アザゼルside
トレセン学園から協力の要請の連絡が届いた俺は女の園と言っても過言じゃない学園へ足を運んだ。俺が差し向けたんだが、Dが四年間も兵藤家のガキ共からウマ娘達を守って掴み取った信頼は俺が思っていたより凄まじく厚い。特に身内に近いウマ娘程、依存に近い感情を抱いていたのがあの葬式で知った。
その一人から呼び出された俺を出迎えたのが・・・・・。
「お待ちしておりました、アザゼル教諭」
シンボリルドルフだ。
「俺の協力が必要ってなんだ? Dに関する事か?」
「ええ、トレーナーさんの仕事部屋にある開かずの引き出しを開けてほしいのです」
「・・・・・なんだそりゃ?」
肩透かし、拍子抜けな頼みだった。そんなの、その手の業者に依頼すればいいだろって言ったがシンボリルドルフはこう言った。
「すでに頼みました。しかし、鍵穴であって鍵穴ではないのでどの業者も開けることが不可能だったのです」
「どういうことだ?」
「百聞一見、直接見て頂きたい」
背を向けながら踵を返すシンボリルドルフと共に校内へ歩く。あいつの仕事部屋に入るのは今回が初めてだなそう言えば、と廊下を歩き階段を登ってある一室の部屋に入って行くシンボリルドルフの先にはウマ娘達が入り浸っていやがった。Dの元チームのウマ娘だ。全員からの視線を一身に浴びつつ、あいつの作業机を触れるシンボリルドルフが指す引き出しを見た。
「・・・・・」
鍵穴は細い棒状のものであれば入れられる構造になっていた。細かい溝や引き金の類は一切ない。これじゃあどんな鍵屋でも開けることができないな。しかもこいつは・・・・・。
「魔法が施されているな。誰にも開けられない、壊されないように魔法で施錠されている。おそらく、鍵穴と思うこれに嵌る何かがあるはずだ」
「魔法のことは分かりませんでしたが、鍵は調べました。ですが、見つからない現状なのです」
「本当に全部調べ尽くしたか? 手が出せないようなところとか物とかないのか?」
「手が出せない物・・・・・」
どーやら心当たりがあるようだな。その中にもなかったらもう壊してでも開けるしかあるまい。視界に入るあいつの警備員の制服、もう見ることができないんだなとちっと寂しい気持ちが湧いてくる。・・・・・ん?
「・・・・・」
なんか引っ掛かった。壁に掛けられたDの制服に近づき、縫い付けられている襟元の短い鍵状を探る眼で凝視した。これから微弱な魔力が感じる。Dの奴め・・・・・。
「こいつだ」
「・・・・・それが?」
襟元から無造作に鍵を引きちぎった。また開かずの引き出しの鍵穴を覗き込みながら差し込むと、ギザギザの突起が棒の中に凹んでしっかり奥まで押し込めれた。すると、小型の歯車の形の魔方陣がうかんで、鍵を捻ると回転する歯車と同時にガチャリと音が鳴り、ウマ娘達が一斉に反応した。
俺もこれで開けれたと確信して、開けれなかった引き出しに手を掛けて開けた。中には・・・・・ぶ厚い本と真紅色の宝石が一つ入っていた。本の方はウマ娘達に渡し、俺は宝石の方を手に取った。
「トレーナーさん・・・・・ストーカー皇帝って・・・・・」
「私をチームに入れた理由が、似たような事されそうだからって・・・・・」
「トレーナー、アタシも忘れないよ・・・・・」
「マスター・・・・・」
「トレーナーさん・・・・・」
どうやら、ウマ娘と過ごした日々を日記にした本らしい。仕事上の結果報告書のつもりだったら俺より真面目に働いていたようだなD。本に夢中なこいつらに宝石を見せつける。
「こいつは俺が預かっていいか」
「その宝石のような物は?」
「それを調べるために預からせて欲しいんだ。Dに関する物だったら、俺みたいな存在しか解明できんからな」
半ば強引だがウマ娘達は誰も異を唱えなかった。というより、本の方が読むことに集中したいからだろうな。さて、これで俺の役目も果たした。夜までこの宝石を調べるかね。
―――その結果が、未だ生きているDへの道標であることが判明し、刃狗チーム全員を派遣することに決めたのは数日後だった。
千葉県大洗町―――。
真夜中。港で待つ俺の元に鳶雄達が集結した。急な依頼を申しつけてもちゃんと来てくれるあたり、こいつ等も真面目な奴らだぜ。俺の周りの奴らはそういう奴が多いなって、そんなこと口にしたらシェムハザやバラキエルあたりが呆れられそうだな。
「久し振りだなお前達。急な呼びつけでも集まってくれて助かる」
「んで、俺たちを全員呼び出しての任務ってのは何だよ」
「アザゼル総督までいるということは、かなり重要なことがあるんですか?」
その問いに対して俺は懐から取り出した真紅の宝石を見せながら魔力を込める。新しい電池を入れてライトが点いた懐中電灯のように、宝石から光の一筋が暗い大海原へと伸びていった。
「その宝石は・・・・・?」
「あいつの遺品だ」
「あいつって・・・・・えっ? 特にこれといったものがなかったんじゃあ・・・・・?」
「あいつが隠していたひとつだ。ウマ娘達が俺に声を掛けなければ俺も気づけなかった代物だ」
そして、いまでも伸びる光の意味はこいつらもわかってきたようだな。
「任務は簡単だ。この光を辿って要人の保護をすることだ」
「海の先にどうやって?」
「俺の船に乗って行く」
その昔、釣りを極めるために買ったが、いまでは使わずお蔵に仕舞っていたクルーザーだ。久々に使うから急いで整備することになったが、一部の部品を交換するだけで済むほどまだまだ現役だ。
「そして、念には念を入れて助っ人を呼んだ。任務中は協力しあってくれ。ほら、船に乗るぞ」
「助っ人を?」
誰だろうと停泊していた船に乗り込む鳶雄達が合流した助っ人を見て、一行は目を丸くした。
「あ、あなたは!」
「やぁ、久しぶりだね」
スーツにシルクハット、ステッキという格好の男性―――メフィスト・フェレスが座席に座っており、彼の目の前にはバイザーを吸ってる外見は金色に輝く体毛で、背丈が幼稚園の年長児ほどしかない黒い肌の老人―――猿がいた。
「あの、こちらの方は?」
「闘戦勝仏、ま、猿の妖怪の孫悟空って言えばわかるだろ。それも初代にあたる」
「おーおー、儂をここまで連れておいて雑じゃねーの」
ニヤリと笑みを浮かべる彼の正体を知り、この組み合わせは確かにとんでもない助っ人だということだけは理解した。だからこそある疑問が抱く。
「総督、俺達だけでは荷が重いってか?」
アザゼルの顏が、これから向かう戦場を死地として決めた兵士のようなになった。
「・・・・・最悪、天皇家の一族どもと戦闘が起きるかもしれないと思っている。誠に一香まで来るとなると、俺達が本気でも勝てにくいからな」
え”っ!? と愕然しないでいられないでいる鳶雄達と正反対に朗らかに物申すメフィスト。
「穏やかではない話だね。元は自分の子供と自分たちの一族の出の者だと言うのに」
「元親の方は全力で抗議するし、何なら連中を妨害するだろうが、一族の連中は禁忌の存在を決して許さないのさ。件の莫大な光を見たらなおのこと、日本の安全の為に生かしておく理由はない」
「当主ですらかい?」
「・・・・・良くも悪くも、不器用な男なんだよ」
エンジンを掛けて操縦桿を握り、ラヴィニアに持たせた宝石から発する光を辿って大海原へ駆ける。
「刃?」
その間の鳶雄は相棒の黒い狗が影をジッと見つめていた。敵意もなく警戒もしていないのに、何か興味津々に見つめているが鳶雄は不思議そうに見ている刃を見るしかなかった。
夜空に浮かぶ満月の光のみしかない光源の大海原を移動してから本土とかなりの距離を進んだ。未だ光の先が見えない中、ラヴィニアが上空を見上げた。
「理事」
短いラヴィニアの言葉にメフィストは小さく頷いた。
「ああ、アザゼルの読み通りだね」
「え?」
詩求子が思わず吐露した時、船を襲う衝撃が生じた。鳶雄達は激しく揺れるクルーザーの中で戦闘態勢に入り、甲板に躍り出で上空を見上げれば数多の人影が満月をバックにして宙を移動していた。一度だけ見たことがある魔法使いが着ているような白いローブ姿の集団が、四年前よりも遥かに多い人数で魔法を放ってきている。躱して海に着弾することが多いが、クルーザーを覆う堕天使式の防御魔方陣が発動するほど、魔法攻撃を受けている。
「本当に式森家が私たちの邪魔をしに来ているの!?」
「おいおい、マジで天皇家と戦うなんてことが起きやがったな」
「・・・・・いやー、どうやら上だけじゃないみたいだぜ」
古閑雹介が引き攣った顔で海の方へ指した。全員、その指の先を見やれば・・・・・海面を走り渡る数多くの人間達がクルーザーを追いかけてきている。
「冗談だろ!!? 海の上を走っているって、忍者しかできない芸当じゃあなかったのかよ!!」
「あんなことできるから、人類最強と世界に称することができたんだろうね」
「第一次と二次世界大戦時に世界各国の船を生身で挑んだ話が本当だったんだ・・・・・」
今の兵藤家はあんな感じなのに・・・・・と思い起こす記憶は傍若無人で一族の権力と権威に名声と地位に胡坐を掻く若者達。古くから生きて神器を所有していない本当の実力者の兵藤家は一味も二味も違うのだと、鳶雄達の認識を改変させられた。
「あいつら、神器がないんだよな。五大宗家とベクトルは違うけどよ。そんな一族からDみたいな人間が生まれるって、案外珍しくないのかもな」
「そりゃあ全員が全員、強いわけじゃないから当たり前でしょ鮫ちゃん」
話し合う綱生と雹介の隣で夏梅が暗いながらも、海を駆ける兵藤家の者達の中から特定の人物を探していた。
「Dの元お父さん、見当たらなくない?」
仲間達にしか聞こえない筈の声量なのに、どこからかはっきりと叫び声が聞こえてきた。
「―――元じゃない!!! まだ現役だぁあああああああああああ!!!」
「あ・・・・・聞こえていたみたいだよ?」
「てか、いたんだ」
同時に誠までいることが明らかになり、鳶雄達は人類最強との戦闘前に気を引き締めた。