翌朝。トレーナーは担当ウマ娘達とミーティングを始めていた。
「・・・・・今日も自由に走る」
「わかりましたトレーナーさん」
「・・・・・全部のコース、感想は残り五日後に提出」
「それは無理ではないですか? 場所によって距離がありますし、疲労によって満足に走れません」
「・・・・・全部走らなくていい。それぞれ好きに走って、そのコースを走った誰かが興味を持ったら、走ればいい」
とにかく誰でもいいからそれぞれ走ったコースの感想を書いてくれればそれでいい。それで全てのコースの感想がわかる。と言外するトレーナーに担当ウマ娘達はそれ読み取って今日も好きなコースに向かおうとする。
「ライス、ドトウ。今日も重力のコースを走りたいのですが私と一緒に並走してくれませんか。あのコースは恐らく身体に付加を掛けた状態で走れば、自ずと精神力とスタミナと末脚の強化に繋がる可能性があります」
「わかりました。一緒に頑張りましょう」
「よろしくお願いしますブルボンさん」
「今日は違うコースに行ってみよーっと」
「テイオーが走ったコースに挑戦してみますわ」
「レコードを狙うならまだ誰も走っていないコースでも行ってみるとしようか」
誘う者が言えば昨日走った者から聞いたコースに走ろうとする者がいて、同じコースを走ろうとする者もいれば違うコースに向かおうとする。皆、トレーナーの自由意志に従って別荘を後にしたのだった。
まずトウカイテイオーが誰も走っていないコースへ辿り着いた。そこは一言でいえばプールだった。ただしウマ娘の身長、脚の長さによって異なるが、トモまで浸かる程度の高さで、脚を前に運ぼうとすると水の抵抗力が生じる。
「どうして水着が必要なんだろうと思ってたけど、こういうことなんだねー」
しかも水の増減変更が可能なコースだ。走るのではなく泳ぐことすら可能なコースなので無意味がないトレーニングにトウカイテイオーは感嘆した。ジャージの下に水着を着込んでいたため、直ぐにトレーニングするのだった。
同じく違うコースに向かったシンボリルドルフは唯一タイムとコース無き直径十キロの範囲の森林の中を駆けていた。走るウマ娘を阻む大小様々な木々は同じコースを走るウマ娘として彷彿させ、追い抜き、差し抜き、大外からかわすよう意図が含んでることを察し、皇帝として走り続けた。
「ここは確か、各地のコースを模した実寸大のトレーニングコースだったな」
ナリタブライアンは、口にした通りのトレーニングコースに足を停めていた。九つある各トレーニングコースの中で一番を誇る広さであり、数も多い。短距離と長距離、コースの状態、どういう理屈なのかわからないが雨が降っているコースもあるのだ。しかもゲートまであるのでレース本番の体験が出来るという拘り感が凄く伝わってくる。各コースの中を通り抜け、目についた長距離のコースで走ろうと好きな位置のゲートの中に入ると扉が閉まり、そしてガコンとウマ耳の耳朶を刺激した。音がした方へ見れば無人のゲートの中にウマ娘の姿を模した木人形達が立っていた。
「はっ・・・?」
なんだこのコースは、とナリタブライアンが半ば唖然とした矢先にゲートの扉が開いた瞬間。全ての木人形が一斉に飛び出して駆け出して行った。
「なっ!? くっ・・・・・!」
自動で走る木人形に呆気取られて出遅れた。これが本番であれば致命的なミスだ。例えトレーニングコースの為に作られた木人形でも、ナリタブライアンは負ける事を許さず遅れながら追いかける。
―――因みに後からディープインパクトもこのコースに訪れナリタブライアンと同じ反応して出遅れたことは、本人達の秘密だった。だが、密かにトレーナーが様子を見に来ていたことに気付いていなかった。
「さてさて、ここはどんなトレーニングなんだろうねぇ」
ナイスネイチャは重力と酸素を制限する建物とは違う二つ目の建物の中に入った。距離は2400M。コースは芝の二つしかないゲート付き。そのゲートの中に入り扉が閉まると、隣のゲートが突如眩い光を放ち―――黒いナイスネイチャが現れた。
「ア、アタシ・・・・・? な、何で・・・・・?」
戸惑うナイスネイチャはその理由はすぐにわかる。前の扉が開き、慌てながらも出遅れず駆け出す。それは黒いナイスネイチャも同様だった。同じ速度、同じ腕振り、同じ末脚。コピーされた自分と走る奇妙なトレーニング。
「まさか、自分と勝負するトレーニングがあるなんて・・・・・!」
己の限界を超えるにはまず己を知る事が大切。トレーナーの考えそうなことにナイスネイチャは闘争心を燃やす。GⅠで1着を目標にしてくれているトレーナーの意思がここに詰まっている。そう思うとコピーの自分に負けられなくなったのだ。
「絶対に勝ってやるんだからっ!!!」
―――夜。
夕餉前に戻り、入浴中のシンボリルドルフ達は報告会を始める。
「皆、今日のトレーニングコースを走ってどうだった?」
「私が走ったコースは疑似レースだった。木製の人形と本番の如くレースをしたぞ」
「アタシは自分自身と勝負をするコースだったよー。結果引き分けでした」
「ボクは水に浸かった状態で走るコースだったー。掻き分けながら水の中で走るのは苦労するよ」
「ふむ。誰も走っていないコースはそういうものだったのか。実に興味ある。私が走ったコースはタイムもコース無き森林の中を延々と走るだけだったが、そこに走っているウマ娘がいると彷彿させるトレーニングならば実際のレースにも役立つかもしれないコースだ」
「これで全てのコースを走ったわけですわね」
メジロマックイーンの問いは全てのコースの情報が共有された瞬間でもあり、まだレコードを狙えるチャンスでもあることを示唆した。
「ならば、最終日は皆で走ってみるというのはどうかな? その日までトレーニングした自分がどれだけ他の者よりも速くなったのか疑似コースで確かめようじゃないか」
シンボリルドルフの提案に、反対されず採決された。
「感謝する。残り四日間は自分に適したコースを走るか、興味を持ったコースを走ることにしよう」
「ああ、その通りにしよう。明日はナイスネイチャが走ったコースで走るか」
「アタシもブライアンさんが走った疑似レースに挑んでみますね」
「ボクもー!」
和気藹々と、明日のトレーニングのことで盛り上がる彼女達は今夜も手作り料理を堪能した。そしてアップルパイを食べて小さくなってたトレーナーと触れ合って食べる姿に癒される。
こうして―――トレーナーの不思議な道具の中で六日間も時が流れる中でトレーニングを続け、皆が実りある時間の中で成長していった七日目の朝。ついに最終日を迎えた。皆、疑似トレーニングコースへと赴き、全員が2500Mコースのゲートに入る前にファンファーレと拍手が響いた。周囲を見回すとトレーナーがいつの間にか高台の上に立っていて、展開している魔方陣から音を鳴らしているのが分かった。そして風景がガラリと変わり有馬記念が行われる中山と同じ光景になった。いる筈もない多くの観客から盛大な拍手と歓声が沸き、本当にGⅠレースの場に立って挑もうとしている錯覚をさせられる。不思議と高揚感も湧いてくる。
「トレーナー・・・・・」
「ここまで用意してくれたのだ。トレーナーに今の私達の走りを見せつけよう」
シンボリルドルフの言葉に全員が頷き合う。勝っても負けても、例えトレーニングだろうとトレーナーの為に全力で走ろう!
そんな想いを胸に秘めてゲートの中に真剣な面持ちで入り・・・・・扉が開いた瞬間に駆けだした。
先頭は大逃げを得意とするサイレンススズカ。続いて二番シンボリルドルフ、三番ナリタブライアン。一バ身離れた位置ではナイスネイチャ、ミホノブルボン、ライスシャワー、トウカイテイオー。後方はメジロマックイーン、オグリキャップ、メイショウドトウ、ディープインパクトが並んで走っている。
そのままの状態で第1コーナーを抜け第2コーナーに突き進む。未だサイレンススズカが他のウマ娘達を引き連れて先頭、シンボリルドルフとナリタブライアンも変わらずで以下後方に走るウマ娘達もまだ仕掛けないまま第3コーナーへ。
「・・・・・」
一周目のフォームストレッチに入る担当ウマ娘達を静かに見やるトレーナー。1番から3番は変わらず、後方は入れ替わりが激しい、第2コーナーを走る頃にはメジロマックイーン、ミホノブルボン、トウカイテイオー、オグリキャップ、ナイスネイチャに続き、メイショウドトウ、ライスシャワー、ディープインパクトと順に走っていた。
「・・・・・」
ここでサイレンススズカが速度を上げた。異次元の逃亡者の異名は伊逹ではない走りを見せつけられ、シンボリルドルフ達も負けじと食らいついた。さらにトウカイテイオー達も第3コーナーに差し掛かる直前で動いた。誰よりも前へ前へと駆けるトウカイテイオー達だったが、ここであるウマ娘が大外から現れた。両手を後ろへ伸ばし、漆黒の髪をなびかせ飛ぶように走り抜けるディープインパクトが。
―――っ!!!
どんどん走り、トウカイテイオー達を追い越してディープインパクトが三番手のナリタブライアンまで並んだ頃にはサイレンススズカに迫るシンボリルドルフが外から追い上げてきた。
第3コーナーを通り抜けたところで、メジロマックイーンとオグリキャップが集団から抜けるように這い上がった。いや、後方にいるトウカイテイオー達も残り200Mのところで横一列に並んで追い上げて来た。手前の坂を上った時には先頭にいた四人も巻き込んで全力でゴールに向かって駆け抜けんと走る、その熱いレースを見させてくれる彼女達にトレーナーは眩しいものを見る目で細め、羨ましいとすら感じた。
そして、シンボリルドルフの言う通りに誰が勝っても負けてもトレーナーに自分達の走りを見せつけながら全員が最後まで走りゴールした。ファンファーレと拍手喝采がゴールをしたウマ娘達に送られる最中、全力で走り切った彼女達は全身で息をする。
「つ、疲れたぁ~・・・・・!!」
「ふふ、はははっ・・・・・みんな、本当に速くなったな。そう思うだろうスズカ」
「ええ・・・・・本当に凄く」
「ライス、速くなりましたね」
「ま、まだまだだよブルボンさん・・・・・」
「私が、こんなに速くなっていたなんて信じられない・・・・・」
「あはは・・・何とか頑張ったけど、みんな本当に速いわぁ~」
「ネイチャ、そう言うキミも十分に速いぞ」
お互い褒め称え、労いの言葉を掛け合っているとトレーナーが周囲の光景を戻しながら皆の前に空から現れ、疲労困憊の身体でもトレーナーの元へ集まるウマ娘達。
「トレーナー、私達の走りを見た感想はどうだ」
「・・・・・羨ましいほど熱いレースを見せてくれた。ありがとう」
「ふふ、感謝する側が感謝されてしまったね」
「トレーナー!! 頑張ったんだからご褒美をお願いするからね!!」
「・・・・・後でリスト書く」
今は・・・・・と、トレーナーが背中から六対十二枚の金色の翼を生やした。真紅の髪が金髪へと変わり、頭上に輪っかが浮かび上がり左眼が蒼色になった姿になった。
「・・・・・今の走りで足が負傷、休息と一緒に治す」
シンボリルドルフ達に向かって伸ばし、彼女達は柔らかい羽毛と安らかな気持ちにさせる温もりを与える翼に包まれた。
・・・・・温かい。
静かに意識を落として夢の中に旅立った担当ウマ娘達を、別荘までゆっくり歩きながら運ぶトレーナー。
翼に解放された時は、いつの間にか夕餉の時間で目の前にはこれまた豪勢な料理の数々がテーブルに並んで置かれていた。すぐにトレーニングしてもいいぐらい心と身体が回復していたが空腹には勝てず料理に手を伸ばした。
夕餉のその後は、皆にご褒美のリストを描いてもらうための紙をと筆を渡して解散。トレーナーは人工の夜天の星空を芝の上で寝転んで見上げた。
「・・・・・」
キラキラな星々が輝かせ夜天を彩る。自分が創造したとはいえど、やはり綺麗な星空を見るのは悪くないと過ぎていく時を忘れるほど見上げていたら、顔を覗き込んでくるシンボリルドルフと目が合った。
「こんなところで寝転がっていると風邪を引くよ」
「・・・・・温度調節」
「そんなことも出来るのか。凄いですねトレーナーは」
11枚の紙の束を手渡され、受け取るトレーナー。書かれてあるご褒美リストの内容はバラバラであるも、共通しているのは、買い物に付き合って欲しいというものだ。
「どうだい?」
「・・・・・問題ない」
「それはよかった。皆も喜ぶだろ」
トレーナーの隣に居座るシンボリルドルフも、真似て寝転がって星空を見上げる。―――ピッタリと横にくっついてだ。
「トレーナーさん。質問していいか」
「・・・・・?」
「私のトレーナーになったことを迷惑していないか?」
最初の出会いを経て三年経った今、聞いておきたかったことを意を決してシンボリルドルフは問うた。警備員だけならともかく、学園の理事上の権限で女子寮の寮長まで務めることになった事実は、当時の学園の状態を鑑みてもほぼ女子生徒全員から反発を受け、トレーナーを拒絶したものの、行動を示して認めさせ続けたのだ。いつでもどこでも駆け付け、颯爽と現れては相手が誰であろうと一切合切躊躇せず、相手の言い分を無視して鉄拳制裁をする警備員。女子生徒達の間であっという間にそれが広がっていつしか警備員を寮長としても認めた時期に、シンボリルドルフが襲われたのだ。
「・・・・・トレーナーまでする気はなかった。あのトレーナーもあれから歩ける状態に回復した。何故戻ってこない。理解できない」
「あなたに全てを託したからだ。私も連絡のやり取りをして把握しているが彼は今でも別の学園でトレーナーを続けている」
「・・・・・なおさら中央に」
「知らないだろうが、あの人は頑固者だぞ。一度決めたことは決して曲げない筋金入りだ。トレセン学園から離れざるを得なくなった時点で、引退と決め込んだその後に万能薬という好都合な薬を手に入って回復したことは私も驚天動地の思いだったよ。だから私の方でもトレセン学園に戻ってトレーナーの復帰の文や電話、直接赴いて懇願したのだが・・・・・」
説得は失敗、それどころか託したトレーナーにどの面下げてそんな事できるのか、と拳骨をされたその旨を思い出しながら伝えた。
「・・・・・面倒くさい性格」
「ははっ。トレーナーさんも流石にそう思うか」
苦笑のシンボリルドルフはその後に返事を待った。トレーナーになるつもりはなかった、前のトレーナーに無敗の三冠娘という重圧を押しつけられた今のトレーナーは迷惑していないか・・・・・それがどうしても聞きたいのだ。
「・・・・・最初は迷惑だった」
「・・・・・」
「・・・・・そんなことする気は本当になかった。トレーナーでも無い俺じゃなくてもいいと思った。何度でも助けるつもりだった」
「・・・・・」
「・・・・・ナリタブライアンもそう。シンボリルドルフだけでも手一杯、しつこいからしょうがなくだった。諦めが悪い」
確かにその時のトレーナーの顏ったら本当に嫌そうに顰めていたと、脳裏で当時の記憶を呼び起こしていた。
『私のトレーナーになってくれ。ウマ娘と走り抜ける眉唾な話だと思っていたが、私を負かすトレーナーのお前に興味が沸いた』
『・・・・・嫌だ』
『何故だ』
『・・・・・シンボリルドルフ、手一杯』
『そうか・・・・・ならば、そいつを負かして私と入れ替わってもらえば問題ないな』
『ほう、「皇帝」を降すか。面白い受けて立つぞ』
そして模擬レースをすることになって、結果はシンボリルドルフが勝った。
『くっ、もう一度だ!』
『いいだろう』
それから七度もシンボリルドルフに挑み敗北を喫した。疲弊しても走り、その瞳には絶対に諦めない光が負けても死なない。トレーナーはその目を見て何かを感じた。昔の自分とは違うと・・・・・。
『ま、まだだ・・・・・っ!』
『大したスタミナだ・・・・・私もそろそろ限界だが・・・・・』
『・・・・・わかった』
『トレーナー・・・・・?』
『・・・・・トレーニングどころじゃない。何度負けても諦めが悪い、理解した。・・・・・トレーニングつける。それでいいか』
『ああ、願ったり叶ったりだ』
『・・・・・じゃあ、今からする』
『『え』』
『・・・・・誰が模擬レース、了承した?』
『『・・・・・』』
『・・・・・体力の限界、丁度いい。限界を超える』
『すまない。待って欲しい。今のトレーナーのトレーニングをしたら・・・・・ほら、脚がもうガクガクだ。万全の状態ではない時は控えた方がいいだろう?』
『私も、出来れば明日からで・・・・・』
『・・・・・問答無用、知ってる?』
『『―――っ!?』』
あの時のお冠なトレーナーのトレーニングはハードだったなぁ・・・・・と、遠い目をして心中で吐露した。それからトレーナーのことをさん付けをするようになったわけだが、それは別の話。
「・・・・・それから、オグリキャップ」
「彼女に関してだが、トレーナーはあっさり受け入れたのはどうしてだ?」
「・・・・・俺にはなかった、誰かの期待に応えたい熱・・・・・その想いを知った」
ナリタブライアンとは違うアプローチを受け、オグリキャップというウマ娘に興味を持ったのだというトレーナー。
「・・・・・ナイスネイチャも、現状甘んじてない。真っ直ぐ目標目指している」
「ああ。テイオーは?」
「・・・・・挫折させてから落ち込んだ。喝を入れたら懐かれた」
一体どんな喝をしたら懐くのか逆に気になるところだった。
「・・・・・メジロマックイーンは、襲われていたところを助けたら懇願された」
「彼女もそうだったのか」
「・・・・・ライスシャワー、メイショウドトウは勿体なかった。実力があるのに自分に自信がない。放っておけなかった」
「私も彼女達が速いと思うさ。GⅠを目指せる才能の持ち主だとね」
「・・・・・ミホノブルボン、適性距離じゃなくても無謀な夢でも、諦めない強い意思がある」
「スズカとディープは?」
「・・・・・前のトレーナーの時、面白くなさそう、辛そうだったから誘った」
そしてトレーナーの元に集まったウマ娘が今に至るという。
「・・・・・前、やる気が無かった。今は俺にはないものを持っているお前達を見る、楽しい」
「トレーナーさんが持っていないものって・・・・・」
「・・・・・夢、想い、諦めの悪さ、強い意思。交流している知人と友人以外、幼い頃に捨てた。絶対の強さしかない。それしか、ない」
欠落していると言ってもいい。トレーナーの独白に耳を傾けてシンボリルドルフは飛び跳ねる勢いで起き上がり、トレーナーの身体に馬乗りして覆いかぶさった。
「それらを持っている私達が羨ましい。そうなのだなトレーナーさん」
「・・・・・」
「だったら、トレーナーさんもまた拾えばいいだけの話だ。どうしてそうしない」
「・・・・・理由、ない」
「理由・・・・・理由か・・・・・」
思考の海に飛び込んで顎に手をやって考え込むシンボリルドルフ。何とも難解な事だとトレーナーを見つめてたら「あーっ!!」と叫び声が聞こえた。
「ボクでもしたことがないのに、ズルいよっ!!」
「・・・・・遅い、リスト表を渡すだけで何分かかっている」
「ル、ルドルフさんがお兄様に乗っかって・・・・・!!」
「し、刺激がぁ強すぎますぅ・・・・・」
「分析した結果、二人の体勢は騎乗位というせい―――ムグッ」
「何を言おうとしているのか分からないけど、言わせちゃいけないことだけは確かー!」
「多分、その通りかも」
「親密な関係だからこそできるのならば、私もしたいな」
「ルドルフさん、淑女としてその、慎みを持ってくださいまし(少々羨ましいですわね)」
「羨ましいかな」
シンボリルドルフを除くウマ娘達が別荘から出て来た。が、トレーナーは指摘した。
「いつの間に・・・・・」
「・・・・・最初から見ていた」
「「「最初から気付かれていた!?」」」
「ほう、つまり盗み聞きをしていたという事か・・・・・」
不穏な雰囲気を発するシンボリルドルフ。トレーナーから立ち上がろうとした脚が不意に掴まれた。
「え、きゃっ」
トレーナーの手によって引き戻された上に隙間がないぐらい密着さ
抱き締められて、背中から生やす金色の翼がトウカイテイオー達を包むとトレーナーの元へ引き寄せられた。
「・・・・・ここで寝る」
「雑魚寝ですの!? 外で寝るのはお行儀が・・・・・あ」
異を唱えようとするメジロマックイーン。しかし、翼が敷布団の代わりとして草原の上に広がって翼の温もりが伝わってくることに気付いた。
「背中が温かいな・・・・・」
「満天の星空を見ながら寝るって、滅多に出来ないことだよねー。世間のしがらみから離れた場所でのんびりと・・・・・あれ、トレーニングはしてるけどできてる?」
「お兄様に抱きしめられている感じで、温かい・・・・・」
「・・・・・そうね」
ウマ娘達を金色の布団の上で寝させるつもりのトレーナーは、近づいたトウカイテイオーに腕を枕代わりにされていた。もう片方の腕にはメジロマックイーンが寝転がっていた。
「と、殿方の腕を枕代わりにして寝るなんて・・・・・っ」
「あれー? もしかして緊張してる? あのメジロ家のマックイーンが?」
「緊張なんてしておりませんわよ!?」
「うるさい。寝ろ」
トレーナーの頭の上に寝転がっているブライアンから窘められ、納得できないがこの金色の翼の上で寝る選択肢がないことに渋々ながらも、トレーナーに寄り添って寝ることにした。しばらくして寝息しか聞こえなくなった頃合いを窺い、シンボリルドルフは顔を動かした。
「意外と、強引な一面もあるのだな・・・・・」
左眼が閉じているトレーナーに向かって静かに言葉を掛ける。密着状態だと互いの心臓の鼓動の高鳴りが良く伝わり、体温も感じる。きっと伝わっているだろう鼓動の速さと緊張と羞恥で熱くなった体温。そしてジャージ越しだが自身の身体の柔らかさも・・・・・。
「・・・・・」
新米トレーナーに引き継がれてからは『皇帝』たるシンボリルドルフが周囲から何を言われているのか耳にしていた。何も知らない者はトレーナーに対して揶揄の言葉を向けた。一度、真実を教えた方がいいのではと進言もした。
『・・・・・言わせればいい』
説明、訂正しようが簡単に疑惑は払拭できない。それを知っているのかあるいは単純に時の流れで忘れてもらう・・・・・もしくは面倒だから勝手に言わせてやればいいという意味なのかシンボリルドルフは判断に迷った。今でも揶揄する者はいなくはないが、トレーナーの女子生徒に対する活躍と貢献は学園にも通じて今では大多数が受け入れてくれる。
「・・・・・ふふ」
皇帝のウマ娘と女子寮の守護神。おかしな二つ名の組み合わせだが、数多のウマ娘の頂点に立つ女の皇帝を守る守護神、という構図だけなら中々サマになっていると思ってしまうのも仕方がない。だからこうして異性と身体を密着させることも許したのは二度目だ。これから許すのも後にも先にもトレーナーだけだろう。
「だから、これからもそばにいさせて欲しい。こうして私を強引に抱きしめてくれトレーナーさん」
眠るトレーナーに引き継がれて三年。前トレーナーとの軌跡と合わせて七冠という栄えある称号を手に入れたのだ。どちらも大切だしかけがえのない恩人達―――。シンボリルドルフはトレーナーの胸に顔を埋めて息を吸って、匂いを嗅ぐと薄く笑みそのまま眠りについたのだった。
―――そして翌朝。トレーナーとウマ娘達が特別な空間から現実世界に戻った。中で一週間過ごしても現実の世界はまだ一日しか経っていなかった。明日はトレーニングのお休みにして解散。
「・・・・・行くか」
トレーナーは己の分身体を作り、本体たる自分はコカビエル捜索に学園を後にした。