ハイスクールD×D忌避されし存在   作:ダーク・シリウス

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ウマ娘達のトレーニング

二週間後となり、一週間分の着替えと水着を鞄に詰めて持参するジャージ姿のウマ娘達。寮長室に足を運んで鞄を片手に皆の代表者としてシンボリルドルフが扉にノックをした。すぐに開かれる扉の向こうには鍛え上げられた上半身の筋肉が窺える着物姿のトレーナーが出迎えた。

 

「全員集まりましたトレーナーさん」

 

「・・・・・」

 

踵を返すトレーナーの後に続くシンボリルドルフ達。何気なく部屋の中を見渡すと、心なしか可愛らしいものが増えている。とてもトレーナーが自ら置くようなものではない物ばかりだ。

 

「また増えてる・・・・・!」

 

「トレーナーさんの部屋に入り浸る者がいる証だろうね」

 

「ムムッ!」

 

嫉妬心を芽生え燃やすトウカイテイオー。次の休みの日、もしくは今日中にでも自分の私物をここに置いて存在をアピールすることを決意した。彼女達はテーブルの上にある、スノードームのような模型が収まっているガラス玉に寄り、触れると迸る魔法の光に包まれてガラス玉の中へと吸い込まれた。

 

中は―――見渡す限りどこまでも広い草原の地。全員の髪をなびかせ全身を撫でる心地の良い風が吹く場に一行は到着した。

 

「・・・・・懐かしい。子供の頃に感じた風みたいでとても気持ちいい」

 

サイレンススズカは目を細めて風の心地よさを感じ、直ぐに当たりを見回した。

 

「それに、ここって見覚えがあるのが不思議だわ」

 

「・・・・・ここはサイレンススズカの故郷の地」

 

トレーナーがポツリとそう口にした言葉はサイレンススズカは振り向かせるに十分だった。

 

「・・・・・造った」

 

「じゃあ、ここは・・・・・私が子供の頃に来た事がある場所なんですか?」

 

肯定と首を縦に頷くトレーナー。そんな事実を知って驚いたのも束の間、少女の脚が疼いた。早くこの地を思う存分に走ってみたいとサイレンススズカを急かしたのだった。

 

「へぇ、ここがスズカの故郷の土地なんだね」

 

「見渡す限り緑色の草原・・・・・。スズカさんのお気に入りの場所だとしても不思議ではありませんわ」

 

「今回のトレーニングはこの場所なんですねトレーナーさん」

 

他のウマ娘達も感嘆の言葉を口々に言い、少し離れた場所にある木造の別荘へ向かおうとするトレーナーについて行くのだった。各々、自由に部屋を選んで荷物を置くと玄関に入ってすぐの大広間に集まった。トレーナーが造ったという草原以外にも、トレーニング用に作った地形が幾つもある場所を示す地図が大きく壁に掛けられている。皆、それを注目して見に集まる。

 

「トレーナーが造ったトレーニングコースか。ただのコースではないだろうな」

 

「全部で九つですね」

 

「草原もトレーニングコースみたい。って嘘、直径10Kもあるの?」

 

「どうやっていつの間に作ったのか、問い質したいぐらい気になるよねこれ」

 

「トレーニングコースは選べるみたいですが、どれもこれも難易度が高すぎますわ」

 

「上等だ。これぐらいはこなしてみろと私達の課題なのだろう」

 

「期待されている意味も含まれているだろう」

 

「期待・・・・・必ず応えてみせる」

 

「ところで、トレーナーは?」

 

サイレンススズカの素朴な疑問に、皆は「そういえば」と風に疑問符を浮かべた。少し気になって捜索してみると、直ぐに発見した。エプロンを着て調理場に立って料理を作っていたのだった。彼女達が地図を見ていた短時間で山盛りのおにぎりが既に作り終えていたようで、今はケバブを焼いていた。

 

「眼帯付けてるから、ヤクザか極道の人が料理を作っているみたいだね」

 

「コラッ、テイオー」

 

「お兄様の手作り料理は楽しみ」

 

「マスターの料理は様々な栄養を得られる工夫がされている上にとても美味であります」

 

「主夫だな」

 

それから他のウマ娘達も合流し、腹の虫を鳴かすオグリキャップが「美味しそうだ・・・・・」と呟いた。

 

「トレーナーのおにぎりは故郷の味がして好きだ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、最高だ。叶うことならこの先もずっと・・・・・それこそ、レースから身を引いても毎日食べていたいぐらいだ・・・・・」

 

トウカイテイオー達の間で衝撃が走った。シンボリルドルフがコホンと咳を一つ零す。

 

「他意がないのはわかっているが、誤解を招くような発言は控えた方がいい」

 

「誤解?」

 

「トレーナーとウマ娘の関係じゃなくなっても、トレーナーさんのおにぎりを食べたいがために毎日一緒にいるという事だ」

 

「あぁ、ちゃんと理解しているぞ」

 

そう返すオグリキャップだったが・・・・・。

 

「たとえ私がいつか引退しても、私とトレーナーが結婚すれば・・・問題ないという話だろう?」

 

―――衝撃、再び。トウカイテイオーが食って掛かった。

 

「おにぎりを理由に結婚とか、そんなのダメだよっ。それじゃトレーナーが好きじゃなくて、トレーナーの作るおにぎりが好きで食べたいから結婚したいみたいじゃんっ」

 

「そうですわ。淑女としてそのような理由で結婚なんて、もっと未来のことを大切にお考えになさいませ」

 

「? 私の未来にとっては重要な事項なんだが・・・・・」

 

至極不思議そうにメジロマックイーンの発言に小首を傾げたオグリキャップへライスシャワーも窘めた。

 

「あ、あのね・・・・・? 皆、お兄様のことが好きでもないのにけ、結婚をしたいって言うのはダメなんじゃないか、って思ってると思うの」

 

「なんだ、そんな事なら・・・・・」

 

そこで胸を張るオグリキャップ。

 

「私はトレーナーと初めて会った時に一目惚れしていたから問題ないな!!」

 

「最終的にとんでもないカミングアウトが飛んできた!?」

 

メイショウドトウがおっかなびっくりでオグリキャップの発言に尻尾が立つほど驚倒した。同時に重圧なプレッシャーを感じて身体を委縮させ、恐る恐るある二人へ目を向けると。

 

「・・・・・ヘェー? ボクのトレーナーを色目使うウマ娘がまだいたなんて驚きダナー」

 

「驚倒一色とはまさにこのことだな。認めよう・・・テイオーだけかと思っていたが、どうやら無礼(ナメ)ていたのは私であったことを」

 

トウカイテイオー、シンボリルドルフ。ハイライトがなく瞳孔が開いた双眸でオグリキャップを見つめていた。小さく悲鳴を上げ、同じく怖さで震えるライスシャワーと抱き合い怯えるメイショウドトウ。

 

「―――トレーナーと結婚をするのはボクだァーーー!!」

 

「トレーナーさんには助けられた恩もある上に私を無敗の七冠にまで導いてくれた。コースだけが皇帝は発揮しないとは限らないぞ」

 

「? トレーナーのことが好きなら、この国は一夫多妻制だから問題ないだろう」

 

「「気持ちの問題だ」」

 

一部が恋路の騒動をしている他所に他六人のウマ娘は三人を放置、トレーナーにトレーニングについて話しかけに行っていた。

 

「トレーナー。美味そうな肉料理を作っているがトレーニングはしないのか」

 

「・・・・・既に用意したコースで自由に走る」

 

「マスターの指示は受けられないのですか?」

 

「・・・・・料理」

 

「あ、たくさん食べるウマ娘がいるから今からじゃないと間に合わないですか?」

 

肯定と頷くトレーナー。

 

「・・・・・地図、見た?」

 

「えっと、見ましたが・・・・・」

 

「・・・・・トレーニングコース、タイム測れる」

 

「それで?」

 

「・・・・・レコード、願いを叶える」

 

その意味は―――サイレンススズカが皆の代表として口にした。

 

「この一週間のトレーニングでレコードタイムを出したら、ご褒美がもらえるという事ですね?」

 

正解だとまた頷くトレーナーにナリタブライアン達の中でトレーニングを意欲的にやる気が出て来た。ミホノブルボンも問う。

 

「それは、トレーニングコースの数だけご褒美を願えるのですか?」

 

「・・・・・その通り」

 

すると―――。

 

「トレーナー!! ボク、頑張ってくるねー!!!」

 

「待てテイオー!! 大逃げはさせんぞ!!」

 

耳を傾けていたのかトウカイテイオーとシンボリルドルフが八人を置いて疾風怒濤の如く駆け出して行った。オグリキャップも静かにいつの間にかいなくなっていたことに残されたウマ娘達は当然の言動を起こす。

 

「待ちなさい!! それは抜け駆けというものですわ!!」

 

「面白い一週間となりそうだ」

 

「ラ、ライスも頑張る!」

 

「マスターの考案したトレーニングを全うするのが私の務めです」

 

「皆、凄いやる気だねぇ・・・・・」

 

「それだけトレーナーのご褒美は楽しみなんだって」

 

三人の後れは取らないと、一足遅く追いかける彼女達を見送りながら調理する手を止めないトレーナーであった。

 

 

コースは芝、バ場は良の10Kコースを走り始める。長距離に長けたウマ娘でもヘトヘトになるが長く走り続けたいウマ娘は臨んで走るのであった。

 

「さすがに速いな、スズカ」

 

「くっ、やはりスズカさんは強いですわ・・・・・・!!」

 

「でも、ライスだって・・・・・!!」

 

「負けん!!」

 

「ふっ・・・・・!」

 

大逃げするサイレンススズカを追いかけるシンボリルドルフ、メジロマックイーン、ライスシャワー、ナリタブライアン、ディープインパクト。栗毛のロングヘア―をなびかせて、前へ前へと走り続けるサイレンススズカは楽しそうにだった。再び故郷の地で走れること、友人達と一緒に走れることが心を喜ばせて、末脚にもっと力が入ってさらに後続と突き放してしまうのは仕方のないことであろう。

 

「一週間もあるんだ。焦らず走れば安定したレコードも狙える!!」

 

一人誰もいないトレーニングコースで走ろうとするトウカイテイオー。そこは最も他のコースと離れているゴールが山頂というコースだった。延々と心臓破りの坂が続き、走れば走るほどトモに負担がクる最も過酷なトレーニングコースである。トウカイテイオーは走って行くうちにこのコースはどんなものなのか悟り、焦らず自分のペースで走る。

 

「ダート・・・・・砂のコース、何故だか故郷のカサマツの雰囲気が感じてとても懐かしい」

 

コース用の砂を足で掬うように掻いて走るオグリキャップもまた、懐かしさを覚えていた。何故ならそこには誰もいない無人の観客席まであるのだから見覚えもあっても当然だ。

 

「・・・・・皆、元気にしているだろうか」

 

故郷の声援を背に受けて上京した背景があるオグリキャップは、皆の期待と想いを背負って最高のウマ娘になる事を故郷にいる友人と話して目標に立てた。だからこそ、何度もトレーナーとシンボリルドルフが並走している光景を見て決めたのだ。あのトレーナーならきっと・・・・・。

 

 

 

誰一人いないコースで走るメイショウドトウ。急な坂もある短距離コースでレコードタイムを狙っており走り切ってタイムを見れば、シンボリルドルフ達の事を考えるとこれではダメだという思いが過る。

 

「もっと、頑張らないとっ」

 

ナイスネイチャとミホノブルボンは地図を見た時から気になったコースへ訪れていた。九つあるコースの中で二つしかない、屋内で走るコースであったからだ。それに興味を持ちそこで走ってみるとすぐに実感した。

 

「何ここ、身体が重っ!? トレーナー、何てトレーニングを作った!?」

 

「酸素が低下、身体に重力が付加されている・・・・・なるほど」

 

過酷な環境の中で強いられる走りはウマ娘のストレスにもなる。つまりは精神的な負担にもなるコースの中で延々と走らせるのがこのコースの特徴であることをミホノブルボンは悟ったのだ。

 

「精神を鍛えるコース・・・・・流石ですマスター。ライスとドトウもこのコースに誘いましょう」

 

全てのコースを走り切らず、その日選んだコースで走ったウマ娘達は思い思いに実になったトレーニングをこなしたのであった。

 

 

全員が戻ってくる頃には疲労困憊の状態だった。休憩してから別荘に帰ってきたものの、用意されたトレーニングコースは学園の実寸大のコースと一味違い全員の疲れの色が顔に出ていた。

 

「あ、脚が・・・・・」

 

「疲れましたわ・・・・・」

 

「ふぅ、トレーナーのトレーニングはいつもながら過酷だな」

 

「まったくだ」

 

身体に鞭をいれて別荘の中に入るとすぐにトレーナーが席に座ってパソコンのキーボードを叩いていた。

 

「トレーナーさん、ただいま戻りました」

 

「・・・・・お帰り。風呂、その後夕餉。マッサージ要望ならその後」

 

「トレーナーのマッサージ!? わーい!」

 

「では、お言葉に甘えてお願いしますわ」

 

「そうだな。久し振りにしてくれるなら願ってもない」

 

「おにぎりだけじゃなく、毎日マッサージしてくれたお母さんのようでトレーナーのマッサージも好きだ」

 

「オカンか」

 

「いえ、おと―――何でもないです」

 

夕餉の前に掻いた汗を流すべく、部屋から着替えとタオルを持参して入浴場へと赴いた。そこは個室で身体を洗い、大勢で入浴する設計をされていた風呂場。夕餉の時間が控えてるから長くは入れないものの、疲労回復効果がある温泉の源泉から直接引いてるので、ウマ娘達はここでリラックスできる。そして、夕餉を迎える前に広間に集まると豪華な料理の数々、デザートが盛りだくさんの光景が視界に入った。

 

「まるで宝石の宝箱のようなスイーツの山ですわ!!」

 

「あ、これ凄い!! アニメで見る骨付き肉のまんまだ!!」

 

「ふっ、食い甲斐があるな」

 

「早く食べよう!!」

 

「うわー、食欲そそる匂いで充満してますわー」

 

お腹をすかせた猛獣を筆頭にトレーナーが不在でも各々と席につき、合掌してから食べ始める。しばらくして特製ニンジンポタージュを持ってきたトレーナーも空いている席に座る前に皆の前に置いていく。

 

「あの、トレーナーさん。このスイーツのカロリーは・・・・・」

 

「・・・・・極力控えめ、一週間トレーニングすれば毎日食べても問題ない」

 

「食べ尽くしますわ」

 

本番、G1を臨むよりも気迫を見せるメジロマックイーンはスイーツ好きだが太りやすい体質なのだと嘆いていた時期があったが、トレーナーのスイーツを食べてからは太らなくなり、懸念が解消。彼女の唯一の楽しみとなったのだ。

 

「お兄様、美味しいです」

 

「・・・・・大きく成長、たくさん食べる」

 

「が、頑張ります」

 

隣席のライスシャワーに骨付き肉を取り寄せ、食え、と念と一緒に突きだす。それを受け取って小さい口で一生懸命食べるライスシャワーは「あ、美味しい」と感想を口にした。

 

「トレーナーさんは食べないの?」

 

「・・・・・味見」

 

「この量を味見したとならば、流石に食べれなくなる程だろう。・・・・・ん、これは人参のポタージュだね。人参の甘味がしっかり出ている。こんなに良い香りをさせて、本当に栄養士の資格を持っているトレーナーとは重宝ものだね」

 

嬉しそうにしてポタージュから手をつけたシンボリルドルフが、冷静にそう分析するシンボリルドルフ。自分達のために不味い料理はだせないという理由で味見をして食べれなくなったのならば、納得できる。とシンボリルドルフの考えだ。

 

「うん・・・・・。とても濃厚な味わいだ、口当たりも良く、素晴らしい。既製品なら常備してもよいかなと思わせる程にね」

 

本当に美味しく飲むとあっという間に飲み干してしまい、少し勿体ないことをしてしまったと念を抱いた。シンボリルドルフはおかわりを要求した。

 

「トレーナーさん、これのおかわりはあるかな」

 

「・・・・・ない」

 

「そんな・・・・・」

 

それ限りだと告げるトレーナーの言葉によって、次の瞬間にはふにゃりと力なくシンボリルドルフの尻尾が垂れ、耳はしょんぼりと萎れる。何故かオグリキャップも同じようにしょんぼりしていた。―――ふと、本当に不意にあることがトレーナーの中で思い浮かんだのだ。しょんぼりなシンボリルドルフ、という言葉が。

 

「・・・・・シンボリルドルフがしょんぼりルドルフになった」

 

 

ぶーッ!!?

 

 

死角からの不意打ちによるどうしようもないダジャレが、トレーナーから発信されそれを聞いた一部のウマ娘達が思いっきり噴いた。ダジャレを言うようなトレーナーだとは断言するほど思わないでいたので、まさかの発言でこの場にいる殆どが信じられないものを見る目でトレーナーへ視線を向けた。

 

「トレーナーさんがダジャレを言ったぁー!?」

 

「『シンボリルドルフがしょんぼりルドルフになった』・・・・・ふっ・・・・・くくく!」

 

「テイオ~・・・・・ッッッ」

 

「あ・・・・・ごめん・・・・・」

 

一部、噴いたウマ娘に被害を受けたウマ娘の間で修羅場と化したが、そんなことよりもあのトレーナーがダジャレを言う新鮮な瞬間を聞いてしまったことに色めき立つ。そしてダシにされたしょんぼりルドルフもといシンボリルドルフは、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め「トレーナーさんもダジャレを・・・・・」と心の中では嬉しく感じて葛藤していた。

 

「・・・・・テイオーのていをなす。どうだトレーナーさん、ダジャレに関しては私の方が一枚岩だよ?」

 

「ちょッ!? ここで張り合ってダジャレを言わなくてもいいんじゃないかな!! しかもボクをダシにして!!」

 

「『テイオーのていをなす』・・・・・あはははっ!」

 

一人ナイスネイチャがツボったようで腹を抱えて笑っていたので、それがシンボリルドルフにとって自分のダジャレで楽しんでくれたと、心から喜んだ。

 

「どうやらナイスネイチャは私の方が面白かったらしいよトレーナーさん。ふっ、私の勝ちという事だね」

 

「・・・・・?」

 

どうして勝負ごとになった? 心底から不思議そうに首を傾げるトレーナーだった。

 

「・・・・・しょんぼりルドルフ、明日も作る」

 

「それは嬉しいが。できればその呼び方は他の者達の前では言わないで欲しい。正直、マジでお願いする」

 

「(何かに残念がってしまったルドルフだと聞いたら簡単に想像できるだろうからな。それがスープが飲めなかったからだとは、誰も思わないだろう)」

 

この場にエアグルーヴがいなくてよかったかもしれない。心中ナリタブライアンは黙々と三つ目の骨付き肉を齧り付きながらそんな念を浮かべていたのであった。

 

 

 

夕食後。風呂に入り直すウマ娘以外は、就寝の時間まで寛ぐ。トレーナーのマッサージを施されたいウマ娘達はマッサージ用にもう一つ、時間の流れが異なる別の空間へ招かれ、呼ばれるまで他のウマ娘達は待機。

 

マッサージを受けて戻ってきたウマ娘達は皆「脚が軽い」「体が軽くなった」と好評と共に、体を触れさせた気恥ずかしさに赤く染めたウマ娘もいたが、気持ち悪さは感じなかった。

 

 

「さて―――今日のトレーニングの振り替えをしようか」

 

シンボリルドルフが皆を集め、今回のトレーニングについて語ろうとしていた。

 

「私達は芝のコースを走ってみたが。案の定、体力の分配がカギなコースだったよ。まずはミホノブルボンとナイスネイチャが走ったコースはどうだったか聞かせてもらえないかい?」

 

「めっちゃキツかったです。その一言で尽きますよー」

 

「建物中で走るコースは、酸素が少ない重力の負荷も加えられたコースでした。その負荷の影響により心肺機能や身体能力の向上が目的されたトレーニングだと推測されます」

 

「ボクが走った長距離のコースは心臓破りの坂だったよ。走れば走るほど、上れば上るほどトモに負担が凄く掛かって、頂上に辿り着いた時はもう歩くことすら大変だったよー」

 

「私が走った短距離のコースは何度も坂を上ったり下りたりするばかりでした」

 

「私はダートのコースだった。だが、私が知るダートとは違い、速く走らなければ足首まで沈む沼のような感じだったな」

 

全員が走ったコースの特徴の情報を共有し合い、そして次は自分達もそのコース、またまだ走っていない未経験のコースへ走ろうという話し合いは、すべてトレーナーの思惑を見抜くためだった。

 

「やはり、トレーナーの作るコースは従来のコースとは違う様子だね」

 

「いや、それ以前にあの人は他のトレーナーと次元レベルまで違いますから」

 

「ええ、普通の人間はウマ娘の全速力の走りに並走できないのに、トレーナーは平然と出来てる時点で普通じゃありませんわよ」

 

「普通であろうとなかろうと、面白いトレーナーでいいだろう」

 

それで締めくくろうとするナリタブライアンは更に付け加える。

 

「そんなトレーナーに集まった私達の事を周囲から何て言われてるか知ってるか? チーム『シリウス』は魔の巣窟だと」

 

「ど、どうして・・・・・?」

 

「私達が怪物のような強さを誇っているからだ」

 

「えーと・・・・・それ、アタシも含まれてる? 皆のように怪物みたいな強さも速さもないんだけど」

 

ナイスネイチャが自嘲気味にそう言うが、他の皆からすれば不思議そうだった。

 

「十分強いじゃんネイチャだって」

 

「ああ、どんなレースにも上位に入ってる常連ウマ娘だ」

 

「いやいや、上位だって毎度3着のアタシですよ? そこまで怪物呼ばわりされるほどじゃないって」

 

「3着にも成れないウマ娘達からすればあなたも強いですわよ。卑屈になる必要はございませんわ」

 

「ネイチャさんは強いですよ・・・・・? ドジばかりの私なんかよりずっとキラキラ輝いてます」

 

「ライスも、ネイチャさんと走っても負けてしまうことがありますからじ、自信をもって・・・・・!」

 

周囲からの称賛の言葉を投げられ、精神攻撃を受けたナイスネイチャが動揺を装って照れ隠しをした。

 

「ちょっ、それ言ったら二人だって強いじゃん! ライスに至ってはアタシより1着でゴールしてるし!」

 

「そ、それはたまにだよぉ~・・・・・やっぱり、必ずレースに出る時に上位でゴールできるネイチャさんはほんとうにすごいよ・・・・・」

 

「諦めろネイチャ。ここにいる全員、キミの実力を知っている。だから素直に喜んで受け止めるべきだ」

 

ポンとナイスネイチャの肩に触れるオグリキャップの言葉に、サイレンススズカも同感だと首肯した。

 

「そんなあなたをトレーナーがいつか必ずGⅠで一着にさせたいと願っていたわ。だから自分を蔑んじゃだめよ?」

 

「トレーナーが・・・・・はぁ~・・・・・スズカさんもトレーナーに染まってきてますよね」

 

「え、そう、かな?」

 

「言動と言うか、何というか言葉に表せませんけど何となくそう感じます」

 

指摘されてもよく分からない風に小首を傾げるサイレンススズカ。第一、トレーナーに染まっているというのはどういうことなのかすら分かっていないのだ。

 

「まぁ、スズカさんはトレーナに色んな景色がある場所へ連れて行ってもらってるようですから、一緒にいる時間が長いからでしょうね」

 

「うーん、最近はないのだけれどね。ネイチャもたまに二人きりになる時があるでしょ?」

 

「あはは・・・お恥ずかしいことに商店街の人達と仲のいいところを知られちゃいましたけどね」

 

頭の後ろに手をやって照れるナイスネイチャ。

 

「うむ。トレーナーさんは誰かと接することを疎かにしないからな」

 

「でも、トレーナーはカラオケに連れて行っても絶対に歌わないけどね」

 

「歌うところが想像できないな。下手でもなければ上手くもないかもわからないが、テイオー。トレーナーは下手だから歌わなかったのか?」

 

「ううん。音楽を歌ったことが無いんだってさ。教えてもちゃんと歌えるかわからないけどさ」

 

その際、二人きりの部屋という事で甘えに甘えたことは内緒なトウカイテイオーであった。

 

「まぁ、あの寡黙と無表情じゃあ当然でしょうね(言えませんわ。トレーナーと一緒に応援歌を歌っていたなんて)」

 

「で、でもお兄様は優しいよ?(ライスを連れて行ってくれた水族館は楽しかったなぁ)」

 

「優しいと言えば、トレーナーは学園で色々な意味で人気だ。トレーナーがこの学園に来てからは被害者も目に見えるほど減ってきている」

 

その言葉の意味はシンボリルドルフ達も直ぐに察した。

 

「鳴りを潜めていますが、スキを見せたら今に出も襲い掛からんあの視線は変わりませんわね」

 

「アタシ達という存在が受け入れてくれているのは感謝しているけどさー。あーいう奴等に感謝しろってのは絶対無理な話だわ」

 

「ええ、そうね」

 

「ボクも話しかけられたなー。その後は特に何もなかったけどさ」

 

「ルドルフ、お前はどうだ? 奴らは顔の容姿と胸の大きさでこの身を選ぶようだぞ。現にタイキや姉貴、スカーレット、クリーク、他にもそういう連中が襲われた。そして未遂でトレーナに助けられたが」

 

「ああ、問題ない。私もトレーナーさんに助けられた以降は襲われてないよ」

 

「ええ!? それ、本当なの!?」

 

吃驚するトウカイテイオー。そんな噂すら聞いたことが無い話に目を丸くして問うとシンボリルドルフは肯定した。

 

「信じられないのは無理もない。学園側が出回る前に伏せたからね。しかもその時は無敗の三冠娘と称されるようになったその後だ。三冠ウマ娘が学園内で強姦事件が遭ったなど世間に知られたら非常に不味いのさ。その際、前のトレーナーは私を守る為に二度と歩けない体にされてしまった」

 

「それでか。警備員と寮長を勤めていただけの男がお前のトレーナーになったのは」

 

「前トレーナーの強い要望だったんだ。自分の代わりに私を守るトレーナーになって欲しいと彼に懇願したんだ。最初は断れたが、本物の熱意に結局最後は折れて正式な試験を合格し、トレーナーライセンスを獲得してから私のトレーナーになってくれたのさ」

 

「・・・・・当時その話題で学園が騒いだが、そんな裏話が遭ったのか」

 

自分には関係のない話だと気にしないでいたが、実際にそんな話を聞かされると色々と納得できる部分が出来た。

 

「トレーナーとしての知識は私の前トレーナーから吸収し、今や中堅トレーナーとして今に至る。それからしばらくして君達も集まってきたのさ」

 

「私はお前と並走している男を見て興味が沸いたのさ。その話題すらウマ娘達の間でもちきりだったし、気にならない方がおかしいだろう?」

 

「ああ、ブライアン。キミが急に私ではなくトレーナーとなったばかりの彼と並走してみたいと言われたときは驚倒一色だったね。そして惨敗した」

 

「・・・・・うるさい。次走る時は絶対に勝つ」

 

「ふふ、そう言って今現在進行形、何十回挑むたびに負かされてるがね」

 

ルドルフッ! と怒気を露にするナリタブライアン。クスクスと面白そうに笑うシンボリルドルフは次いでナイスネイチャやオグリキャップ達にも話しかけた。

 

「何度もトレーナーに負かされ、その後自ら懇願して担当になってもらったブライアン以降。君達もスカウトを受けて今に至るな」

 

「アタシは恐れ多すぎて断ったんですけどねー。でも、こんなアタシでも輝けると言われちゃあ、ね」

 

「私は一目惚れもあったりするが、決定的なのは故郷の味を作り出せるトレーナーの手料理だったからな」

 

ご飯で釣られた感が強いオグリキャップはともかく、他トウカイテイオー達もトレーナーと交流を経てから担当ウマ娘になった経歴の話をした。

 

「ふぅ、少し喉が渇いたね。飲み物を持って来よう」

 

「それならボクも!」

 

就寝までまだ時間がある。話し合っていると喉が渇き、皆の分も持って来ようとする二人は―――見てしまったのだ。

 

「・・・・・w」

 

大量のアップルパイの前で馬の耳と尻尾とは異なる、狐の耳と九つの尾を生やす小さな子供が幸せなオーラを発し、ほわほわと花が舞っているような幻視をさせるトレーナーをだ。

 

 

え・・・・・誰あの子・・・・・?

 

 

最初はそんな念と疑問を抱くが、ふと子供の姿を改めて見たら・・・・・。

 

「・・・・・まさか、トレーナーさんか?」

 

「・・・・・?」

 

右眼の眼帯、金色の左眼という特徴とこの場に居る人間を考慮し半信半疑で問うと、振り返る子供は小さく頷いた。次の瞬間。

 

「ええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!?」

 

 

トウカイテイオー絶叫。

 

 

後にその叫び声で駆け付けたナリタブライアン達も幼くなったトレーナーを見て愕然するまで30秒も掛からなかった。

 

「・・・・・クリークがいたら、絶対にお世話をしたがるな」

 

確定事項の未来を想像するオグリキャップ。あっという間にトレーナーに群がって自分達とは異なる耳と尻尾の感触を堪能しては、驚嘆するシンボリルドルフ等を見てそう思わずにはいられなかった。

 

「すごっ、本物・・・? ふわふわでもこもこって触り心地が堪らないんですけど」

 

「お、お兄様・・・・・可愛い・・・・・っ」

 

「本当ですわ。どうして今まで何も仰らなかったのです?」

 

「「「・・・・・(ガン見するナリタブライアンとディープインパクト、サイレンススズカ)」」」

 

「エラー発生。未知の感情に『戸惑い』が発生中、精神が不安定になりました。この胸の奥から湧き上がる温かな気持ちは一体・・・・・」

 

「えへへ・・・・・」

 

トレーナーの新事実を知ったその日、この状態のトレーナーと添い寝をしたい欲求が沸いたウマ娘が居てもおかしくはなく。

 

「「「(ご褒美は小さいトレーナーと一緒に寝たいっ!!!)」」」

 

明日のコースでレコードを残す意欲が更に高まったのは言うまでもなかった。

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