は二度、とウマ娘ではないがDのみだ。無意識に組んだ腕を掴む手に力が籠るジェンティルドンナと、暴君と二つ名を持つウマ娘オルフェーヴルの目に光に迫るセキトが入る。しかし、しかし―――!
「っ・・・・・!」
重りを外してまでの全力疾走をしているというのに、光の背中を追いかけることが止めれないセキト。気付けばあっという間に一周の最後のハロンまで走り終えていた。残り200、170、120、60―――。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
咆哮を上げながら更なる加速。脚に力のあらん限り溜めてた貯金を使い果たす勢いでようやく最後になって光と肩を並べた一瞬でゴール地点を過ぎ、光が消失した。
「どっちが、勝った!?」
「微妙だな・・・・・ほぼ同時に見えた。引き分けしたようには見えないが」
「タキオンさん・・・・・」
「今調べているから待ちたまえ」
パソコンに付けたカメラで記録に残した映像を調べるアグネスタキオンの言葉を待つ。
結果は―――。
「ハナ差で、光の方が速くゴールしていたよ」
「・・・・・だ、そうだセキト」
息切れをせず戻って来た心底不満げな表情を浮かべるセキトに事実が告げられる。
「・・・・・どうにかしてあの光を長距離に走らせろ。たったの一周では足りん」
「摩訶不思議な現象と意思疎通ができるならこちらも願ったり叶ったりだよ。次は走りながら試してみるかね? 当然だが明日も出る保証はないがね。むしろ、光を追い詰めたキミから感想を聞きたい方だよ」
アグネスタキオンの催促の言葉はセキトに視線を集めさせた。
「―――Dトレーナーを彷彿させる光と走って何か気付いたかい?」
「え?」
「・・・・・ああ、お前の言う通りだ。あの光の走り方はDトレーナーでほぼ間違いない。でなければ私が謎の現象の光に負かされる筈がない」
「光だからこそ、負けたのではないかね」
ほくそ笑むアグネスタキオンのキーボードを叩く音が止まらない。
「どういうことだタキオン。あの光がDトレーナーだと? ふざけたことを言うなよ」
「至って真面目だよ。私は真面目と真剣に実験と研究を日々繰り返して過ごしている。Dトレーナーとセキトの併走のデータもしっかり記録しているからね。あの光とDトレーナーの走り方は、セキトも認めるほど一致しているのだよ。ほぼ100%の確率でだ」
「じゃあ・・・・・トレーナーさんは、死んでも私たちと一緒に走りたくて・・・・・?」
「それだとこのコースがDトレーナーの魂を縛り付ける枷となってしまっているだろう。それではいつまで経ってもDトレーナーは地縛霊として成仏できないね」
そ、そんな! と悲し気な悲鳴が上がる。まぁ、それはないだろうとポケットから金色の羽を入れた瓶を出して見せた。その瓶にはカフェテリアに駆け付けた一香の魔法が施されており、粒子となって消失する筈の羽を留めるようアグネスタキオンが頼んだのだ。
「・・・・・その羽は」
「キミ達なら見覚えがあるはずだ。Dトレーナーが時折、背中から生やす天使の翼、その羽の一部だ」
『っ!?』
「今日の昼時、カフェテリアに兵藤家の者達が私たちで酒池肉林を繰り広げようとした。しかし制裁する目的なのか私たちを守る12の金色の翼が現れて彼等を一網打尽にしたのは皆も知っているだろう」
条件反射でそれに手を伸ばすウマ娘から遠ざける。これは私の物だと言わんばかりにポケットの中へ仕舞って。
「だから、私としては願いたいね。Dトレーナーはどこかで生きていると」
『・・・・・っ』
シンボリルドルフたちに一縷の望みだろうと希望の光が差した。
「仮に生きている前提として私たちの前に現れないのは、何かしらの事情がある、もしくは事件に巻き込まれているからだと思う」
「では、探すにしても情報が無さすぎるな」
「・・・・・いや、アテはあるだろう。あのトレーナーと親しい人間が駒王学園にいる」
「あ、だったら夏梅さんにもこの事を話そう!」
セキトとオルフェーヴル、ジェンティルドンナを蚊帳の外に置いて盛り上がる元チームシリウス。スッと挙手するオグリキャップ。
「トレーナーのことだ。何か手がかり的なものを残していないか? 私たちに対していつも用意周到だから」
『それだ!』
「トレーナー兼警備室と寮長室に向かい探すぞ」
「え、今から!?」
「さすがに私たちも寮に帰らんといけないから明日にしない? 寮長室の方は出来るとして」
「そうだな。では、準備を済ませたら寮長室に行こう。セキト、今夜はありがとう。キミのおかげで希望が湧いた」
「感謝するならば私もトレーナーの部屋に連れて行け。興味がある」
拒絶する理由もないため、セキトの要望を了承するシンボリルドルフ。制服に着替える為、校舎に戻る彼女たちを見つめる二人。
「楽しみですわねオルフェーヴルさん」
「一応、期待はしておこう。だが、帰還の際は余がしばらく借りる」
「あら、わたくしも彼と力のトレーニングをする約束がまだでしてよ」
「関係ない。邪魔をするではないぞジェンティル」
「ほほほ、それはどちらの台詞か明日、並走して教えて差し上げましょうか」
「いいだろう」
翌日、元トレーナー兼警備員室で手がかりを探すも何も見つからず仕舞いで終わった。開かずの引き出し以外はという一部を除いて。