ドールズフロントライン ー疾走する本能ー   作:パNティー

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今年最後の投稿です。では、どうぞ……


Eー2戦役

彼の訓練を見続け、はや二週間が経つ。彼の訓練の内容は日によって違う。筋力トレーニングだったり、射撃訓練だったり、訓練用の人形相手に訓練したり、はたまた単なる座学だったりした。

 

私が見ていて分かったことは、彼はとても勤勉で近道はせず、努力をし続けていることが彼の強さの一つだとわかった。

 

彼は最初は何も言わず、ただ私に訓練を見せるだけであったが、次第に彼は私に指導してくれるようになった。最初は戦術の話だったが、銃の色々なカスタムや対人用の格闘術も教えてくれた。

 

今日は模擬訓練場で訓練をする。いつもは殺風景な部屋が今回は森林を模した部屋になっている。訓練用の人形一機を指揮官と戦術人形の立場で戦う実戦的な内容だ。

 

草むらの奥から進軍してくる人形を彼が確認すると、私の通信機越しに彼の声が届く。

 

『目標を視認、これより作戦行動に移る。俺が弾幕を張り続ける。お前は隙を狙って目標を攻撃しろ』

 

「りょ、了解です!」

 

彼の言葉で私は自身の銃のセーフティーを解除した。しかし、どんどん呼吸が荒くなって、緊張で銃を持つ手が震える。

 

(どうして……!?)

 

うまく的に当てられるか不安だから?だが、彼が弾幕の中にレーザーサイトを紛れ込ませているため狙うのは難しくない。だが、この手の震えに理由が付かないのだ。目頭が熱くなってきて視界が霞みかかって来た時---

 

『---M4』

 

通信機越しに聞こえてくる彼の声。それが私の意識を彼の方へと引き揚げた。

 

『今までの訓練通りにやればいい。大丈夫だ、お前なら出来る』

 

「……!?」

 

私は驚愕をした。なにせあのぶっきら棒で常に不貞腐れているあの彼が私に「大丈夫だ、お前なら出来る」と言ったのだ。そんな言葉今までの訓練の中で言ってもらったことは無かった。

 

「ふふ、あははは……」

 

堪え切れなくなった私は笑った。先程までの緊張は何処へやらスッキリとした感覚が全身に往き通っている。これならば、やれる。

 

『なに笑ってるんだ気持ち悪い』

 

「ふふ、すみません。ですが……ありがとうございます」

 

『何がだ?』

 

私がお礼を言っても彼は疑問の声を言った。きっと私がお礼の意味を言ったとしてもきっと理解はしてくれないだろう。

 

「いえ、なんでもありません」

 

私がそう言うと、彼は『そうか』とだけ言ってそれ以上喋らなくてなった。彼は重度の鈍感だ。唐変木で私の言葉にも気に留めてないだろう。でも、今はそれでもいい。

 

『来たぞ、カウトダウンを開始する』

 

彼が普段より低いトーンで告げる。私は深く息を吸って先程までより強く返事をした。

 

「了解です!」

 

今なら行ける!私は強い気持ちで銃を握った。

 

『3……』

 

彼は銃---FMG9---のセーフティーを解除する。

 

『……2』

 

突撃の姿勢に入った。

 

『1、GO!』

 

掛け声と共に彼は目標の前に躍り出てトリガーを思いっきり引く。銃口が激しく火を噴いて45ACP弾を発射した。人形は足止めを食らってその場で縫い止められている。

 

「今だM4!」

 

彼の合図で私も草むらから飛び出た。そして的にある赤い点を見つけるとそれに標準を合わせて、トリガーを引いた。

 

 

ーーーーーー

 

 

俺は作戦開始時間を腕時計で確認しながら全体に聞こえる様な大きな声で告げる。

 

「今回の作戦は案山子(スケアクロウ)の捕縛及び捕虜にされているグリフィンの人形の回収だ」

 

今回の部隊はRFとHGの構成部隊と、ARとSMGの構成部隊の二部隊となっている。今回は新任の俺にグリフィン本部が急遽貸し出しと言う事で預かっている。

 

「まず第一狙撃部隊と第二部隊の2名はここから500m離れた高台に移動。俺がスケアクロウにレーザーポインターでマークする、WA2000とSV-98はそれを視認したら俺に報告を送ってくれ。俺の合図で狙撃のタイミングを合わせろ。第二突撃部隊の一部は俺と一緒に敵の周辺まで近づく。狙撃部隊がスケアクロウの体勢を崩したら制圧行動に移る。以上だ、何か質問は?」

 

俺が作戦の内容を説明し終わり、質問がないかと問いかけると真っ先に手を挙げた人形がいた。第一狙撃部隊の隊長、深いワインレッド髪のWA2000だ。鋭い目で俺のことを睨みながらまだ指名もしていないのにこの人形は答えた。

 

「あんた、バカじゃないの?」

 

「……あ?」

 

理由もなく罵倒されて、数秒遅れて眉間皺が寄った。その瞬間、この場の空気が悪くなったが、エドとWA2000は気づいていないだろう。

 

「し、指揮官様に失礼ですよWAさん⁉︎」

 

「ふんっ!いいのよこんな無茶な作戦を考える奴なんて」

 

WA2000より小柄な人形、SMGのMP5がWA2000の言葉を諌めるが当の本人はエドが出した作戦案が悪いと言った。これに対してエドの口角が上がり、誰が見ても彼が酷くご立腹なことがわかる。

 

「なんだ、どこがいけなかった?」

 

「わからないの?部隊に割く人数のことよ。ライフル部隊で上から援護するのはいいけど、護衛を二人も付けるのは本隊の攻撃力を落とすことになるわ」

 

確かにWAの言うことは正しい。少ない人数で奇襲作戦を行うには本陣の火力が何よりも大切。5名うち2人も抜けてしまっては押し切るのは難しいだろう。

 

「ここは護衛役を1人に削って本陣の攻撃力を上げたほうがいいわ」

 

「それをしたら、今度はお前たちが危ないだろ」

 

WAの言葉を素っ気なく返したエドに、人形たちが驚いた表情をする。さっきまで怒っていたWAまでもがだ。それを見たエドは首を傾げる。

 

「何がおかしかった?」

 

「い、いや。私たち人形のことを『危ない』って言う奴なんて初めて見たから」

 

「……」

 

WAが言った瞬間、エドは苦虫を潰したような表情になる。それがまるで苦悩している様にも見えたし、憤っている様にも見えた。

 

「作戦の変更はしない。2人の代わりに俺が、()()()()()()()

 

「「「……はぁぁああああ!?」」」

 

何気なく放った俺の言葉に、今度はWAだけではなく他の人形たち全員が耳を疑った。

 

「あんた本気で言ってんの?人間なのよ、簡単に死んでしまうし死んでも私たちと違ってバックアップはないのよ?」

 

「分かっている。だが、俺にも戦える力はある」

 

俺はそう言うと左手に持っていた銀色のアタッシュケースを見せつけた。見た目はなんの変哲もないただのアタッシュケースだが。

 

「俺は戦える。だからこの戦場に呼ばれた」

 

エドの言葉には戦う意思が感じられ、瞳からは闘志が感じられた。

 

「約束する。俺はお前らの期待以上の結果を出す」

 

エドがそう宣言して、数秒の間が生まれ沈黙が続いたかの様に見えたがWAがため息を吐いた。

 

「分かったわ……あんたの指揮に従う」

 

「えっ⁉︎ WAさんいいんですか!?」

 

MP5が驚いた様な声を上げる。まさか、あのWA2000がすんなりと頷くとは思ってもいなかったからだ。それはここにいるエドとWAを除く全員も同じらしい。

 

「ただし、ここんで死んだら承知しないわよ?」

 

「言われなくても分かっとるわ---ツンツン」

 

「……ッ!誰がツンツンよ!」

 

WAの耳は誰がみても明らかなほど真っ赤に染まっている。

 

「誰かってお前以外いないだろ」

 

「わ、私はWA2000って言うちゃんとした名前があって---」

 

「はいはい、作戦時間が迫っているから移動を開始するぞ」

 

「ちょっ!無視をするなーーー!」

 

エドはWAを無視して第二部隊を連れて移動開始した。それを見てたWAも唇も尖がさながら部隊に指示を送る。

 

「私たちもさっさと行くわよ!たく、私の名前はWA2000よ。第一にね---」

 

ぶつくさと言いながら早足で進むWAを追いかけるように第一部隊も狙撃ポイントへと進行を開始した。

 

 

--30分後

 

 

林の中で身を潜めるエドと第二突撃部隊。エドの耳に仕込んだインカムから離れた位置にいるWAの声が届く。

 

『こちらブラボー。予定の狙撃位置に到着、指示を待つ』

 

それを聞いた俺は懐からガラパゴス型携帯の『ファイズフォン』を取り出した。

 

「何ですかそれ?」

 

俺のすぐ側にいたステンMk-Ⅱが手元にあるファイズフォンを凝視する。見た目は携帯なのだが、フレームの表面にΦを模したメモリーが埋め込まれているのだ。

 

「これは……銃だ」

 

「!……それがですか?」

 

ステンMk-Ⅱが驚くが、それも無理がない。携帯(これ)が銃に成るとは思えないからだ。

 

ファイズフォンを開くと上半分を横に折り、テンキーを『103』と押す。

 

---『Single Mode

 

スピーカーから電子音が鳴るとともにファイズフォンは起動した。更に銀のアタッシュケースからデジタルトーチライト型ポインティングマーカーデバイス、『ファイズポインター』を取り出すとファイズフォンの上に取り付ける。

 

「こちらアルファ。目標を視認した。作戦行動に移る」

 

インカムに喋りながらファイズポインターのスイッチを押してデジタルトーチライトモードを起動させ、シリンダーを絞って標準を合わせる。

 

---スケアクロウ。周りに自動で飛び回るビットが主兵装の鉄血工業のハイエンドモデル。容姿はまるでビットと言う楽器を操る指揮者のようだ。

 

敵に気づかれないように浮遊するスケアクロウの右脚にレーザーポインターを合わせる。

 

「俺のカウントダウンに合わせて狙撃しろ」

 

『了解』

 

WAが返事を返したのと同時にエドは極限まで殺気を低くした。

 

「3……」

 

ファイズフォンの引き金に指をかける。

 

「……2」

 

呼吸を止め意識を集中させる。

 

「『1、撃て」』

 

エドとWAの呼吸が完璧に合い弾丸と赤い閃光が走り抜けた。

 

 




いかがだったでしょうか?今年は色々と忙しい時期だったので来年の抱負はもっと投稿ペースを上げたいと思います。

では、来年も宜しくお願いしますのと良いお年を。

感想・評価・批判よろしくお願いします!

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