「あああああああっ、あり得ない、あり得ないんだからぁ!」
『ほら、とりあえず提督になる人を見つけなきゃいけないんだから歩く! せっかく燃料が無限に手に入る環境なんだから、提督を見つけちゃえば深海棲艦なんてコテンパンよ!』
頭に乗る妖精にせっつかれて歩きながら嘆く吹雪。この世界に来て五日目、フラッシュバックのようにタ級の砲撃を思い出しては頭を掻きむしり、わめき散らしている。
「だって! 陸上で! 艤装もつけないままテキトーなタ級の砲撃を受けて轟沈! 笑いものじゃないですか!」
『私からしてみればアナタが頭おかしい個体の吹雪にしか見えないんだけどね』
「あ、ああ、頭の! おかしい!? 確かに間抜けでしたけど! こんなの、きっと笑いものになってますよ!」
『私からしてみれば今のアナタこそ笑いものなんだけどね』
「わああああああ、いちいち煽るのやめてくださいよ!」
『鎮守府を作れば工廠妖精が増えるから、チェンジできるよ』
「そのためにはまず、司令官を探さないといけませんね……」
工廠妖精曰く、司令官さえ見つかれば数か月で鎮守府が立つらしい。なので、妖精が見える司令官候補を見つけ、鎮守府を立て、深海棲艦に対する拠点を作らなければならない。
この世界はどうやら艦娘と非常に相性が良く、呼吸をしているだけで燃料が補充される。工廠妖精の分析の結果、何らかのエネルギーとなる物質が空気中に含まれているらしく、その正体まではわからないものの通常通り生活を続けても問題はないらしい。
そして、三日ほど頭を抱えて過ごした結果、この世界は二十七時間で一日が経つことがわかった。私たちの『大元』となった世界とは違うようだが、工廠妖精曰く大元の世界に行けるほうが稀らしい。
「でも……えーと、この世界って下手したら軍艦どころか木の船すら発展途上であるかもしれないってことですよね? どうするんですか、私たちの存在が影響を与えませんかね?」
『影響と言ったって、そんなの私らが出る前に深海棲艦が出るんだから変わらないでしょ?』
「まあ、確かに……とりあえず、海の広さを知らなきゃいけませんよね。できれば海に出たいところだけど……」
『司令官の指揮がないと絶対に迷うかな。結構海広そうだよ?』
「そんなことまでわかるんですか?」
『カンだけどね。結構当たるんだよ、妖精のカンって』
「そういえば、妖精さんのカンには前世で助けられたこともありました。じゃあ海に出るのは最終手段にしましょう。もしかしたらここは無人島かもしれませんし」
『流石にそれはないんじゃないかなぁ』
艦娘には食事も睡眠も、出撃をしなければ休養も必要ない。とりあえず燃料さえあれば生きていけるのだ。前世の吹雪は色々な趣味に手を出していたようだが、この世界に来る際にそれらはリセットされてしまっているようだ。
なので吹雪は五十四時間以上海岸線を歩き続けているが、まだひとりとして人間には出会えていない。
「時速5kmでー、54時間だからー、270㎞?」
『本当に時速5㎞かはさておき、そうなると東京から新潟にちょっと色を足したくらいだな。だいぶ歩いているように感じるが、案外そうでもないのかもしれないな』
「でも流石に……ん?」
『お、こっちでも確認。あれは人だな』
「やった、話をしに行きましょう!」
そこからまた数時間経過し、吹雪は遠くに人影を発見した。嬉しさのあまり駆け出す吹雪であったが、妖精は嫌な予感を感じていた。果たして大丈夫だろうか、と。
その予感は的中する。人影はボロ布を纏ったやせぎすな黒髪の男性であった。左肩は露出しており、右手には血濡れの短剣。長さは30㎝ほどであろうか、凝固した血がこびりついている。
「か、完全にイケナイ人ですよね、この人……」
『あ、ああ、逃げよう吹雪。初遭遇なんてなかったんだ』
「オイ、なに人を見るなり逃げようとしてんだ。えぇ?」
踵を返そうとする吹雪であるが、向こうもこちらに気付いていたようで、声をかけられる。
「い、いえ、人違いでした~」
「いや待てよ。よく見たらお前結構かわいいじゃねぇか。ちょっと話そうぜ、危害は加えねぇからよ」
そう言って男は短剣を後ろに放り投げ、腰を下ろす。吹雪も工廠妖精と顔を見合わせ、少し離れた場所に座る。
「チッ、武器まで捨てたのに警戒してんじゃねぇよ。魔法か? 俺ァちょっとした火の魔法しか使えねぇから安心しろよ。みりゃわかんだろ?」
「ま、魔法……ですか?」
『魔法が存在する世界か……私らの出番あるんかね?』
やれやれと言った感じで首を振る男。無論、魔法がどの程度使えるかなど見ただけじゃわからない。
「なんだ? 見ねぇ格好だと思ったが、魔法を知らねぇのはないだろ。テキトーにあしらうつもりだってんなら、こっちにだって考えがあるぞ」
「い、いえ、本当に心当たりがなくて……!」
ちょっと声を荒げ始めた男に、吹雪は慌てて否定する。その言葉が男の琴線に触れたのであろう、突然男は立ち上がった。
「あァ……そう。魔法を知らないってかァ? じゃあ教えてやるよ、その不思議生物と共に焼けちまいな、≪火よ!≫」
男がそう唱えると手のひらから炎が発生し、払う動きによって炎が吹雪へと飛んでいく。
「きゃ、きゃあああああ!」
『ふ、吹雪!』
「ハハハハハ! 燃えろォ!」
さりげなく安全圏に移動していた工廠妖精と違い、吹雪は正面からまともに炎を食らうこととなった。炎にまとわりつかれ、じたばたしながら倒れる吹雪。
倒れた吹雪と心配そうな声を上げる工廠妖精をよそに、男はひとり楽しそうに笑っていた。